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裁判官に理系の知識は必要か(弁論主義との兼ね合い)

 

 

こんなところまで説明しなければいけないのか。

まあ、bitやByteの話は(少なくともおっさん世代の)義務教育の範囲内では無いし、高校でも習っていないが、2進数は高校で、対数あたりで習ったと思うんだが*1

 

司法試験予備試験には一般教養科目があり、その中に自然科学が含まれる。

どのくらいのレベルか、試験問題を見てないが国1だって一般教養試験は高卒レベルなので、その程度と思って良いと思う(いい加減でごめんなさい)。

 

もっとも裁判官に理系の知識を求められている方々は大学レベル以上の知識や常識を求められていると思う(上記の情報通信技術や研究の際の実験ノートの重要性など)。

 

その理解を裁判官に求めるのは弁論主義の観点からどうなのか?

とは思ったりする。

弁論主義というのは裁判において、当事者である原告、被告が主張してないことを裁判官が勝手に判断してはいけない、ということである。

 

 

弁論主義についてはググっていただくなり、wikipediaの記事でも読んでいただくとして、 弁論主義に反するとして批判されたのが枕営業判決である。

 

www.sankei.com

 

昨年4月14日に判決が言い渡されたが、判決理由に再び青島弁護士は目を見張った。「原告、被告双方ともに主張していない『枕営業』の論点を持ち出して判決が下された。完全な不意打ちだ」と怒る。

 

弁論主義による限界に挑戦したと、私が思っている判例名古屋地裁昭和58年3月31日判決、昭和54(ワ)2242(判例時報1081号104頁)である。

 

消費者庁の資料(PDF:245頁)の一番最後に紹介されている判例である。

 

公序良俗違反の契約無効による返還請求)

三 前記一、3で認定した被告の療術行為が医師法一七条で禁止されている医業の内容である医療行為に当たるとは認められず、またあん摩師・は り師・きゆう師及び柔道整復師法一二条で禁止されている医業類似行為に当たるものとも認められない。

 そして前認定のごとき被告の加持祈とうはそれ自体が公序良俗に反するということができないのはもちろんである。

しかしそれが人の困窮などに乗じて著しく不相当な財産的利益の供与と 結合し、この結果当該具体的事情の下において、右利益を収受させることが社会通念上正当視され得る範囲を超えていると認められる場合には、その超えた部分については公序良俗に反し無効となるものと解すべきである。

本件においては前記一で認定したように、原告をはじめその家族は、医師からも見放された春子の難聴を治すため、いわば藁をも掴みたい心境にあり、これに対し被告は過去に難病を治癒させた例のあることを引き合いに出し、春子の難聴も治癒できる旨言明して、原告を契約締結に誘引し、 そして昭和五一年一一月二六日から昭和五四年三月三日まで、この間春子の難聴はいっこうに回復の兆しがなかったのに、再三治ると繰り返し、合計七三七回にわたり春子を殆ど毎日のように通わせて加持祈とうを継続し、一回金八、〇〇〇円による 合計金五八九万六、〇〇〇円という高額な料金を取得したものであって、以上のような事情の下では、被告に対し右料金全額の利得をそのまま認めるのは著しく不相当であり、社会一般の秩序に照らし是認できる範囲を超えているものといわざるを得ない。しかして前記一認定のように、被告が属している善導会では一回の料金が金二、 〇〇〇円と決められていること、また被告は最初春子の難聴を一年のうちに治す旨言明し、しかも前記のように高額な料金を取得し続けてきたのであって、かかる点からすると、療術開始後相当期間経過してもなお症状に回復の兆しがなければ、原告に対しその事情を通知し、療術を続けることの再考を促し、損失の不当な拡大を防止すべきであったと認められること、 その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、被告が原告から支払を受けた料金のうち、昭和五一年一一月二六日から昭和五二年一二月までの間合計三五四回について一回当り金二、〇〇〇円による合計金七〇万八、 〇〇〇円については被告の取得を是認できないわけではないが、その余の金五一八万八、〇〇〇円について被告の取得を認めるのは公序良俗に反し、 契約はその限度で無効である。

 (太字は筆者による)

 

ちなみに被告の療術行為というのは

(一)バイブレーターによるマッサージ。
患者の着衣の上にタオルを置き、その上から約一五分間、市販のバイブレーターを用いて身体をマッサージする。
 
(二)○○○温灸。
患者の身体の上にタオルと八つ折りにした市販の紙を重ねて置き、その上から○○○○○会本部特製の円筒形のもぐさの固まり(直径約一・五センチ、長さ約一五センチ)に点火した部分で軽く圧して皮ふを温める。全身数十箇所のつぼに約一〇分間施す。
 
