タトゥー無罪判決を読んで

タトゥーの彫師が大阪地裁で医師法違反の有罪判決を受け、大阪高裁で逆転無罪判決を受けたのは報道の通りである。

裁判所サイトに控訴審の判決文が掲載されたので思う所を書いていく。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=88172

 --(2020/09/20追記)---

検察による最高裁への上告が令和2年9月16日付けで棄却された。

binbocchama.hatenablog.com

---(追記終わり)---

 

 

 

本文だが、まず第1に「本件公訴事実及び原判決の判断」、第2に「本件控訴の趣意及び主張の概要」、第3に「当裁判所の判断」、第4に「結論」とある。

裁判所の判断を見るには第3を読めば良い。

判決文のPDFでは16ページ目からになる。

 判決文を読む場合、当事者の主張と裁判所の判断を区別して読まないと、当事者の主張を判例と誤解しかねないので注意が必要である。*1

 

で、

当裁判所は,医業の内容である医行為については,保健衛生上の危険性要件のみならず,当該行為の前提ないし枠組みとなる要件として,弁護人が主張するように,医療及び保健指導に属する行為であること(医療関連性があること),従来の学説にならった言い方をすれば,医療及び保健指導の目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるものであることが必要であると解する。

と判断しているわけである。

 

 

医療及び保健指導

判決文より

 医師法は,医療関係者の中心である医師の身分・資格や業務等に関する規制を行う法律であるところ,同法1条は,医師の職分として,「医師は,医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」と規定している。

すなわち,医師法は,「医療及び保健指導」という職分を医師に担わせ,医師が業務としてそのような職分を十分に果たすことにより,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保することを目的としているのである。

この目的を達成するため,医師法は,臨床上必要な医学及び公衆衛生に関して,医師として具有すべき知識及び技能について医師国家試験を行い,免許制度等を設けて,医師に高度の医学的知識及び技能を要求するとともに,医師以外の無資格者による医業を禁止している。

医師の免許制度等及び医業独占は,いずれも,上記の目的に副うよう,国民に提供される医療及び保健指導の質を高度のものに維持することを目指しているというべきである。

 以上のような医師法の構造に照らすと,医師法17条が医師以外の者の医業を禁止し,医業独占を規定している根拠は,もとより無資格者が医業を行うことは国民の生命・健康にとって危険であるからであるが,その大きな前提として,同条は,医業独占による公共的な医師の業務の保護を通じて,国民の生命・健康を保護するものである,言い換えれば,医師が行い得る医療及び保健指導に属する行為を無資格者が行うことによって生ずる国民の生命・健康への危険に着目し,その発生を防止しようとするものである,と理解するのが,医師法の素直な解釈であると思われる。

そうすると,医師法17条は,生命・健康に対して一定程度以上の危険性のある行為について,高度な専門的知識・技能を有する者に委ねることを担保し,医療及び保健指導に伴う生命・健康に対する危険を防止することを目的としているとする所論の指摘は,正当である。

したがって,医師は医療及び保健指導を掌るものである以上,保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であっても,医療及び保健指導と関連性を有しない行為は,そもそも医師法による規制,処罰の対象の外に位置づけられるというべきである。

美容整形

医行為を治療目的に限定したら、美容整形はどうなるのよ?というのが今回の事件の当初から言われていた。そんな疑問に対して

① 美容整形は,一般に,身体外表の正常部位や老化の現れた部位に対して,外科手術等を施し,より美しくさせ,あるいは若返らせることによって,形態や容姿が原因となる精神的負担を軽減し,個人を社会に適応させる形成外科の一分野といわれ,昭和53年の医療法改正により,診療標榜科名として「美容外科」が追加されている。

(略)



 ところで,医療とは,現在の病気の治療と将来の病気の予防を基本的な目的とするものではあるが,健康的ないし身体的な美しさに憧れ,美しくありたいという願いとか醜さに対する憂いといった,人々の情緒的な劣等感や不満を解消することも消極的な医療の目的として認められるものというべきである。

美容整形外科手術等により,個人的,主観的な悩みを解消し,心身共に健康で快適な社会生活を送りたいとの願望に医療が応えていくことは社会的に有用であると考えられ,美容整形外科手術等も,このように消極的な意義において,患者の身体上の改善,矯正を目的とし,医師が患者に対して医学的な専門的知識に基づいて判断を下し,技術を施すものである。

 

 以上からすると,美容整形外科手術等は,従来の学説がいう広義の医行為,すなわち,「医療目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるもの」に含まれ,その上で,美容整形外科手術等に伴う保健衛生上の危険性の程度からすれば,狭義の医行為にも該当するというべきである。したがって,医業の内容である医行為について医療関連性の要件が必要であるとの解釈をとっても,美容整形外科手術等は,医行為に該当するということができる。

と判示している。

私は医業類似行為(無資格施術)の禁止を求めるものであるが、医業の目的に美容が含まれるという解釈が示された以上、無資格者による美容目的の施術は医業類似行為でもある、と解釈できよう。

とりわけ美容整体などと称している宣伝を見ると、その原因が骨盤の歪みとし、骨盤矯正を行う、としているのもある。

また小顔矯正と宣伝して景品表示法の命令が出たこともある。

消費者庁:小顔になる効果を標ぼうする役務の提供事業者9名に対する景品表示法に基づく措置命令について[PDF]

どちらにせよ美容整体というのは「患者の身体上の改善、矯正」を目的にしているわけである。

これはエステにも当てはまるだろう。

疲労回復(リラクゼーション)

さて、今回の判決では「医療及び保健指導」に関する行為が医療関連性のある行為と言えるが、疲労回復を目的にした行為は治療でなくても保健の範疇だろう。

実際、健康食品では疲労回復の効果を表示できず、医薬品でなければ疲労回復の効果を表示でできない。*2

 

またリラクゼーションの業界団体のカウンターパートの役所は経済産業省のヘルスケア産業課だそうだ。

ヘルスケアであって保健ではない、ということも無いと思う。

binbocchama.hatenablog.com

 

保健衛生上の危険性要件

 検察官や原判決は,保健衛生上の危険性要件のみで足りるという解釈に基づき,本件行為はこの要件を満たすから医行為に当たると結論づけている。確かに,後にみるように,本件行為が保健衛生上の危険性要件に該当することは否定し難い。

とタトゥー施術が保健衛生上の危険性要件に該当することを認め、

しかしながら,現代社会において,保健衛生上の危害が生ずるおそれのある行為は,医療及び保健指導に属する行為に限られるものではなく,これとは無関係な場面で行われる行為の中でも,いろいろと想定される。

そういう状況の下で,医師法17条の医行為を「医師が行うのでなければ保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」という要件のみで判断する場合,その危害防止に医学的知識及び技能が求められるか否かの判断が決定的に重要な意味を持つこととなるが,この要件は,理容行為等について本件当事者間でも見方を異にしていることにも表れているように,必要とされる医学的知識及び技能並びに保健衛生上の危害についての捉え方次第で判断が分かれ得るという意味で,一定の曖昧さを残していることは否定できない。

