柔道整復師に許された業務は捻挫や打撲などの急性外傷のみに対する施術である。

医師・歯科医師以外に独立判断で施術できる国家資格は

といったものがある。

 

私の記事を初めて読まれる方へ説明すると、整体師やカイロプラクターなどは誰でも名乗れる職業であり、上記の国家資格と違い、公的な知識・技術の確認は行われていない。

 

整体師やカイロプラクターがなぜ営業できているか、詳しくは下記記事をご覧ください。

togetter.com

 

そして上記記事にも書いたように、無免許マッサージでは死亡事故も起きており、国民生活センターからはこのような手技療法による健康被害の報告書も出されている。

 

手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター

 

というわけで施術を受ける場合は上記の国家資格を持った者から受けるのが望ましいです。

 

ではそれぞれの免許にどのような違いがあるのか?

 

まず、マッサージを受けたいならあん摩マッサージ指圧師である

法律によって業としてマッサージを行える者はあん摩マッサージ指圧師以外は医師と、医師の指示を受けた理学療法士のみである*1*2

 

実際には無免許マッサージが野放しにされているので、街なかのマッサージ店が必ずしもあん摩マッサージ指圧師の免許を持っているとは限らない。

 

理学療法士がマッサージを行うように、治療目的又は慰安目的、疲労回復などを目的としたマッサージを行う。

世間には慰安目的であれば無免許でも大丈夫、みたいな言説が流れているが、厚労省の通知や判例でも疲労回復や慰安目的のマッサージにも免許が必要な旨、書かれている。*3

 

はり師、きゅう師は独立した免許ではあるが、同時に教育課程を修了し、国家試験も同時に受けられる。鍼灸師と呼ぶのが一般的である。

 

また上記のあん摩マッサージ指圧師と一緒に取れる養成校もあり、これら3つの免許を持った者を鍼灸マッサージ師や三療師、あはき師と呼んだりする。

 

一方、鍼灸のみの免許ではマッサージを行うことはできない。

神経痛、五十肩、腰痛などは医師の同意があれば健康保険での施術も可能である。*4

 

鍼治療に対する怖さは理解できるが、普通は無免許で鍼治療を行わないので、素人でも名乗っている整体師やカイロプラクターの施術を受けるよりは安全である。*5

 

接骨院整骨院という施術所を構える。

あん摩マッサージ指圧師鍼灸師が同じ教育課程でも取得できるのに対し、柔道整復師の養成課程では柔道整復師の免許しか取れない。

 

手技療法を行っている、という点ではあん摩マッサージ指圧師との違いがわかりづらく、医師の同意書も無しに健康保険を使えるので整形外科医との違いがわからない人もいる免許である。

 

端的に言えば、柔道整復師は捻挫や脱臼、打撲などの急性外傷に対してのみ施術可能な免許である。骨折や脱臼に対する施術は応急処置や、医師の同意を得た場合のみに限られる。マッサージはこれらの外傷の後療法としてのみ行え、疲労回復や慢性的な痛みに対する施術は行えない

 

柔道整復師は以前は鍼灸マッサージ師と同じ法律で規制されていたが、その施術内容などの違いから昭和45年に柔道整復師法という形で規制する法律が分離する。

では柔道整復師法成立時の国会議事録を見ていこう。

 

昭和45年3月12日の衆議院社会労働委員会の議事録より

衆議院会議録情報 第063回国会 社会労働委員会 第4号

田川委員
 柔道整復技術は、日本において、長い伝統のもとに発達してきた非観血的手打整復療法として、医療の分野をにない、西洋医学の導入研究と相まち、現代においても必要欠くべからざる治療技術として国民大衆の支持を受けているのであります。

特に、政府管掌健康保険等については、施行者団体と各種保険者との間に施術協定が締結され、社会保険の給付として広範に行なわれるようになってきているのであります。

 かように、柔道整復師の場合は、その沿革等において、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等とは異なる独自の存在を有しており、また、その施術の対象も、もっぱら骨折、脱臼の非観血的徒手整復を含めた打撲、捻挫など新鮮なる負傷に限られているのであります

 しかし、現状におきましては、柔道整復師も同じ医業類似行為の範疇にあるということで、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師等に関する法律によって規制されているのであります。

 本案は、以上のような柔道整復術の実態にかんがみ、現行のあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師等に関する法律から柔道整復師に関する規定をはずして、柔道整復師についての単独法を制定し、柔道整復業の発展をはかろうとするものであります。

 

柔道整復師法の立法時に国会で語られているのである。

これは衆議院の社会労働委員会での議事録であるが本会議、参議院でも同様の発言がある。

 

衆議院会議録情報 第063回国会 本会議 第10号

倉成正
 まず、柔道整復師法案について申し上げます。
 柔道整復技術は、その沿革等においてあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等とは異なる独自の存在を有しており、また、その施術の対象ももっぱら骨折、脱臼の非観血的徒手整復を含めた打撲、捻挫など、新鮮なる負傷に限られているのであります

 しかし、現状におきましては、柔道整復師も同じ医業類似行為の範疇にあるということで、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師等に関する法律によって規制されているのであります。
 このような柔道整復術の実態にかんがみ、本案は、柔道整復師についての単独法を制定し、柔道整復業の発展をはかろうとするものであります。

参議院会議録情報 第063回国会 社会労働委員会 第6号

○委員長(佐野芳雄君)

 ただいまから社会労働委員会を開会いたします。
 柔道整復師法案(衆第六号)を議題といたします。
 提出者衆議院社会労働委員長代理理事佐々木義武君から提案理由の説明を聴取いたします。佐々木君。

衆議院議員(佐々木義武君)

 ただいま議題となりました柔道整復師法案の提案の理由を御説明申し上げます。

 柔道整復技術は、日本において長い伝統のもとに発達してきた非観血的徒手整復療法として、医療の分野をにない、西洋医学の導入研究と相まち、現代においても必要欠くべからざる治療技術として国民大衆の支持を受けているのであります。特に、政府管掌健康保険等については、施行者団体と各種保険者との間に施術協定が締結され、社会保険の給付として広範に行なわれるようになってきているのであります。

 かように、柔道整復師の場合は、その沿革等において、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等とは異なる独自の存在を有しており、また、その施術の対象ももっぱら骨折、脱臼の非観血的徒手整復を含めた打撲、捻挫など新鮮なる負傷に限られているのであります。

 しかし、現状におきましては、柔道整復師も同じ医業類似行為の範疇にあるということで、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等に関する法律によって規制されているのであります。
 本案は、以上のような柔道整復術の実態にかんがみ、現行のあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等に関する法律から柔道整復師に関する規定をはずして、柔道整復師についての単独法を制定し、柔道整復業の発展をはかろうとするものであります。

参議院会議録情報 第063回国会 本会議 第8号

佐野芳雄君
 次に、柔道整復師法案について申し上げます。
 柔道整復師の施術の対象は、もっぱら、骨折、脱臼の整復、打撲、捻挫等の負傷に限られておるのでありますが、法の体系としては、同じく医業類似行為であるということで、あんまマッサージ指圧師、はり師、きゅう師と同一の法律によって規制されているのであります。

しかし、柔道整復業務の実態は、あんま師等の手技とは施術の方法を異にいたしておりますので、これを別個の単独法とし、柔道整復師法としようとするものであります。あわせて、業務の一そうの適正化を期するため、罰則の整備を行なうことといたしているのであります。 

と衆参の社会労働委員会、本会議において、柔道整復師の施術対象は捻挫や打撲などの急性外傷のみであることが記されているのである。

 

よって、柔道整復師のみの免許で疲労回復や慢性疾患に対する施術を行うのは無免許施術である。 

 

後療法でのマッサージを認められていることを拡大解釈し、柔道整復師の免許のみで急性外傷の治療以外にマッサージを行えるように主張している者もいるが、間違いである。

 

