理学療法士や作業療法士は超音波画像検査をして良いのか。

全文を読むには登録が必要だが、超音波画像監視のもと、生理食塩水等を癒着部位に注入して剥がす治療法(ハイドロリリース)に関する記事を読んだ。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201802/554682.html

 

私が気になったのは治療法自体ではなく、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)に超音波画像検査(エコー)を行わせている、という点である。

 

同病院のPTとOTはエコーを使ってハイドロリリースを行う場所の同定ができるようトレーニングを積んでいる。外来が混雑している場合は先にPT・OTがハイドロリリースを実施する場所の当たりを付け、医師は外来で注射をすればいいという状態にしておくケースもある(症例2)。 

 

 理学療法士及び作業療法士法(PTOT法)の業務規程

PT・OTの業務根拠はPTOT法の第15条に規定される。

第十五条 理学療法士又は作業療法士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として理学療法又は作業療法を行なうことを業とすることができる。

2 理学療法士が、病院若しくは診療所において、又は医師の具体的な指示を受けて、理学療法として行なうマツサージについては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第一条の規定は、適用しない。

保助看法の規定は

第三十一条 看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

第三十二条 准看護師でない者は、第六条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

である。

コメディカル全般に言えることだが、医師の指示の下の診療の補助行為は看護師が行うのが原則であり、各コメディカル職は保助看法の例外としてそれぞれの業務を行うことができる。

超音波画像検査を行うことが法令で明文化されている職種

看護師以外に超音波画像検査を法令で認めらている職種としては臨床検査技師診療放射線技師がある。

それぞれ法令を見てみよう。

臨床検査技師の場合

臨床検査技師等に関する法律より

第二条 この法律で「臨床検査技師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、臨床検査技師の名称を用いて、医師又は歯科医師の指示の下に、微生物学的検査、血清学的検査、血液学的検査、病理学的検査、寄生虫学的検査、生化学的検査及び厚生労働省令で定める生理学的検査を行うことを業とする者をいう。

 

第二十条の二 臨床検査技師は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として採血及び検体採取(医師又は歯科医師の具体的な指示を受けて行うものに限る。)並びに第二条の厚生労働省令で定める生理学的検査を行うことを業とすることができる。

で、臨床検査技師等に関する法律施行規則より

第一条 臨床検査技師等に関する法律(以下「法」という。)第二条の厚生労働省令で定める生理学的検査は、次に掲げる検査とする。
一 心電図検査(体表誘導によるものに限る。)
二 心音図検査
三 脳波検査(頭皮誘導によるものに限る。)
四 筋電図検査(針電極による場合の穿せん刺を除く。)
五 基礎代謝検査
六 呼吸機能検査(マウスピース及びノーズクリップ以外の装着器具によるものを除く。)
七 脈波検査
八 熱画像検査
九 眼振電図検査(冷水若しくは温水、電気又は圧迫による刺激を加えて行うものを除く。)
十 重心動揺計検査
十一 超音波検査
十二 磁気共鳴画像検査
十三 眼底写真検査(散瞳どう薬を投与して行うものを除く。)
十四 毛細血管抵抗検査
十五 経皮的血液ガス分圧検査
十六 聴力検査(気導により行われる定性的な検査であつて次に掲げる周波数及び聴力レベルによるものを除いたものに限る。)
イ 周波数千ヘルツ及び聴力レベル三十デシベルのもの
ロ 周波数四千ヘルツ及び聴力レベル二十五デシベルのもの
ハ 周波数四千ヘルツ及び聴力レベル三十デシベルのもの
ニ 周波数四千ヘルツ及び聴力レベル四十デシベルのもの
十七 基準嗅覚検査及び静脈性嗅覚検査(静脈に注射する行為を除く。)
十八 電気味覚検査及びろ紙ディスク法による味覚定量検査

と超音波検査が省令で明文化されている。

 

診療放射線技師の場合

診療放射線技師法より

第二条 この法律で「放射線」とは、次に掲げる電磁波又は粒子線をいう。
一 アルフア線及びベータ線
二 ガンマ線
三 百万電子ボルト以上のエネルギーを有する電子線
四 エツクス線
五 その他政令で定める電磁波又は粒子線

2 この法律で「診療放射線技師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、医師又は歯科医師の指示の下に、放射線を人体に対して照射(撮影を含み、照射機器又は放射性同位元素(その化合物及び放射性同位元素又はその化合物の含有物を含む。)を人体内にそう入して行なうものを除く。以下同じ。)することを業とする者をいう。

 