と目的を限定せずに保健衛生上の危険性のみで医師法違反を判断する場合、曖昧さが残る、と指摘している。

そのうえで、

そうすると,保健衛生上の危険性要件の他に,大きな枠組みとして医療関連性という要件も必要であるとする解釈の方が,処罰範囲の明確性に資するものというべきである。

と判示している。

 

医行為の定義としては本判決文でも引用されている最高裁判決では

被告人の行為は、前示主張のような程度に止まらず、聴診、触診、指圧等の方法によるもので、医学上の知識と技能を有しない者がみだりにこれを行うときは生理上危険がある程度に達していることがうかがわれ、このような場合にはこれを医行為と認めるのを相当としなければならない。 

 と判示している。

ちなみにこの最高裁判決当時、指圧はあはき法第1条の免許には入っておらず、指圧が免許の業務となるのは昭和30年の改正でである。

そしてこの最高裁判決も昭和30年であるが、指圧が第1条に含まれる前である。そして昭和35年判決はまだ無い。

なので「人の健康に害を及ぼすおそれ」を証明しなくてもあはき法第12条違反で処罰することも可能であった。

そこを医師法第17条違反で起訴した、ということは保健衛生上の危険性を認識し、立証可能であると検察は判断し、裁判所もそれを認めた、ということである。

あはき法第12条違反は罰金刑のみであるが、この事件では医師法第17条違反として、懲役1年の実刑判決となっている。*3

 

医行為を認定するに当たり、どの程度の医学的知識・技能が安全性に必要とされるか?という問題は確かにある。

義務教育では習わない、身体の仕組みや疾病の知識が必要であれば医行為とすべき(A案)か、それとも医学部で習うような高度の知識が必要な場合のみに医行為と認定すべき(B案)か。

 

今回の判決は医療関連性がある場合、A案であり、医療関連性が無ければ医師法違反には問えない、ということになるだろう。

 

世間の多数はB案で考えていると思われる。

それは法的な資格制度が無いカイロプラクティック業界の声明などから判断できる。

 カイロ業界の認識

日本では整体師やカイロプラクターと名乗るのに法的な資格は不要である。

会員はWHO基準の教育を受けていると称している、一般社団法人日本カイロプラクターズ協会(JAC)は消費者庁の「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に」という報告書に対し、下記ページで見解を示している。

www.jac-chiro.org

上記見解から引用する。強調などは筆者による。

(2) 禁忌対象疾患の認識
  禁忌対象疾患を評価する知識は教育背景により大きく異なります。厚生労働省医政局医事課へ登録者名簿を提出している日本カイロプラクティック登録機構(JCR)はWHO指針の教育課程を履修したカイロプラクターの試験及び登録制度を実施しています。  JCR登録者は禁忌対象疾患の知識を有しているため、安全対策として消費者にカイロプラクティックを受診する際は「JCR登録者」を選択するよう勧告することが望ましいです。

 JCRというのは事務局がJACの事務局内にあり、事実上、JACと一体化している組織である。*4

 

「禁忌対象疾患を評価する知識」、「禁忌対象疾患の知識」というのは広い意味で医学的知識と言える。

 

(3) 一部の危険な手技の禁止
  三浦レポートでは危険な手技として「頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法」が挙げられていますが、具体的な方法の定義が不明確です。またカイロプラクティックの主要な施術法であるアジャストメント(スラストを利用した手技)が危険であることを示す客観的な統計調査の裏付けはなく、頸椎マニピュレーションによる事故の発生頻度は医療事故の発生頻度に比べるとはるかに低いことが文献から明らかです。 カイロプラクティック治療の危険性は施術者の教育背景により大きく変わることを認識しなければなりません。

 

医療事故の発生頻度に比べると頚椎マニピュレーションによる事故の発生頻度ははるかに「低い」そうだが、法的な免許を持たないものに許される行為は「人の健康に害を及ぼすおそれの無い行為」であるから、事故の発生は「絶対無い」が原則である。

医療事故と比べて発生頻度が「低い」としても、事故が発生しているのであればそれこそ違法施術である。

 

と今回の判決の解説から脱線してしまったが「カイロプラクティック治療の危険性は施術者の教育背景により大きく変わる」と自ら述べている。

 

他にもJAC会員の教育内容や知識の高さを示して、他のカイロプラクターや整体師などと区別してくれという旨が書いてある。

 

 そういうわけでJAC自身、保健衛生上の危険性と医師法違反に関してはB案と考えているのであろう。

あるいは知識や技能などの能力があれば医師法違反にはならないと。

ただし、能力があれば医師法違反にならない、という解釈が誤りであることは、タトゥー弁護団が引用したコンタクトレンズに関する医師法違反事件の控訴審*5

 まず、所論は、原判決は、医師法一七条において医師資格を有しないものが業として行うことを禁じられている医行為について、これを「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と解し、被告人と共謀したAの行った検眼、コンタクトレンズ着脱、コンタクトレンズ処方等の各行為をこの意味における医行為に該当するとしたが、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為などというものは世の中に存在せず、ある行為から右危害を生ずるか否かはその行為に関する技能に習熟しているかどうかによって決まるのであって医師資格の有無に関係しないとして、医師法に関する原判決の前記のような解釈は社会の実態を無視した恣意的な解釈である、と主張する。

 そこで検討するに、医師法は、医師について厚生大臣の免許制度をとること及び医師国家試験の目的・内容・受験資格等について詳細な規定を置いたうえ、その一七条において「医師でなければ医業をしてはならない」と定めているところからすれば、同法は、医学の専門的知識、技能を習得して国家試験に合格し厚生大臣の免許を得た医師のみが医業を行うことができるとの基本的立場に立っているものと考えられる。

そうすると、同条の医業の内容をなす医行為とは、原判決が説示するように「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と理解するのが正当というべきであって、これと異なる見解に立つ所論は、独自の主張であって、採用の限りでない

と判示されていることからも明らかである。

自らの施術の安全性を訴えるために無資格者が、自らが受けた教育や医学的知識・技能を主張するのであれば、医師法違反を自白するのに等しい。

ましてや目的が医療関連性がある場合においてをや。

保健衛生上の危険性の基準の明確化

そんなわけで、今回の判決により医師法違反に問われる保健衛生上の危険性の基準が明確化されたと私は考える。 

 

もっとも富士見産婦人科病院事件の保健師助産師看護師法違反事件*6では

医師が無資格者を助手として使える診療の範囲は、おのずから狭く限定されざるをえず、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。

とあるので、無資格者による、判断作用を伴う行為は違法行為(医師法第17条、保助看法31条、あはき法第12条違反)とすでに言える状態ではある。

しかし医療関連性の無い行為までこの基準を広げると色々支障が出そうではある。

例えばスポーツのコーチが競技のために選手の身体について判断するのは医行為か?など。

 

医行為を医療関連性のある行為に限定した場合、このような問題は生じにくいと思われる。

もっとも健康目的でスポーツジムに行ってる場合にはまた別の判断になると思うが。

「身体上の改善、矯正」が目的なら医行為と判断すべきだろう。

 

上告の行方(上告は棄却されました)

 

binbocchama.hatenablog.com

 

