プロバイダ責任制限法と消費者契約法

まずはこのまとめから。

togetter.com

消費者契約法に触れるような規約があるから是正してちょうだい、という申し入れである。

で、適格消費者団体というのはそういう不当な規約の削除を求める裁判を起こせたりする。

 

matome.naver.jp

 

このnaverのまとめの方が具体的なエピソードもあってわかりやすいでしょう。

 

で、話は変わってプロバイダ責任制限法の話。

送信防止措置(非公開や削除)に関する条項として

 

第三条  特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。


一  当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。


二  当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。

 

とある。

この条件を満たしている場合には権利侵害を受けた者からの損害賠償を免責しない、ということである。

 

プロバイダ責任制限法に関しては総務省が解説資料をPDFで公開している。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000418070.pdf

8頁以降に送信防止措置については書いてある。

 

1 第1項関係
(1) 概要
本項は、特定電気通信役務提供者が、自ら提供する特定電気通信による他人の権利を侵害する情報の送信を防止するための措置を講じなかったことに関し、特定電気通信役務提供者に作為義務が生ずるのかどうかが明確ではない中で、当該情報の流通により権利を侵害されたとする者との関係での損害賠償責任(不作為責任)が生じない場合を可能な範囲で明確にするために規定するものである。
本項の規定により、特定電気通信役務提供者が不作為責任を負いうる場合が一定の範囲で明確化されることとなり、問題とされる情報に対して特定電気通信役務提供者による適切な対応が促されることになるものと期待される。

また、逆に、特定電気通信役務提供者が、問題とされる情報の送信を防止する措置を講じないことにより不作為責任を問われることをおそれるあまり、過度に送信を防止する措置を行って発信者の表現の自由を不当に侵害することを抑止する効果も有するものと考えられる。

(強調筆者)

 12頁目

(ii) 権利侵害に関する認識
次に、関係役務提供者が、不作為責任を問われる可能性があるのは、(i) の特定電気通信により当該情報が流通しているという事実を認識していた場合であって、さらに、権
利侵害に関する認識という観点から、当該関係役務提供者が当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(第1号)、又は、当該関係役務提供者が当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(第2号)、に限られることとするものである。
ここで、「認めるに足りる相当の理由」とは、通常の注意を払っていれば知ることができたと客観的に考えられることである。どのような場合に「相当の理由」があるとされ
るのかは、最終的には司法判断に委ねられるところであるが、例えば、関係役務提供者が次のような情報が流通しているという事実を認識していた場合は、相当の理由がある
ものとされよう。
・ 通常は明らかにされることのない私人のプライバシー情報(住所、電話番号等)
・ 公共の利害に関する事実でないこと又は公益目的でないことが明らかであるような誹謗中傷を内容とする情報

逆に、以下のような場合には、「相当な理由があるとき」には該当せず、関係役務提供者は責任を負わないものと考えられる。
他人を誹謗中傷する情報が流通しているが、関係役務提供者に与えられた情報だけでは当該情報の流通に違法性があるのかどうかが分からず、権利侵害に該当するか否かについて、十分な調査を要する場合
・ 流通している情報が自己の著作物であると連絡があったが、当該主張について何の根拠も提示されないような場合
・ 電子掲示板等での議論の際に誹謗中傷等の発言がされたが、その後も当該発言の是非等を含めて引き続き議論が行われているような場合

そんなわけで他人の名誉などを毀損する記事を書いたとしても、違法性阻却事由が主張され、その主張が明確に成り立たないものでなければ送信防止措置を取らなくても、批判した対象者に対する損害賠償責任は生じない。

 

では第3条第2項、発信者に対するプロバイダ等の責任に関してみていこう。

2 特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。

一  当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき


二  特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下この号及び第四条において「侵害情報」とう。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」とう。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

権利侵害があったと認める相当な理由か、発信者に対する照会が免責の必要条件となっているわけです。

 

上記の総務省解説14頁より

(i)「権利が不当に侵害されている」

「権利が侵害されている」とは、民法第 709 条の「他人ノ権利ヲ侵害シタル」と同義であるが、「権利が不当に侵害されている」とは、単に違法な権利侵害があることに加え
て、正当防衛のような違法性阻却事由等がないことをも含む意である。これは、表現の自由との関係で本項の要件についてはできる限り限定的に規定することが望ましいこと
によるものである。

 というわけで送信防止措置は、発信された情報に違法性阻却事由が無いことまで要求しています。

 

しかしこの規定は任意規定と解釈するのが一般的なようです。*1

任意規定ということはこれに反する契約を結んでも有効というわけです。

これの反対は強行規定であり、強行規定に反する契約は無効です。

例えば最低賃金を下回る労働契約だったり、殺人契約だったり。

 

ではtogetter利用規約を見てみましょう。

利用規約 - Togetterまとめ

ユーザーは、本サービスの利用にあたって、以下に規定する各行為に該当する投稿のまとめ及び編集、コメントの投稿、並びにその他一切の行為(以下に規定する各行為に該当するTwitterの投稿をまとめ又は編集の対象に含める行為を含みます)を行ってはいけません。

ユーザーの故意・過失を問わず、以下の各行為に該当するとトゥギャッターが判断した場合、トゥギャッターは、そのユーザーに対して事前の通知又は予告をすることなく該当するまとめ若しくは編集又はコメント等の削除若しくは非公開措置、本サービスの利用停止措置又は利用機能制限等の必要な措置を採ることがあります。なお、トゥギャッターは、それらの措置又はユーザーが本条に違反したことにより受けた措置についての問い合わせ等は一切受け付けておりません。

(強調は筆者による)

 

そんなわけでtogetter利用規約プロバイダ責任制限法に背いているわけである。で、任意規定であるからにはそれは問題にならない。

 

しかし、この規定は本当に任意規定なのか?

憲法には表現の自由が規定されているものの、憲法というのは国家を規制するものであり、民間人同士を直接は規制しない。

なので具体的な法律や公序良俗などで私人間では判断されることになる。

 

で、最初に述べた消費者契約法です。

消費者契約法の対象は個人と事業者の間で結ぶ、労働契約以外の契約です。

 

そうなるとtogetter社とまとめ記事を作成する個人の間の契約も消費者契約法の規制対象なわけです。

 

で、消費者契約法第10条は

 

民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

とあるわけです。

"民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合"というのは任意規定のようです。

消費者契約法第10条 - Wikibooks

 

プロバイダ責任制限法よりも発信者(消費者)の利益を害する規約は有効なのかと。

 

というわけで、togetter社に正当な理由もなく(違法性阻却事由がある)、非公開にされた方々が特定消費者団体に被害を訴えれば条項の改正か、無効を求める申し入れ、裁判を行ってくれるのではないか、と思ったり。

 

もっともプロバイダ責任制限法のプロバイダ等って掲示板の管理者とかも含まれ、そういう個人に違法性阻却事由まで考えろ、という要求をするのは難しいのかもと思ったり。

 

ただ、記事の作成を不特定多数に解放しているサイトまで一方的な送信防止措置を認めるのは表現の自由からして問題としか思えないのである。

*1:商事法務、発信者情報開示・削除請求の実務ーインターネット上の権利侵害への対応ー41頁