施術者が実際に健康状態等を判断しなくても、被施術者が判断されたと思ったら医行為である。

詐欺事件における医行為の認定

医師法違反,詐欺被告事件 札幌地裁 平成15(わ)52 平成16年10月29日

被告人の行った眼球虹彩診断等は医行為にあたり,被告人は,本件犯行当時,自己の提唱する眼球虹彩診断によっては被診断者の病状等を的確に診断できないことを認識していたにもかかわらず,A1と共謀の上,あたかも眼球虹彩診断によって被診断者の病状等を的確に診断でき,ホメオパシー薬を服用すれば病気の治療及び予防に著しい効果があるように装い,被害者らから投薬代金名下に金員を詐取したのであるから,被告人には医師法違反罪及び詐欺罪が成立する。

この事件はインチキ医療で詐欺罪が成立した、という点で重要なのです。

治療者本人が、ちゃんと診断できて、効果もあると信じていたら詐欺罪は成立しないのです。

そのハードルがあったので、それまではインチキ医療で詐欺罪を立件するのが困難だったわけです。

 

どういう判断で詐欺と認めたかは本記事の主旨から外れますので気になる方は判決文本文をお読みください。

私や当業界にとって大事なのは、詐欺と認定している行為でも医行為(医師法違反)と認定していることです。

 

つまり被告人は虹彩診断で健康状態を判断できないことを知っていると認定しているわけですから、実際には虹彩診断で患者の健康状態を「判断」してはいないわけです。

告知した病名や身体状況は、被告人にとっても医学的にデタラメなわけです。

 

ただし、告知された患者は、被告人が専門的な知識、経験に基づいて症状や身体状況を判断して告知したものと思ったわけです。判決では

被告人は,日本国内において,虹彩等の拡大写真を撮影する機能を有する本件機器を用いて被診断者の目を至近距離から撮影し,虹彩の拡大写真を指し示しながら,被診断者に対し,その身体症状や,現在罹患しているか将来罹患するおそれのある疾患について具体的な病名を告知しているのであって,被告人の上記行為は,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為であるといえ,医師法17条にいう医業の内容となる医行為にあたると認められる。

と、虹彩の写真を指し示しながら症状や病名の告知したことを医行為と認定してます。

問診判例に見る、機械的作業と医行為

たびたびこのブログでは問診の医師法違反の判例を取り上げております。なのですでにご存知の内容かもしれません。

 

binbocchama.hatenablog.com

 最一小決定昭和48(あ)85では

断食道場の入寮者に対し、いわゆる断食療法を施行するため入寮の目的、入寮当時の症状、病歴等を尋ねる行為(原判文参照)は、その者の疾病の治療、予防を目的とした診察方法の一種である問診にあたる。

と判示しているわけですが、原審(控訴審)では

 原判決掲記の各証拠によれば、原判示のA外6名はいずれとも疾病の治療、予防を目的として被告人のもとを訪れたこと、すなわちAはアレルギー症状の治療、Oは左膝関節の痛みと蓄膿症の治療、Yはリュウマチの治療、T1は十二指腸潰瘍の予防と胃弱の治療、Hは腎臓浮腫の治療、T2は胃痛の治療、Nは顔のシミの治療と予防を目的として被告人のもとを訪れたものであることが認められるのみならず、被告人もまた右7名に対しこれら疾病の治療と予防を目的とする断食療法を行わせる前提として、被告人において、直接に、あるいは当時被告人のもとで原判示の断食道場に勤務していた事務員Mを通じて、断食道場への入寮目的、入寮当時の症状、病歴等を尋ね、入寮日数、捕食および断食の日数を指示していた事実が認められるのである。

もっとも、原審証人Mの証言および同人の検察官に対する供述調書、原審第11回公判廷における被告人の供述によれば、捕食および断食の日数は入寮日数によって一律に決せられているのみならず、実際の入寮日数もおおむね入寮者の希望を聴くことが一般的であったことが認められるとはいえ、被告人において、入寮者の病歴入寮当時の症状等から当該疾病の治療又は予防に要する期間を教示して入寮者の判断に資し、それに従って入寮日数をきめさせていたことがうかがわれるのである。

  • 被告人は入寮目的、入寮当時の症状、病歴等を尋ね、入寮日数、捕食および断食の日数を指示していた。
  • 入寮日数は入寮者の希望を聞くことが一般的であった。
  • 捕食断食の日数は入寮日数によって一律に決められていた。
  • 当該疾病の治療又は予防に要する期間を教示していた。
  • 入寮者は教示された期間を参考にしながら入寮日数を決めていた。

一律に決めていたとしても、患者側が、健康状態を把握して判断してもらった、と思ったら医行為になるわけです。

 

このような実際の行為は機械的な行為とも言え、富士見産婦人科病院事件*1で示された「判断作用に乏しい機械的な作業」と言える余地はあるでしょう。

 

ただし、患者側から見たら、ちゃんと判断してもらって告知してもらったと思うわけです。

だから医行為と認定されたのでしょう。

 

「万病に効く」といって、どんな患者に対しても同じ施術をしていれば医行為認定を避けられるかもしれません。

 

なお、富士見産婦人科病院事件(保助看法違反事件)の解説はサンプルでも読めます。

 

医事法判例百選 第2版 (別冊ジュリスト 219)

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*1:東京高裁平成元年 2月23日判決 昭和63(う)746
出典 判例タイムズ691号152頁、東京高等裁判所(刑事)判決時報40巻1〜4号9頁