医療目的で無ければマッサージに免許は不要、と主張する欺瞞的な鍼灸マッサージ師兼フリーライター、齋藤惠氏

--(2019/05/18追記)--

この記事に対し、齋藤恵氏からはてな社に対し、プライバシー侵害として削除申請がされた。

その件に関して、下記記事を書いた。

binbocchama.hatenablog.com

--(2019/05/18追記終わり)---

www.tenishoku-serapisuto.net

こんなブログ記事がTLに流れてきた。

 

当該ブログの執筆者

記事を書いたのは齋藤惠さんという、鍼灸マッサージ師であるフリーライターだそうだ。

齋藤 惠 - 【ケアクル】

鍼灸師あん摩マッサージ指圧師アロマテラピーインストラクター
1984年生まれ。末期医療施設リハビリ部署所属。
高度医療病院で看護助手として医療に従事するうちに連携医療に興味を持つ。現在はターミナルケアに従事すると共に、フリーライターとして日本人の健康問題や医療・連携医療の重要性について情報発信する。

当該ブログ記事の内容

では前掲ブログ記事(以下、記事1とする。)の内容を検証しよう。

引用内の強調は筆者による。

私はあん摩マッサージ指圧師国家資格を持っています。最初はリラクゼーションセラピストでした。国家資格があると医療ができるようになるのですが、マッサージをするにあたって国家資格が必要だとはあんまり思いません。

リラクゼーションセラピストに国家資格は必要ない!?元セラピストからあん摩マッサージ指圧師になった私が国家資格についてぶっちゃけます - ひとりのセラピストのひとりごと

とリラクゼーションセラピスト(法律上は無資格施術者)であったが、その後、あん摩マッサージ指圧師の免許を取得している旨、書いている。

 で、結論として

ラクゼーションサロンで働いている真面目なセラピストには、たまに「資格がないのにマッサージをしていいのだろうか?」と思ってしまう人がいます。 何を隠そうこの私もそんな真面目ちゃんの一人でした。 国家資格を取った今、私はリラクゼーションセラピスト に言いたい。 資格がなくてもマッサージはしていいですよ!! つうかマッサージに国家資格は要りません!! マッサージは法的な事情があるので資格者しか名乗れません。その法律もあるんだかないんだか分からないような穴だらけの法律です。

リラクゼーションセラピストに国家資格は必要ない!?元セラピストからあん摩マッサージ指圧師になった私が国家資格についてぶっちゃけます - ひとりのセラピストのひとりごと

 と書いている。

要約すれば「医療以外でのマッサージには免許が不要」という主張である。

齋藤惠氏の、無免許マッサージの危険性に関する認識

なお、記事1において 

とても個人的な意見ですが、リラクゼーションセラピストの最大のデメリットは「疾患の鑑別ができない」ということでした。 ごくまれに病気を持った人がきます。禁忌確認の時に「怪しいな?」と思ったら断っていればいいのですが、個人経営のレンタルサロンで施術していた時に病気の人に施術をしてしまって私が危ない目に遭いました(汗)

リラクゼーションセラピストに国家資格は必要ない!?元セラピストからあん摩マッサージ指圧師になった私が国家資格についてぶっちゃけます - ひとりのセラピストのひとりごと

 と書き、自分で書いたブログ記事(以下、記事2)へのリンクを貼っている。

www.tenishoku-serapisuto.net

記事2では

ラクゼーションで実質的に行われているのはマッサージです。 マッサージは本来、医療技術なので、場合によっては危険を伴うこともあります

安全な施術で、指名率アップを目指そう。リラクゼーションセラピストが心がけるべきリスク管理。リラクゼーションの適応と禁忌 - ひとりのセラピストのひとりごと

 と自らの経験から、リラクゼーションで行っている施術が「マッサージ」である旨、そして「危険を伴うこと」を自白している。

そして病気や怪我が無いことを確認すべき、と書いているのである。

まずお客様に、病気や怪我が無いことを確認しましょう。 見た目は普通でも、体の中にペースメーカーや人工関節などが入っている方もおられます。

安全な施術で、指名率アップを目指そう。リラクゼーションセラピストが心がけるべきリスク管理。リラクゼーションの適応と禁忌 - ひとりのセラピストのひとりごと

 

