新井浩文被告人の初公判:公権力の監視のために被害者の実名報道が必要じゃなかったのか?

派遣「マッサージ」店の従業員を強姦したとして、強制性交罪で起訴された新井浩文被告人の初公判が2019年9月2日に開かれた。

 

逮捕時の当ブログ記事は下記の通り。

 

binbocchama.hatenablog.com

 

binbocchama.hatenablog.com

 

今回の事件、被害者の業務を「マッサージ」と報じているのが多く、ちゃんと国家資格である、あん摩マッサージ指圧師の免許を持っている私としては腹立たしく思っているのである。

 

無免許マッサージ業者が、その罪(無免許マッサージ)で処罰されていないにも関わらず、「健全なマッサージ」業務を前提として裁判が行われることは著しく正義に反する。

 

性的な「マッサージ」であれば免許は不要であるし、無免許マッサージの処罰をしないなら、性的なマッサージであることを前提に裁判を行うべきである。

 

今回、産経新聞などの詳報記事を引用しながら記事を書くが、被害者に対する証人尋問ではあん摩マッサージ指圧師の免許の有無は取り上げられなかった。

 

これは検察、弁護側双方が免許制度を知らなかったためなのか、それとも今回の被害者があん摩マッサージ指圧師の免許を持っていたからなのか、不明である。

 

なお、NHKでは逮捕当時から派遣「エステ」店といった表現をしている。

今回の初公判の記事でも同様である。

「同意があった」と否認 俳優 新井浩文被告 初公判 | NHKニュース

俳優の新井浩文被告(40)は、去年7月、東京 世田谷区の自宅マンションで、派遣型のエステ店で働く30代の女性セラピストに性的な暴行をした罪に問われています。

NHKあん摩マッサージ指圧師の業界団体はドキュメント72時間で「もみほぐし」と称する無免許マッサージ業者が取り上げられたことに関し、一悶着あったため、「マッサージ」という表現には敏感になっている。

 

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 それでもちゃんとあん摩マッサージ指圧師の免許があり、保健所への届け出がされている店であれば「マッサージ」と表現しても業界団体は文句を言えない。

 

ただし、今回の被害者が無免許であることはNHKの報道や、「被害女性はマッサージのレッスンを受けた熟練のセラピストで、事件のショックにより同店を辞めている。」といった報道*1から「推測」しているに過ぎない。

 

権力の監視のためには被害者の店の実名ぐらい公表すべきである。

ちょっと話は変わるが、京アニの放火事件の被害者の実名報道には批判が多い。

で、マスコミ側の人物が実名報道の意義を主張しているtogetterのまとめがある。

togetter.com

いくつか、ツイートを転載する。

 

 

京アニに関しては被害者は京アニに勤めていた点以外、犯行の動機とは関係ないのだから実名報道の必要性は感じないというのが私の意見である。

 

で、今回の事件であるが、警察・検察からあん摩マッサージ指圧師の免許の有無について発表が無いし、被害者の証人尋問の記事を読んでも不明である。

そして店舗に関しても保健所への届け出がされているのかどうか、明らかになっていない。

 

本当に「健全なマッサージ」での強姦なのか、それとも「性的なマッサージ」での強姦では判断が異なるはずである。

 

「健全なマッサージ」でなら「合意があった」と思い込んだという新井被告の言い訳に無理が出てくるし、当然有罪にすべき案件となる。

 

しかし「性的なマッサージ」なら合意があったという新井被告の「認識」は仕方ない可能性が出てくるし、有罪にするとしても、性的な雰囲気の広告を出している業者の場合には減刑すべき事情ではないのか?

 

あん摩マッサージ指圧師の免許の有無や保健所への届け出の有無を明らかにせずに処罰することはそれこそ、冤罪や過剰な刑罰を招くことになる。

 

そしてNHK以外のほとんどのマスコミは今回の被害者に関し「マッサージ」と報道しているのである。

せめて店舗の名前とサイトがわかれば、私のような専門家が見れば免許の有無の判断はおおよそ可能である。最終的には地域を管轄する保健所に問い合わせることになる。

 

なので今回の事件こそ、国家権力の横暴を防ぐためにも被害者の勤務店舗の実名報道が必要である。

 

国家権力の横暴なんて言うと陰謀論乙、と言われそうだ。

このニュースの反応を見るとむしろ在日韓国人である新井被告の本名を報道しろ、という意見も見かける。

 

そう、新井被告は在日韓国人である。

内政の不満をそらすため、外交問題を利用するのは韓国だけの専売特許ではない。

 

日本だって、消費増税は控えているし、要介護1,2は介護保険の給付対象から外すか、みたいな議論が出てきている。

 

