HS式無熱高周波療法の危険性に関する判断。

単なる覚書。

簡易裁判所昭和28年4月16日判決より

 

 弁護人はH・S式無熱高周波療法を業とすることは憲法第22条に保障されている自由な職業であり且この療法は全然無害で何等公共の福祉に反しない、従って被告人の行為は処罰の対象とならない旨主張する、

これ等の規定の趣旨とするところは医業類似行為が人体に及ぼす影響並びに効果に照して一定の学識経験を有する者に対してのみかかる行為を業とすることを認めそれ以外の者については之を禁ずることを以て公衆の保健衛生の向上に合致する所以であるとなした事は明らかであって、斯る制限を設けることは公共の福祉を維持する為必要であると謂わなければならない。

 従って前記の諸規定は憲法第22条の職業選択の自由に対する制限であるが何等同条に違反するものとは謂い得ない、而してH・S式無熱高周波療法が医業類似行為に該当することは前認定の通りであるのでかかる療法を業とすることの制限を以って憲法第22条に違反するとなす主張は採用し得ない。

「公衆の保健衛生の向上に合致する所以である」と法規制の目的を述べている。

 

控訴審である仙台高裁昭和28年(う)375号では危険性関し、

而して右法律が之を業とすることを禁止している趣旨は、かかる行為は時に人体に危害を生ぜしめる場合もあり、たとえ積極的にそのような危害を生ぜしめないまでも、人をして正当な医療を受ける機会を失わせ、ひいて疾病の治療恢復の時期を遅らせるが如き虞あり、之を自由に放任することは正常な医療の普及徹底並に公共の保健衛生の改善向上の為望ましくないので、国民の正当な医療を享受する機会を与え、わが国の保険衛生状態の改善向上をはかることを目的とするに在ると解される、

と、医業類似行為が

  • 危害を生じることもあること
  • 疾病の回復を遅らせる恐れがあること

とし、「正常な医療の普及徹底並に公共の保健衛生の改善向上の為望ましくない」と述べている。

 

しかしHS式無熱高周波療法の危険性に関しては何も判示していない。

 

そのため最高裁

原審弁護人の本件HS式無熱高周波療法はいささかも人体に危害を与えず、また保健衛生上なんら悪影響がないのであるから、これが施行を業とするのは少しも公共の福祉に反せず従つて憲法二二条によつて保障された職業選択の自由に属するとの控訴趣意に対し、原判決は被告人の業とした本件HS式無熱高周波療法が人の健康に害を及ぼす虞があるか否かの点についてはなんら判示するところがなく、ただ被告人が本件HS式無熱高周波療法を業として行つた事実だけで前記法律一二条に違反したものと即断したことは、右法律の解釈を誤つた違法があるか理由不備の違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすものと認められるので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきである。

と、HS式無熱高周波療法の、人の健康に害を及ぼす虞の有無を判示しろ、と言っているわけである。

 

で、差し戻された仙台高裁では有害性の有無について、大学などに依頼して鑑定し、有害だから有罪とし、被告人は再び上告したものの、今度は上告棄却で有罪確定である。

 

差し戻し控訴審に関しては以下のまとめに書いた。

togetter.com

 

ちなみに(歯科)医師法違反や保助看法違反の成立には抽象的な危険で良いとされる。しかしそういう判例が積み重ねられたのは昭和35年判決の後の話である。

 

そのため差し戻し控訴審は具体的な危険性を審理しているようで、やりすぎ、あるいは昭和35年判決の解釈を間違えているのではないか?という気もする。

 

なお、富士見産婦人科病院事件の保助看法違反の控訴審で、被告人は昭和35年判決を引用し、無資格者に行わせた行為は「人の健康に害を及ぼすおそれのない行為」と主張したが、裁判所は医師が無資格者に行わせることができる行為として

医師が無資格者を助手として使える診療の範囲は、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。

と判示し、被告人が行わせた行為は「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為である」として被告人の控訴を棄却し、有罪判決を維持している。

というわけで、昭和35年判決を肯定しつつ、無資格者が行って良い行為は太字に示された、

  • 患者に危害の及ぶことが無い。
  • 判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業

の両条件を満たした行為と言える。

 

で、この事件で被告人から超音波検査(ME検査)の指示(?)を受けて行っていた無資格者は医師法違反で起訴されていたりする。

その判決文より

 しかるところ、本件ME検査は、ME装置の操作技術に習熟した者が、解剖学、生理学、病理学等の医学的知識及び経験に基づき、的確にこれを行うのでなければ、診断の正確性ないしは治療の適正を損ない患者の健康状態に悪影響を及ぼすべきことが明らかであるから、本件被告人の前示のような行為、すなわち、ME装置を操作して患者の具体的病状、病名等を独自に診断、判定し、その結果及び検査治療方法等を自ら患者に告知し、かつ、精密検査ないしは手術のための入院を慫慂するという行為を反覆継続する意思で行つたことは、医師が行うのでなければ保健衛生上人体に危害を及ぼすおそれのある行為を業として行つたものとして、医師法一七条にいう医業に該当するものと解される。

というわけで、

  • 身体の状況について判断するための情報を集める行為(問診や検査など)
  • 身体の状況について判断すること
  • 身体の状況について判断したことに基づいて行う行為(病状告知や施術)

というのは当然判断作用を伴う行為であり、無資格者が行うのは許されない。

 

ちなみにこの判断作用を伴う行為、というのは押す力の加減といったことも含む。富士見産婦人科病院事件の保助看法違反事件では縫合糸の結紮に関しても

細密な縫合状況についての視認結果と指先の感触に基づき、自らの判断を加えながら、縫合糸を結ぶことによって創口を閉鎖することであり、それ自体として患者の身体や健康状態に重大な危害を及ぼすおそれがあるのはもとより、微妙な判断作用を伴う機械的とは到底いえないものであって、医師による監督監視の適否を論ずるまでもなく、無資格者が医師の助手として行うことができる行為の範囲をはるかに超えているといわなければならない。

と判示してる。

 

さて、業というのは営利目的でなくても成立するが、施術を受ける側の場合、判断作用が不要な行為にお金を払う気になるだろうか?

 

生業にする場合、金銭に見合った働きをしようと、判断が必要な行為をしがちになるのでは?

あるいはエッチなサービスの提供とか。

binbocchama.hatenablog.com

 

というわけで、当初は判断が不要な行為のみを行っていたとしても、生業としていればそのうち要判断行為を行うようになる、と考えても良いのではと思ったり。