新井浩文容疑者の受けていた「マッサージ」について解説する記事が多く出回っているが、あん摩マッサージ指圧師の免許に触れている記事は見当たらない。
この記事では(性)風俗店か否かだけを問題にしている。
以下、上記記事より引用。強調は筆者による。
今回の事件とは別の出張マッサージ店関係者は“グレーゾーン”の存在を示唆するが、常連客は「嫌がる相手に本番行為はあり得ない」と新井容疑者を批判する。
「マッサージをする上で、従業員の胸や股間が体に触れ、時には鼠蹊部に手が及ぶこともあり、ギリギリの“プレイ”を楽しむ人もいるが、“本番行為”は大NGで、今回の事件のようなことはあってはならない」と指摘する。
管理が徹底されているようにもみえるが、密室で男女が一線を越えてしまう可能性を尋ねると、「店の知らないところで“行為”があるというのは、可能性としてある」と否定しなかった。
前出のヒクソン高田氏は「交渉次第で、お互いの同意があれば“それ以上のプレイ”も存在する。従業員から持ちかけられる場合もあると聞く。風俗に飽きた人や、風俗が怖いという人にもユーザーは多く、店舗がどんどん増えている」と話した。
と「出張マッサージ」で性風俗店紛いのサービスが受けられる可能性を示している。
目的別のマッサージ(類似行為)
マッサージの目的は3つに別けられる。
- 医療関連性のある目的
- 性的目的
- 接待目的
この3つだ。
私のようにあん摩マッサージ指圧師が行っているのは医療関連性のマッサージであり、免許が必要なのも医療関連性のあるマッサージに限定される。
医療関連性のあるマッサージ
あん摩マッサージ指圧師の免許が必要な(あん摩)マッサージについては厚生省から通知が出されている。
法第一条に規定するあん摩とは、人体についての病的状態の除去又は疲労の回復という生理的効果の実現を目的として行なわれ、かつ、その効果を生ずることが可能な、もむ、おす、たたく、摩擦するなどの行為の総称である。*1
またマッサージ以外に医業類似行為という、医療系免許を持たない者による治療行為の定義があるが「疾病の治療又は保健の目的を持ってする行為であって、医師や法令で資格の認められた者が、その業としてする行為以外のもの」と裁判例では示され、最高裁は医業類似行為に関し、
前記法律一二条は「何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない」と規定し、同法一条に掲げるものとは、あん摩(マツサージおよび指圧を含む)、はり、きゆうおよび柔道整復の四種の行為であるから、これらの行為は、何が同法一二条の医業類似行為であるかを定める場合の基準となるものというべく、結局医業類似行為の例示と見ることができないわけではない。*2
と判示しているので、「疾病の治療又は保健の目的」も免許が必要なマッサージの目的と言える。
疲労回復に関しては、医薬品の認可を受けていない食品の場合、疲労回復の効果を表示できないことから保健目的だとわかるだろう。
www.fukushihoken.metro.tokyo.jp
体の機能の一般的増強、増進を目的とする表現は医薬品的な効能効果に該当します。
医薬品的な表現例
「疲労回復」
「体力増強」
「精力回復」
「老化防止」
「学力向上」
「新陳代謝を高める」
「血液を浄化する」
「風邪を引きにくい体にする」
「肝機能向上」
「細胞の活性化」
など
また美容目的も医療関連性のある目的であることがタトゥー無罪判決で示されている。
大まかに言って
- 疾病の診断、治療若しくは予防
- 疲労回復
- 美容
は医療関連性のある目的だから、これらの目的でマッサージを行う場合にはあん摩マッサージ指圧師の免許が必要である。
性的目的のマッサージ(類似行為、リラクゼーション)
法令上はいわゆるファッションヘルスやデリヘルが該当しよう。
6 この法律において「店舗型性風俗特殊営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
一 浴場業(公衆浴場法(昭和二十三年法律第百三十九号)第一条第一項に規定する公衆浴場を業として経営することをいう。)の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業*3
二 個室を設け、当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業(前号に該当する営業を除く。)
(以下省略)
7 この法律において「無店舗型性風俗特殊営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
一 人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの
(以下省略)
なお「異性の客」とあるので、同性を対象にした性的サービスは性風俗営業の規制対象外である。
日本標準産業分類には「リラクゼーション」というのがあるのだが、ファッションヘルスは無い。
なので総務省に、ファッションヘルスはリラクゼーションに含まれるのかを問い合わせたところ、含まれるという回答であった。
接待目的のマッサージ
医療関連性や性的目的では無い目的をこうカテゴライズした。
なお、「接待」というのも風営法に書かれている表現であり、警察庁は「接待」の解釈について通達を出している。
https://www.npa.go.jp/laws/notification/seian/hoan/hoan20180130.pdf
7ページ目より
1 接待の定義
接待とは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」をいう。
この意味は、営業者、従業者等との会話やサービス等慰安や歓楽を期待して来店する客に対して、その気持ちに応えるため営業者側の積極的な行為として相手を特定して3の各号に掲げるような興趣を添える会話やサービス等を行うことをいう。言い換えれば、特定の客又は客のグループに対して単なる飲食行為に通常伴う役務の提供を超える程度の会話やサービス行為等を行うことである。(中略)
