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歯科技工士に関するあれこれと医業類似行為

 

anond.hatelabo.jp

 

歯科技工士は歯科医師の指示に基づいて義歯などを制作する国家資格者である。

 

歯科技工士法より

 

第二条  この法律において、「歯科技工」とは、特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物、充てん物又は矯正装置を作成し、修理し、又は加工することをいう。ただし、歯科医師(歯科医業を行うことができる医師を含む。以下同じ。)がその診療中の患者のために自ら行う行為を除く。

2  この法律において、「歯科技工士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、歯科技工を業とする者をいう。

3  この法律において、「歯科技工所」とは、歯科医師又は歯科技工士が業として歯科技工を行う場所をいう。ただし、病院又は診療所内の場所であつて、当該病院又は診療所において診療中の患者以外の者のための歯科技工が行われないものを除く。

 

第十八条  歯科医師又は歯科技工士は、厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ、業として歯科技工を行つてはならない。ただし、病院又は診療所内の場所において、かつ、患者の治療を担当する歯科医師の直接の指示に基いて行う場合は、この限りでない。

 

さて、上記の匿名ダイアリーにて

 

歯科技工士が低賃金なのは、歯科医師(歯科医院)を経由しないと注文を取れないから。
歯科医師に高額のマージンを取られるから歯科技工士の取り分が減るのだ。

 

週刊誌で読んだ話だが、ある歯科技工士が歯科医師に「報酬の取り分を歯科医師5:歯科技工士5にして下さい」(これは『厚生大臣公告』の内容。公告なので強制力はゼロ)と頼んだら、周囲の歯科医師全員から取引を断られた。

 

と書かれている。

 

歯科技工士は直接患者や保険組合に義歯制作代を請求できず、歯科医師が請求し、そこから歯科技工士に支払うようである。

 

そのため記事中のように、マージンを取られてしまうわけである。

 

その点、鍼灸マッサージ師の場合、自費であれば患者から直接料金をもらえる。健康保険の適応には医師の同意書が必要だが、保険組合には直接請求できる。

 

そして保険組合によっては同意した医師や患者に対し、鍼灸マッサージ師が金品を与えた場合は施術料(療養費と言う)を支払わない、と規定するところもあり、同意した医師からマージンを取られることもない。

 

歯科技工は歯科医師の指示が必要なのに、独立開業権があるため労働者としての保護がされない、という面がある。

 

その点、訪問看護ステーションは医師の指示が必要だが、保険請求は自ら行える。なので医師から搾取される心配はない(はず)。また医師の指示が必要なために偽装請負の心配がない。

 

鍼灸マッサージ師は独立開業権を持ち、健康保険も指示書ではなく、同意書で行えるために偽装請負が横行するのである。

 

指示書と同意書の違いだが、同意書は患者に対して交付するものであり、どの鍼灸マッサージ師の施術を受けるかは患者が選べたりする。

本来、鍼灸マッサージの療養費は償還払い(料金を全額払った後、保険組合から7〜9割、払い戻しを受ける。)が原則だからである。

 

訪問看護の指示書は具体的な訪問看護ステーション宛に書かれているのではなかろうか?違っていたらごめんなさい。

 

そんなわけで歯科技工所が直接料金を請求できる、または保険組合から直接入金を受け取る仕組みが無いと状況が改善しないと思われる。

その上で、歯科技工所から歯科医師への金品提供を禁止すればいいような気がするのだが。

 

で、上記ダイアリーには

外国には「デンチュリスト」という歯科技工士の資格を設けている国が多い。
「デンチュリスト」の資格を持った歯科技工士は患者を診察して直接患者から注文を取れる。
だから歯科医師にマージンを払わずに労働に見合った報酬を受け取ることができるらしい。

 

と書かれている。

歯科医師が歯科技工士による作成料も請求するのは患者が歯科技工士と会う必要が無い、というのもある。

実際、義歯などの物だけを作るならそうだろう。

 

その点、デンチュリストは診察行為も行えるようで、これなら患者と接触するので料金請求も自分で行える。

 

で、歯科技工士法には

 

第二十条  歯科技工士は、その業務を行うに当つては、印象採得、咬合採得、試適、装着その他歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。

 

ちなみにこの条文の違反行為に対しては直接の罰則規定は存在せず、歯科医師法第17条(無免許歯科医業)、第29条(罰則)によって処罰されます。*1

 

よってデンチュリストは現行法規下では無理です。

 

歯科技工士法第20条、歯科医師法第17条違反の判例は結構あります。

そのたびに憲法22条(職業選択の自由)違反だ、と被告である歯科技工士は主張するのです。

 

大法廷判決はすでにあるのです。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51636

 

 思うに、印象採得、咬合採得、試適、嵌入が歯科医業に属することは、歯科医師法17条、歯科技工法20条の規定に照し明らかであるが、右施術は総義歯の作り換えに伴う場合であつても、同じく歯科医業の範囲に属するものと解するを相当とする。

