医療の発展により、新しく専門職が必要になることがある。
そういう場合、看護師などが行うか、そうでないものが業務を行ったりする。
そして国家資格にする必要が出てきて、法律が成立したときには既存の業務従事者をどう扱うか、ということが法律に書いてあったりする。
今回の記事では理学療法士及び作業療法士法(PTOT法)、視能訓練士法、臨床工学技士法、そして愛玩動物看護師法を見ていく。法律が古い順から解説する。
- 理学療法士及び作業療法士法(昭和四十年法律第百三十七号)
- 視能訓練士法(昭和四十六年法律第六十四号)
- 臨床工学技士法(昭和六十二年法律第六十号)
- 愛玩動物看護師法(令和元年法第50号)
- カイロプラクティックや整体が法制化された場合の経過措置は?
理学療法士及び作業療法士法(昭和四十年法律第百三十七号)
附則抄
(受験資格の特例)
4 この法律の施行の際現に病院、診療所その他省令で定める施設において、医師の指示の下に、理学療法又は作業療法を業として行なつている者であつて、次の各号に該当するに至つたものは、昭和四十九年三月三十一日までは、第十一条又は第十二条の規定にかかわらず、それぞれ理学療法士国家試験又は作業療法士国家試験を受けることができる。
一 学校教育法第五十六条第一項の規定により大学に入学することができる者又は政令で定める者
二 厚生大臣が指定した講習会の課程を修了した者
三 病院、診療所その他省令で定める施設において、医師の指示の下に、理学療法又は作業療法を五年以上業として行なつた者
5 前項に規定する者については、第十四条の規定に基づく理学療法士国家試験又は作業療法士国家試験に関する省令において、科目その他の事項に関し必要な特例を設けることができる。
人の健康に害を及ぼす恐れがない行為であれば無資格で行っても直ちに違法になるものではない。
視能訓練士法(昭和四十六年法律第六十四号)
附則抄
(受験資格の特例)
3 この法律の施行の際現に病院又は診療所において、医師の指示の下に、両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査を業として行なつている者であつて、次の各号のいずれにも該当するに至つたものは、昭和五十一年三月三十一日までは、第十四条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
一 学校教育法第五十六条第一項の規定により大学に入学することができる者又は政令で定める者
二 厚生大臣が指定した講習会の課程を修了した者
三 病院又は診療所において、医師の指示の下に、両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査を五年以上業として行なつた者
「現に病院又は診療所において、医師の指示の下に、両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査を業として行なつている者」に国家試験の受験資格を与えている。
で、視能訓練士の業務であるが
第十七条 視能訓練士は、第二条に規定する業務のほか、視能訓練士の名称を用いて、医師の指示の下に、眼科に係る検査(人体に影響を及ぼす程度が高い検査として厚生労働省令で定めるものを除く。次項において「眼科検査」という。)を行うことを業とすることができる。
2 視能訓練士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査並びに眼科検査を行うことを業とすることができる。
「両眼視機能の回復のための矯正訓練及びこれに必要な検査」って「診療の補助」、すなわち相対的医行為なのでは?と思うわけである。特に「検査」となると診察行為である。
そうすると無資格者が行っていた場合、違法業務となるわけだが、それを後の法律で合法化しているのか?と疑問が出てくる。
昭和46年ではそこまで深く考えなかった?