ラクゼーションサロンでは肩こりや腰痛などでいらっしゃるお客様が多く見られますが、肩こり・腰痛とお客様が思っていても、そこに病気が隠れていることがあります。 そういった場合に、無理にほぐしてしまったり、ストレッチさせてしまうと、病気が悪化する恐れがあり、最悪の場合は手術に繋がることもあります。 肩こり、腰痛を訴えるお客様に、どのような時に痛みがあるのか、体を動かす時に問題が無いかどうか必ず伺って下さい。

安全な施術で、指名率アップを目指そう。リラクゼーションセラピストが心がけるべきリスク管理。リラクゼーションの適応と禁忌 - ひとりのセラピストのひとりごと

 とリラクゼーションサロンで肩こり、腰痛に対する施術を行うことを斎藤氏は認めているのである。そして、病歴(ペースメーカーなど)や痛み(症状)に関して訊ねる必要性も認めている。

 

まず症状や病歴を訊ねる行為は問診であり、医行為である。業として行っていれば医師法第17条に反する。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51069

被告人が断食道場の入寮者に対し、いわゆる断食療法を施行するため入寮の目的、入寮当時の症状、病歴等を尋ねた行為は、それらの者の疾病の治療、予防を目的としてした診察方法の一種である問診にあたる。

 

そして昭和35年判決により、無資格者の医業類似行為で取締を受けずに済むのは「人の健康に害を及ぼすおそれが無い行為」に限定される。斎藤氏はリラクゼーションでのマッサージにおいても危険性がある旨、述べているのである。

 

また昭和35年判決は医業類似行為、つまりあはき法第12条の問題であり、あはき法第1条について判断したものではない。なので無免許マッサージの取締には無免許でマッサージを行った、という認定で十分である。*1

 

さらに免許が必要なあん摩(マッサージ指圧)の定義として厚生省は下記のように通知している。

法第一条に規定するあん摩とは、人体についての病的状態の除去又は疲労の回復という生理的効果の実現を目的として行なわれ、かつ、その効果を生ずることが可能な、もむ、おす、たたく、摩擦するなどの行為の総称である。*2

 裁判例としても下記のように判示されている。

あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法一条にいう「あん摩」とは、慰安または医療補助の目的をもって、身体を摩さつし、押し、もみ、またはたたく等の行為を言う。*3

 

病的状態の除去や医療補助以外でも、疲労回復や慰安目的でも免許が必要な旨、公的に示されているのである。

齊藤氏の、マッサージの免許は医療関連のみで必要、という主張は誤りである。

齋藤惠氏の欺瞞性

なお、斎藤氏は別の記事(以下、記事3)で

では何のために国家資格があるのか?と疑問に思ってしまいます。マッサージが事実上誰でもできるなった現在には背景があります。

政治的な背景がある

昭和の時代ではあん摩マッサージ指圧師視覚障害者の職業として国が守ってきました。現在でも視覚障害者向けの職業訓練校としてあん摩マッサージ指圧科の国立学校が全国にみられます。 しかし小泉政権の時に大規模規制緩和がありました。マッサージ行為を事実上、誰でもできるようになったのはこの時です。 それ以降、リラクゼーションサロンが急激に増え、経済に貢献してきました。

あん摩マッサージ指圧師国家資格は現在も視覚障害者枠が設けられ保存されていますが、視覚障害の無い普通の人(晴眼者と言います)も枠があり、毎年合わせて数千人の国家資格者が新たに誕生しています。

マッサージ師になるためには。職場はどんなところ?リラクゼーションから医療現場までマッサージ師の職場を解説します - ひとりのセラピストのひとりごと

 