また、接待は、通常は異性によることが多いが、それに限られるものではない。
3 接待の判断基準
(中略)
(6) その他
客と身体を密着させたり、手を握る等客の身体に接触する行為は、接待に当たる。ただし、社交儀礼上の握手、酔客の介抱のために必要な限度での接触等は、接待に当たらない。
また、客の口許まで飲食物を差出し、客に飲食させる行為も接待に当たる。
これに対して、単に飲食物を運搬し、又は食器を片付ける行為、客の荷物、コート等を預かる行為等は、接待に当たらない。
接待として身体に触れる営業自体は風営法では規制されていない。接待のある飲食店、例えばキャバクラなどは接待飲食店として風営法の規制対象である。
というわけで、あん摩マッサージ指圧師の免許を持たず、性風俗店の届け出をしてない店で、マッサージのような行為をしている場合、キャバクラ呼ばわりされても当然なのである。
なお、性風俗店ではないレベルの身体接触役務を規制するものとしては東京都の特定異性接客営業等の規制に関する条例というのがあるが、それはあくまでJKビジネス規制に限定される。
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 青少年18歳未満の者をいう。
(2) 特定異性接客営業
店舗型特定異性接客営業及び無店舗型特定異性接客営業をいう。
(3) 店舗型特定異性接客営業
次のいずれかに掲げる営業であって、青少年が客に接する業務に従事していることを明示し、若しくは連想させるものとして東京都公安委員会規則(以下「公安委員会規則」という。)で定める文字、数字その他の記号、映像、写真若しくは絵を営業所の名称、広告若しくは宣伝に用いるもの又は青少年が客に接する業務に従事していることを明示し、若しくは連想させるものとして公安委員会規則で定める衣服を客に接する業務に従事する者が着用するもので、青少年に関する性的好奇心をそそるおそれがあるもの(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号。以下「法」という。)第2条第1項に規定する風俗営業、同条第6項に規定する店舗型性風俗特殊営業又は同条第11項に規定する特定遊興飲食店営業に該当するものを除く。)をいう。
イ 店舗を設け、当該店舗において専ら異性の客に接触し、又は接触させる役務を提供する営業
ロ 店舗を設け、当該店舗において専ら客に異性の人の姿態を見せる役務を提供する営業ハ 店舗を設け、当該店舗において専ら異性の客の接待(法第2条第3項に規定する接待をいう。第5号ニにおいて同じ。)をする役務を提供する営業(イに該当する営業を除く。)
ニ 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、客に接する業務に従事する者が専ら異性の客に接するもの
(4) 店舗型特定異性接客営業者
東京都の区域内において営業所を設けて店舗型特定異性接客営業を営む者をいう。
(5) 無店舗型特定異性接客営業次のいずれかに掲げる営業であって、青少年が客に接する業務に従事していることを明示し、若しくは連想させるものとして公安委員会規則で定める文字、数字その他の記号、映像、写真若しくは絵を広告若しくは宣伝に用いるもの又は青少年が客に接する業務に従事していることを明示し、若しくは連想させるものとして公安委員会規則で定める衣服を客に接する業務に従事する者が着用するもので、青少年に関する性的好奇心をそそるおそれがあるもの(法第2条第7項に規定する無店舗型性風俗特殊営業に該当するものを除く。)をいう。
イ 専ら異性の客に接触し、又は接触させる役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの
ロ 専ら客に異性の人の姿態を見せる役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの
ハ 専ら異性の客に同伴する役務を提供する営業(イ又はロに該当する営業を除く。)
ニ 専ら異性の客の接待をする役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの(イ又はハに該当する営業を除く。)
(以下省略)
風営法の性風俗特殊営業が「 異性の客の性的好奇心に応じて」というのに対し、東京都の条例は「青少年に関する性的好奇心をそそるおそれがあるもの」という点が違う。
JKビジネスは性的サービスではない、という建前であるから風営法の規制は受けない。なので東京都(警視庁)が条例を作ったわけである。
まあ、接待目的の中でも、性的好奇心をそそるか否かで分けるべきかもしれないが。
特定した、とかネットで騒がれているような店は写真などを見る限りでは「性的好奇心をそそる」と言えそうである。
とりあえず、あん摩マッサージ指圧師の免許を持たず、性風俗店としての届け出もせずに営業できる「マッサージ」などの身体に接触する役務は接待目的に限定されると言える。
接待目的のマッサージ(リラクゼーション)の規制の必要性
さて、今回の新井浩文容疑者の事件、営業が合法であることを前提にするなら被害にあったセラピストは接待目的の営業だ。
そして性風俗店でない「派遣マッサージ」で性風俗店まがいの「交渉」が行わたり、強引に性行為をされる危険性があるのは最初に掲載した記事のとおり。また届け出をせずに性風俗営業をして逮捕されている事例もある。
警察白書でも
(2)売春事犯及び風俗関係事犯の現状
① 売春事犯
平成27年中の売春事犯の総検挙人員に占める暴力団構成員等(注)の割合は19.3%(104人)と、依然として売春事犯が暴力団の資金源になっていることがうかがわれる。最近では、インターネットの出会い系サイト等を利用する事犯のほか、マッサージ店やエステ店を仮装した違法性風俗店における事犯など、潜在化傾向がみられる。
と書かれている。*4
そして性風俗店ではないJKビジネスを警視庁が条例で規制しているのは前述のとおり。
なので接待目的のマッサージ類似行為は風営法で規制すべきと考える。