マッサージ師と柔道整復師のテキストの違いは下記まとめ記事に書いた。

togetter.com

 

ちなみに私は鍼灸マッサージと柔道整復師、両方の養成課程を持つ専門学校の出身なのだが、学園祭では鍼灸マッサージ課程の学生は一般来場者に対して施術を行うのである。それに対し、柔道整復師養成課程の学生は包帯巻きのコンテストをやっていた。捻挫や打撲をした人はわざわざ学園祭には来ないだろう。

 

柔道整復師の無免許施術の何が度し難いかというと、無免許施術に関わらず、国家資格者の事故としてカウントされるところである。

f:id:binbocchama:20170520004736j:plain

国民生活センターの報告書より。

一方、国家資格を持つ者のみ行うことができる施術を受けたと明らかに判別できる相談は、「接骨院整骨院での施術」(112 件)と「指圧」という語句を含む相談(27 件)の合計 139件(16.8 %)であった。

「マッサージ」という語句を含む相談の一部も法的な資格制度に基づく施術であると考えられるが、法的な資格制度に基づく施術の相談は、法的な資格制度がない施術の相談に比べて少ないと考えられた。

国家資格者の事故としてカウントされた139件のうち、112件が接骨院など、柔道整復師が関与する事故ですよ。

で、報告書に書かれている接骨院の事故としては

【事例3】接骨院カイロプラクティックを受けて肋軟骨を負傷、頸椎捻挫

接骨院カイロプラクティックのコースを受け、肋軟骨を負傷した。この骨はレントゲンに映らないが、整形外科医は診断書を発行してくれた。その後めまいが出て、頸椎捻挫の診断書も出た。

自治体の法律相談、弁護士、国の法律相談、警察、保健所に相談したが、どこも因果関係がはっきりしないと交渉等はだめだった。このことで体調不良となり退職に追い込まれた。
(受付年月:2011 年 8 月、東京都・30 歳代・女性)

 

柔道整復師カイロプラクティックを行う免許ではない。

柔道整復師によるカイロプラクティックによる健康被害を受けた人もいる。

blog.goo.ne.jp

 

【事例4】接骨院に行ったら痛みがひどくなったが、病院に行かず通院を続けるよう言われた

肩こりが続き接骨院に行ったところ、捻挫と言われた。通院するうちに痛みがひどくなり、物を持とうとしても手が震えたり睡眠中に激痛で目覚めるようになった。

先生に話したが、「捻挫から四十肩になっている。提携病院を紹介してもよいがきちんと固まっていないと注射は打てない。自分に対する信頼性がないから治りが悪い」と言われ、現時点では病院に行くよりこのまま通う方が良いと思い、通い続けた。

今月初めに整形外科を訪ねたら「左肩関節周囲炎石灰沈着性凝固肩」と診断され注射を打った。今まで無理に引っ張ったり伸ばしたり不適切な治療をしてきたので炎症を起こしたと思う。
(受付年月:2011 年 3 月、神奈川県・40 歳代・女性)

「捻挫」にしないと健康保険で請求できませんから。

 

こんな具合に免許外の施術での事故を国家資格者の事故とカウントされ、国家資格者の施術であっても危険な印象を与える、柔道整復師による無免許施術は度し難いのである。

 

別に私は柔道整復師の存在意義が無いとまでは言っていない。

実際、落車や衝突時の怪我の際、固定法などを習っていない鍼灸マッサージ師では対応が難しいのである。

まあ、ここまで整形外科医が増えた現在、急性外傷の第一選択として整形外科医に行くだろうから本来の業務のみで食っていけるか、というと疑問もあるが。

*1:あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律第1条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。

*2:理学療法士及び作業療法士法第15条第2項 理学療法士が、病院若しくは診療所において、又は医師の具体的な指示を受けて、理学療法として行なうマツサージについては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律 (昭和二十二年法律第二百十七号)第一条 の規定は、適用しない。

*3:あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師の学校又は養成所等に在学している者の実習等の取り扱いについて
(昭和三八年一月九日)
(医発第八号の二各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)))((

togetter.com

*4:全ての鍼灸院が健康保険の手続きを取ってくれるとは限らない。

*5:無免許での鍼治療による死亡事故は起きている。

無資格鍼治療死亡事件の判決 - リハ医の独白

国民生活センターの脱毛施術の危害に関する報告書に感じる矛盾。

なくならない脱毛施術による危害(発表情報)_国民生活センター

 

国民生活センターから脱毛施術による危害に関する報告書が発表された。

 

脱毛施術を行う施設として、エステと医療機関が挙げられており、どちらでも危害が発生していることが示されている。

 

エステは法律上は特に規定はなく、エステティシャンというのは法的根拠は何もない一般人である。

またエステの施術所自体、なんら公的な衛生検査・審査を受けているわけではない。

 

病院や診療所であれば保健所の検査をうけ、医療法など、法的根拠に基づいた監督指導権限もある。

 

医行為と紛らわしい施術を行っている点では医業類似行為と言えるかもしれないが、医業類似行為の定義としては「疾病の治療又は保健の目的」と判例では示されており、美容を目的とするエステを医業類似行為とする公的な見解はない。*1

 

しかし最高裁において、鍼灸マッサージや柔道整復は医業類事行為の例示となる、と判示しており、*2

治療や保健を目的としない美容鍼灸などもある現代では美容目的のエステも医業類似行為と言って差し支えないと思う。*3

 

エステが医業類似行為であろうとなかろうと、法的には素人であるエステティシャンに「医師が行うのでなければ保健衛生上害を及ぼすおそれのある行為」は認められないわけである。

 

ちなみにこの「医師」とは医師の指示を受けた看護師なども含む。*4

 

では訓練を受けた素人はどうか?

 

医師法違反の裁判で、*5

医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為などというものは世の中に存在せず、ある行為から右危害を生ずるか否かはその行為に関する技能に習熟しているかどうかによって決まるのであって医師資格の有無に関係しない

と主張した被告人に対し、裁判所は

医行為とは、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と理解するのが正当というべきであって、これと異なる見解に立つ所論は、独自の主張であって、採用の限りでない。

と判示しており、素人が技能を習得しても医師法違反は免責されないことがわかります。

 

 つまり素人が行っても良い施術は「誰が行っても保健衛生上害を及ぼすおそれのない行為」に限定されるわけです。

「誰」をあえて限定するなら義務教育を修了した者、といったところでしょうか。

 

で、国民生活センターのページには

エステにおける脱毛の問題点
(略)
施術前のリスクの説明が不十分と思われるケースがあります。

 

行政への要望

 

エステの脱毛施術により危害が発生したという相談が寄せられています。消費者が施術内容やリスク等を認識し、安全に施術を受けられるよう、消費者への周知、啓発等適切な対応を要望します。


エステの脱毛施術による危害が発生したという相談が寄せられています。エステ事業者等に対し、施術内容やリスク等について事前説明を十分行った上で安全な施術を心掛けるよう、関係業界団体への周知を要望します。


エステで医師法に抵触する施術が行われている場合は、適切な対応を講じるよう要望します。

 と書いてあるわけですが、そもそも健康上のリスクがある施術は素人であるエステティシャンには行えないわけで、健康上のリスクに関する事前説明を求めること自体、違法行為(医師法第17条違反)を容認することにはならないか?