と、あたかも小泉政権のときの規制緩和で無免許マッサージが事実上できるようになったように書いているが、基本的な原因は昭和35年判決である。

鍼灸マッサージ師である斎藤氏が昭和35年判決を知らないとも思えず、判事事項(無資格施術(医業類似行為)は人の健康に害を及ぼすおそれがあれば処罰対象)を示さず、ラクゼーションサロンの施術でも人体に危険性があることを示した上で「マッサージに免許は不要」と書くのはライター、いや人としての倫理としてどうなのかと思う。

齊藤氏はリラクゼーションサロンでの施術が違法であること(マッサージであること、人の健康に害を及ぼすおそれがあること)を知りながら無免許でのマッサージが大丈夫である、と書いているのだから違法行為の助長・教唆と言わざるを得ない。

 

関係法規で国試に出るのはもっぱら適格条項や免許、施術所関係の手続き、営業規制なので昭和35年判決を忘れていた、という可能性も否定できないが、その程度の知識なら現行法規でマッサージに免許が不要、という記事を書くべきではない。

 

現行法規の解釈(司法論)を誤って書いた場合、他人に違法行為をさせることになったり、逆に正当な権利の行使を妨害するものになる。

法律の改正を求めたり、あるべき制度の理想(立法論)といった願望を書くならば素人考えでも良いが、司法論はちゃんと調べた上で書いて欲しいものである。

 

また免許制度そのものが視覚障害者の保護が目的のように書いてあるが、晴眼者向けのあん摩マッサージ指圧師養成校の認可を規制する、あはき法第19条は昭和39年改正で作られたものである。

法律第百二十号(昭三九・六・三〇)

法律第百二十号(昭三九・六・三〇)

  ◎あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法等の一部を改正する法律

 (あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法の一部改正)

(略)

  第十九条を次のように改める。

 第十九条 当分の間、文部大臣又は厚生大臣は、あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに省令で定める程度の著しい視覚障害のある者(以下視覚障害者という。)以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して、視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育し、又は養成するものについての第二条第一項の認定又はその生徒の定員の増加についての同条第三項の承認をしないことができる。

   文部大臣又は厚生大臣は、前項の規定により認定又は承認をしない処分をしようとするときは、あらかじめ、中央審議会の意見をきかなければならない。

鍼灸マッサージの法律問題を論じるなら平成医療学園あん摩マッサージ指圧師養成校の不認可決定に対し、あはき法第19条を違憲として国を訴えたことぐらいは知っておくべきだろう。

 

記事1には

でも最近は視覚障害者の方はIT系の仕事が多いらしくてあん摩マッサージ指圧師が減っているそうです。 時代が変わってグダグダしているように見えます。 視覚障害者の職業としてあん摩マッサージ指圧師を守るなら、障害者の就職支援を積極的にやるべきだと私は思います。国家資格云々ではなくて、障害者支援の方が大切です。

リラクゼーションセラピストに国家資格は必要ない!?元セラピストからあん摩マッサージ指圧師になった私が国家資格についてぶっちゃけます - ひとりのセラピストのひとりごと

 と書いてあるのだが、まさに19条裁判で平成医療学園が訴えているのと同義である。

19条廃止派が書いたか話した意見の受け売り(孫引き)かもしれないがプロのライター業なら1次ソースを確認すべきだろう。そうすればこの規制が元からあったものではなく、昭和39年改正で追加されたものであり、免許制度は本来、視覚障害者保護を目的にしたものでないことはわかるはずである。

 本来、危険性がある行為だから免許制になっているのであって、視覚障害者の保護は後付である。

 

記事3では前掲引用のように、免許自体に視覚障害者枠と晴眼者枠があるかのように書いてあるが、晴眼者向けの養成校の認可が制限されているのであって、国家試験自体に視覚障害者と晴眼者の枠があるわけではない。なので国試成績の良い晴眼者が落ちて、成績がそれより悪い視覚障害者が国試に受かる、ということはない。