そんなときにスケープゴートとしてちょうどよい、在日韓国人の有名人による強姦事件ですよ。

 

そんなわけで、免許の有無や保健所への届け出の有無が検証されず、「健全なマッサージ」であることを前提に裁判が進むのは国家権力への抑止としての裁判や報道としてどうなのよ?と思うのである。

 

初公判詳報

産経新聞が初公判の詳報を載せている。Yahooの方が読みやすいのでそっちのリンクを貼る。

新井浩文被告初公判詳報(1)女性に謝罪も「合意あると思っていた」 検察側「施術中、興奮して犯行に及んだ」(産経新聞) - Yahoo!ニュース

新井浩文被告初公判詳報(2)女性の手をつかむ被告 被害女性「やめてください。これ以上やるなら帰ります」(産経新聞) - Yahoo!ニュース

新井浩文被告初公判詳報(3)被害女性「まるで物を扱うように」 帰り際に現金「刑務所に入って反省してほしい」(産経新聞) - Yahoo!ニュース

新井浩文被告初公判詳報(4)弁護人、抵抗の言葉「出せていなかったのでは」 被害弁償2千万円は拒否(産経新聞) - Yahoo!ニュース

 

なお、産経の詳報では店の運転手に対する証人尋問が書かれていない。

なので記事にされていないやり取りがある可能性は否定できない。

新井被告が女性に手渡した額は5万円 運転手明かす - 事件・事故 - 芸能 : 日刊スポーツ

この日午前10時に開廷し、被害にあった従業員への証人尋問が約2時間行われた後、約1時間の休憩をはさんで、午後1時50分ころから、従業員の運転手への証人尋問が行われた。

またハフポストにも詳報記事が載っている。

新井浩文被告の初公判で、被害女性が語ったこと「モノのように扱われすごく悔しい」 被告は「同意があった」と主張(詳報) | ハフポスト

 

では産経の(1)、冒頭陳述から。筆者により、強調、改行を加えてある。

《検察官が起訴状を朗読する。起訴状によると、新井被告は昨年7月1日午前3時半ごろ、東京都世田谷区内の自宅で、マッサージ店の30代の女性従業員に頭を押さえつけるなどの暴行を加え、乱暴したとしている》 

 起訴状に「マッサージ店」と書かれ、検察官はそのとおり読み上げた、ということでしょうか。

で、

弁護人

「性交した事実などはその通りだが、頭を両手でつかむことなどはしていない。合意があると錯誤していた。強制性交の事実はありません

と弁護人は無罪を主張した。

検察官

「被告は以前から店舗や出張型のマッサージを利用しており、この店も3回利用していた。なお、この店は純粋なマッサージ店で性的サービスを禁止しており、利用には手続きがある

 検察官

「被告は平成30年6月30日夜、友人と飲食後に帰宅し、マッサージを受けようとAさんを指名。マッサージの施術を受け、興奮して犯行に及んだ。Aさんが店の経営者に相談し、被害を申し出た」

と検察官自身が「純粋なマッサージ店」と述べているのである。

 

あん摩マッサージ指圧師の免許を有し、店も保健所に届け出ているなら何も問題ない。

だが、その点について不明確なのは前述のとおり。

もし無免許であればまず、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律
第一条違反で処罰しなければならない。*2

 

弁護人

「新井さんはアロママッサージを好んで利用していました。週に何日も、連日利用したときもあった。紙パンツ1枚の姿で全身をオイルでマッサージしてもらう。性的行為禁止と掲げられているが、性器ぎりぎりまでマッサージしてもらうこともある。利用者の中には性的な気分を催す人も珍しくはない。新井さんも身体を触ってもらおうとしたことがあり、中には(依頼に)乗ってきてくれる女性もいた。誘ってくる女性もいた

 

と新井被告は性的なサービスと認識していたようである。

で、

 弁護人「罪の成立には、反抗を著しく困難にする暴行をしたと合理的に説明できないとならない。Aさんには今になれば同意がなかったと私たちも考えており、新井さんも謝罪の気持ちを持っている。しかし刑法によれば、暴行を用いておらず、強制性交罪は成立しません

 

犯罪の成立には原則として故意が必要なわけでして、同意していると思いこんでいる、反抗されているとは思っていない、と認定されれば強制性交罪という犯罪は成立しなくなるのである。

 

結果として被害者の同意は無かった、ということは認めているから「謝罪」して示談金を支払おうとしたのである。

 

で(2)から被害者に対する証人尋問である。

検察官

「マッサージ店のホームページには、風俗店にあるような顔の一部を隠す写真を載せていましたか」

 

女性

「いいえ」

 

記事での被害者の尋問はここから始まっているのだが、そのまえに人定質問がされているはずである。そこで職業の確認がされていると思うのだが、あん摩マッサージ指圧師の免許の確認はされていなかったのだろうか?