大阪高検はこの無罪判決を不服として最高裁に上告したことが報道されている。

最高裁の判断としては

  • 控訴審の判断を肯定して上告棄却(無罪確定)
  • 従来どおり、保健衛生上の危険性のみで判断し、控訴棄却、第1審の有罪判決の確定
  • 目的が限定されることを肯定しつつも、目的要件は異なるとして破棄差戻しまたは破棄自判

といったところが考えられる。

3番目の異なる目的要件だが、私は医行為に目的が必要としても薬機法の医薬品や医療機器の定義である、「疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと」を目的に定義されると考えていた。

よって、タトゥー施術は身体の構造に影響を及ぼす行為であり、保健衛生上の危険性もあるから有罪判決が維持されると考えていたのである。

なので無罪判決は予想外であった。

 

仮に危険性要件だけで医行為性を判断し、原審破棄するとしても、美容目的が医療関連性を有する、という考えまで否定はしないだろう。

裁判所にその考えを示させた、という点では美容目的施術を医業類似行為として規制したい我々にとって有意義だったし、弁護団に寄付した成果としては十分なものである。

 

なお、コンタクトレンズに関する医師法違反事件及び富士見産婦人科病院事件は両方とも下級審判決(裁判例)である。

それらの判決文を某役所に提示しても「個別事案です。」とあしらわれるのである。

これが判例と裁判例の重みの違いである。

これらの裁判例の判示内容は結局の所、指圧の医師法違反事件の最高裁の判示内容に包含されるので、上告審で判断を示さなくても良い、と判断されたのだろうが。

 

できればそこらへんの基準を最高裁で直接判示してほしいものである。

*1:しかし、民事裁判の場合は当事者が主張していないことを判決の根拠にしてはいけない(弁論主義)ので、おかしな判決のときは当事者がちゃんとした主張をしているかどうかを確認することも大事である。
例えば加持祈祷治療料金の返金を求めた事件である、名古屋地裁 昭和54年(ワ)2242号では「認定した被告の療術行為が医師法一七条で禁止されている医業の内容である医療行為に当たるとは認められず、またあん摩師・はり師・きゆう師及び柔道整復師法一二条で禁止されている医業類似行為に当たるものとも認められない。」と判示しているが、原告被告ともに、被告の療術行為が医行為や医業類似行為であるとは主張していない。
仮に裁判所が被告の療術行為を医業類似行為と認定して返金を命じる判決を出せば弁論主義に反する判決として、控訴審では破棄差戻しを受ける可能性がある。原告代理人である弁護士に、医業類似行為という概念を示すために、わざわざ書いた判決と思われる。
この事件は控訴されたが、和解があったのか、控訴審の判決文は判例データベースでは探せなかった。
おそらく医業類似行為という概念を知った原告側代理人が、薬事法などの判例を示し、被告の療術行為は医業類似行為であり、違法行為であるから公序良俗に反するとして、全額返金を受けたのではないかと推測される。

*2:

http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/160630premiums_9.pdf 7ページ目

*3:大阪高等裁判所 昭和28年05月21日判決

*4:住所は一般社団法人日本カイロプラクターズ協会事務局内となっている。

日本カイロプラクティック登録機構《組織紹介》

*5:

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=20209

*6:東京高裁平成元年2月23日判決 昭63(う)746
判例タイムズno.691 1989.5.15 p152 東京高裁(刑事)判決時報40巻1〜4号9頁

昭和35年判決が無ければシャクティパット事件は防げたはず。

前回はあはき法制定時の国会議事録から、医業類似行為の禁止(第12条)の目的として、適切な医療受診の機会の逸失(消極的弊害)の防止が有ることを書いた。

 

今回は消極的弊害を防げなかった事例として、いわゆるシャクティパット事件(成田ミイラ化遺体事件)を取り上げる。

成田ミイラ化遺体事件 - Wikipedia

 

最高裁決定より

 (1) 被告人は,手の平で患者の患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるという「シャクティパット」と称する独自の治療(以下「シャクティ治療」という。)を施す特別の能力を持つなどとして信奉者を集めていた。

被告人は税理士資格は持っていたようだが、医療系国家資格を有していた、という情報はない。

というわけで無資格治療であり、医業類似行為である。

よって、昭和35年判決で医業類似行為の取締が困難にならなければこのような治療法を表立ってできなかったと思われる。

 (2) Aは,被告人の信奉者であったが,脳内出血で倒れて兵庫県内の病院に入院し,意識障害のため痰の除去や水分の点滴等を要する状態にあり,生命に危険はないものの,数週間の治療を要し,回復後も後遺症が見込まれた。Aの息子Bは,やはり被告人の信奉者であったが,後遺症を残さずに回復できることを期待して,Aに対するシャクティ治療を被告人に依頼した。

 (3) 被告人は,脳内出血等の重篤な患者につきシャクティ治療を施したことはなかったが,Bの依頼を受け,滞在中の千葉県内のホテルで同治療を行うとして,Aを退院させることはしばらく無理であるとする主治医の警告や,その許可を得てからAを被告人の下に運ぼうとするBら家族の意図を知りながら,「点滴治療は危険である。今日,明日が山場である。明日中にAを連れてくるように。」などとBらに指示して,なお点滴等の医療措置が必要な状態にあるAを入院中の病院から運び出させ,その生命に具体的な危険を生じさせた


 (4) 被告人は,前記ホテルまで運び込まれたAに対するシャクティ治療をBらからゆだねられ,Aの容態を見て,そのままでは死亡する危険があることを認識したが,上記(3)の指示の誤りが露呈することを避ける必要などから,シャクティ治療をAに施すにとどまり,未必的な殺意をもって,痰の除去や水分の点滴等Aの生命維持のために必要な医療措置を受けさせないままAを約1日の間放置し,痰による気道閉塞に基づく窒息によりAを死亡させた

 

無資格治療者の見栄ってありますよね。

栃木で自称祈祷師が、1型糖尿病の子供に対する医療ネグレクトを指示した事件でも、「Aを病院で治療させようとせず,むしろ,自らの治療が成功しているとの態度をとり続けていたことが認められる。」と指摘されてます。

 

--(2020/08/26追記)---

www.asahi.com

 栃木県で2015年4月、治療と称して1型糖尿病を患う男児(当時7)にインスリンを投与させず衰弱死させたとして、殺人罪に問われた建設業近藤弘治(ひろじ)被告(65)=同県下野(しもつけ)市=の上告審で、最高裁第二小法廷(草野耕一裁判長)は被告側の上告を退けた。24日付の決定で「死の現実的な危険を認識していた」と述べ、死んでもやむを得ないという「未必の殺意」があったと認定した。一、二審判決の懲役14年6カ月が確定する。

 裁判では、母親から相談を受けた被告が男児インスリンを投与させないようにした行為を殺害と認定できるかが争点だった。

 第二小法廷は、被告は医学に頼らずに「難病を治せる」と標榜(ひょうぼう)し、母親に「インスリンは毒」「従わなければ助からない」としつこく働きかけて投与をやめさせたと指摘。「命を救うには従うしかない」と思い込んだ母親を「道具として利用」し、治療法に半信半疑だった父親も母親を通じて同調させたと指摘し、殺害行為に当たると判断した。