 

医師法を遵守しているエステ、つまり誰(施術者)が誰(消費者)に対して行っても保健衛生上害を及ぼすおそれのない行為のみを行っている施術所であればリスク説明自体、不要のはずである。

 

報告書8ページ目にも

(1)エステの広告、ホームページ

2)危害もなく、安全な施術であるとイメージさせる表現がみられ、消費者に誤認を与えるおそれがありました


「痛みゼロ」、「痛みもリスクもありません」等、危害もなく、安全な施術であるとイメージさせる表現がみられ、消費者に誤認を与えるおそれがあると考えられました。

と書いてあるんですが、リスクを書いたら自ら医師法違反であると自白するようなものです。

 

まあ、消費者への注意喚起としてはいいのかもしれませんが、エステ店の問題点として報告書10頁、

2)施術前のリスクの説明が不十分と思われるケースがあります

PIO-NETに寄せられた危害事例の中には、施術により痛みや腫れなどのトラブルが起こるリスクについて事前に説明がなかったという相談がみられました。

また、アンケートの結果では、エステで脱毛を受けてやけど等の症状が生じた経験がある人のうち、トラブルや副作用に関する説明を施術前に受けたと回答した人は35人(エステで受けた脱毛で症状が生じた人の31.3%)でした。

本来、エステの施術は人体に危害を及ぼさない範囲で行われるべきものであると思われますが、場合によっては肌トラブル等が発生するおそれがあることについて、事前に十分な説明を行う必要があると考えられます。 

 と書かれており、エステ店の違法行為を容認しかねない記述である。

*1:「医業類似行為とは『疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であって他の法令において認められた資格を有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの、』換言すれば『疾病の治療又は保健の目的でする行為であつて医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの』」とされている。(仙台高裁 昭和 29 年 6 月 29 日判決 昭 28(う)第 275 号)

*2:

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57011

*3:医行為は危険性のみで目的では判断していないが、あはき法第12条の本来の姿、すなわち業として行っただけで禁止処罰する場合には目的を特定する必要がある。薬機法で医薬品や医療機器の定義に書かれている「疾病の診断、治療若しくは予防又は身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと」を目的にした施術とすればいいと思うが。

*4:保健師助産師看護師法第37条前段 保健師助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。

*5:東京高裁

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=20209最高裁で被告人による上告棄却 

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50155

ニセ医学批判が名誉毀損にならないために理解しておくべき判例

五本木クリニックの桑満先生による、妊娠菌、妊娠米に関する記事

 

www.gohongi-beauty.jp

 

注意:文書中で「詐欺」という法律用語を使用しています。今回のメルカリの件は詐欺に当たらないと法律の専門家はおっしゃるかもしれません。しかし、一般人はこのような件を詐欺と解釈します。 

私は法律は素人ですが、名誉毀損の観点から。 

実名を挙げてこんな記事を書くぐらいですから名誉毀損については勉強しているわけです。

binbocchama.hatenablog.com

 

 

表示された効能が結果的に無い商品を売りつける行為を一般的な感覚で「詐欺」というのは理解できる*1のですが、このような表現は名誉毀損が成立しかねない、という話です。

 

ある行為が違法か合法かの指摘は一般的には意見・評論とされ、前提とする事実が真実である限りは名誉毀損は成立しません。*2

 

ゴーマニズム宣言事件

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52385

 

名誉毀損の成否が問題となっている法的な見解の表明は,判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たる。

 

ただし、「窃盗」と表現した事に関し、名誉毀損が成り立つとした判例もあります。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82144

 

被上告人(被告)であるフリージャーナリストが

X1(筆者注:上告人、新聞発行会社)は1日,福岡県久留米市にあるA販売店のB所長に対して,明日2日から新聞の商取引を中止すると通告した。現地の関係者からの情報によると,1日の午後4時ごろ,X1のX2法務室長,X3担当,X4担当の3名が事前の連絡なしに同店を訪問し,B所長に取引の中止を伝えたという。

との記載に続き、

その上で明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。これは窃盗に該当し,刑事告訴の対象になる。 

と書いた行為が名誉毀損になるかどうか、という事件です。

 

で、原審(控訴審)では名誉毀損は成立しない、としていたのですが、最高裁では

本件記載部分は,第1文と第2文があいまって,上告人会社の業務の一環として本件販売店を訪問したX2らが,本件販売店の所長が所持していた折込チラシを同人の了解なくして持ち去った旨の事実を摘示するものと理解されるのが通常であるから,本件記事は,上告人らの社会的評価を低下させることが明らかである。


(2) そして,前記事実関係によれば,本件販売店の所長が所持していた折込チラシは,訴外会社の従業員が本件販売店の所長の了解を得た上で持ち帰ったというのであるから,本件記載部分において摘示された事実は真実ではないことが明らかであり,また,被上告人は,上告人会社と訴訟で争うなど対立関係にあったという第三者からの情報を信用して本件サイトに本件記事を掲載したと主張するのみで,
本件記載部分において摘示した事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があったというに足りる事実を主張していない。


(3) そうすると,被上告人が本件サイトに本件記事を掲載したことは,上告人らの名誉を毀損するものとして不法行為を構成するというべきである。

 

というわけで名誉毀損の成立を認め、損害額を審理し直すように差し戻しを決めたわけです。

 

所有者の了解を得て持っていくのと、窃盗では違うわけでして。

 

「詐欺」は騙す意図が必要なわけでして、無知ゆえに結果的に騙すことになったのを「詐欺」「詐欺師」と表現して大丈夫か?とは思うわけです。

 

これが医師や理系の博士号を持つ者ならその知識から効果が無いことを了承しているだろう、という推定もできるのですが、学歴や資格が不明な一般人にそのような推定はできないかと思われます。

 

無資格診断に関して詐欺の成立を認めた判例もありますが*3、この場合は診断と処方が矛盾しているケースも有り、「虹彩は内臓病変で変化しない」という眼科医の証言、そしてそれだけ虹彩を見ているなら内臓病変から虹彩が変化しないのを認識していただろう、ということで詐欺罪が成立したわけです。

 

送りっぱなしの妊娠米では妊娠の有無の観測をしていたとは推認できない。

素性がわからない以上、そのような観測の必要性を認識していたとも言えないわけで。*4

 

そんなわけで具体的な個人名を挙げたり、推定できるような記事では「無知」とか、効果がない、と表現するに留めたほうが無難かと思います。

 

ちなみに医師の治療法を「いんちき」とか「まやかし療法」と表現した記事について、名誉毀損不法行為の成立を否定した判決はあります。

 

色盲治療方法名誉毀損事件控訴審判決

東京高裁平成2年9月27日判決 昭和61年(ネ)913号

* 判例時報1359号38頁
* 判例タイムズ744号125頁

 右検討の対象となる本件記事は、医学上不治とされてきた色覚異常の治療方法に関するものである。

科学の進歩に伴い、従来不治とされてきた疾患について新たな治療法が発見、開発され、あるいはそれまで異端視されてきた治療法の有効性が承認されるに至ることがありうること、更には、世上いまだ学問的に解明されない治療法が有効として行われている例も見られることは、否定しがたい事実である。

しかし、本件訴訟は、もとより、右のような事実があることを前提にして被控訴人(筆者注:まやかし療法を行った医師)の色覚異常に対する治療方法の有効性について科学的判定を下すことを目的とするものではない。

本件当時一般に承認されていた医学水準に基づき、被控訴人の治療方法を根拠のないものとして指摘、批判することがどこまで真実として是認されるかを判断するものである。

したがって、被控訴人の治療方法が科学的に全く成り立つ余地のないことまでを論証することが、真実性の証明として必要とされるわけではない。

 

具体的な事実認定は長くなるので大学や図書館の判例データベースでお読みください。

でも一部だけ。

(2)  被控訴人の治療は自覚的検査方法しかない色覚検査法の欠点を巧みに利用したものであるとの点及び被控訴人の検査はまやかし的なことをしているとの点について

 

 前記の認定によれば、自覚的検査方法である色盲表による色覚異常の検査には、照明、時間、距離などに一定の条件が定められているにもかかわらず、Mクリニック(筆者注:被控訴人のクリニック)では、初診の際の検査室と治療後の検査室が異なっており、治療後の検査室の方が読み取りやすい照明になっていたことは真実であると認められるし、時間や距離に関する条件も守られず、訓練の効果により検査成績が向上するような検査をしていたと認められるから、被控訴人の検査は、自覚的検査方法しかない色覚検査法の欠点を巧みに利用したものであるといえる。

 

 そして、右の検査を前提にして、被控訴人の治療の効果が顕著にあがったことを強調しているとすれば、被控訴人の治療もまた右色覚検査法の欠点を巧みに利用したものといわざるを得ないし、被控訴人の検査はまやかし的なことをしていると評することも事実に基づくものであり、許されるといわなければならない。

これぐらいの証拠をつかめれば「詐欺」と言っても構わないのでしょう。

 

もっとも詐欺と言われたニセ医学業者が名誉毀損で訴える可能性を考えると杞憂なんでしょうけど。

 

というか、まやかし療法の判決を読んで、思う存分やってください。

*1:法的には優良誤認表示とか、不実告知と言った方が正確でしょう。

*2:ただし、不正競争防止法の虚偽事実告知は新ゴーマニズム宣言事件の射程ではない模様。

*3:

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=8591

*4:効果をうたった物である以上、医薬品に該当し、業として販売していたのであれば医薬品販売業者と同様の注意義務がある、という理屈もありかもしれない?