 

あん摩マッサージ指圧師の免許の有無程度では被害者個人を特定するのは困難である。

しかし、世にあふれる無免許マッサージ業者の「民間資格」だと、その資格名から個人が特定される可能性がある。それなら記事で省略するのも納得はいく。 

《新井被告が利用したマッサージの料金は1万8500円。

内訳は90分のマッサージ1万4000円、

交通費3000円、

そして女性の指名料が1500円だった》

健全なマッサージの場合、交通費込みなら90分14,000円もありえない話では無いですが、交通費(出張料)別ですとかなり高いです。

 

少なくともそれなりの治療技術を持っているあん摩マッサージ指圧師でないとこの料金は難しい。地方在住の私の場合、60分で5,000円も取らない。

ショッピングモールとかにある、非性的な無免許マッサージも10分1,000円ぐらいですからね。90分9,000円なら普通といったところです。

 

で、(3)より

《女性は、しばらくは勤務を続けたが、その後、店を辞めた》

 検察官

「客と2人きりでマッサージすることに抵抗はなかったんですか」

 

 女性

「抵抗はありました」

 

 検察官

「なぜ続けたのですか」

 

女性

「すぐに新しい仕事も見つからないし、生活のためでもありました

生活のために、抵抗のある仕事をする必要のある人が2千万円の示談金を拒否できる方が不思議だったりする。

ちなみに刑事裁判の判決が確定した後だと高額な示談金を支払う動機が被告人には無くなります、民事裁判で賠償金を得ようとしても200万円が限度だったかと思います。

検察官

「マッサージの仕事についてどう思っていますか」

 

女性

「やりがいのある自分に合った仕事だと思っていました」

ここでも検察官は「マッサージ」と言ってるし、被害者も否定していない。

 

で(4),弁護人による尋問。

弁護人

「危害を加えるような言葉はなかったですか」

 

女性

「はい」

 《弁護人はいくつかのわいせつ行為を挙げ、その際に脅す言葉があったかどうか質問。女性はなかったと答えた》

と脅迫は無かったようである。

 《弁護人は、女性が警察官に話した供述調書の中に「入れないで」と言ったという話がないと指摘し、さらに下半身を触られたことについても供述調書になかったとして、こう続けた》

弁護人

「警察官に話しているとき、記憶から抜けていた。新井さんが言っていると聞いて(触られたことを)思い出したのですか

 

女性

「はい」

 

弁護人

「触られたこと自体、記憶から抜け落ちていたのですか」

 

女性

「はい」

 

弁護人

「(下半身を)触られたときに抵抗したことも、警察官に話しているときには忘れていたのですか」

 

女性

「はい」

 

弁護人

「『触らないで』と言ったのも警察に話しているときには出てきていません」

 

女性

「はい」

 

弁護人

「新井さんが逮捕され、こういうことがあったと言われて思い出したのですか」

 

女性

「はい」

 

マッサージの免許の有無とは関係ないが、ここは重要である。

というのも容疑者・被告人の証言を被害者に話すことで、被害者の証言を誘導することができるのである。

 

なぜ冤罪事件では黙秘すべきなのか、というのがここにある。

否認事件の刑事弁護 | 逮捕・示談に強い東京の刑事事件弁護士

② 取調官が被疑者の発言から得られた情報を利用して、被害者等の供述調書を作成する

被害者や目撃者が、被疑者のことを犯人だと思っていたが、確かな根拠はなかったとします。確かな根拠がない以上、取調官も説得力のある被害者・目撃者の供述調書を作成することはできません。

このようなケースで、被疑者が自分の考えを詳細に述べれば、取調官がその発言に含まれている情報を利用して、被害者や目撃者に誘導尋問をし(例:「被疑者は~と言っているが、本当にそんなことはあったんですか?」→「いいえ、ありませんでした。」)、その結果、見かけ上説得力のある供述調書が作られてしまうことがあります。

このように被疑者が積極的に供述することにより、逆に、被疑者の主張がつぶされてしまうおそれが高まります。そのため、たとえ、自己の言い分を述べるためであっても、取調官に対して口を開くことには慎重であるべきです。

 

弁護側が免許の有無について突っ込まなかったのは不本意であるが、それがあはき法を知らなかったためでは無いことを祈る。

*1:被害女性は俳優と分からず 熟練セラピスト、ショックで店辞める― スポニチ Sponichi Annex 芸能

*2:医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。