 弁護側は「インスリンを打たないと決めたのは両親で、治療費を受け取った被告が死をやむを得ないと考えるはずがない」と無罪を主張していた。

 一、二審判決によると、被告は14年末に母親の依頼で「治療契約」を結び、インスリンがなければ死に至ると理解しながら15年4月6日を最後に投与させず、同27日に死亡させた。県警は両親を保護責任者遺棄致死の疑いで書類送検し、宇都宮地検はいずれも不起訴(起訴猶予)としている。(阿部峻介)

最高裁第二小法廷決定平成30(あ)728

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89649

 

あはき法制定時の国会議事録(12条関連)

 あはき等法は明治四十四年内務省令第十号(按摩術営業取締規則)、明治四十四年内務省令第十一号(鍼術灸術営業取締規則)、昭和二十一年厚生省令第四十七号(柔道整復術営業取締規則)、昭和二十一年厚生省令第二十八号(按摩術営業取締規則、鍼術灸術営業取締規則及び柔道整復術営業取締規則の特例に関する省令)及び昭和二十二年厚生省令第十一号(医業類似行爲をなすことを業とする者の取締に関する省令)がいずれも昭和二十二年法律第七十二号(日本國憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律)第一條の規定によつて、昭和22年十二月末日限りその効力を失うため、それらの省令に代えて成立した法律である。

制定時はあん摩、はり、きゆう、柔道整復等営業法であり、現在、12条の2で規定されている、既存の医業類似行為業者の特例は19条であった。

第十九条 この法律公布の際、引き続き三箇月以上、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としていた者であって、この法律施行の日から三箇月以内に、省令の定める事項につき都道府県知事に届け出た者は、第十二条の規定にかかわらず、なお、昭和三十年十二月三十一日までは、当該医業類似行為を業とすることができる。

 

あはき法は議員立法と説明されることが多く、その法律構成からも信じやすいのだが、あはき法は政府提出の閣法である。

 

で、12条(医業類似行為の禁止)の制定目的に、消極的弊害の防止(適切な医療受診機会の逸失防止)があることを示す議事録があったので紹介する。

衆議院会議録情報 第001回国会 厚生委員会 第37号

この当時は旧字体なので読みにくい。

○太田委員
 次には十九條の醫業類似行為を昭和三十年十二月まで既得權を認められる。それからは許可しないというならば、それは有害であるから許可しないのか有效でないから許可しないのか。もし有害であるならば、既得權をもなぜ認めるか、そこに何かの試驗とかいう方法でもとらないと、はなはだ矛盾するように思うのでありますが、いかがでありましようか。

 

○久下説明員(厚生事務官)

 第十九條についてのお尋ねでございますが、まずその根本である十二條において將來に向つてこれを一律に禁止し、現在やつておる者について當分の間既得權の存置をいたしたのであります。
その趣旨は、實は從來これらの醫療が實際問題として、先ほど申しましたような性質において認められておる理由は、少くとも害はないという程度のものだけが認められておるのでありまして、ただその害がないという事柄の判斷でございますが、從來の考え方は、そういう療術行為を身體に行いますこと、それ自身によつて、害が生じないという意味合において認められておるのであります。積極的な治療效果というものについては、必ずしも嚴密に判斷されておらないのであります。

從いましてこれがいたずらに萬病にいいとか、あるいは相當な數多い疾病效果があらかどうかということについては、過去においては檢討をされておらないのでございます。

從いまして同時にまたいわゆる醫業類以行為というものは、そういう面から見て、醫學の素養のない人々が廣告をしておるようなことに對して、萬全の效果があるかどうかということについては、むしろこれは多くの場合否定をしなければならぬではないかと思つておるのであります。

そういう意味合において、これを一般の者が信用してかかつておることについて、病氣が治らない場合が起るという、消極的な害がないとも言えない場合があるのであります。

それらの問題を考慮いたしまして、一面においては十二條においてこれを行うことができないという規定を設けますとともに、從來の既得檢を一定の期間認めておるのであります。

 

従来でも施術そのもので害が生じるものは医師法違反などで摘発して、認めていなかった。

療術行為は施術によって害が生じない、ということで認めていた。

しかし療術の効果の有無は判断していなかった。

広告しているような効果が万全にあるとはとても言い難い。

このような療術の効果を信じた患者が、適切な医療受診の機会を逸失することになるおそれがある。

 

そんなわけであはき法第12条の目的として、消極的弊害の防止があったのは明らかである。

そのような目的を無視した昭和35年判決は立法裁量権を無視し、結果として無資格施術の健康被害を招いている以上、国の公衆衛生の維持向上を規定する憲法25条第2項に違反する。

 

茂木敏充大臣と日本リラクゼーション業協会の関係に関する国会質問

茂木経済再生相に国政私物化疑惑/リラクゼーション業協会を支援 献金・パー券で資金受ける/「日曜版」報道

 

11月、赤旗新聞が茂木大臣と日本リラクゼーション業協会との関係について報じる。

 茂木(もてぎ)敏充経済再生相に“国政私物化”疑惑が浮上しました。茂木氏は経済産業相在任中、親密な関係にある「日本リラクゼーション業協会」の要望に沿う形で、国としてのお墨付きが得られるよう協会を支援。協会側は茂木氏側に献金やパーティー券購入の形で資金提供していました。

 

 国家資格を持つあんま・マッサージ・指圧師と異なり、無資格のリラクゼーションは公的保険の対象外。グレーゾーンと呼ばれています。

 協会の理事には、あんま・マッサージ・指圧師等に関する法律違反(無免許マッサージ業)の疑いで逮捕された経歴を持つ人物2人が就任。同協会がマイナスイメージ払拭(ふっしょく)のために狙ったのが、リラクゼーション業を新産業として国に認めさせることでした。

 

 リラクゼーション業が新産業として認定された経緯には不可解な点が多数あります。

 協会による業界の実態調査について総務省統計局は「福島県の居住制限区域にあった事業者が含まれていることは、リラクゼーション業協会による調査の信ぴょう性を疑わせる」と厳しく批判していました。

 

で、以下、平成30年11月14日の衆議院内閣府委員会の議事録である。

 

○塩川委員
 日本共産党塩川鉄也です。

twitter.com


 きょうは、最初に茂木大臣にお尋ねをいたします。
 茂木大臣は、一般社団法人日本リラクゼーション業協会の特別顧問を務めたことがありますね

 

○茂木国務大臣
 個別の政治活動についてお答えすることは差し控えますが、特別顧問等の就任については、国務大臣規範にのっとり活動しております。現在、顧問は務めてございません。

 

○塩川委員
 現在務めていない、国務大臣規範との関係ですけれども、大臣就任以外の時期に特別顧問を務めていたということを否定されませんでした。

2014年12月8日時点で特別顧問という役職も記載がされているところです。
 そこで、この数年間の日本リラクゼーション業協会のフェイスブックを拝見しますと、茂木議員の名前と写真がたくさん出てまいります。

 例えば、2014年6月、リラクゼーション業協会総会の後の懇談会で茂木大臣が挨拶をしておられますし、その際に、リラクゼーション業に対する国としての期待を述べたということです。

