2020/12/28 追記
本記事を含む、当ブログ記事に関してJACから発信者情報開示請求がはてな社に対して行われたが、非開示の決定がされた。
公明党の遠山清彦衆議院議員が財務副大臣在任時に便宜を図った、日本カイロプラクターズ協会によるSLAPP(言論弾圧)を退けました。 - びんぼっちゃまのブログ
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カイロプラクターの業界団体として一般社団法人 日本カイロプラクターズ協会(以下、JAC)という団体がある。
JACとは | 一般社団法人日本カイロプラクターズ協会(JAC)
どういう組織か、上記ページに書いてあるので引用する。強調、改行などは筆者による。以下同様。
日本カイロプラクターズ協会(JAC)は1998年3月に設立されたカイロプラクティックの業者団体です。倫理規定を重視し、透明性の高い開かれた組織でWHOガイドラインに準拠した基準の教育を履修した正規のカイロプラクターのみが所属できる団体です。世界保健機関(WHO)の非政府組織(NGO)に加盟している世界カイロプラクティック連合(WFC)へ日本代表団体として1999年に加盟し、世界92ヶ国の代表の総意で決めたWFCの精神と政策を日本に伝え、実践を目指しています。
WFCの日本代表として、行政との折衝、国際交流、教育活動、啓蒙活動、科学的研究の実践を通して、我が国におけるカイロプラクティックの業務をWHO基準で発展させ、倫理規定を設けて自主規制を行い、国民が安心してカイロプラクティックを受けられるよう国内でのWHO基準に則った法制化の実現を目指して活動しています。2012年、独立行政法人国民生活センターから安全性と広告に関するガイドラインの作成を要請された後、日本広告審査機構や厚生労働省、消費者庁と連携しながら利用者の安全確保に努めています。また厚生労働省による統合医療推進事業を支援しています。
この中で書かれている国民生活センターからの要請、というのはマッサージや整体、カイロなどの手技療法の健康被害を国民生活センターが発表したときにされたものである。
手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター
以下抜粋
相談の概要
「整体」や「カイロプラクティック」など、法的な資格制度がない施術を受けて危害が発生したと明確に判別できる相談が少なくとも4割以上を占め、法的な資格制度に基づく施術の相談に比べて多いと考えられた。
問題点
消費者が施術所や施術者を選ぶ際に、施術所に国家資格であるあん摩マッサージ指圧師や柔道整復師などの有資格者がいるかどうかを見分けることは困難である。
関係機関への要望
法的資格制度がない手技による医業類似行為を受けて危害が発生したと思われる相談が多数寄せられている。これらの手技による医業類似行為についても、一定以上の安全性を担保するためのガイドライン等を作成するよう要望する。
行政への要望
消費者が、法的資格制度のあるあん摩マッサージ指圧若しくは柔道整復を行う施術所と法的資格制度のない施術を行う施術所を容易に見分けることができるよう、関係機関に注意喚起を行う等の対策を講じるとともに消費者に対する周知・啓発を行うよう要望する。
当会では政府に対して早急なカイロプラクティックの法整備を望むべく、その前段階として業界内自主規制の一環として、利用者の安全性を担保するための「カイロプラクティックの安全性に関するガイドライン」と、法律に抵触する広告や消費者心理を悪用するような広告を規制するための「カイロプラクティックの広告に関するガイドライン」を作成いたしました。これらのガイドラインが将来のわが国でカイロプラクティックの安全性を担保し、また適正な広告を常態化させる一歩になり、ひいては法制化の礎となることを期待しております。
と2つのガイドラインを作成した。以下、それぞれ安全性ガイドライン、広告ガイドラインと略す。
今回はガイドラインのおかしいところを突っ込んでみる。
安全性ガイドライン
安全性ガイドラインは下記リンク。
https://www.jac-chiro.org/pdf/guidelines/chirosafety.pdf
国民生活センターへの回答によると。
- カイロプラクティック関連用語は、WHO(世界保健機関)による「カイロプラクティックの基礎教育と安全性に関するガイドライン」の定義を用いる。
- カイロプラクティックと整体の違い。
- カイロプラクティック臨床業務の説明。
- 適応症や禁忌症(絶対禁忌と相対禁忌)、合併症など安全性に関与する要因。
- WHOガイドラインが提唱する教育内容を提供する教育機関。
- わが国の現状や今後のあり方。
- その他、物品販売やマルチ商法に関して。
- 今後の課題:WHO基準の教育、業務における自主規制、登録制度、試験制度など。
といった内容である。
はじめに(3ページ目)
あはき法12条違反は人の健康に害を及ぼすおそれの「有無」で判断するのであって、頻度、程度で判断するのではない。
安全性ガイドラインより
法制化されていないカイロプラクティックがわが国に存在できているのは、「施術によって人の健康に害を及ぼす恐れがある業務は処罰の対象になる」という 1960年1月に最高裁判所が下した判決に抵触しない範囲において、その業務が黙認されているからである。
この判決からわかるように、わが国のカイロプラクティックが存在を維持するためには、「施術によって人の健康に害を及ぼす恐れ」が少ないこと、すなわちカイロプラクティックの安全性の維持・確保が必須条件となる。
「1960年1月に最高裁判所が下した判決」というのはいわゆる昭和35年判決であるが、その判決文は
ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虞があるからである。
それ故前記法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないのであつて、このような禁止処罰は公共の福祉上必要であるから前記法律一二条、一四条は憲法二二条に反するものではない。
よってあはき法第12条違反に問えるかどうかは「人の健康に害を及ぼすおそれ」の「有無」であって、大小、多少などの程度、頻度ではない。よって
わが国のカイロプラクティックが存在を維持するためには、「施術によって人の健康に害を及ぼす恐れ」が無いこと、すなわちカイロプラクティックの安全性の維持・確保が必須条件となる。
と書き換えるべきである。
もっともJACは昭和35年判決自体、守る意味の無いものと考えているようである。
無資格施術の安全性の確保は訓練ではなく、判断要素に乏しい機械的な作業のみ行えることを徹底することである。
安全性ガイドラインより
わが国のカイロプラクティックには、さらなる安全性の向上が求められている。その解決策として最も有用なのは、初学者への「教育」であり、カイロプラクティック施術者への「再教育」である。
すなわち、カイロプラクティックを臨床実践するためには、質の高い教育機関においてカイロプラクティック教育を修め、十分な手技訓練を行い、手技の適応と禁忌および合併症の判断に関わる基礎・臨床医学教育を受けることが必要である。
現行法規・判例下で、無免許施術の安全性を合法的に高めるための教育方法としては間違っている。
安全性の確保に医学的知識や訓練が必要な行為は「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」である。
そのような行為を業として行ってよいかどうかは行為者の免許の有無によって判断するものであって、能力によって判断するものではない。
裁判例では
まず、所論は、原判決は、医師法一七条において医師資格を有しないものが業として行うことを禁じられている医行為について、これを「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と解し、被告人と共謀したAの行った検眼、コンタクトレンズ着脱、コンタクトレンズ処方等の各行為をこの意味における医行為に該当するとしたが、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為などというものは世の中に存在せず、ある行為から右危害を生ずるか否かはその行為に関する技能に習熟しているかどうかによって決まるのであって医師資格の有無に関係しないとして、医師法に関する原判決の前記のような解釈は社会の実態を無視した恣意的な解釈である、と主張する。
そこで検討するに、医師法は、医師について厚生大臣の免許制度をとること及び医師国家試験の目的・内容・受験資格等について詳細な規定を置いたうえ、その一七条において「医師でなければ医業をしてはならない」と定めているところからすれば、同法は、医学の専門的知識、技能を習得して国家試験に合格し厚生大臣の免許を得た医師のみが医業を行うことができるとの基本的立場に立っているものと考えられる。そうすると、同条の医業の内容をなす医行為とは、原判決が説示するように「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と理解するのが正当というべきであって、これと異なる見解に立つ所論は、独自の主張であって、採用の限りでない。
と判示されている。これは海外の医療系免許を持っていても同様であり、海外の医療系免許を持っていても認められるのは国内の国家試験受験資格までなのが原則である。
医療系法律に違反した被告人は昭和35年判決を引用し、自分の行為又は他人にさせた行為は人の健康に害を及ぼすおそれが無いから無罪である、と主張するケースが多い。
そのような主張に対し、人の健康に害を及ぼすおそれの基準を示したのが富士見産婦人科病院事件の保健師助産師看護師法違反の判決である。*1
医師が無資格者を助手として使える診療の範囲は、おのずから狭く限定されざるをえず、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。
医師の監督監視下でさえ行えない行為を、無資格者が独自判断で行って良い道理は無い。
よって無資格者が行える行為は「患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業」に限定される。
なので「基礎・臨床医学教育を受けることが必要」な「手技の適応と禁忌および合併症の判断」を要する行為を無免許で行なうのは医師法第17条、あはき法第12条に違反する犯罪行為である。
用語の定義 (4ページ目)
ガイドラインより
カイロプラクティック(Chiropractic)
神経筋骨格系の障害とそれが及ぼす健康全般への影響を診断、治療、予防する専門職であり、関節アジャストメントおよび(もしくは)マニピュレーションを含む徒手治療を特徴とし、特にサブラクセーションに注目する。
カイロプラクター(Chiropractor)カイロプラクティックの施術者。WHO ガイドラインが提唱したカイロプラクティック教育基準と内容を修了した者。法的資格制度のある国では、ドクター・オブ・カイロプラクティック(Doctor of Chiropractic)とも呼ばれる。
カイロプラクティックは施術方法であって、カイロプラクターが専門職な気もするが、そこはおいておく。
まず「診断」する時点で医師法違反である。
カイロプラクティックの臨床業務(6ページ目)
