保健指導は医行為ではなかった?誤った保健指導は人を殺す。

保健指導は医行為なのか?

タトゥーの最高裁決定に関し、

 

といったコメントが有った。

 

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保健師助産師看護師法保助看法)の条文

第二条 この法律において「保健師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。


第三条 この法律において「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。

第五条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

 

第二十九条 保健師でない者は、保健師又はこれに類似する名称を用いて、第二条に規定する業をしてはならない。


第三十条 助産師でない者は、第三条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法(昭和二十三年法律第二百一号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。


第三十一条 看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

 

というわけで、保健師又はこれに類似する名称を用いない限り、保健師でない者が保健指導に従事しても法的には問題なさそうである。

 

保健師の「保健指導に従事すること」と、助産師の「保健指導を行うこと」の違いがよくわからないけど。

 

また保助看法保健師の業務に関し

第三十五条 保健師は、傷病者の療養上の指導を行うに当たつて主治の医師又は歯科医師があるときは、その指示を受けなければならない。


第三十七条 保健師助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。ただし(略)

と「傷病者の療養上の指導」を行う場合、傷病者に主治医がいる場合には、主治医の指示を必要としている。

 

 「傷病者の療養上の指導」というのは「保健指導」に含まれるのだろう。

断食の指示は医師法違反で訴追されていない。

問診について判示した最高裁決定では

断食道場の入寮者に対し、いわゆる断食療法を施行するため入寮の目的、入寮当時の症状、病歴等を尋ねる行為(原判文参照)は、その者の疾病の治療、予防を目的とした診察方法の一種である問診にあたる。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51069

としている。この事件の一審判決では

(罪となるべき事実)
被告人はAと共謀のうえ


第一、医師でないのに、昭和四三年六月一二日ころから同年七月二一日ころまでの間、東京都…所在の関東断食道場東京支部において、別表(一)記載のとおりBほか六名の者に対し、診察(問診)、下剤ミルマグの投与などの診療行為をなし、もつて医業を行い


第二、薬局開設者ないし医薬品販売業の許可を受けたものでなく、かつ、法定の除外事由がないのに、業として昭和四三年六月一二日ころから同年七月二一日ころまでの間、前同所において、別表(二)記載のとおりBほか一一名の者に対し、下剤ミルマグ合計一四瓶を一瓶あたり金二〇〇円で販売したものである。

東京簡易裁判所 昭和47年04月19日 昭和45年(ろ)第665号

とあり、断食の指示をした事自体は罪とされていない。

控訴審判決でも

被告人が原判示のB外六名に対して前示の如く入寮当時の症状、病歴等を尋ねた行為は、当該相手の求めに応じてそれらの者の疾病の治療、予防を目的として、本来医学の専門的知識に基づいて認定するのでなければ生理上危険を生ずるおそれのある断食日数等の判断に資するための診察方法というほかないのであつて、いわゆる問診に当るものといわなければならない。

東京高等裁判所 昭和47年12月06日 昭和47年(う)第1260号

と判示されている。

「本来医学の専門的知識に基づいて認定するのでなければ生理上危険を生ずるおそれのある」が「断食日数等の判断」にかかっているのか、「診察方法」にかかっているのか、曖昧ではあるが、断食日数等を判断し、告知・指示した行為については訴追されていないのである。

 

となると「傷病者の療養上の指導」は危険性があっても、医行為では無いのかもしれない。

指導のために必要な判断を行うための診察は医行為だけど。

 

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誤った保健指導は人を殺す

祈祷師による殺人事件

誤った、というよりは未必の故意での殺人事件とされたのが、栃木の祈祷師が、1型糖尿病の子供の親に対し、インスリン投与を中止するように指導した事件である。

 

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 この事件ではインスリン不投与の指示で被害者が入院しており、被告人もその情報を得ていた。そのため未必の故意の立証ができたとも言える。 

 

しかし、最初のインスリン不投与で死亡した場合、未必の故意の立証は困難となり、民事ですら賠償を得るのが困難となる。

最初のインスリン不投与の指示で患者が死亡し、法的責任を逃れた次世紀ファーム研究所事件

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7月15日。豊島母娘は岐阜県恵那市の「山の家」に入った。その日の夕食時、美也子(筆者注:亡くなった少女の母親)は堀(筆者注:次世紀ファーム研究所代表)に、桂子(筆者注:亡くなった少女、美也子の娘)がⅠ型糖尿病であり、インスリンを持参しなかったことを告げた。堀は「よく分かりました。もう大丈夫です」と答えたという。さきの本宮は、堀が豊島母娘に「治療はもう始まっているのですよ」と言っていたのを聞いている。…