臨床工学技士法(昭和六十二年法律第六十号)
附則抄
(受験資格の特例)
第三条 この法律の施行の際現に病院又は診療所において、医師の指示の下に、適法に生命維持管理装置の操作及び保守点検を業として行つている者であつて、次の各号のいずれにも該当するに至つたものは、平成五年三月三十一日までは、第十四条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
一 学校教育法第五十六条の規定により大学に入学できる者又は政令で定める者
二 厚生大臣が指定した講習会の課程を修了した者
三 病院又は診療所において、医師の指示の下に、適法に生命維持管理装置の操作及び保守点検を五年以上業として行つた者
(名称の使用制限に関する経過措置)
第五条 この法律の施行の際現に臨床工学技士又はこれに紛らわしい名称を使用している者については、第四十一条の規定は、この法律の施行後六月間は、適用しない。
「適法に」と書いてあります。これがPTOT法や視能訓練士法には無い特徴です。
なお業務に関しては
第三十七条 臨床工学技士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として生命維持管理装置の操作を行うことを業とすることができる。
とある。で第2条には
第二条 この法律で「生命維持管理装置」とは、人の呼吸、循環又は代謝の機能の一部を代替し、又は補助することが目的とされている装置をいう。
2 この法律で「臨床工学技士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、臨床工学技士の名称を用いて、医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作(生命維持管理装置の先端部の身体への接続又は身体からの除去であつて政令で定めるものを含む。以下同じ。)及び保守点検を行うことを業とする者をいう。
とある。この「身体への接続又は身体からの抜去」は相対的医行為である。
なので法律ができる前に「生命維持管理装置の操作及び保守点検」を業としていても違法行為では無いが、「身体への接続又は身体からの抜去」は看護師などでなければ出来なかった行為なのである。
臨床工学技士法成立・施行時期の保助看法違反事件
臨床工学技士法の成立施行時期あたりに、医師が看護資格等のない透析士をして、人工腎臓装置の先端部の穿刺針を患者のシヤントに刺入および抜去する行為を業として行わせたことが、保健婦助産婦看護婦法に違反するとされた裁判がある。*1
この裁判で被告人の主張は
医師の指示の下に生命維持管理装置の操作及び保守点検を行うことを業とする者を新たに臨床工学技士の名称で認めた昭和六二年六月二日公布の同年法律第六〇号臨床工学技士法が、右操作には「(生命維持管理装置の先端部の身体への接続又は身体からの除去であって政令で定めるものを含む。以下同じ。)」と規定する一方、同法附則三条で「この法律施行の際現に病院又は診療所において、医師の指示の下に、適法に生命維持管理装置の操作及び保守点検を業として行っている者」の存在を前提にした受験資格についての特例措置を設けていることからみて、同法は従来の透析士が無資格のまま事実上針の刺入・抜去行為を含む生命維持装置の操作に携わっていた実態そのものを適法として社会的相当行為であることを肯認したものであり、右に「適法に」というのはこれまで病院または診療所において、医師の指示の下にこの業務に従事してきた者で、医療過誤事件などの事故を起こすことなく無事にこの業務に従事してきた者という程度の意味しかないというのである。なお、同六三年二月二三日公布された同年政令第二一号臨床工学技士法施行令の第一条第二号によれば「血液浄化装置の穿刺針その他の先端部のシャントへの接続又はシャントからの除去」が前示「政令で定める」操作の一つとして定められている。
というものであったが、裁判所は
しかしながら、もともと特別な規定や理由もないのに当時他の法律により違法とされた行為が遡って適法となりえようはずがないばかりでなく、その専門性につきある程度の客観性を主張しうる認定士ですら針の刺入・抜去行為をすることについて煮詰められていなかった程であり、透析治療の実態が所論のようなものではないこと、同法附則三条は受験資格について経過措置を定めたものであることなどのほか、同附則がわざわざ「適法に」との文言を挿入していることに徴すると、右に「適法に」というのは、以下に続く「生命維持管理装置の操作及び保守点検を……行った」を制約するものと解すべきである。すなわち、この種職種が医療の現状において必要性と重要性を有していながらいまだ資格が制度化されていなかったため、これがいわば野放しにされその実態が職務範囲や専門性の点を含め様々であり、中には前示専門性においてすら社会的相当性を主張しうるのが憚られるほどの者もいることから、その当時の関係法令やその基底となっている法秩序に照らし許容できないものを排除する趣旨と解されるのであって、従って原判決が事実上生命維持管理装置の操作に一定年限携わっていた者ならば誰にでも受験資格を付与するものではないことを示しているに過ぎないとした点に誤りはなく、所論のように解する余地はない。