タトゥー裁判(医師法違反、大阪地裁平成27年(わ)第4360号)

www.sankei.com

 

彫師がタトゥー(入れ墨)を施したことが医師法違反に問われている裁判です。

 

私自身は医師法違反が表現の自由で免責される場合、それを抜け道に無免許医療が野放しになることから有罪にすべきと考えております。

 

実際、整体やカイロプラクティックなどの医業類似行為の禁止処罰が「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に対してのみ、という合憲限定解釈が最高裁で出されたため、ずんずん運動や栃木の祈祷師は放置され、死亡者が出たわけです。

 

togetter.com

blogos.com

 

なお、入れ墨と同様の技術であるアートメイク医師法違反に関しては正式な裁判が行われ、有罪が確定しており、懲役1年の実刑判決となっております。(東京地裁平元(特わ)1211号)

 

 医師法にいう医業とは、反復継続して医行為を行うことであり、医行為とは、医師の医学的知識及び技能をもって行うのでなければ人体に危険を生ずるおそれのある行為をいい、これを行う者の主観的目的が医療であるか否かを問わないものと解されるところ、本件行為は、針で皮膚を刺すことにより、前記のように皮膚組織に損傷を与えて出血させるだけでなく、医学的知識が十分でない者がする場合には、化膿菌、ウイルス等に感染して肝炎等の疾病に罹患する危険があり、また、色素を皮膚内に注入することによっても、色素自体の成分を原因物質とするアレルギーなどの危険があるとともに、色素内に存在する嫌気性細菌等に感染する危険があることが認められ、さらには、多数回皮膚に連続的刺激を与えて傷つけることによりその真皮内に類上皮肉芽腫という病変を生ずることも指摘されていることが認められるのであって、本件行為が医師ではない者がすることによって、人体に対して右のような具体的危険を及ぼすことは明らかである

 

 弁護人は、本件行為が美容を目的として人体に対する危険性が高くないものとしてすでに社会的に広まっており、しかも、入れ墨が社会的に容認あるいは黙認されている状況にあり、これに類似する本件行為は営業として宣伝までしているにもかかわらず、何らの取締りを受けていないことからすると、すでに社会に受け入れられた社会的相当行為である旨主張する

 

しかしながら、本件行為が美容の上から何らかの効果があり、社会的に広く行われている現状にあるとしても、たまたま見過ごされてきた本件行為が、本件により、前記のような人体に対する具体的危険を及ぼすことが判明した以上、医師ではないものが本件行為をなすことに違法性があることは明らかである。

 

 そして、なるほど、本件行為と古来から行われてきている入れ墨を彫る行為とは、針で人の皮膚に色素を注入するという行為の面だけをみれば、大差ないものと認められるので、入れ墨もまた本件行為と同様医行為に該当するものと一応は認められる。

 

しかしながら、入れ墨が歴史、習俗にもとずいて身体の装飾など多くの動機、目的からなされてきていることに比較し、本件行為は前記のように美容を目的とし、広告等で積極的に宣伝して客を集めているものであり、その宣伝があたかも十分な美容効果が得られるような内容であるのに、これが本件のような病変した皮膚を目立ちづらくするというにはほとんど効果がないか、乏しいものであるうえ、専ら営利を目的とし、その料金(皮膚一平方センチメートルあたり三万円ないし五万円程度)も、客の期待がほとんど達せられないという意味で極めて高価であるなどという際立った差異が認められる。

 

このことからすると、入れ墨も本件行為もともに違法であるとはいっても、それぞれの違法性の程度は当然異なるといわざるをえない。


そして、入れ墨も本件行為も、結局この違法性の程度に応じて、即ち、その社会的状況を反映した実体ごとに取締りの対象になるかどうかが判断されているものと思われる。

 

したがって、入れ墨が違法ではあっても今日社会的に黙認されているからといって、前記のような違法性の程度が異なる本件行為もまた黙認ないし容認されるべきものと認めることはできない。

 

 そして、本件行為の実体が前記のようなものである以上、本件行為の違法性は高くないものとは認められず、ましてや、本件行為が社会通念上正当なものと評価される行為とは到底認めることができない。

 以上により、弁護人の本件行為が社会的相当行為であるとの主張は採用することができないと判断した。

 

アートメイクで1年の実刑判決に対し、今回のタトゥー裁判の求刑は30万円の罰金ですから入れ墨はアートメイクよりも違法性は低いのかもしれません。

 

被告人・弁護人の主張としては

 

医行為を治療目的に限定した場合、美容整形は医師免許無しで行えるようになる。また医行為の目的を限定しないのは判例でも示されている。

そして医師法違反に問う際の危険性は抽象的危険で足りる。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=20209

ましてや観血的な施術をや。

 

 

医師法第17条違反では憲法31条を持ち出すのは定石であるが、そのような主張は避けられている。

 

 

で、検察の主張

 

施術室まで言及する必要があるのかはよくわからない。

どちらかと言えば医療法の範疇に思える。

単に違法性の有無だけでなく、量刑に必要な事情なのだろうか?

 

医療法

第十七条  第六条の十から第六条の十二まで及び第十三条から前条までに定めるもののほか、病院、診療所又は助産所の管理者が、その構造設備、医薬品その他の物品の管理並びに患者、妊婦、産婦及びじよく婦の入院又は入所につき遵守すべき事項については、厚生労働省令で定める。

 

第二十条  病院、診療所又は助産所は、清潔を保持するものとし、その構造設備は、衛生上、防火上及び保安上安全と認められるようなものでなければならない。 

環境条件のみによって、衛生上害を及ぼすおそれが生じるか否かが決まるような行為の場合、医行為といえるかどうかは自分にとって新しい疑問である。

歯科技工士に関するあれこれと医業類似行為

 

anond.hatelabo.jp

 

歯科技工士は歯科医師の指示に基づいて義歯などを制作する国家資格者である。

 

歯科技工士法より

 

第二条  この法律において、「歯科技工」とは、特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物、充てん物又は矯正装置を作成し、修理し、又は加工することをいう。ただし、歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く。

2  この法律において、「歯科技工士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、歯科技工を業とする者をいう。

3  この法律において、「歯科技工所」とは、歯科医師又は歯科技工士が業として歯科技工を行う場所をいう。ただし、病院又は診療所内の場所であつて、当該病院又は診療所において診療中の患者以外の者のための歯科技工が行われないものを除く。

 

第十八条  歯科医師又は歯科技工士は、厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ、業として歯科技工を行つてはならない。ただし、病院又は診療所内の場所において、かつ、患者の治療を担当する歯科医師の直接の指示に基いて行う場合は、この限りでない。

 

さて、上記の匿名ダイアリーにて

 