 

無資格施術の経歴と、無資格施術を擁護する心理

齋藤氏は前述のとおり、元々はリラクゼーションセラピストと称して無免許マッサージを行っていた。自身の過去の行為を犯罪行為と認めるのには抵抗があると思われる。

また無免許の業界にいたのだから無免許施術を行っている友人・知人もいるのだろう。

自分の知らない被施術者の健康・安全よりも友人・知人の生活のほうが大事、というのはよくある心理である。

まあ、法律を知らずに違法な無免許施術を職にし、法律の存在に気づいて無免許施術を止め、免許を取られる方もいるだろう。本来、前科者や医事に関する不正を行ったものは免許を与えないこともある(相対的欠格条項)のだが、無知ゆえに違法行為に手を染め、改心した者まで責める気はない。

 

ただし、齊藤氏のように、免許の取得後も無免許施術を擁護するのは公衆衛生の意識が欠如しており、ましてや無免許施術を助長するような記事を公表するのは人の健康に携わる者としての倫理も疑わざるを得ない。

 

それ故、過去に無免許施術を行っていた者の倫理観もまずは疑わざるを得ないのである。ましてや無免許施術者と友人関係にある者をや。

 

www.huffingtonpost.jp

上記リンクはナチス宣伝相ゲッベルスの秘書に関する記事である。

下記引用の「彼女」とはゲッベルスの秘書だった人。

身近な子供の死、遠くのユダヤ人の死

トークショーを通じて、二面性が一つのキーワードとして浮かび上がる。そこで明かされたのは、冷静沈着に見える彼女の意外な一面だった。

彼女は多くのユダヤ人の死については「私に罪はない」と静かに語る一方で、ゲッベルス家の子供たちが殺害される場面を証言する際には感情があらわになりかけ、涙を流さないよう自分と戦っていたと監督たちは語った。

まさにこれである。

 その後のツイッター

と引用RTで齊藤氏に尋ねた訳だが下記が回答であろう。

https://twitter.com/8O049RRc7L19TSr/status/1043672597500575744

 

医療というのは本来、危険性のあるものであるからそれらは医師や看護師といった免許を持ったものによって行われるのである。当然、無免許の者に行わせればさらに事故の件数が増えたり、より酷い事故が起きるであろう。

「セラピストに問題があるから事故が起きます。」というのはまさにそのとおりだが、施術者の質を確保するのが免許制度に他ならない。

 

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国家資格者と無免許の能力比較

上図で言えば、赤のレベルでの健康被害はまさに無免許施術が原因の被害と言える。 

 

医療事故や国家資格者による健康被害を挙げて、無免許施術を正当化する輩もいるが、免許を持っていても危険性がある行為(上図の青での事故)を、無免許(上図の赤)で行える理由にはならない。ある無免許施術者が上図の黄色だとどうやって証明できるのか。

 

運転免許保有者による交通事故は発生しているが、自分や家族が無免許運転の被害者になった場合、免許持ちでも事故を起こすからと、相手の無免許運転を責めずに許せる人なら前述の論理でも納得できるかもしれないが。

 

https://twitter.com/8O049RRc7L19TSr/status/1043677125000101888

 

職業選択の自由は公共の福祉に反しない限り認められるものである。

齋藤氏は被施術者の権利についてどう考えているのだろうか?

被施術者の安全を無視したまま無免許で施術をして良い権利などない。

*1:○いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について 昭和三五年三月三〇日 医発第二四七号の一各都道府県知事あて厚生省医務局長通知

*2:○あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師の学校又は養成所等に在学している者の実習等の取り扱いについて
昭和三八年一月九日医発第八号の二各都道府県知事あて厚生省医務局長通知

*3:清水簡易裁判所昭和34年10月7日判決 昭和34年(ろ)50号 下級裁判所刑事裁判例集1巻10号2144頁