と判示している。
看護師などの免許なしに相対的医行為である、針の人体への接続、抜去をしたら違法行為ですよ、と。
そしてそのような行為をしていた者には受験資格を認めない、ということである。
愛玩動物看護師法(令和元年法第50号)
こちらは獣医療関係なので管轄は農林水産省である。
附則
(受験資格の特例)
第二条 次の各号のいずれかに該当する者は、第三十一条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
(省略)
二 愛玩動物看護師国家試験予備試験(以下「予備試験」という。)に合格した者
(予備試験)
第三条 農林水産大臣及び環境大臣は、試験を受けようとする者が第三十一条第一号又は第二号に掲げる者と同等の知識及び技能を有するかどうかを判定することを目的として、施行日から五年を経過する日までの間、毎年一回以上、予備試験を行う。
2 予備試験は、第二条第二項に規定する業務(診療の補助を除く。)を五年以上業として行った者又は農林水産大臣及び環境大臣がこれと同等以上の経験を有すると認める者であって、農林水産大臣及び環境大臣が指定した講習会の課程を修了したものでなければ、受けることができない。
3 第三十二条及び第三十三条の規定は、予備試験について準用する。
第2条第2項は
この法律において「愛玩動物看護師」とは、農林水産大臣及び環境大臣の免許を受けて、愛玩動物看護師の名称を用いて、診療の補助(愛玩動物に対する診療(獣医師法第十七条に規定する診療をいう。)の一環として行われる衛生上の危害を生ずるおそれが少ないと認められる行為であって、獣医師の指示の下に行われるものをいう。以下同じ。)及び疾病にかかり、又は負傷した愛玩動物の世話その他の愛玩動物の看護並びに愛玩動物を飼養する者その他の者に対するその愛護及び適正な飼養に係る助言その他の支援を業とする者をいう。
とある。
「診療の補助」は法の施行前は獣医師しか行えないので、このように書くのは当然である。臨床工学技士法のように「適法に」と書いて無いのが気になるが、
(欠格事由)
第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 罰金以上の刑に処せられた者
二 前号に該当する者を除くほか、愛玩動物看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があった者
三 心身の障害により愛玩動物看護師の業務を適正に行うことができない者として農林水産省令・環境省令で定めるもの
四 麻薬、大麻又はあへんの中毒者
とあるので、無免許で診療の補助行為をしていれば欠格条項に引っかかるわけである。
カイロプラクティックや整体が法制化された場合の経過措置は?
これまで現行法律の、法施行時の現業者に対する経過措置を見てきた。
カイロプラクティックや整体などが法制化される場合、現業者に対する経過措置は盛り込まれる可能性はある。
ただし、今は令和の時代である。
臨床工学技士法のように「適法に」という条件がつくことは避けられまい。
そうなると診察行為などの「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」をしていれば受験資格が得られなくなる。
適法にカイロや整体の業務をしていたと主張する場合、医療系国家資格を有しない場合は
- 問診や検査などといった診察行為(身体の状況について判断)を行わない。
- 診断(所見の告知と言い換えられることも)、つまり患者の健康状態について判断して告知をしてはならない。
- 誰が行っても安全である施術*2
が条件となる。
さて、適法にカイロ施術を行っていると言える人はどのくらいいるのか?
問診や検査をせずにカイロ施術をしています、という人がいるなら名乗り出てほしい。
あるいは医療系国家資格を持ち、その業務の範囲内で業務を行っている場合である。
本来ならそのように「適法に」施術する者を増やしてから法制化を目指すべきだろう。
それが海外で免許を取ったからと、問診や検査などの医師法違反の行為をしながら法制化を目指すとなれば、違法行為を開き直るための合法化と見られても仕方あるまい。
立法化の手続きとして間違っていると言わざるを得ない。