歯科技工士が低賃金なのは、歯科医師(歯科医院)を経由しないと注文を取れないから。
歯科医師に高額のマージンを取られるから歯科技工士の取り分が減るのだ。

 

週刊誌で読んだ話だが、ある歯科技工士が歯科医師に「報酬の取り分を歯科医師5:歯科技工士5にして下さい」(これは『厚生大臣公告』の内容。公告なので強制力はゼロ)と頼んだら、周囲の歯科医師全員から取引を断られた。

 

と書かれている。

 

歯科技工士は直接患者や保険組合に義歯制作代を請求できず、歯科医師が請求し、そこから歯科技工士に支払うようである。

 

そのため記事中のように、マージンを取られてしまうわけである。

 

その点、鍼灸マッサージ師の場合、自費であれば患者から直接料金をもらえる。健康保険の適応には医師の同意書が必要だが、保険組合には直接請求できる。

 

そして保険組合によっては同意した医師や患者に対し、鍼灸マッサージ師が金品を与えた場合は施術料(療養費と言う)を支払わない、と規定するところもあり、同意した医師からマージンを取られることもない。

 

歯科技工は歯科医師の指示が必要なのに、独立開業権があるため労働者としての保護がされない、という面がある。

 

その点、訪問看護ステーションは医師の指示が必要だが、保険請求は自ら行える。なので医師から搾取される心配はない(はず)。また医師の指示が必要なために偽装請負の心配がない。

 

鍼灸マッサージ師は独立開業権を持ち、健康保険も指示書ではなく、同意書で行えるために偽装請負が横行するのである。

 

指示書と同意書の違いだが、同意書は患者に対して交付するものであり、どの鍼灸マッサージ師の施術を受けるかは患者が選べたりする。

本来、鍼灸マッサージの療養費は償還払い(料金を全額払った後、保険組合から7〜9割、払い戻しを受ける。)が原則だからである。

 

訪問看護の指示書は具体的な訪問看護ステーション宛に書かれているのではなかろうか?違っていたらごめんなさい。

 

そんなわけで歯科技工所が直接料金を請求できる、または保険組合から直接入金を受け取る仕組みが無いと状況が改善しないと思われる。

その上で、歯科技工所から歯科医師への金品提供を禁止すればいいような気がするのだが。

 

で、上記ダイアリーには

外国には「デンチュリスト」という歯科技工士の資格を設けている国が多い。
「デンチュリスト」の資格を持った歯科技工士は患者を診察して直接患者から注文を取れる。
だから歯科医師にマージンを払わずに労働に見合った報酬を受け取ることができるらしい。

 

と書かれている。

歯科医師が歯科技工士による作成料も請求するのは患者が歯科技工士と会う必要が無い、というのもある。

実際、義歯などの物だけを作るならそうだろう。

 

その点、デンチュリストは診察行為も行えるようで、これなら患者と接触するので料金請求も自分で行える。

 

で、歯科技工士法には

 

第二十条  歯科技工士は、その業務を行うに当つては、印象採得、咬合採得、試適、装着その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。

 

ちなみにこの条文の違反行為に対しては直接の罰則規定は存在せず、歯科医師法第17条(無免許歯科医業)、第29条(罰則)によって処罰されます。*1

 

よってデンチュリストは現行法規下では無理です。

 

歯科技工士法第20条、歯科医師法第17条違反の判例は結構あります。

そのたびに憲法22条(職業選択の自由)違反だ、と被告である歯科技工士は主張するのです。

 

大法廷判決はすでにあるのです。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51636

 

 思うに、印象採得、咬合採得、試適、嵌入が歯科医業に属することは、歯科医師法17条、歯科技工法20条の規定に照し明らかであるが、右施術は総義歯の作り換えに伴う場合であつても、同じく歯科医業の範囲に属するものと解するを相当とする。

けだし、施術者は右の場合であつても、患者の口腔を診察した上、施術の適否を判断し、患部に即応する適正な処置を施すことを必要とするものであり、その施術の如何によつては、右法条にいわゆる患者の保健衛生上危害を生ずるのおそれがないわけではないからである。

されば、歯科医師でない歯科技工士は歯科医師法17条、歯科技工法20条により右のような行為をしてはならないものであり、そしてこの制限は、事柄が右のような保健衛生上危害を生ずるのおそれなきを保し難いという理由に基いているのであるから、国民の保健衛生を保護するという公共の福祉のための当然の制限であり、これを以て職業の自由を保障する憲法22条に違反するものと解するを得ないのは勿論、同法13条の規定を誤つて解釈したものとも云い難い。

所論は、右に反する独自の見解に立脚するものであつて、採るを得ない。


 同第二点について。

 所論は単なる法令違反の主張を出でないものであつて、刑訴405条の上告理由に当らない。
 よつて、同408条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和34年7月8日

 

で、この判決の翌年、医業類似行為の禁止処罰には「人の健康に害を及ぼすおそれ」の立証が必要とする最高裁大法廷判決(業界では昭和35年判決という。)が出されます。

そして整体やカイロなどの無免許施術が放置され、ずんずん運動や祈祷師事件を招きます。

 

medicallaw.exblog.jp

togetter.com

 

この歯科医師法違反判決と昭和35年判決、両方の判決に関わった裁判官が11人です。

 

f:id:binbocchama:20170409205453j:plain

 

左側のHS式無熱高周波療法事件が昭和35年判決で、多数意見の裁判官が、医業類似行為の禁止処罰は「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限定すべき、という考えです。

 

その点、歯科医師法の判決は全員一致です。

 

 この違いは何か。

 

歯科医師法違反事件では印象採得など、歯科技工士法第20条に書かれた行為のみを判断すればよかった。

で、20条に書かれている行為は「患者の保健衛生上危害を生ずるのおそれがないわけではない」と判断できた。

 

その点、あはき法第12条に書かれている医業類似行為は具体的な療法や技法を定義していない

 

こうなると有益無害な施術行為まで罰するべきではない、と裁判官たちは考えていたと思われる。

 

そうなると無免許業者に許される行為は「保健衛生上危害を生ずるおそれ無き行為」と言えよう。

 

そしてそのように安全な行為であれば問診などは不要である。

 

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

この歯科技工士による歯科医師法違反事件の最高裁判決の原判決である札幌高裁昭和55(う)195より

 

 三 控訴趣意中、原判決が、被告人が原判示のAほか25名に対して行つた義歯製作上必要な情報収集のための問いかけが歯科医行為である問診に当たるとして、右の問いかけに対して法17条を適用したのは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りがあるとの主張について

 

 所論にかんがみ、まず、一件記録及び証拠物を精査検討すると、原審において取り調べられた関係各証拠によれば、被告人は、歯科医師でないのに、業として、昭和53年7月24日ころから同年12月2日ころまでの間、被告人の肩書住居地に設けたF歯科技工所において、被告人に義歯を修理し、若しくは製作して入れてもらおうとし、又は金冠若しくは金パラジウム冠を製作して入れてもらおうとして同所を訪れた原判示のAほか25名の者に対し、その希望に応えるべく、まず、従前の義歯の装着状態等について応答を求めて質問を発し、それにひき続いて印象採得等をし、もつて、右の者らに対し、その希望に基づいて、修理し、又は製作した義歯を入れてやり、又は製作した金冠若しくは金パラジウム冠を入れてやつたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、右の事実関係によれば、被告人がした右の質問は、印象採得等を適切に行う目的のもとに印象採得等に先立つて行われたものであつて、それが印象採得等を適切に行うために必要な事項につき十分に行われないときは被質問者の保健衛生に危害を生ずるおそれを含む行為であるというべきである

従つて、右の質問が歯科医行為の一たる問診に当たることは明らかであるから、これと同旨の判断に基づき、被告人が原判示のAほか二五名の者に対し、歯科医行為である問診をしたと肯認し、これに対し、法17条、29条一項一号を適用した原判決の法令適用は正当であり、原判決には所論のような違法はない。