また、その11月には、日本リラクゼーション業協会主催のリラクゼーションの日記念イベントで茂木大臣が挨拶をしておられます。

2015年10月に、リラクゼーション業協会主催のコンテストで茂木議員が特別顧問として挨拶をしておられます。

翌2016年12月、協会理事メンバーとの懇親会で、ゴルフ場の写真でしょうか、紹介もされておりました。昨年の2017年7月1日、リラクゼーション業協会総会で挨拶をしておられます。その他、茂木議員の勉強会に協会理事が出席などしている。

 

 不思議なことに、昨日拝見をすると、そういうフェイスブックの記載が、かなりのところが落ちているということなんかもありまして、そういう経緯の中にあるところです


 そこで、お尋ねしますけれども、2012年9月のラクゼーション業協会の協会報を見ると、茂木議員は、関係省庁への打診、産業分類確立への道しるべをも一緒に考えていただける心強い賛同者と紹介をし、自民党政調会長という要職の激務のさなか、リラクゼーション業の産業分類の確立、業界発展のために尽力をいただいているとありますけれども、そういうことでよろしいでしょうか

 

○茂木国務大臣

 さまざまな団体の皆さんとお会いする機会であったりとか、業界団体等の会合、これは毎年呼んでいただいている会合もございますし、さまざまな会合にも出席させていただいております。

 各団体の広報物についてコメントする立場に私はありませんが、さまざまな団体の会報等に多くの議員が載っていることはあるなと思っております。


そして、他の団体と同様に、リラクゼーション業協会の皆さんからも、現状についてお話を伺ったことはございます。


 同業界に限らず、私の政治活動に御理解、御賛同いただいた多くの方から御支援もいただいております。

 

○塩川委員


 リラクゼーション業協会、お話を伺ったことがあるということで、茂木議員は、この2012年9月のリラクゼーション業協会での、リラクゼーション業の産業分類の確立、そのために尽力いただいているというのを受けて、政権交代がありましたので、2012年の12月に経産大臣に就任をされました、その翌2013年2月の12日に、このリラクゼーション業協会理事らが大臣室を訪問しております。

 

 先ほど申し上げましたように、同協会の要望はリラクゼーション業という産業分類の確立であります総務省によれば、産業分類というのは、助成事業等の認定に当たりこの分類が活用される事例もあるという点でいうと、非常に重要な区分ということになっているわけであります。

 そういった中で、2013年、茂木大臣が大臣在任期間中に経産省の取組もあって、10月、ラクゼーション業が日本標準産業分類に新設をされました

ですから、その後のリラクゼーション業協会のフェイスブックには、「歴史が動きました。」「「リラクゼーション業」が、新産業として認定されました!」とあったわけであります。

 このリラクゼーション業というのは、所管は経産省であります。

まさに茂木大臣が経産大臣在籍中に、業として所管をするリラクゼーション業というのが産業分類として確立をするということで、この2012年以降の経緯を見ても、親密な関係にあったリラクゼーション業協会に新産業としてのお墨つきを与える、こういう立場で尽力をしたのが茂木経産大臣だったのではありませんか

 

○茂木国務大臣

 まず、2012年の9月というお話でありましたが、我々は野党でありました。もちろん、我々として、政権復帰を目指す、こういう立場でありましたが、いつ政権復帰できるか、解散もなかったわけですから、わからない状況でありましたし、ましてや、安倍政権が成立する、そして、そこの中で私が経済産業大臣に就任するということは、少なくともその時点では想定をされていなかったと思っております。

 そして、日本産業分類についてお話がありましたが、これを所管しておりますのは総務省でありますから、その件につきましては総務省にお尋ねください。

 

○塩川委員

 野党時代に知己を得て、その要望もあって、2012年の12月に経産大臣に就任したからこそ、経産大臣の職責において、産業分類の確立に経産省が働きかけるという点での役割を果たしたんじゃないのかということであります。


 産業分類を所管する総務省と協会とのやりとりの際にも、総務省統計局からいろいろ疑問点なんかが出される

そういった際に、経産省のヘルスケア産業課というのが、この協会へのいろいろなアドバイスをしたり、総務省統計局とのやりとりもしているわけですよね。

つまり、役所として産業分類を確立するということでのアドバイスを行ってきた。それは、まさに茂木経産大臣のもとで行われてきたことであります


 この間、経済産業省はこの団体であるリラクゼーション業協会主催のコンテストを後援し、経産省のヘルスケア産業課長が「政府の取組とリラクゼーション業への期待」と題する講演をこの協会主催の行事の中で行うということで、特定の業界団体を経産省が積極的に支援をしてきているという経緯があるわけです。


 そこで、茂木大臣に伺いますが、このリラクゼーション業協会は、2016年の4月、それから9月、12月、茂木議員のパーティー券を購入していると思いますけれども、それはそのとおりでよろしいですね。

 

○茂木国務大臣


 個別のどの時期に幾らということは今確認できませんが、いずれにしても、政治資金パーティー等につきましては、その資金は政治資金規正法にのっとり適正に報告をいたしております。

 

○塩川委員

 これは質問で投げているんですよ、このリラクゼーション業協会からパーティー券を購入してもらったということについて確認しますねと。聞いていないんですか。

 

○茂木国務大臣
 いずれにしても、そのような御指摘であれば、その時期にパーティー券の購入があったと思いますが、そのことについてはきちんと政治資金収支報告書に記載をいたしております。

 

○塩川委員
 まあ、そういうことであろうということで、ちょっと答弁の話で、いろいろ、事前に通告がないから何とかという話になるんだけれども、これは失礼な話ですよ。

(茂木国務大臣「ちゃんと答えているじゃないですか」と呼ぶ)

いやいや、だって、思うという話じゃないですか。

事実関係を確認しているのに、これは思うという話じゃ済まない話ですよ。

丁寧にやっているんだから。それに対してそういう答えというのは、これは余りにも審議に対して失礼じゃありませんか。
 では、もう一回。

 

○茂木国務大臣

 御意見は真摯に受けとめさせていただきます。

 その上で、先ほど申し上げましたように、政治資金につきましては政治資金規正法にのっとり適正に報告をいたしております。

 

○塩川委員

 150万円を受け取っているわけなんです、50万、50万、50万で。

収支報告書に記載したから問題ないという話じゃないんです。

 所管する業界団体から献金やパーティー券購入を一切受けないというのは、本来これはやはり所管大臣としては行うべき筋じゃありませんか

業界団体からの献金というのは業界との癒着が問われるわけですよ。

パーティー券は形を変えた企業・団体献金と言われているわけで、業界団体が口ききなどの見返りとして政治家に金を出すという構図になるというのは当然のことであります。

 茂木議員が経産大臣在任中に、親密な関係にある業界団体の要求に応えて、新産業としてのお墨つきを与えるために働き、実現をさせた、協会側はパーティー券購入という形で報いた、こういうことになるんじゃありませんか。

 

○茂木国務大臣

 私は、2012年の12月の26日に経済産業大臣に就任をいたしまして、2014年の夏に退任をいたしております。

御指摘いただきました2016年、私は経済産業大臣の職にはございませんでした。

 

○塩川委員
 大臣で果たした仕事が、その後、協会としてパーティー券購入という形で報いたという構図というのは、はっきりしているんじゃないでしょうか

新産業育成を国策として進め、それを利用する形で所管していた業界団体に国のお墨つきを与えて、その結果、資金提供を受けるというのは癒着そのものであって、こういった癒着を進める、お友達のための政治の私物化ということを言わざるを得ません。


 こういった問題について今の安倍政権の対応が極めて問題だということを指摘もし、引き続き追及することを申し上げて、茂木大臣については御退席いただいて結構であります。

○牧原委員長 茂木大臣、御退席ください。

 

議事録の転載は以上。

 

茂木大臣は、パーティ券を買ってもらったのは経産大臣では無いときだから問題ない、ということのようです。

 

そういえばカルロス・ゴーン氏は退任後に受け取る報酬を記載しなかった、ということで逮捕されているわけですが、大臣退任後に受け取る予定の政治資金ってどうなのかしら?あくまで仮定の話ですが。

 

弁護士でない者による「薬事法チェック」は非弁行為か?

