無資格者は患者個人の心身の状態に応じた医学的判断・助言をしてはならないし、治療のための施術計画を立ててもいけない。グレーゾーン解消制度やオンライン診療ガイドライン、富士見産婦人科病院事件より。

 

グレーゾーン解消制度における厚労省の回答

www.meti.go.jp

厚労省のリリースは下記PDF(回答日は2019年2月26日)

https://www.mhlw.go.jp/shinsei_boshu/gray_zone/dl/jisseki_03.pdf

内容としては照会した行為が医行為に該当するか否か?ということである。

で、照会内容には

当照会の事業において、当該疾患又は医薬品に関する学術書、医学関連学会より公表されている診療ガイドライン、当該医薬品を製造・販売している製薬会社が作成した添付文書、インタビューフォーム、くすりのしおり、適正使用ガイド、ホームページ等で公開されているFAQ及び患者指導資料に基づき、当該医薬品の適応症となっている疾患についての情報(症状、診断基準、治療方法、薬物療法の内容等)や当該医薬品に関する情報(副作用、使用上の注意等)を患者等に提供することは、患者の個別の状態に応じた医学的な判断を含む行為にあたらず、公開情報に限った情報提供であり、医業に該当せず、医師法第17条に抵触しないと解釈してよいか。

ともある。

厚労省の回答は

御照会の行為は、いずれも医行為に該当せず、医師でない者がこれを業として行ったとしても、医師法第17条に違反しない。
なお、患者の個別的な状態に応じた医学的判断は行わないようにご留意いただきたい。

とあるわけである。

オンライン診療ガイドラインにおける記述

オンライン診療の適切な実施に関する指針 (2018年3月作成、2019年7月一部改定)

https://www.mhlw.go.jp/content/000534254.pdf

用語の定義より

 遠隔健康医療相談(医師)
遠隔医療のうち、医師-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行い、患者個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言を行う行為。相談者の個別的な状態を踏まえた診断など具体的判断は伴わないもの。


遠隔健康医療相談(医師以外)
遠隔医療のうち、医師又は医師以外の者-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行うが、一般的な医学的な情報の提供や、一般的な受診勧奨に留まり、相談者の個別的な状態を踏まえた疾患のり患可能性の提示・診断等の医学的判断を伴わない行為。

 遠隔健康医療相談の「医師」と「医師以外」の区別は2019年の一部改定で行われたようである。

改定前のガイドラインでは

遠隔健康医療相談
遠隔医療のうち、医師又は医師以外の者-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行うが、一般的な医学的な情報の提供や、一般的な受診勧奨に留まり、相談者の個別的な状態を踏まえた疾患のり患可能性の提示・診断等の医学的判断を伴わない行為

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000201789.pdf

とあった。

医師と医師以外の者が行えることが同じになっていた。

この古いガイドラインの理解のまま、医師による遠隔健康医療相談でできることを読んだ場合、誤解を招きかねないのである。

 

なので無資格者は「患者個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言」は行えないと言える。

 

ガイドラインの別添の表より

f:id:binbocchama:20200105141649j:plain

 

このガイドライン自体はオンライン診療に関するものなので、病院・診療所を対象にしているかと思われる。なので医師以外には看護師などのコメディカルも含まれるのであろう。あはき師や柔整師は考慮されていないと思う。

 

富士見産婦人科病院事件

私は富士見産婦人科病院事件で示された

医師が無資格者を助手として使える診療の範囲は、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。

 という基準に従い、無免許業者をあはき法第12条違反、医師法第17条違反と指摘してきた。

まだ判決を紹介していなかったので、紹介しておく。

民事も含めた概要はwikipediaを読んでほしい。

富士見産婦人科病院事件 - Wikipedia

無資格診療
理事長の無資格診療については、理事長が医師法違反、それを見逃していた院長が保助看法違反の容疑でそれぞれ起訴された。

1988年1月、元理事長に懲役1年6ヶ月執行猶予4年、院長に懲役8ヶ月執行猶予3年の有罪判決が確定した。

保助看法違反事件

東京高裁平成元年2月23日判決 昭和63(う)746*1
上告棄却

 