ガイドラインより
1) カイロプラクティック治療の考え方
カイロプラクティックの臨床業務は、まず施術の適応と禁忌の判断に始まる。問診や様々な身体検査によって施術の適応と判断されれば、カイロプラクティック特有の見かたで身体所見を評価し、施術する。カイロプラクティックの臨床における最大の特徴は、施術の直接的な対象となる脊椎関節の所見をサブラクセーション(subluxation)と呼び、それに対して脊椎マニピュレーションを行うことである。
脊椎に対する触診を中心としたカイロプラクティック検査によって得られた「身体所見」を治療し、結果的に症状の軽減や健康の改善が得られると考えている。カイロプラクティックは疾患や症状そのものを直接的に治すことを目的とした療法ではない。
「問診」「触診」「検査」「身体所見を評価」とありますね。
検査や身体所見の評価ってまさに判断を伴う行為なわけです。
次に、問診、触診、これらによる診断について検討するに、問診、触診も一定の知識、経験を有する者が行わなければ、効果的な問診、触診を行うことができず、その結果適切な治療がなされないことになるという意味で生理上の危険を伴うものといえる。
ただ、あん摩師等が治療行為を行うにも問診、触診は不可欠なもので、あん摩師等の正当な治療行為のため問診、触診を行うことは許容されているものと解される。
と人の健康に害を及ぼすおそれのある行為として医行為と判断している。
安全性に関与する重要な要因(7ページ目)
個別の禁忌症の判断には医学的知識が必要であるとしている
ガイドライン9ページ目より
本ガイドラインでは、脊椎マニピュレーションの禁忌症について2点ほど独自の補足説明を加えたい。
1つは、禁忌症リストがすべてを網羅しているわけではない、という事実である。禁忌症すべてを網羅した疾患リストを作成することが不可能であることは常識的に明らかであり、そういう意味ではカイロプラクティックの禁忌症は個別に判断されるべきものである。
その判断に必要なのが医学的知識であることは言うまでもない。
「判断」が必要な行為を無免許者が行ってはいけない(違法である)ことは前述のとおり。
合併症
ガイドライン10ページ目より
有害反応は、発生頻度は少ないながらもより顕著な不快症状や一時的または永久的な障害が生じるような反応で、頚椎マニピュレーションによる脳血管障害の発生がその代表例である。
その発生頻度の報告にはばらつきがあるが、頚椎マニピュレーション40〜50万回に1回、385万回に1回、米国 RAND 研究所の報告によれば頚椎脳底部の合併症は100万回に1.46回などと報告されている。これらの報告は、適切な病態評価をもとに頚椎マニピュレーシの適否の判断を行い、適切な治療を行えば、重篤な合併症の危険性はわずかであることを示している。また最近では、カイロプラクティック治療によって椎骨脳底動脈に関連する脳卒中の発生のリスクが増すエビデンスはない、という報告も見られる。
腰椎マニピュレーションによる重篤な合併症の発生も報告されている。代表例は骨粗鬆症に伴う骨折、馬尾の圧迫症状、血栓に由来する血管性の病態などであるが、発生率はきわめて少ない。米国 RAND 研究所Shekelle らの報告によれば、腰椎マニピュレーションによる馬尾障害の発生率は施術1億回に1回、と非常に少ない。
カイロプラクティック・ケアで合併症の発生をゼロにすることは不可能であるが、ゼロに近づける努力をすることは可能である。そのために必要なのが医学的知識であり、安全に配慮した手技を実践することである。
合併症の発生率に関し、「わずか」「少ない」と程度・頻度ばっかりの表現であり、「合併症の発生をゼロにすることは不可能」とまで述べています。
そして合併症をゼロに近づけるには医学的知識が必要であると。
つまり「人の健康に害を及ぼすおそれ」が「有る」ということです。
半日程度で習える、AED利用時の注意事項すら医学的知識とされ、その知識が必要な行為だから医行為であると厚労省は言ってるのですが。
わが国のカイロプラクティック教育(13ページ目)
有資格者による脊椎マニピュレーションの安全性
ガイドライン14ページ目より
脊椎マニピュレーションはカイロプラクターだけが用いる治療手段ではなく、個人レベルやその他の療法でも行われている。
医療資格や医業類似行為の有資格者が脊椎マニピュレーションを行う場合、それがたとえ医師であったとしても、WHOガイドラインの教育基準下でカイロプラクティック教育を修め手技訓練を修了していなければ、それはカイロプラクティック・ケアではない。
実際、WHO ガイドラインでは医師などの医療資格取得者に対しても 2,200 時間以上のカイロプラクティック教育を義務付けている。
有資格者であったとしても、WHOガイドライン教育基準を満たしていない者による施術はカイロプラクティック・ケアとしての安全性が担保されないことを認識する必要がある。
医師であってもカイロプラクティック教育を受けていない場合、「効果が出せない」ではなく、「安全性が担保されない」と書いてあるわけです。
で、医行為の定義ですが「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」です。
医師が行っても安全性が担保されない行為って、もはや医行為ですよね?
結論
以上、ガイドラインの記述を読む限り、カイロプラクティック療法は人の健康に害を及ぼすおそれのある行為であり、無免許で業として行えば医師法第17条違反、あはき法第12条違反の犯罪行為と言える。
長くなったので広告のガイドラインにまで言及するのは控えておきます。
まあ、あはき柔整の広告検討会では国家資格外行為(非医業類似行為)の広告のガイドラインも作成する予定ですので。