元弁護士である法律ライターの相談業務が非弁行為ではないか、とTLに流れてくる。

 

我々、医療系国家資格と違い、弁護士や税理士などはそれぞれの会に所属してないと業務を行えない。

 

で、当該人物のサイトを見たら「得意な記事分野」に「薬事法チェック」という記載があった。さて、報酬目的で書かれた記事が薬機法に触れるか否かを判断するのは非弁行為だろうか?

 

記事内容が薬機法に触れるかどうかを気にするのは健康食品の広告記事だろう。

広告でなければ薬機法を気にする必要は無いわけで。

そして薬機法の知識を誤った場合、薬機法違反で摘発されるのは記事のチェックを依頼した広告主である。

 

そう考えると薬機法や景品表示法などに引っかからない広告記事作成・チェックって、弁護士でないとできないのでは?と思ったりする。

 

ま、私は法律の素人なのでどのような行為が弁護士法第72条に違反するか、判断はしかねるが。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

 

もっとも健康食品は我々の業界とそこそこ競合関係はあるし、器具を利用するエステ事業者は薬機法や医師法に触れないような広告・説明をしてる。

 

そういう無資格者を支援するライター稼業、マーケティング業者に規制をかけられると私としてはありがたいのである。

リラクゼーションコンテスト2018の動画チェック

茂木敏充大臣を支援してる日本リラクゼーション業協会が開催したリラクゼーションコンテストの動画がYoutubeに挙げられている。

リラクゼーションコンテストJAPAN2018 ファイナル - YouTube

 

なので経過時間と内容のメモとして書いておく。

なお、Youtubeは再生開始点を指定してリンクを貼ることもできるのでその度、動画へのリンクを張ります。

 

24:28

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=1468

経済産業省のヘルスケア産業課の西川課長の挨拶。
去年も参加している。

高齢化社会の話をしている。

生涯現役のためには健康づくりが大事になる。

 

44:43

協会は配布している体調確認シートの紹介と実演。

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=2683

協会の制度について | 一般社団法人 日本リラクゼーション業協会

シートの内容としては下記リンク先(無免許業者につき注意)に写真がある。

ameblo.jp

 

「現在、または今までに大きな病気やケガをしたことがありますか?」と病歴をたずねている。

症状や病歴の聴取は問診であり、医師などの医療系国家資格者以外が行えば医師法違反である。*1


で、セラピストの部のコンテストである。

一人目で文字起こしは疲れました。

実際に施術するわけではないのでチェックすべきポイントは

  • お客さんの身体の状況について判断しているか(診察行為)

である。より具体的に言えば

  • 病歴や症状(「お悩み」や「お疲れ」と称しているようだが)などを聞いているか?(問診)
  • 体に触れて、身体の状況について判断しているか?(触診)
  • 問診、触診での判断結果をお客さんに告知しているか?(診断)
  • 身体の状況について説明し、施術が必要な旨を述べて提案しているか?*2

といった具合である。

 

47:53

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=2873


一人目 ラフィネ
お客さんの「お悩み」の設定は肩がゴリゴリする。

お客さん役(以下P):コースが決まっていなけど、最近肩のこりが激しくて。なのでそれがどうにかなればと。

 

セラピスト(以下T):肩がゴリゴリということですが、少し触れさせていただいてもよろしいですか?どのあたりが特にゴリゴリされますか?(と話しながら肩などに触れる。)

T:硬いですね。

P:硬いですか。

T:首もかなり張ってらっしゃいますね。

T:首肩周りを触らせていただいたら首肩周りがSOSでています、しっかりほぐさせていただきたい。
T:腕の疲れも普段気になりますか?
P:そうですね、たまにしびれることもあったり。


T:腕から肩の筋肉、つながってますので腕からほぐさせていただけたら肩のゴリゴリが取れていくのではないかと思います。
T:ヘッドショルダーと肩甲骨のコースを勧める。
P:頭をほぐすと肩にも良いのですか?
T 首元触らせていただいて、かなりおつかれ。頭の血流も首が固くなると悪くなってしまってな流れにくい状態になってしまう。頭からじっくり血流を流して首肩もじわっと温める。

 

この時点で文字起こし疲れました。

あとはメモ程度です。

 

56:26

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=3388

二人目
設定:寝不足を感じる。

肩、首を触る
T:肩がガチガチになられてますね。
P:リンパ液ってなんですか?

 

1:05:17

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=3917

3人目 (リジョブ賞受賞)
設定:むくみやすい

タイ古式とボディケアの違い
Pからむくみやすい旨、発言
T:足を触る。結構むくんでらっしゃいますね。Pに一番のストレッチ提案


スピーチでは「体の疲れだけなく」と疲れに言及

 

1:14:05

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=4445

4人目
設定:食欲がわかない

T:お疲れをしっかりとほぐさせていただき

日本語として変だと思うのは私だけだろうか?

 

T:村田様のお疲れを伺ってもよろしいですか?*3
P:食欲がわかない
体を触る。
T:体が張ってますね。お疲れが取れにくい。
お腹を触る。
T:お腹も張りがある。
腸セラピー
T:ストレスで食欲がわかない。腸を活発にして「食べれない」というのをスッキリしていただく。
P:定期的にやったほうが良い?
T:2週間に一回、オススメ*4

 

1:23:16

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=4996

5人目(準グランプリ賞)
設定:目が疲れる


T:疲れを尋ねる。
T:アイヘッドの施術提案。なぜ良くなるかの説明。 効果を説明している。

 

1:31:51

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=5511

6人目
設定:疲れが抜けない

P:お疲れ気になる場所は?

あまり気になるところがなかったが、スピーチでは
「介護状態になる前にできることはないか?」と病気や身体の衰弱の予防を考えていることを自白している。

 

1:40:42

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=6042

7人目 プチラフィネ(グランプリ賞)
お悩み設定:イライラする。

Pの設定では当店利用は初めてだが、他の店は利用したことがあるホステス。

優勝者なので書き起こしは少し頑張る。

 

T:ボディケア40分の予約を頂いていたが、お疲れはどんな感じでしょうか?

P:イライラする事が多い。体全体が重たいと言うか

T:お腹もちょっと疲れやすかったりですとか?

 

T:それでは体全体のお疲れですとか、イライラした気持ちを少し抑えるコースを一緒に考えて行けたらな、と思うんですけど。

 

P:他と違う所があればぜひお願いしたい。


T:ハンドリフレクソロジーとフェイスセラピーの提案、反射区の説明。

P:手って年齢出やすいけど、それも改善できる?