が、しかし。当然ながら桂子の状態はその夜からどんどん悪化した。…

18日朝。桂子が寝息をたてていないことに気づいた本宮がびっくりして堀に報告。救急車を呼んだがすでに遅かった。医師が不審を抱き警察に連絡した。マスコミの知るところとなり、「次世紀ファーム研究所事件」として一時メディアを騒がせたのだった。

この事件は刑事事件としては翌06年に山田和子が過失致死と薬事法違反で起訴されたが、昨年2月の岐阜地裁判決で前者は無罪、後者は懲役1年、執行猶予3年、罰金50万円の判決が下され確定した。母親の美也子は起訴猶予、そして堀は証拠不十分で不起訴であった。美也子は事件後まもなく8月に家族や友人の働きかけによって真光元神社を脱会。翌06年に夫とともに堀らに対して民事訴訟東京地裁に起こした。

民事訴訟は結局、被害者の両親の敗訴となった。

薬学博士を名乗っていたが、薬剤師でもなく、薬剤師と名乗っていたわけではない堀は死亡を予見できなかった、ということだ。

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しかし2011年7月、東京高裁・設樂隆一裁判長は「堀は、医療の専門家でもなく、1型糖尿病についての知識もない」「緊急に病院へ搬送すべきであると判断することは困難であったといわざるを得ない」などとして、両親の訴えを却下しました。

栃木の事件が判例になったことにより、ニセ医学の抑止に関して楽観的な意見を見かけるが、医療系国家資格を持たない者の誤った指導で、一発で死亡した場合、殺人罪での立件は困難なのではないか?

 

症状・疾病の治療等を謳う場合、保健指導は求められがちであり、誤った保健指導は健康被害をもたらすから無免許での治療行為は禁止処罰されて然るべきである。

初めて私のブログを読まれる方に説明すると、本記事で紹介したような無免許治療が放置されているのは、本来、それを禁止していた法律に関し、最高裁が「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に禁止処罰対象を限定した判決を出したためである(業界では昭和35年判決という。)

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51354

その結果、無免許治療が野放しとなり、健康被害が発生し、死人も出ている。

消費者庁:法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に[PDF]

 

例え施術行為が人の健康に害を及ぼすおそれが無くとも、症状・疾病の治療等を求める患者は症状改善・予防のための保健指導を求めるものである。

誤った保健指導が健康被害をもたらしうるのは本記事で紹介した事件のとおりである。

よって、無免許での、医療関連性を持った施術を禁止したとしても憲法22条に違反しないのは最高裁判所大法廷昭和40年7月14日判決(刑集 第19巻5号554頁)に照らし、明らかである。

ところで、旧薬事法二九条一項は、医薬品の販売業を営もうとする者に対し、販売の対象が、同法二条四項にいわゆる医薬品に該当する限り、法定の登録を受くべきことを義務づけているものであることは、その規定自体に照らして明らかである。

そして、同法がかような登録制度をとつているのは、販売される医薬品そのものがたとえ普通には人の健康に有益無害なものであるとしても、もしその販売業を自由に放任するならば、これにより、時として、それが非衛生的条件の下で保管されて変質変敗をきたすことなきを保しがたく、またその用法等の指導につき必要な知識経験を欠く者により販売されこれがため一般需要者をしてその使用を誤らせるなど、公衆に対する保健衛生上有害な結果を招来するおそれがあるからである。

このゆえに、同法は医薬品の製造業についてばかりでなく、その販売業についても画一的に登録制を設け、同法二条四項にいわゆる医薬品に該当する限りその販売について、一定の基準に相当する知識経験を有し、衛生的な設備と施設をそなえている者だけに登録を受けさせる建前をとり、もつて一般公衆に対する保健衛生上有害な結果の発生を未然に防止しようと配慮しているのであつて、右登録制は、ひつきよう公共の福祉を確保するための制度にほかならない。

されば、旧薬事法二九条一項は、憲法二二条一項に違反するものではなく、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、論旨は理由がない。

最高裁判所大法廷昭和40年7月14日判決(刑集 第19巻5号554頁)

 

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