(三)○○○オリーブ油を脱脂綿にしみこませて耳に入れる。
 
(四)吸引。
直径約一・八センチ、長さ約四・五センチのガラス製の円筒形の器具を用いて、患者の首の皮ふを押圧して引っ張る。一〇回位施す。
 
(五)抜き取り封じ。
市販のプラスチック製の色付きコップにざらめ砂糖を入れ、その上に人形を印刷してある形を細かく折って入れ、コップに蓋をする。その蓋の上に善導会本部会長から買受けた紙(悪霊を押さえる意味の梵字が印刷されている。)を約一〇分間呪文を唱えながら糊ではりつける。
 
(六)延命封じ。
鬼を追い払う意味の文字や六体地蔵の図案が書いてある紙を患者の身体に当て、これを二重に封筒に入れて川に流す。

 

と判決文には書いてあります。

(5),(6)は加持祈祷の類としても1〜4はマッサージや灸、医業類似行為じゃないか、って気もします。
 
実際、(2)と同様の温灸に関しては医業類似行為(あはき法12条違反)として有罪となった判例があります(名古屋高裁昭和30(う)768)。
 
内容としては新聞紙片を八つ折りにしたものを患部に当て、その上から「ほう」の木の丸棒の一端に火をつけて抑える、という行為でしたので、この有罪判例に従えば(2)も医業類似行為に該当するはずです。
 
でも医業類似行為では無いと判示した。
なぜか?
 
原告が無免許医行為や医業類似行為である、という主張をしなかったから。
当然、被告もその該当性については何ら主張していなかった。
 
原告は
1,治癒、治療の債務不履行
2,治療費返還契約に基づく返金
3,公序良俗違反(暴利行為)
 
を主張し、私が言っているような、
「無免許医行為や医業類似行為は違法行為であり、その施術契約は公序良俗に反するから返金を求める」
という主張を原告はしていないのである。
 
 
そのため裁判官が勝手に医業類似行為と判断はできない。
裁判官が勝手に医業類似行為と判断し、全額返金を命じたら弁論主義に反すると控訴されて、再び地裁で審理のやり直しになると思われる。
 
要は三鷹ストーカー殺人事件のようになりかねないのである*2
 
ちなみにこの判決日は昭和58年3月31日である。
それまでに薬事法による無認可医薬品や医療機器の製造販売に対する禁止処罰に関して、「人の健康に害を及ぼすおそれ」の判断は不要である旨の最高裁判決はすでにあった*3

 

裁判官は一方に有利なアドバイスをすることは許されないわけで、判決文にこうやって医行為や医業類似行為ではない、と書くことだけが裁判官にできた、原告に対する手助けなのだろう。

 

さすがに主張もしていない医業類似行為について判決文に書かれたら原告代理人の弁護士は調べるだろう。

 

この事件、控訴はされたのだが、どちらが、あるいは両方控訴したのか不明であり、控訴審がどのような結果になっているかも不明である。*4

 

まあ、和解になったと思われる。

あはき法12条違反と薬事法判例を出されたら、施術行為そのものが違法と判断される可能性は高いと思うだろう。

 

被告としては争って違法施術と判断され、他の患者からも返金訴訟を起こされるよりは、この患者に全額返金して、口外不可の和解に持ち込んだほうが得策である。

 

 と、だいぶ話がそれましたが、わかりやすい主張もせずに、裁判官に理系の知識を求めるのは弁論主義の観点からも問題なわけです。

ちゃんとわかりやすく主張してくれる弁護士を選びましょう、ということです。

 

また裁判というのは相手がいることを忘れてはいけません。

科学的な常識について争点になれば、主張を見て判断せざるを得ない。

それについて審理をせず、一方の言い分のみを認めては公平性に疑問を呈されても仕方ないわけで。

 

 その点、特許無効審判なんてのは特許保有者とその特許が無効と主張する人、そして審判官は特許庁で審査官をやっていた人、つまりは国1技官なわけで、全員が理系の常識を共有できているわけです。

 

これは通常の司法ルートとは異なり、審判に不服があれば知財高裁で争い、司法裁判所による判断は最高裁を含め、2回だけです。

 

このように、実質の一審を通常の司法ルート以外に作ることも可能です。

 

しかし刑事裁判でも、証拠調べで自然科学上の問題が出てくることもあるわけで、裁判官に理系の知識がほしい案件を、特別な裁判所や審判にまとめるのは現実的ではないと思います。

*1:ちなみに私は16進数ではまだ20代である。

*2:これはリベンジポルノについて起訴していないのに量刑でそれを考慮したのが訴訟手続き上、違法であった。

*3:最一小昭和53(あ)1113,最三小昭和56(あ)58

*4:判例データベースおよび消費者取引判例百選の解説記事(ジュリスト別冊135号124頁)でも不明。