入れ墨店の競業禁止条項に関する裁判である。
業として入れ墨を彫るのは医師法第17条に反するのはタトゥー裁判で示されたとおり。
---(2020/10/11)---
医業は医療関連性のある行為に限定される旨、最高裁が決定を出しました。
よって、タトゥー施術業は現在、医師法に違反する業務ではありません。
当記事執筆時の見解としてお読みください。
---(追記終わり)---
整体やカイロプラクティックなどの無免許医業又は医業類似行為も違法行為であるため、参考になるかと思う。
名古屋地方裁判所 平成28年(ワ)4337
事案の概要
原告:入れ墨店を経営する法人および代表者
被告:原告と業務委託契約を結んで、原告の店で入れ墨を彫っていた。
原告と被告の間に交わされた業務委託契約には競業禁止条項があった。
被告は、原告及び原告のグループ店舗を退店又は退職及び失職した場合、原告及び原告のグループ店舗から半径1.5キロメートル以内における、独立、営業活動及び営業行為を一切禁止とする。
被告は独立して入れ墨店を開設し、開設した地域は競業禁止条項に触れる地域であった。
そのため競業禁止条項に違反し、原告に損害が生じたとして被告に損害賠償を求めた。
他に従業員の引き抜きなどもあるが、無免許医業とは関係無いので本記事では割愛する。
判決文に書かれている事案の概要は以下の通り。
本件は、原告が経営する入れ墨店において彫り師として稼働していた被告が、原告被告間で締結された業務委託契約上の競業避止条項に違反し、かつ、原告の従業員を違法に引き抜いて、自ら入れ墨店を開設したことにより損害を被ったとして、原告が被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償金132万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成28年6月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
裁判所の判断
改行、強調などは筆者による。
1 争点(1)(本件競業避止条項の有効性)について
原告は、被告が本件競業避止条項に反して原告店舗から1.5キロメートル以内の場所に被告店舗を開設し、客に入れ墨の施術をする業務を行っているとして、損害賠償請求を行っている。
これに対し、被告は、本件競業避止条項が無効であると主張して、原告の請求を争っている。
そこで検討するに、本件競業避止条項の趣旨は、原告店舗を含む原告が開設する入れ墨店の営業や業務を保護するものと解される。
しかしながら、医師免許を有しない者が客に入れ墨の施術を行うことは、その客等に肝炎ウイルス等による重篤な感染症に罹患する危険性を生じさせるものであるほか、注入される色素によってアレルギー反応等を引き起こすなどの危険性もある行為であることは、公知の事実というべきである。
厚生労働省医政局医事課長による通達(乙7)においても、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」は、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害の生ずるおそれのある行為であり、医師免許を有しない者が業として行えば医師法第17条に違反する」ものであって、「違反行為に関する情報に接した際には、実態を調査した上、行為の速やかな停止を勧告するなど必要な指導を行うほか、指導を行っても改善がみられないなど、悪質な場合においては、刑事訴訟法第239条の規定に基づく告発を念頭に置きつつ警察と適切な連携を図られたい」とされており、実際にも、業として入れ墨の施術を行った者に対して医師法違反の罪により有罪判決が出されてもいる(乙9)。
これらの事情からすると、業として客に入れ墨の施術を行うことは、医師法に違反する違法な行為というべきであって、この結論は、入れ墨の社会的認識等に関する原告の主張によって左右されない。本件競業避止条項に違反したことを理由とする裁判上の損害賠償請求を認容することは、違法行為を保護することにほかならず、民法90条の趣旨に照らし許されないというべきである。
そうすると、本件競業避止条項は、当事者間における紳士協定のようなものとして効力が肯定されるかは別としても、これに違反した場合に裁判上の損害賠償請求をするための根拠とする規定としては、公序良俗に反し無効というべきである。
原告は、被告が本件契約に基づき原告店舗で稼働し多額の報酬を得ていたこと等からすると、被告が本件競業避止条項の無効を主張することは信義則上許されない旨主張しているが、違法行為に保護を与えないとの原則を覆すほどの事情であるとは考え難く、原告の主張は採用できない。
以上によれば、被告が本件競業避止条項に違反して被告店舗で営業を開始したことを理由とする原告の請求には理由がない。
民法第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
一般の人は民法ではこれと家族関係のところだけ知っておけば良いと思うし、私も民法はこれら以外の分野は知りません。
まあ、何らかの原因で違法な商売で得られる利益を失ったとしても裁判所は損害賠償を認めない、ということです。
なので整体店やリラクゼーション店で、このような競業禁止条項を含んだ契約を結んでも無効なのです。
これが交通事故での人身傷害であれば賃金センサス(男女年齢学歴別の平均賃金)に基づいた損害賠償を認められたりもするのですが、この件は身体を傷つけたわけではなく、純粋に利益を失っただけです。
違法業務と交通事故に関しては下記まとめを。
もし整体師などと交通事故を起こして、賃金センサス以上の休業損害額を求められたら拒否してください。