無免許医療(医業類似行為)と準強制わいせつ罪(性的自由の侵害)

最近、業界関係者から、無免許施術に伴うわいせつ行為の相談を警察からされたという話を聞く。

 

警察も摘発したいようだが、治療や正当な施術と主張されることをおそれ、なかなか摘発できないようだ。

 

さて、去年、強制わいせつ罪の成立に性的意図を必要としていた最高裁判例が変更され、強制わいせつ罪の成立には必ずしも性的意図が必要とは限らない、とされた。*1

ウ 以上を踏まえると,今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず,もはや維持し難い。

 

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一律に性的意図を不要とした場合、医療行為が(準)強制わいせつ罪になりかねない、ということもあり、場合によっては性的意図の認定が必要となる。

 

さて、医師や鍼灸マッサージ師が正当な施術行為を行う際に身体、特に胸部や臀部などに接触するのに(準)強制わいせつ罪が成立しないことには異論は無いと思う。

 

これが整体師やカイロプラクター、なんちゃらセラピストなどの無資格業者の場合はどうか?

刑法35条は

法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

と規定する。無免許施術が法令業務でないことには異論はないだろう。

では正当な業務か?

形式上はあはき法第12条に反する行為であり、正当な行為とは言えない。よって、無免許施術者が被施術者(お客さん)の性的自由を侵害することを認識していれば準強制わいせつ罪が成立するのではないか?

という考えを某所で述べたところ、「正当行為ってそんな簡単な話じゃないのよ」と言われてしまう。

 

無免許医行為の判例に関しては詳しい自負もあるが、やっぱり法律の素人である。

 

というわけで図書館でこんな本を借りてきた。

 

たのしい刑法I 総論

たのしい刑法I 総論

 

 142頁から違法性阻却事由としての治療行為が記述してある。

ここで書かれていることは傷害罪の違法性阻却であるが、治療行為が傷害罪にならない要件として

  1. 治療目的
  2. 医学的適応性*2
  3. 医学的正当性*3
  4. 患者の同意

というのが書かれており、これらの要件が満たされていれば医師免許を有しない者が行った治療行為でも傷害罪については違法性阻却が考えられる旨、書いてある。*4

 

逆にこれらの要件が満たされない無免許医行為に関しては傷害(致死)罪が肯定された裁判例もある。

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

 

 <要旨>そこで、原審記録を調査し、当審における事実調べの結果を併せて検討するに、被害者が身体侵害を承諾した場合に、傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段・方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を総合して判断すべきところ(最決昭五五年一一月一三日刑集三四巻六号三九六頁参照)、関係証拠によれば、


(1)Dは、本件豊胸手術を受けるに当たり、被告人がO共和国における医師免許を有していないのに、これを有しているものと受取って承諾したものであること


(2)一般的に、豊胸手術を行うに当たっては、

「1」麻酔前に、血液・尿検査、生化学的検査、胸部レントゲン撮影、心電図等の全身的検査をし、問診によって、既往疾患・特異体質の有無の確認をすること、

「2」手術中の循環動態や呼吸状態の変化に対応するために、予め、静脈ラインを確保し、人工呼吸器等を備えること、
「3」手術は減菌管理下の医療設備のある場所で行うこと、
「4」手術は、医師または看護婦の監視下で循環動態、呼吸状態をモニターでチェックしながら行うこと、
「5」手術後は、鎮痛剤と雑菌による感染防止のための抗生物質を投与すること、

などの措置をとることが必要とされているところ、被告人は、右「1」、「2」、「4」及び「5」の各措置を全くとっておらず、また、「3」の措置についても、減菌管理の全くないアパートの一室で手術等を行ったものであること、


(3)被告人は、Dの鼻部と左右乳房周囲に麻酔薬を注射し、メス等で鼻部及び右乳房下部を皮切し、右各部位にシリコンを注入するという医行為を行ったものであること、

などの事実が認められ、右各事実に徴すると、被告人がDに対して行った医行為は、身体に対する重大な損傷、さらには生命に対する危難を招来しかねない極めて無謀かつ危険な行為であって、社会通念上許容される範囲・程度を超えて、社会的相当性を欠くものであり、たとえDの承諾があるとしても、もとより違法性を阻却しないことは明らかであるといわなければならないから、論旨は採用することができない。

 

免許が無いこと以外、正当な施術であれば準強制わいせつ罪は成立しないのか、それとも性的自由の侵害があり、無免許施術者がそのことを認識していれば準強制わいせつ罪が成立するのか。

 

しかし医業類似行為の禁止処罰を「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」のみに限定した最高裁の昭和35年判決のときには、無免許施術が被施術者の性的自由を侵害することに関して何も考えられていなかったのだろう。

 

それまでは医業類似行為を行っただけでも禁止処罰できたのだから、施術を装ったわいせつ犯もあまりいなかったと思われる。

 

そして昭和45年でも強制わいせつ罪の成立に性的意図を必要とした最高裁判決が出ているわけで、昭和35年当時に、性的自由の侵害まで考慮するのは難しかったと思われる。

 

患者が性的自由の侵害を受け入れるのは治療効果を期待してのことではないのか?

それならその侵害に見合う効果を出せる者だけが施術を行うべきであり、その能力の証明として免許がある。

 

そのような能力の無い者の施術(無免許施術)を放置した場合、いたずらに患者の性的自由の侵害を招くと言える。

 

それは十分に公共の福祉に反する状況と言えないだろうか?

*1:

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

*2:患者の生命・健康の維持・増進のために必要であること

*3:医学上一般に承認された方法によって行われること

*4:医師法第17条違反は肯定している。