論旨は理由がない。

 

よって、施術の安全確保のために問診が必要な行為は(歯科)医行為である。

 

なお、この事件では

所論にかんがみ、一件記録及び証拠物を精査し、当審における事実取調べの結果をも合わせて検討すると、原審において取り調べられた関係各証拠によれば、被告人は、昭和32年3月に歯科技工士の免許を受けた者であるが、被告人は、技工法18条により歯科技工士が歯科医師の指示書によらなければ歯科技工を行うことができないと規定されており、また、技工法20条により歯科技工士が印象採得等を行つてはならないと規定されており、しかも、法17条により歯科医師でない者が歯科医業をしてはならないと規定されているため、歯科技工士が免許に基づく資格であり、本来、独立した専門家であるべき筈であるのに歯科医師の指示を得なければ全く仕事ができない立場に置かれていることに不満を覚え、法や技工法の歯科技工士に対する制約が不当であるとの自己の主張を広く訴えるため、法の違反となることを承知のうえで直接行動を取る決意、すなわち、歯科医師の診断及び指示を俟つことなく、義歯等の補てつ物の製作と装着を求める患者に自ら直接応待し、その希望を聞き、問診、視診、触診等の診察行為や印象採得等を行う決意を固め、これに基づき、被告人の肩書住居地に設けたF歯科技工所に、昭和53年4月ころ、印象採得等をするための医療器械であるいわゆるユニツト(治療台)を購入設置したほか、同年7月ころ、数回にわたり、新聞折込みの広告チラシ約1万7000枚を付近住民に配付し、「右の技工所において被告人が、義歯に悩みを持つ者に対し、その相談に乗つて義歯を製作し、これを入れる仕事をしている」旨を宣伝したうえ、原判示のとおり、業として、同月24日ころから同年12月2日ころまでの間、同所を訪れたAほか25名に対し、前後約89回にわたり、問診及び印象採得等をし、もつて、歯科医師でないのに歯科医業をしたことが認められ、右認定を左右すべき証拠はないところ、右の認定事実によれば、被告人の法17条、29条1項1号に違反する行為がそれに対して刑罰をもつて臨むべき実質的違法性を具備していることは明らかというべきであり、当審における事実取調べの結果によつても右判断は左右されない。

 (これで一文ですよ。長い。)

と書かれているので、まさに確信犯と言えよう。

 

この高裁判決にはもう一つ、重要な点がある。

 

 所論(筆者注:被告人の主張)は、第一に、印象採得等は、歯科技工士の本来的業務であるから、歯科技工士の免許を受けた被告人が印象採得等をすることは、憲法22条1項、13条で規定されている職業選択の自由、営業の自由の観点から許容されており、しかも印象採得等は、歯科技工士がこれを行つても保健衛生上有害な危険行為でないばかりか完壁な義歯を提供するうえでは、かえつて歯科技工士に印象採得等を委ねることが必要であり、かつ望ましいと言うべきであるから、憲法の右各条項にいう「公共の福祉」による制度も歯科技工士による印象採得等には及ばないところ、原判決は、法17条が印象採得等が歯科医師にのみ排他的に許される行為であると規定していると解釈し、かかる解釈により歯科技工士の営業の自由の範囲に属する印象採得等を歯科技工士の手から奪つたものであるから、原判決の右の法令適用は、憲法22条1項、13条に違反すると主張する

(略)

所論につき、更に付言すれば、歯科技工士は、歯科医師でないとしても、歯科衛生に関するある程度の教育と試験を受けてその免許を受ける者であるから、もちろん現行法令及びこれに基づく現在の歯科技工士養成制度のままでは許されないけれども、これらの法令及び制度の改正を通じて、印象採得等の一定範囲の歯科医行為につき、その全部とまではいかないとしても、その一部を、相当な条件の下に、歯科技工士に単独で行わせることとすることも立法論としては可能であると考えられる

しかし、そのことは、いずれにしても、国民の保健衛生の保持、向上を目的とする立法裁量に委ねられた事項と解すべきであり、かかる解釈に立ちつつ、ひるがえつて現行法を検討しても、現在の法17条、29条1項1号及び技工法20条の定立にあらわれている立法裁量の内容が憲法のいずれかの条項に違反していると疑うべき事由は見当たらないのである。

所論のうち、第一の主張に対し、原判決がいみじくも指摘するとおり、それが立法論の域を出ない独自の見解である、との判断を当裁判所も抱かざるを得ない所以である。

 

というわけで、歯科技工士がそれなりに歯科医療の知識を国から認められているとはいえ、印象採得などの歯科医行為は現行法規下ではできない、ということです。

 

最近は理学療法士などが整体師として独立開業するのも見かけます。

で、理学療法士などが特権を持つのは医師の指示の下や、病院、診療所の中だけです。

 

その条件から外れて行える行為は一般人と同じです。

つまり、医行為である問診や検査法などは行えないわけです。 

 技術や知識があると主張しても、理学療法士などに独立開業権は認められておりません。

立法裁量権に属する話となります。

 

 これは柔道整復師も同様で、柔道整復師に認められるのは捻挫、打撲などの急性外傷のみに対する施術行為ですから、慢性疾患に関して問診や検査法を行うのは許されないわけです。

ましてや疲労回復目的のマッサージをや。

*1:同様のことはあはき法第4条と医師法にも言える

内容証明と遺留分減殺請求の思ひ出

素人による内容証明に関していろいろTLに流れてきているので。

miurayoshitaka.hatenablog.com

 ちなみに私は内容証明を受けたのは1回、出したのは3回の法律の素人である。

 

普通の人は内容証明郵便を受け取るとまずビビるわけです。

この心理的効果をうたっている行政書士のサイトも多い*1

 

しかし内容証明って強制力のある命令や判決文ではないんですよ。

この文面の手紙をこの日に相手に届けましたよ、と郵便局が証明してくれるサービスにすぎない。

 

ただ、請求などの意思表示をいつしたのかを第三者によって証明されるので、意思表示の有無や時期を争われることが無くなる。

 

私が初めて内容証明郵便に触れたのはタイトルの遺留分減殺請求です。

 

まず遺留分減殺請求についての説明を。

あくまでも素人の解説だから鵜呑みにして行動した際の責任は取りませぬ。

 

亡くなった人(被相続人)が遺言書を残している場合、相続はその遺言どおりになるわけです。

しかし被相続人の配偶者、および子には遺留分といって、遺言書の内容に関わらず、法定相続分の半分を相続する権利があるんです*2

 

で、この権利は相続開始を知ってから1年以内に請求しなければ消滅します。

被相続人の死後、1年以内に遺留分減殺請求をした。」という事実を証明するために内容証明郵便を送る必要があるわけです。

 

この遺留分減殺請求の内容証明郵便を送ってきたのは腹違いの兄姉の代理人の弁護士だったのですが、送付時に私の母(当たり前だが、被相続人である父の妻)も亡くなっていたせいか、遺留分に関し、母を無視した取り分を請求してきた。

 

父は遺言書で母に全財産を相続、その母もすぐ亡くなったので母の一人息子である私が父の全財産を相続した状況である(だから私に対して遺留分減殺請求がされた)。

 

自分の知識と違う遺留分割合を弁護士が言ってくるから非常に困惑するのである。

内容証明が届いた日、たまたま司法書士に用事があったので相談すると彼らも困惑していた。

なので正しい遺留分割合を知らせる返事を内容証明で送る*3

今考えると放置でも良かったのだが、当時は裁判手続きに関する知識が無いための不安、および母の存在を無視されたことによる怒りもあった。

 

 

そして調停の呼び出しまでは放置でいいよ、と司法書士に言われる。

 

で、話を一旦内容証明に戻そう。

 