けだし、施術者は右の場合であつても、患者の口腔を診察した上、施術の適否を判断し、患部に即応する適正な処置を施すことを必要とするものであり、その施術の如何によつては、右法条にいわゆる患者の保健衛生上危害を生ずるのおそれがないわけではないからである。

されば、歯科医師でない歯科技工士は歯科医師法17条、歯科技工法20条により右のような行為をしてはならないものであり、そしてこの制限は、事柄が右のような保健衛生上危害を生ずるのおそれなきを保し難いという理由に基いているのであるから、国民の保健衛生を保護するという公共の福祉のための当然の制限であり、これを以て職業の自由を保障する憲法22条に違反するものと解するを得ないのは勿論、同法13条の規定を誤つて解釈したものとも云い難い。

所論は、右に反する独自の見解に立脚するものであつて、採るを得ない。


 同第二点について。

 所論は単なる法令違反の主張を出でないものであつて、刑訴405条の上告理由に当らない。
 よつて、同408条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和34年7月8日

 

で、この判決の翌年、医業類似行為の禁止処罰には「人の健康に害を及ぼすおそれ」の立証が必要とする最高裁大法廷判決(業界では昭和35年判決という。)が出されます。

そして整体やカイロなどの無免許施術が放置され、ずんずん運動や祈祷師事件を招きます。

 

medicallaw.exblog.jp

togetter.com

 

この歯科医師法違反判決と昭和35年判決、両方の判決に関わった裁判官が11人です。

 

f:id:binbocchama:20170409205453j:plain

 

左側のHS式無熱高周波療法事件が昭和35年判決で、多数意見の裁判官が、医業類似行為の禁止処罰は「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限定すべき、という考えです。

 

その点、歯科医師法の判決は全員一致です。

 

 この違いは何か。

 

歯科医師法違反事件では印象採得など、歯科技工士法第20条に書かれた行為のみを判断すればよかった。

で、20条に書かれている行為は「患者の保健衛生上危害を生ずるのおそれがないわけではない」と判断できた。

 

その点、あはき法第12条に書かれている医業類似行為は具体的な療法や技法を定義していない

 

こうなると有益無害な施術行為まで罰するべきではない、と裁判官たちは考えていたと思われる。

 

そうなると無免許業者に許される行為は「保健衛生上危害を生ずるおそれ無き行為」と言えよう。

 

そしてそのように安全な行為であれば問診などは不要である。

 

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

この歯科技工士による歯科医師法違反事件の最高裁判決の原判決である札幌高裁昭和55(う)195より

 

 三 控訴趣意中、原判決が、被告人が原判示のAほか25名に対して行つた義歯製作上必要な情報収集のための問いかけが歯科医行為である問診に当たるとして、右の問いかけに対して法17条を適用したのは、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りがあるとの主張について

 

 所論にかんがみ、まず、一件記録及び証拠物を精査検討すると、原審において取り調べられた関係各証拠によれば、被告人は、歯科医師でないのに、業として、昭和53年7月24日ころから同年12月2日ころまでの間、被告人の肩書住居地に設けたF歯科技工所において、被告人に義歯を修理し、若しくは製作して入れてもらおうとし、又は金冠若しくは金パラジウム冠を製作して入れてもらおうとして同所を訪れた原判示のAほか25名の者に対し、その希望に応えるべく、まず、従前の義歯の装着状態等について応答を求めて質問を発し、それにひき続いて印象採得等をし、もつて、右の者らに対し、その希望に基づいて、修理し、又は製作した義歯を入れてやり、又は製作した金冠若しくは金パラジウム冠を入れてやつたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、右の事実関係によれば、被告人がした右の質問は、印象採得等を適切に行う目的のもとに印象採得等に先立つて行われたものであつて、それが印象採得等を適切に行うために必要な事項につき十分に行われないときは被質問者の保健衛生に危害を生ずるおそれを含む行為であるというべきである

従つて、右の質問が歯科医行為の一たる問診に当たることは明らかであるから、これと同旨の判断に基づき、被告人が原判示のAほか二五名の者に対し、歯科医行為である問診をしたと肯認し、これに対し、法17条、29条一項一号を適用した原判決の法令適用は正当であり、原判決には所論のような違法はない。

論旨は理由がない。

 

よって、施術の安全確保のために問診が必要な行為は(歯科)医行為である。

 