第二十四条 医師、歯科医師又は診療放射線技師でなければ、第二条第二項に規定する業をしてはならない。

第二十四条の二 診療放射線技師は、第二条第二項に規定する業務のほか、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として、次に掲げる行為を行うことを業とすることができる。


一 磁気共鳴画像診断装置その他の画像による診断を行うための装置であつて政令で定めるものを用いた検査(医師又は歯科医師の指示の下に行うものに限る。)を行うこと。


二 第二条第二項に規定する業務又は前号に規定する検査に関連する行為として厚生労働省令で定めるもの(医師又は歯科医師の具体的な指示を受けて行うものに限る。)を行うこと。

とあり、診療放射線技師が画像診断装置を用いた検査を行えることを法律で明文化している。

そして診療放射線技師法施行令(政令)より

第十七条 法第二十四条の二第一号の政令で定める装置は、次に掲げる装置とする。
一 磁気共鳴画像診断装置
二 超音波診断装置
三 眼底写真撮影装置(散瞳薬を投与した者の眼底を撮影するためのものを除く。)
四 核医学診断装置

とある。

PTOT法の記述

e-gov理学療法士及び作業療法士法、同施行令、同施行規則を表示し、「超音波」「画像」「検査」を検索したがヒットしなかった。

法律の反対解釈

法律の解釈方法として反対解釈というのがある。

www.weblio.jp

弁護士などの解説をリンクすべきであろうが、わかりやすいのが見つけられなかったのでWeblio辞書より。

法の解釈において,法文中に規定されている事項以外の事項については,その法文の意味と反対の意味を引き出して解釈すること。車馬の通行を禁止するという法文に対して,人は通行してもよいと解釈するのがその例。

PTOT法の第15条第2項においてはPTのみがマッサージを行うことができるとされているので、OTは医師の指示があってもマッサージを行うことができない。

これが反対解釈である。

 

他には柔道整復師養成校の非認可取消訴訟がある。

あはき法においてはあん摩マッサージ師の養成校の認定に関してのみ、認可基準を満たしていても拒否できる規定あるのに対し、柔道整復師法にはそういう規定は無い。

よって反対解釈で、認可基準を満たした申請に関しては国に拒否する裁量権はない、という判決があり、この判決のため、PTやOTの養成校も増えたのである。

binbocchama.hatenablog.com

 

臨床検査技師診療放射線技師は超音波画像診断装置の使用に関し、法令で明文化されているのに対し、PTやOTは明文化された法的根拠が無いため、反対解釈により医師の指示の下であっても超音波検査を行うことは保助看法に違反するのではないか。

 

あはき柔との比較

なお、柔道整復師はその業務範囲内で利用する限り、超音波画像検査が医師法に違反しない、という通知がある。

施術所における柔道整復師による超音波画像診断装置の使用について - 広島県ホームページ

 

そのため、鍼灸師でも超音波検査を行う施術所もある。

なのでPTやOTが超音波検査を行っても良いではないか、という考えもあると思う。

ただし、鍼灸マッサージ師や柔道整復師は独立判断で治療行為を行う免許であり、医師法の例外法規である。

 

その点、PTOT法は保助看法の例外法規である。

そして保助看法の例外法規で超音波画像検査に関して明文化されているのは前述のとおりである。

 

また超音波検査に限定しなければ視能訓練士法にもこのような規定がある。

第二条 この法律で「視能訓練士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、視能訓練士の名称を用いて、医師の指示の下に、両眼視機能に障害のある者に対するその両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査を行なうことを業とする者をいう。

 

第十七条 視能訓練士は、第二条に規定する業務のほか、視能訓練士の名称を用いて、医師の指示の下に、眼科に係る検査(人体に影響を及ぼす程度が高い検査として厚生労働省令で定めるものを除く。次項において「眼科検査」という。)を行うことを業とすることができる。


2 視能訓練士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査並びに眼科検査を行うことを業とすることができる。

視能訓練士は訓練が主な業務目的だが、それに必要な検査が行える旨も法律で明文化している。

 

超音波検査に限らず、理学療法作業療法に必要な徒手検査自体、実は法律では認められていない、という可能性を否定できない。

ましてや絶対的医行為である生理食塩水等の注射注入行為のための超音波画像検査をや。

 

富士見産婦人科病院事件―私たちの30年のたたかい

富士見産婦人科病院事件―私たちの30年のたたかい

 
乱診乱療 (1982年)

乱診乱療 (1982年)

 

 富士見産婦人科病院事件は無資格者に超音波検査などを行わせた院長が保助看法違反に問われ、超音波検査をしていた無資格者は医師法違反に問われた。

いずれも有罪確定である。