医師である院長(被告人)が無資格者に指示して

  • 超音波検査
  • 心電図検査
  • 筋膜の縫合糸の結紮

をさせていたことが保健師助産師看護師法違反に問われた事件である。

一審では有罪判決が出され、被告人は控訴していた。

被告人の控訴審における主張は

(一)保健婦助産婦看護婦法(以下「保助看法」という。)四三条一項一号による処罰の対象は、人の健康に害を及ぼすおそれのある診療補助業務に限られるべきであるところ(あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法所定の無資格者による医業類似行為の禁止に関する最高裁判所昭和三五年一月二七日大法廷判決・刑集一四巻一号三三頁参照)、本件各診療補助行為はいずれも患者に全く危害を与えるおそれのないものであり、


(二)医師は、その指揮監督の下に、患者に対し危険を生ずるおそれのない事項について、無資格者を使って診療の補助をさせることが許されているところ大審院大正二年一二月一八日第二刑事部判決・刑録一九輯一四五七頁、大審院昭和一一年一一月六日第四刑事部判決・刑集一五巻一三七八頁参照)、本件各診療補助行為はこれに当たるから、

 

いずれにしても、被告人を有罪とする原判決には法令の解釈適用を誤った違法がある、というのである。

と、昭和35年判決を引用して、行わせた行為は人の健康に害を及ぼすおそれがないから無罪である、というものである。

それに対して東京高裁は

医師が無資格者を助手として使える診療の範囲は、おのずから狭く限定されざるをえず、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。 

 そして、被告人の関与した本件各診療補助行為は、のちに述べるとおり、いずれも右の医師の助手として行うことができる範囲を明らかに超えるものであったから、これを適法視する余地はない。

として、被告人が行わせた各行為の「人の健康に対する危険を発生させるおそれ」を認定して控訴を棄却している。

これは保助看法違反事件だから医師の監督監視状況も判示されているが、医師法違反やあはき法違反、つまり独立判断での治療・施術行為の場合、無資格者が行えるのは「患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業」に限定される。

なので患者個別の身体状況に応じた、医学的判断又は医学的判断を伴う行為は無資格では行えない、と言えるだろう。

医師法違反事件*2

無資格で超音波検査を行っていたのは院長の夫(理事長)である。

この夫は医師法違反にも問われ、有罪が確定している。

 しかるところ、本件ME検査(筆者注:超音波検査)は、ME装置の操作技術に習熟した者が、解剖学、生理学、病理学等の医学的知識及び経験に基づき、的確にこれを行うのでなければ、診断の正確性ないしは治療の適正を損ない患者の健康状態に悪影響を及ぼすべきことが明らかであるから、本件被告人の前示のような行為、すなわち、ME装置を操作して患者の具体的病状、病名等を独自に診断、判定し、その結果及び検査治療方法等を自ら患者に告知し、かつ、精密検査ないしは手術のための入院を慫慂するという行為を反覆継続する意思で行つたことは、医師が行うのでなければ保健衛生上人体に危害を及ぼすおそれのある行為を業として行つたものとして、医師法一七条にいう医業に該当するものと解される。 

 患者の身体状況を判断、告知し、治療方法などを説明し、入院を慫慂(しょうよう)する行為が医行為と認定されたわけです。

 

よく整体などのサイトや広告を見てますと、検査して症状の原因を特定し、施術計画を立て、利用者に説明することを謳っていたりしますが、検査して症状の原因を「判断」し、治療のための通院を慫慂しているわけです。

この入院の慫慂との違いを無資格者の方は説明できますかね?

*1:判例タイムズno.691 1989.5.15 p152 東京高裁(刑事)判決時報40巻1〜4号9頁

*2:

東京高裁平成元年3月27日判決、昭和63(う)745
出典:D1-Law.com判例体系 判例ID:28165384

第一審:浦和地裁川越支部昭和55(わ)506 判例時報1282号26頁
平成2年3月8日上告棄却