なお、この事件では

所論にかんがみ、一件記録及び証拠物を精査し、当審における事実取調べの結果をも合わせて検討すると、原審において取り調べられた関係各証拠によれば、被告人は、昭和32年3月に歯科技工士の免許を受けた者であるが、被告人は、技工法18条により歯科技工士が歯科医師の指示書によらなければ歯科技工を行うことができないと規定されており、また、技工法20条により歯科技工士が印象採得等を行つてはならないと規定されており、しかも、法17条により歯科医師でない者が歯科医業をしてはならないと規定されているため、歯科技工士が免許に基づく資格であり、本来、独立した専門家であるべき筈であるのに歯科医師の指示を得なければ全く仕事ができない立場に置かれていることに不満を覚え、法や技工法の歯科技工士に対する制約が不当であるとの自己の主張を広く訴えるため、法の違反となることを承知のうえで直接行動を取る決意、すなわち、歯科医師の診断及び指示を俟つことなく、義歯等の補てつ物の製作と装着を求める患者に自ら直接応待し、その希望を聞き、問診、視診、触診等の診察行為や印象採得等を行う決意を固め、これに基づき、被告人の肩書住居地に設けたF歯科技工所に、昭和53年4月ころ、印象採得等をするための医療器械であるいわゆるユニツト(治療台)を購入設置したほか、同年7月ころ、数回にわたり、新聞折込みの広告チラシ約1万7000枚を付近住民に配付し、「右の技工所において被告人が、義歯に悩みを持つ者に対し、その相談に乗つて義歯を製作し、これを入れる仕事をしている」旨を宣伝したうえ、原判示のとおり、業として、同月24日ころから同年12月2日ころまでの間、同所を訪れたAほか25名に対し、前後約89回にわたり、問診及び印象採得等をし、もつて、歯科医師でないのに歯科医業をしたことが認められ、右認定を左右すべき証拠はないところ、右の認定事実によれば、被告人の法17条、29条1項1号に違反する行為がそれに対して刑罰をもつて臨むべき実質的違法性を具備していることは明らかというべきであり、当審における事実取調べの結果によつても右判断は左右されない。

 (これで一文ですよ。長い。)

と書かれているので、まさに確信犯と言えよう。

 

この高裁判決にはもう一つ、重要な点がある。

 

 所論(筆者注:被告人の主張)は、第一に、印象採得等は、歯科技工士の本来的業務であるから、歯科技工士の免許を受けた被告人が印象採得等をすることは、憲法22条1項、13条で規定されている職業選択の自由、営業の自由の観点から許容されており、しかも印象採得等は、歯科技工士がこれを行つても保健衛生上有害な危険行為でないばかりか完壁な義歯を提供するうえでは、かえつて歯科技工士に印象採得等を委ねることが必要であり、かつ望ましいと言うべきであるから、憲法の右各条項にいう「公共の福祉」による制度も歯科技工士による印象採得等には及ばないところ、原判決は、法17条が印象採得等が歯科医師にのみ排他的に許される行為であると規定していると解釈し、かかる解釈により歯科技工士の営業の自由の範囲に属する印象採得等を歯科技工士の手から奪つたものであるから、原判決の右の法令適用は、憲法22条1項、13条に違反すると主張する

(略)

所論につき、更に付言すれば、歯科技工士は、歯科医師でないとしても、歯科衛生に関するある程度の教育と試験を受けてその免許を受ける者であるから、もちろん現行法令及びこれに基づく現在の歯科技工士養成制度のままでは許されないけれども、これらの法令及び制度の改正を通じて、印象採得等の一定範囲の歯科医行為につき、その全部とまではいかないとしても、その一部を、相当な条件の下に、歯科技工士に単独で行わせることとすることも立法論としては可能であると考えられる

しかし、そのことは、いずれにしても、国民の保健衛生の保持、向上を目的とする立法裁量に委ねられた事項と解すべきであり、かかる解釈に立ちつつ、ひるがえつて現行法を検討しても、現在の法17条、29条1項1号及び技工法20条の定立にあらわれている立法裁量の内容が憲法のいずれかの条項に違反していると疑うべき事由は見当たらないのである。

所論のうち、第一の主張に対し、原判決がいみじくも指摘するとおり、それが立法論の域を出ない独自の見解である、との判断を当裁判所も抱かざるを得ない所以である。

 

というわけで、歯科技工士がそれなりに歯科医療の知識を国から認められているとはいえ、印象採得などの歯科医行為は現行法規下ではできない、ということです。

 

最近は理学療法士などが整体師として独立開業するのも見かけます。

で、理学療法士などが特権を持つのは医師の指示の下や、病院、診療所の中だけです。

 

その条件から外れて行える行為は一般人と同じです。

つまり、医行為である問診や検査法などは行えないわけです。 

 技術や知識があると主張しても、理学療法士などに独立開業権は認められておりません。

立法裁量権に属する話となります。

 

 これは柔道整復師も同様で、柔道整復師に認められるのは捻挫、打撲などの急性外傷のみに対する施術行為ですから、慢性疾患に関して問診や検査法を行うのは許されないわけです。

ましてや疲労回復目的のマッサージをや。

*1:同様のことはあはき法第4条と医師法にも言える