愛玩動物看護師法における「診療の補助」と保助看法との違い

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 動物病院で獣医師を補助する動物看護師を国家資格とする愛玩動物看護師法が21日、参院本会議で、全会一致で可決、成立した。

 

この法案、衆議院のサイトで読めるので思ったところを書いていく。

●愛玩動物看護師法案

一応、訂正されずに可決されたのを前提として書く。

以下、愛玩動物看護師法を本法と書く。

 

まず総則から。

第一章 総則

 (目的)

第一条 この法律は、愛玩動物看護師の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用されるように規律し、もって愛玩動物に関する獣医療の普及及び向上並びに愛玩動物の適正な飼養に寄与することを目的とする。

 

 (定義)

第二条 この法律において「愛玩動物」とは、獣医師法(昭和二十四年法律第百八十六号)第十七条に規定する飼育動物のうち、犬、猫その他政令で定める動物をいう。

 

2 この法律において「愛玩動物看護師」とは、農林水産大臣及び環境大臣の免許を受けて、愛玩動物看護師の名称を用いて、診療の補助愛玩動物に対する診療(獣医師法第十七条に規定する診療をいう。)の一環として行われる衛生上の危害を生ずるおそれが少ないと認められる行為であって、獣医師の指示の下に行われるものをいう。以下同じ。)及び疾病にかかり、又は負傷した愛玩動物の世話その他の愛玩動物の看護並びに愛玩動物を飼養する者その他の者に対するその愛護及び適正な飼養に係る助言その他の支援を業とする者をいう。

医師法第17条は

(飼育動物診療業務の制限)
第十七条 獣医師でなければ、飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る。)の診療を業務としてはならない。

とある。

 

で、本法で「診療の補助」は「衛生上の危害を生ずるおそれが少ないと認められる行為」と規定しているのである。

 

なお人に対する「診療の補助」は保健師助産師看護師法に特に規定はされていない。

保助看法37条を、診療補助行為の列挙とする考えも有るが絶対的医行為(医師の指示があっても看護師が行えない行為)と相対的医行為(医師の指示のもと、看護師が行える行為)の区別まではできないだろう。

保健師助産師看護師法第37条

 保健師助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。

で、本法の業務(第四章)を見てみよう。

(業務)

第四十条 愛玩動物看護師は、医師法第十七条の規定にかかわらず、診療の補助を行うことを業とすることができる。

 

2 前項の規定は、第九条第一項の規定により愛玩動物看護師の名称の使用の停止を命ぜられている者については、適用しない。

 

 (獣医師との連携)

第四十一条 愛玩動物看護師は、その業務を行うに当たっては、獣医師との緊密な連携を図り、適正な獣医療の確保に努めなければならない。

 

 (名称の使用制限)

第四十二条 愛玩動物看護師でない者は、愛玩動物看護師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。

これが保助看法だと量が多いので一部抜粋する。

保健師助産師看護師法

第三十一条 看護師でない者は、第五条*1に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

 

第三十二条 准看護師でない者は、第六条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。


第三十五条 保健師は、傷病者の療養上の指導を行うに当たつて主治の医師又は歯科医師があるときは、その指示を受けなければならない。

 

第三十七条 保健師助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし、臨時応急の手当をし、又は助産師がへその緒を切り、浣かん腸を施しその他助産師の業務に当然に付随する行為をする場合は、この限りでない。


第四十二条の二 保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなつた後においても、同様とする。


第四十二条の三 保健師でない者は、保健師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。
2 助産師でない者は、助産師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。
3 看護師でない者は、看護師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。
4 准看護師でない者は、准看護師又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。

 

本法に対し、保助看法の業務に関する条文は多い。とりわけ保助看法37条は医師の指示が無い相対的医行為を禁止している。

本法に関してはそのような規定は無い。

 

では本法の罰則規定をみるともっぱら登録機関や試験機関の不正に関する条文が多く、業務に関する罰則は

第四十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。

 

 一 第九条第一項の規定により愛玩動物看護師の名称の使用の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、愛玩動物看護師の名称を使用したもの

 

 二 第四十二条の規定に違反して、愛玩動物看護師又はこれに紛らわしい名称を使用した者

と名称使用に関する罰則が有るのみであり、無免許業務に関する罰則は無い。

 

第40条で「獣医師法第十七条の規定にかかわらず」とあるので、無免許での診療補助行為は獣医師法違反で処罰する、ということである。

 

これが保助看法で見てみると

保健師助産師看護師法

第四十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第二十九条から第三十二条までの規定に違反した者
二 虚偽又は不正の事実に基づいて免許を受けた者


2 前項第一号の罪を犯した者が、助産師、看護師、准看護師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。


第四十四条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第十四条第一項又は第二項の規定により業務の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、業務を行つたもの
二 第三十五条から第三十七条まで及び第三十八条の規定に違反した者

保助看法31条違反(無免許での診療補助行為)に2年以下の懲役、50万円以下の罰金が定められているのである。

なので人に対する診療の補助を行う職種は保助看法の特例扱い、という立場である。

例えば理学療法士及び作業療法士法では

第十五条 理学療法士又は作業療法士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として理学療法又は作業療法を行なうことを業とすることができる。


2 理学療法士が、病院若しくは診療所において、又は医師の具体的な指示を受けて、理学療法として行なうマツサージについては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第一条の規定は、適用しない。

 

3 前二項の規定は、第七条第一項の規定により理学療法士又は作業療法士の名称の使用の停止を命ぜられている者については、適用しない。

保助看法(およびあはき法)での禁止規定の例外を定めているのである。

 

しかし保助看法も、本法が獣医師法17条の例外であることを定めているのと同様に、医師法17条の例外として規定することも可能だと思う。

 

本法のような規制の場合、

無資格者の獣医行為(指示の有無、絶対的、相対的に関わらず)→獣医師法違反

愛玩看護師の、獣医師の指示なしの相対的獣医行為→獣医師法違反

愛玩看護師の、獣医師の指示なしの絶対的獣医行為→獣医師法違反

愛玩看護師の、獣医師の指示ありの絶対的獣医行為→獣医師法違反

と、適用する法律、条文の判断はシンプルである。

 

これが人に対する医行為の場合、

無資格者の、医師の指示なしの医行為(絶対的、相対的の区別なく)→医師法違反

無資格者の、医師の指示ありの相対的医行為→保助看法31条違反

無資格者の、医師の指示ありの絶対的医行為→医師法違反

看護師の、指示なしの相対的医行為→保助看法37条違反

看護師の、指示なしの絶対的医行為→医師法違反

看護師の、指示ありの絶対的医行為→医師法違反

 

と適用する法律、条文が複雑である。

 

まあ、

本法:獣医師法が基本で、私は例外。

保助看法:私が基準だ!

という感じである。

*1:第五条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。