T:老廃物が貯まるとむくみやすくなって老廃物が溜まりやすくなるけど、Pのお手元はキレイ。更に老廃物が流れてお手元がスッキリになると思う。
T:老廃物が流れてすっきりするかと。*5

P:同伴が入っている。時間がないのでどっちをやったら良いのか、尋ねる。

T:化粧に気遣ってハンドコースを勧める。

 

 

1:49:34

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=6573

8人目
設定:腰がだるい

T:どのようなお悩みでご来店ですか?

P:腰がだるくなってきたんですよ。

T:施術コースの提案

質問が重要なのでそのシーンのURLも。

1:52:41

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=6761


P:これってマッサージですよね?*6
T:マッサージではなくて筋肉をもみほぐすコースとなってりおります。ですのでマッサージではなく、もみほぐしのコースとなっております。

P:違うんですね。

T:普段のお疲れをしっかりほぐして、血液の循環を良くして、お体の状態をリラックスさせる、状態にさせていただきます。

 

 

スペース部門4店目

2:50:29

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=10229

店舗の状況を確認した上で
2:51:33

https://youtu.be/kDpqeKWFI6k?t=10293


ましてや英語になると禁忌事項に引っかかるそうですよ。

Massageですかね?

なのでMomihogushiと言ってるそうです。

 

時間がないのでこの辺にしておきます。 

*1:

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51069

*2: 患者の具体的病状、病名等を独自に診断、判定し、その結果及び検査治療方法等を自ら患者に告知し、かつ、精密検査ないしは手術のための入院を慫慂するという行為を反覆継続する意思で行つたことは、医師が行うのでなければ保健衛生上人体に危害を及ぼすおそれのある行為を業として行つたものとして、医師法17条にいう医業に該当するものと解される。
東京高裁平成元年3月27日判決、昭和63(う)745 
出典:D1-Law.com判例体系 判例ID:28165384
原審:浦和地裁川越支部昭和63年1月28日判決昭和55(わ)506
出典:判例時報1282号26頁

*3:これも日本語として変だと思う。

*4:身体の状況を説明して、施術のための来店を慫慂している。

*5:老廃物が実際に流れていくかどうかはともかく、生理的効果の実現を目的にしている。厚生省の通達ではマッサージの目的として「生理的効果の実現」と書いてある。

*6:こんな質問設定がされる、ということはマッサージと区別がつきにくいことを協会側も自覚している、ということである。

昭和35年判決は他の大法廷判決と矛盾し、その維持は憲法25条第2項、憲法41条に違反する。

国家資格者が原告となって、あはき法12条の法解釈を裁判所に求める方法は紹介した。

binbocchama.hatenablog.com

では12条について判断してもらえるようになった場合に判例変更が可能かどうか、考えてみよう。

 

上記の他に消費者が、整体やカイロなどの医業類似行為は違法施術契約と主張し、民法90条に基づき、施術料金の返還を求めたり、資格商法業者に騙された消費者が返金を求める際にもあはき法12条の法解釈を求めることは可能だろう。

 

 

あはき法に関する昭和35年判決と昭和36年判決(広告判決)

昭和35年判決

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51354

"あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法第一二条、第一四条が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのは、人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならない。"

として、無免許施術が野放しになる原因となる判決である。

石坂裁判官の反対意見として

それのみならず、疾病、その程度、治療、恢復期等につき兎角安易なる希望を持ち易い患者の心理傾向上、殊に何等かの影響あるが如く感ぜられる場合、本件の如き治療法に依頼すること甚しきに過ぎ、正常なる医療を受ける機会、ひいては医療の適期を失い、恢復時を遅延する等の危険少なしとせざるべく、人の健康、公共衛生に害を及ぼす虞も亦あるものといはねばならない。

とし、

 而してあん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法が、かゝる医業類似行為を資格なくして業として行ふことを禁止して居る所以は、これを自由に放置することは、前述の如く、人の健康、公共衛生に有効無害であるとの保障もなく、正常なる医療を受ける機会を失はしめる虞があつて、正常なる医療行為の普及徹底並に公共衛生の改善向上のため望ましくないので、わが国の保健衛生状態の改善向上をはかると共に、国民各々に正常なる医療を享受する機会を広く与へる目的に出たものと解するのが相当である。

とあり、適切な医療受診機会の逸失や延滞といった、消極的弊害の防止が法の目的としてある旨を述べている。

反対意見で述べられている、ということはこの判決の多数意見では消極的弊害の防止は考慮されていない、ということである。

 

昭和36年判決(あはき法広告判決)

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51353

あはき法の広告規制違反の判決である。

あはき法7条を合憲とした理由について

しかし本法があん摩、はり、きゆう等の業務又は施術所に関し前記のような制限を設け、いわゆる適応症の広告をも許さないゆえんのものは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。

されば同条は憲法二一条に違反せず、同条違反の論旨は理由がない。

というわけで、あはき法の目的として「適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来すること」を「未然に防止する」ことを述べているのである。つまり消極的弊害の防止はあはき法の目的に含まれる、としている。

 

この消極的弊害の防止をあはき法の目的として判断しているか否かで昭和35年判決と昭和36年判決は矛盾しているのである。

 

昭和36年判決の少数意見で斎藤悠輔裁判官は

 多数説は、形式主義に失し、自ら掲げた立法趣旨に反し、いわば、風未だ楼に満たないのに山雨すでに来れりとなすの類であつて、当裁判所大法廷が、さきに、「あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法一二条、一四条が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのは、人の健康に害を及ぼす虞のある業務所為に限局する趣旨と解しなければならない」旨判示した判例(昭和二九年(あ)二九九〇号同三五年一月二七日大法廷判決判例集一四巻一号三三頁以下)の趣旨にも違反するものといわなければならない。 

 と昭和35年判決との矛盾を指摘している。

最高裁小法廷での引用

矛盾する判例がある場合、どちらが正しいと言えるのか。

この2つの判決は大法廷判決である。

法令が合憲か違憲かの判断をする場合には大法廷で判断される。

そして同じような憲法判断を行う場合、大法廷判決を引用すれば小法廷で判断できる。

なのでそれぞれの大法廷判決が引用されている小法廷判決を並べると

 

昭和35年判決を引用する小法廷判決

昭和36年判決を引用する小法廷判決

昭和35年判決を引用する小法廷判決は同じくあはき法第12条に関する判決であり、一つの最高裁判例でしか引用されていない。

昭和36年判決を引用している小法廷判決はあはき法ではなく、もっぱら薬事法であり、京都府風俗案内所の規制に関する条例に関する判断でも引用されている。

 

どちらが正当性のある大法廷判決かは明らかだろう。

医薬品販売業登録制度に関する薬事法違反判決(昭和40年判決)