行政書士のサイトに書かれていた内容証明のテクニックとして、書類などの証拠がない状態で貸した金の返金を求める際、実際に貸した金額よりも高い金額を貸したことにして内容証明を出す、というのがあった。

 

こうすると借りた相手は実際に借りた金額は○○円だ!、と内容証明で返事してくることが多く、それを証拠にするらしい。

 

 

というわけで過剰な請求に対し、一人で内容証明で反論するのは止めておきましょう(借りた金は返すべきだが)。

 

こういうテクニックを知ると、遺留分を過剰に請求してきたのは何らかのテクニックか?と思い、警戒してしまう。

 

仮に内容証明の内容が正しく、司法書士に行く用事もなかったら相手の弁護士にホイホイ連絡して、いいように丸め込まれたと思うので結果的には私にとって良かったのだろう。

 

で、調停の呼び出しが来る。 

まず、送られてきた内容証明の間違いに関し、どういうつもりだ?、と調停委員に伝えたら、相手の弁護士は平謝りだったそうである。

時効が近かったのでちゃんと確認せずに出したとのこと。

 

で、相手の主張の書面ですが、私の大学の授業料や仕送りを特別受益として主張してくる。

それで遺産総額を増やして、遺留分を増やすという作戦です。

 

 1回目はこちらからは特に主張もせず、その書面を持って司法書士に相談する。

さすがに対応できない、ということで弁護士を紹介してもらう。

 

で、当方の弁護士いわく、「仕送りは特別受益じゃない」とのこと。

「親族間の扶養としての援助の範囲」ということらしい。

 

www.souzokulaw.jp

今は知識があるのでググれるが、当時は知識がなく、不安を解消するために検索してもこのような情報にはたどり着けなかった。

 

仕送りを特別受益から排除できただけでも弁護士費用の価値はあった。

で、学費だと特別受益の対象にはなるが、母が払っていた、ということで。

 

共稼ぎなので夫婦で半額ずつ負担しても良いのですが、学費と仕送りをそれぞれ全額払ってもおかしくないわけです。

 

というわけでこちらが弁護士をつけた後の調停では学費や仕送りは問題にならず。

 

しかし相手の弁護士のこのような対応は、こちらの無知につけこんで過剰な請求をしてくる悪徳弁護士だ、というイメージを作らせる。

 

弁護士というのは依頼者の利益のために働く者である、という点では正しいかもしれないが、相手に弁護士がついただけで引っ込めるような主張をするのは弁護士業界のマッチポンプという見方もあろう。

 

もっともそのような主張をしないと依頼者が納得しない、ということもあるかもしれないが。ましてや相手に弁護士がついてないときには。

 

 

で、調停成立。

結局法定相続と変わらない割合を相手に支払うことに。

 

しかも親父の残した遺産の殆どは住んでいる家だったから、こちらから現金持ち出しである。

 

生計の維持や介護などをしてくれてたならともかく、そんなことをしていない姉(親父が死んだときに初めて存在を知った)が、介護をしていた後妻や同居の息子(私だが)から金を奪っていけるこの遺留分減殺制度ってどうなのよ?

 

当時は法律はそんなもの、って考えだったのだが今にして思うと、遺言書を残した被相続人の財産権を侵害して違憲ではないか?と思うのである。

 

もっとも

弁「向こうはこれぐらいの額じゃないと納得出来ないらしい」

私「そんなに払ったら弁護士費用払えませんよ」

弁「いくらぐらい掛かると思っていた?」

私「これぐらい」

弁「そんなにかからないよ。弁護士費用まけるからこの額で合意できない?」

私「わかりました」

 

という状況だったので、当時、違憲の疑いを抱いたとしても最高裁まで争うこともできなかったが。

 

ちなみに遺留分制度の違憲性を問題にした判例は無いらしい。

遺留分制度の主旨は遺族の生活保障を目的としているそうだが、むしろこの制度のために、生計を一にしていた遺族が困窮に陥りそうになったんですが。

 

 と、こんな経験をしているので自分の子供が、親権を持たない子を持つ者と結婚したいと言ったら猛反対必至である。

 

うちの娘と結婚したいなら、君の子供に遺留分放棄をさせてからにしなさい、と。

裁判所|遺留分放棄の許可

もっとも未成年じゃ遺留分放棄はできないだろう。

 

私に子供はいないけどな。

 

法制審議会では配偶者に対する住宅の遺贈に関して、相続財産から外す案が出されているようです。

 

法制審、配偶者の居住用不動産の相続に優遇案を検討 - ゼイタックス

 

 

というわけで親権を持たない子を配偶者とされた皆様、お子さまの仕送りなどの生活費は配偶者に負担していただき、ご自身は学費を出しましょう。

 

どのような対策が必要か、あらかじめ弁護士に相談しておくといいかもしれません。

 

だいぶ内容証明から逸れました。

 

件のPTAに関しては

  • 加入する意思がない
  • 今後、勧誘するな

という内容だけで良いのではないか、と思います。

法解釈なんてわざわざ書かなくても良い。

 

事実関係は両刃の刃。

内容証明で書いた事実は、送り主が認めた事実という証拠になりますから。

 

というわけで素人が一人で内容証明を書く場合、意思表示だけに留めた方が良いと思います。

 

私が出した内容証明としては

「勝手に私の印鑑を使うな*4

というのがあります。

勝手に印鑑を使ったら有印私文書偽造で訴えるぞ、なんては書きません。

 

 

もう一通はそんなので内容証明を出したのか?

策に溺れた法律マニアめ!

と言われかねない黒歴史である。

目的は果たせたが。

 

今にして思えば普通の手紙(せいぜい書留)で十分だったのである。

 

というわけで時効や意思表示の有無が問題になる場合のみ内容証明を使うべきじゃないんだろうか?

それ以外なら弁護士に相談したほうがいい方法を提案してもらえるかもしれない。

 

そういや無免許業者などに対しては内容証明を送ったことはないなぁ。

せいぜい書留ぐらいである。

binbocchama.hatenablog.com

 

この場合は第三者に対してか。

*1:そんな心理的圧迫が必要な案件に関わること自体、非弁行為な気もするが

*2:尊属は3分の1らしい

*3:認定司法書士とは言え、家事案件で内容証明を書くのは非弁行為な気もする。書類作成だけだから大丈夫?

*4:実際はもっと柔らかい表現ですよ

裁判官に理系の知識は必要か(弁論主義との兼ね合い)

 

 

こんなところまで説明しなければいけないのか。

まあ、bitやByteの話は(少なくともおっさん世代の)義務教育の範囲内では無いし、高校でも習っていないが、2進数は高校で、対数あたりで習ったと思うんだが*1

 

司法試験予備試験には一般教養科目があり、その中に自然科学が含まれる。

どのくらいのレベルか、試験問題を見てないが国1だって一般教養試験は高卒レベルなので、その程度と思って良いと思う(いい加減でごめんなさい)。

 

もっとも裁判官に理系の知識を求められている方々は大学レベル以上の知識や常識を求められていると思う(上記の情報通信技術や研究の際の実験ノートの重要性など)。

 

その理解を裁判官に求めるのは弁論主義の観点からどうなのか?

とは思ったりする。

弁論主義というのは裁判において、当事者である原告、被告が主張してないことを裁判官が勝手に判断してはいけない、ということである。

 

 

弁論主義についてはググっていただくなり、wikipediaの記事でも読んでいただくとして、 弁論主義に反するとして批判されたのが枕営業判決である。

 

www.sankei.com

 

昨年4月14日に判決が言い渡されたが、判決理由に再び青島弁護士は目を見張った。「原告、被告双方ともに主張していない『枕営業』の論点を持ち出して判決が下された。完全な不意打ちだ」と怒る。

 

弁論主義による限界に挑戦したと、私が思っている判例名古屋地裁昭和58年3月31日判決、昭和54(ワ)2242(判例時報1081号104頁)である。

 

消費者庁の資料(PDF:245頁)の一番最後に紹介されている判例である。

 

公序良俗違反の契約無効による返還請求)

三 前記一、3で認定した被告の療術行為が医師法一七条で禁止されている医業の内容である医療行為に当たるとは認められず、またあん摩師・は り師・きゆう師及び柔道整復師法一二条で禁止されている医業類似行為に当たるものとも認められない。

 そして前認定のごとき被告の加持祈とうはそれ自体が公序良俗に反するということができないのはもちろんである。

しかしそれが人の困窮などに乗じて著しく不相当な財産的利益の供与と 結合し、この結果当該具体的事情の下において、右利益を収受させることが社会通念上正当視され得る範囲を超えていると認められる場合には、その超えた部分については公序良俗に反し無効となるものと解すべきである。

本件においては前記一で認定したように、原告をはじめその家族は、医師からも見放された春子の難聴を治すため、いわば藁をも掴みたい心境にあり、これに対し被告は過去に難病を治癒させた例のあることを引き合いに出し、春子の難聴も治癒できる旨言明して、原告を契約締結に誘引し、 そして昭和五一年一一月二六日から昭和五四年三月三日まで、この間春子の難聴はいっこうに回復の兆しがなかったのに、再三治ると繰り返し、合計七三七回にわたり春子を殆ど毎日のように通わせて加持祈とうを継続し、一回金八、〇〇〇円による 合計金五八九万六、〇〇〇円という高額な料金を取得したものであって、以上のような事情の下では、被告に対し右料金全額の利得をそのまま認めるのは著しく不相当であり、社会一般の秩序に照らし是認できる範囲を超えているものといわざるを得ない。しかして前記一認定のように、被告が属している善導会では一回の料金が金二、 〇〇〇円と決められていること、また被告は最初春子の難聴を一年のうちに治す旨言明し、しかも前記のように高額な料金を取得し続けてきたのであって、かかる点からすると、療術開始後相当期間経過してもなお症状に回復の兆しがなければ、原告に対しその事情を通知し、療術を続けることの再考を促し、損失の不当な拡大を防止すべきであったと認められること、 その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、被告が原告から支払を受けた料金のうち、昭和五一年一一月二六日から昭和五二年一二月までの間合計三五四回について一回当り金二、〇〇〇円による合計金七〇万八、 〇〇〇円については被告の取得を是認できないわけではないが、その余の金五一八万八、〇〇〇円について被告の取得を認めるのは公序良俗に反し、 契約はその限度で無効である。

 (太字は筆者による)

 

ちなみに被告の療術行為というのは

(一)バイブレーターによるマッサージ。
患者の着衣の上にタオルを置き、その上から約一五分間、市販のバイブレーターを用いて身体をマッサージする。
 
(二)○○○温灸。
患者の身体の上にタオルと八つ折りにした市販の紙を重ねて置き、その上から○○○○○会本部特製の円筒形のもぐさの固まり(直径約一・五センチ、長さ約一五センチ)に点火した部分で軽く圧して皮ふを温める。全身数十箇所のつぼに約一〇分間施す。
 
(三)○○○オリーブ油を脱脂綿にしみこませて耳に入れる。
 
(四)吸引。
直径約一・八センチ、長さ約四・五センチのガラス製の円筒形の器具を用いて、患者の首の皮ふを押圧して引っ張る。一〇回位施す。
 
(五)抜き取り封じ。
市販のプラスチック製の色付きコップにざらめ砂糖を入れ、その上に人形を印刷してある形を細かく折って入れ、コップに蓋をする。その蓋の上に善導会本部会長から買受けた紙(悪霊を押さえる意味の梵字が印刷されている。)を約一〇分間呪文を唱えながら糊ではりつける。
 
(六)延命封じ。
鬼を追い払う意味の文字や六体地蔵の図案が書いてある紙を患者の身体に当て、これを二重に封筒に入れて川に流す。

 

と判決文には書いてあります。

(5),(6)は加持祈祷の類としても1〜4はマッサージや灸、医業類似行為じゃないか、って気もします。
 
実際、(2)と同様の温灸に関しては医業類似行為(あはき法12条違反)として有罪となった判例があります(名古屋高裁昭和30(う)768)。
 
内容としては新聞紙片を八つ折りにしたものを患部に当て、その上から「ほう」の木の丸棒の一端に火をつけて抑える、という行為でしたので、この有罪判例に従えば(2)も医業類似行為に該当するはずです。
 
でも医業類似行為では無いと判示した。
なぜか?
 
原告が無免許医行為や医業類似行為である、という主張をしなかったから。
当然、被告もその該当性については何ら主張していなかった。
 
原告は
1,治癒、治療の債務不履行
2,治療費返還契約に基づく返金
3,公序良俗違反(暴利行為)
 
を主張し、私が言っているような、
「無免許医行為や医業類似行為は違法行為であり、その施術契約は公序良俗に反するから返金を求める」
という主張を原告はしていないのである。
 
 
そのため裁判官が勝手に医業類似行為と判断はできない。
裁判官が勝手に医業類似行為と判断し、全額返金を命じたら弁論主義に反すると控訴されて、再び地裁で審理のやり直しになると思われる。
 
要は三鷹ストーカー殺人事件のようになりかねないのである*2
 
ちなみにこの判決日は昭和58年3月31日である。
それまでに薬事法による無認可医薬品や医療機器の製造販売に対する禁止処罰に関して、「人の健康に害を及ぼすおそれ」の判断は不要である旨の最高裁判決はすでにあった*3

 

裁判官は一方に有利なアドバイスをすることは許されないわけで、判決文にこうやって医行為や医業類似行為ではない、と書くことだけが裁判官にできた、原告に対する手助けなのだろう。

 

さすがに主張もしていない医業類似行為について判決文に書かれたら原告代理人の弁護士は調べるだろう。

 

この事件、控訴はされたのだが、どちらが、あるいは両方控訴したのか不明であり、控訴審がどのような結果になっているかも不明である。*4

 

まあ、和解になったと思われる。

あはき法12条違反と薬事法判例を出されたら、施術行為そのものが違法と判断される可能性は高いと思うだろう。

 

被告としては争って違法施術と判断され、他の患者からも返金訴訟を起こされるよりは、この患者に全額返金して、口外不可の和解に持ち込んだほうが得策である。

 

 と、だいぶ話がそれましたが、わかりやすい主張もせずに、裁判官に理系の知識を求めるのは弁論主義の観点からも問題なわけです。

ちゃんとわかりやすく主張してくれる弁護士を選びましょう、ということです。

 

また裁判というのは相手がいることを忘れてはいけません。

科学的な常識について争点になれば、主張を見て判断せざるを得ない。

それについて審理をせず、一方の言い分のみを認めては公平性に疑問を呈されても仕方ないわけで。

 

 その点、特許無効審判なんてのは特許保有者とその特許が無効と主張する人、そして審判官は特許庁で審査官をやっていた人、つまりは国1技官なわけで、全員が理系の常識を共有できているわけです。

 

これは通常の司法ルートとは異なり、審判に不服があれば知財高裁で争い、司法裁判所による判断は最高裁を含め、2回だけです。

 

このように、実質の一審を通常の司法ルート以外に作ることも可能です。

 

しかし刑事裁判でも、証拠調べで自然科学上の問題が出てくることもあるわけで、裁判官に理系の知識がほしい案件を、特別な裁判所や審判にまとめるのは現実的ではないと思います。

*1:ちなみに私は16進数ではまだ20代である。

*2:これはリベンジポルノについて起訴していないのに量刑でそれを考慮したのが訴訟手続き上、違法であった。

*3:最一小昭和53(あ)1113,最三小昭和56(あ)58

*4:判例データベースおよび消費者取引判例百選の解説記事(ジュリスト別冊135号124頁)でも不明。