最大昭和38(あ)3179

 ところで、旧薬事法二九条一項は、医薬品の販売業を営もうとする者に対し、販売の対象が、同法二条四項にいわゆる医薬品に該当する限り、法定の登録を受くべきことを義務づけているものであることは、その規定自体に照らして明らかである。そして、同法がかような登録制度をとつているのは、販売される医薬品そのものがたとえ普通には人の健康に有益無害なものであるとしても、もしその販売業を自由に放任するならば、これにより、時として、それが非衛生的条件の下で保管されて変質変敗をきたすことなきを保しがたく、またその用法等の指導につき必要な知識経験を欠く者により販売されこれがため一般需要者をしてその使用を誤らせるなど、公衆に対する保健衛生上有害な結果を招来するおそれがあるからである。このゆえに、同法は医薬品の製造業についてばかりでなく、その販売業についても画一的に登録制を設け、同法二条四項にいわゆる医薬品に該当する限りその販売について、一定の基準に相当する知識経験を有し、衛生的な設備と施設をそなえている者だけに登録を受けさせる建前をとり、もつて一般公衆に対する保健衛生上有害な結果の発生を未然に防止しようと配慮しているのであつて、右登録制は、ひつきよう公共の福祉を確保するための制度にほかならない。されば、旧薬事法二九条一項は、憲法二二条一項に違反するものではなく、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、論旨は理由がない。

と医薬品販売業に関し、「もしその販売業を自由に放任するならば、」と仮定し、「時として」と、必ずしも起きるわけではない、有害な結果の発生を「未然に防止」しようとしているのだから憲法22条に違反せず合憲、と判断しているのである。

 

その点、昭和35年判決に関しては石坂裁判官の反対意見の再掲になるが

 かゝる医業類似行為を資格なくして業として行ふことを禁止して居る所以は、これを自由に放置することは、前述の如く、人の健康、公共衛生に有効無害であるとの保障もなく、

 というわけである。

医業類似行為の禁止処罰に「人の健康に害を及ぼすおそれ」の立証を求めた結果、健康被害の発生を未然に防止することができなくなっているのは国民生活センター消費者庁が報告しているとおりである。

手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター

法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に[PDF形式](消費者庁)

 

よって、健康被害の発生を未然に防止するために、人の健康に害を及ぼすおそれの有無に関わらず、医業類似行為を禁止できないとすればこの昭和40年判決と矛盾するのである。

またこの判決を引用する小法廷判決は

この他に、大法廷でのいわゆる薬局距離制限違憲事件でも

 (一) 薬事法は、医薬品等に関する事項を規制し、その適正をはかることを目的として制定された法律であるが(一条)、同法は医薬品等の供給業務に関して広く許可制を採用し、本件に関連する範囲についていえば、薬局については、五条において都道府県知事の許可がなければ開設をしてはならないと定め、六条において右の許可条件に関する基準を定めており、また、医薬品の一般販売業については、二四条において許可を要することと定め、二六条において許可権者と許可条件に関する基準を定めている。医薬品は、国民の生命及び健康の保持上の必需品であるとともに、これと至大の関係を有するものであるから、不良医薬品の供給(不良調剤を含む。以下同じ。)から国民の健康と安全とをまもるために、業務の内容の規制のみならず、供給業者を一定の資格要件を具備する者に限定し、それ以外の者による開業を禁止する許可制を採用したことは、それ自体としては公共の福祉に適合する目的のための必要かつ合理的措置として肯認することができる(最高裁昭和三八年(あ)第三一七九号同四〇年七月一四日大法廷判決・刑集一九巻五号五五四頁同昭和三八年(オ)第七三七号同四一年七月二〇日大法廷判決・民集二〇巻六号一二一七頁参照)。

と引用されている。

とりわけ医療用吸引器事件では

薬事法一二条が製造業の許可を受けないで業として製造することを禁じている医療用具で同法二条四項、同法施行令一条別表第一の三二に定めている「医療用吸引器」は、陰圧を発生持続させ、その吸引力により人(若しくは動物)の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること又は人(若しくは動物)の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことを目的とする器具器械であれば足り、必ずしも電動力等の強力な動力装置を備えているもの又は専ら手術に用いられるものに限定されず、また、人の健康に害を及ぼす虞が具体的に認められるものであることを要しないもの(昭和三八年(あ)第三一七九号同四〇年七月一四日大法廷判決・刑集一九巻五号五五四頁参照)と解すべきである。

と引用されている。 

憲法25条第2項違反

日本国憲法

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
○2 国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

と第25条第2項は国の公衆衛生向上及び増進の義務を定めている。

この規定自体はプログラム規定といって、努力義務を課しているものであり、これを根拠に立法作為を求めることはできない。

じゃあ、この努力義務を実行するために国会で作った法律に、裁判所が制限を設けること(合憲限定解釈)が許されるのか?

昭和35年判決は憲法25条に関する判断を何も行っていないのである。

 

そしてその合憲限定解釈の結果、公衆衛生が脅かされる自体になった場合に合憲限定解釈の維持は許されるのか?

 

あはき法第12条の合憲限定解釈の結果、公衆衛生が脅かされる状況に

あるのは前掲の国民生活センター消費者庁の報告書が示すとおりである。

そんなわけで昭和35年判例の維持は憲法25条第2項に違反する。

 

憲法41条違反

第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

限定解釈した判例を翻した判例として全農林警職法事件があるが、裁判官岸盛一、同天野武一の追加補足意見では

ところで、憲法判断にさいして用いられる、いわゆる限定解釈は、憲法上の権利に対する法の規制が広汎にすぎて違憲の疑いがある場合に、もし、それが立法目的に反することなくして可能ならば、法の規定に限定を加えて解釈することによつて、当該法規の合憲性を認めるための手法として用いられるものである。

そして、その解釈により法文の一部に変更が加えられることとなつても、法の合理的解釈の範囲にとどまる限りは許されるのであるが、法文をすつかり書き改めてしまうような結果となることは、立法権を侵害するものであつて許さるべきではないのである。

とし、「その解釈の結果、犯罪構成要件が暖味なものとなるときは、いかなる行為が犯罪とされ、それにいかなる刑罰が科せられるものであるかを予め国民に告知することによつて、国民の行為の準則を明らかにするとともに、国家権力の専断的な刑罰権の行使から国民の人権を擁護することを趣意とする、かのマグナカルタに由来する罪刑法定主義にもとるものであり、ただに憲法三一条に違反する」と述べている。

 

人の健康に害を及ぼす虞を処罰要件にすることが、基準を曖昧にするかというとそうとも言い難いが、昭和35年判決が「法文をすっかり書き改めてしまうような結果」となり、健康被害を招いているのは事実である。つまり立法目的に反する結果を招いている。

 

このような法文をすっかり書き改め、法の目的に反する結果を招いている限定解釈は、国会が国の唯一の立法機関であることを定めた憲法41条に違反する判決ではないか?

 

 

もし昭和35年判例を維持するなら様々な法解釈が崩れる

以上、見てきたように昭和35年判決は36年、40年、2つの大法廷判決と矛盾する。

そして矛盾する2つの大法廷判決を引用する小法廷判決も多数ある。

35年判例の維持を是とするなら36年判決で示された、消極的弊害の防止のために、無認可の医薬品・医療機器の効能表示を禁止することができなくなる。

また販売する医薬品などが人の健康に害を及ぼすおそれがある旨、立証しなければならなくなる。

これらの大法廷判決を引用して下した合憲判例も見直す必要が出てくる。