埼玉県が、認知症専門リハビリテーションLAPREを運営する株式会社LAPRE(代表取締役 岡本 一馬)に対し、優良誤認表示を行っていたとして、措置命令を出した。
命令に従い、表示は変更したようだが、景品表示法違反の表示をした事を告知するように命令を受けたにもかかわらず、その旨は告知していないようだ。
違反事実と命令内容
優良誤認表示の内容としては
- 「これが、薬を使わず認知症を改善させた脳のリハビリの方法です」等と表示するなど、あたかも、本件役務には認知症を改善する効果があるかのように表示していた。
- 「認知症専門リハビリ専門LAPREは日本で唯一改善実績のあるリハビリ施設です。」等と表示するなど、あたかも、日本で唯一の認知症が改善する役務の提供ができる施設であるかのように表示していた。
- 「当院は様々なメディアで取り上げられております」等と表示するなど、あたかも、本件役務が様々なメディアの企画又は特集として取上げられているかのように表示していた。
- 「事実、認知症専門リハビリを受けたご家族様はこのような結果を手に入れています・・・」等と表示するなど、あたかも、体験談が掲載された12名の顧客は、本件役務の提供により認知症が改善した体験を有しているかのように表示していた。
- 「※個人の感想であり、成果を保証するものではありません。」と表示するなど、当該表示は、一般消費者が上記12名の顧客の体験談の表示から受ける本件役務の効果に関する認識を打ち消すものではない。
と挙げられている。
命令内容
そして命令として
-
景品表示法に違反する表示を行っていたことを一般消費者に周知徹底すること。
-
再発防止策を講じて、これを従業員に周知徹底すること。
-
今後、同様の表示を行わないこと。
が挙げられている。
しかし、2月18日にこの処分を知って以来、私はLAPREのウェブサイトを「景品」でページ内検索をしているが、ヒットしない。
認知症専門リハビリLAPRE | 認知症の改善を諦めないでください
命令が出されたのが2月17日なので、その日だけ違反事実を告知していた可能性は否定できないが。なお、後述するように埼玉県から指摘された表現は変えてあるので、ウェブサイトの管理を業者任せにしているから、という言い訳は通じないだろう。
また命令内容は「利用者」「契約者」「顧客」ではなく「一般消費者」である以上、個別の利用者に告知すればよいわけでは無いと思うが。
認知症の改善効果の表示
これに関しては
実際には、顧客が認知症の診断を受けていない場合にも本件役務の提供はなされており、さらに、認知症が改善したとする定義は医師が診断した結果によるものではなく、MMSE等のいわゆるスクリーニング検査の点数の向上又は顧客の主観的意見及び顧客の家族の客観的意見によるものであった。
と説明している。
なお、埼玉県の資料掲載の画像では「認知症を改善させた」となっているが、本記事執筆時の画像は「認知症状を好転させた」と変えてある。
もっとも一般の読者の理解を前提にすれば、「好転」の意味するところが改善であるだろうし、後述するように現在でも「改善実績のあるリハビリ施設」と自らを表示している。
唯一性の表示
これに関しては
実際には、第三者機関による調査の結果等で、日本で唯一認知症が改善できる施設であるとされたのではなく、同様の施設が存在しないと自認しているのみであった。
と説明している。
「認知症専門リハビリ専門LAPREは日本で唯一、改善実績のあるリハビリ施設です。」という表示は現在、「認知症リハビリLAPREは日本でも数少ない、改善実績のあるリハビリ施設です。」となっている。
認知症の改善効果を表示するな、と言われただろうに。
体験談と打ち消し表示
4の体験談表示に関しては
実際には、
(1.)体験談が掲載された12名の顧客うち、6名は医療機関に通院しており、そのうちの2名は薬を服用していたが、本件役務の効果によってのみ認知症が改善されたと判断できる医師の施術記録等はなかった。
(2.)残りの6名は、認知症の診断を受けていないにもかかわらず、本件役務の効果によって認知症が改善されたと評価されていた。
上記(1.)及び(2.)から、体験談が掲載された12名の顧客は、認知症が改善したとの体験談を有しているとはいえない。
と説明され、その体験談に「個人の感想であり、成果を保証するものではありません。」と表示したことに関しては
当該表示は、一般消費者が上記12名の顧客の体験談の表示から受ける本件役務の効果に関する認識を打ち消すものではない。
と説明している。
治療効果の体験談広告を禁止する医療広告ガイドライン
病院、診療所の広告を規制する医療広告ガイドラインでは「患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告」を禁止している。
(5) 患者等の主観に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談
省令第1条の9第1号に規定する「患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告をしてはならないこと」とは、医療機関が、治療等の内容又は効果に関して、患者自身の体験や家族等からの伝聞に基づく主観的な体験談を、当該医療機関への誘引を目的として紹介することを意味するものであるが、こうした体験談については、個々の患者の状態等により当然にその感想は異なるものであり、誤認を与えるおそれがあることを踏まえ、医療に関する広告としては認められないものであること。
これは、患者の体験談の記述内容が、広告が可能な範囲であっても、広告は認められない。
なお、個人が運営するウェブサイト、SNS の個人のページ及び第三者が運営するいわゆる口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼しているなどによる誘引性が認められない場合は、広告に該当しないこと。https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000209841.pdf#page=11
本件施設は理学療法士である岡本氏が運営しているものの、病院、診療所ではない(詳細は後述)ので医療法の広告規制は受けない。
しかし体験談の打ち消し表示に関しては消費者庁がすでに「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点」という報告書を出している。
消費者庁による、体験談を用いた広告に関する留意点
同報告書では
体験談を用いる際は、体験談等を含めた表示全体から「大体の人に効果がある」と一般消費者が認識を抱くことに留意する必要がある。
また、試験・調査等によって客観的に実証された内容が体験談等を含めた表示全体から一般消費者が抱く認識と適切に対応している必要があるところ、上記のような認識を踏まえると、実際には、商品の使用に当たり併用が必要な事項(例:食事療法、運動療法)がある場合や、特定の条件(例:BMIの数値が 25 以上)の者しか効果が得られない場合、体験談を用いることにより、そのような併用が必要な事項や特定の条件を伴わずに効果が得られると一般消費者が認識を抱くと考えられるので、一般消費者の誤認を招かないようにするためには、その旨が明瞭に表示される必要がある。
とし、「求められる表示法」として
体験談により一般消費者の誤認を招かないようにするためには、当該商品・サービスの効果、性能等に適切に対応したものを用いることが必要であり、商品の効果、性能等に関して事業者が行った調査における
(ⅰ)被験者の数及びその属性、
(ⅱ)そのうち体験談と同じような効果、性能等が得られた者が占める割合、
(ⅲ)体験談と同じような効果、性能等が得られなかった者が占める割合等
を明瞭に表示すべきである。
としている。
現在でもLAPREのウェブサイトには体験談が掲載されているが、体験談と同じような効果が得られなかった者の割合は記載されていないようである。
「自称リハ」「無免許医業」としての本件役務の問題
LAPREの運営者である岡本氏は国家資格である理学療法士(PT)である。
他に作業療法士(OT)がスタッフにいることはYoutubeのチャンネルで確認できているが、LAPREの施術者全員がPTやOTなどの国家資格を持っているかは不明である。
PT、OTの免許と業務範囲
PTやOTの免許の業務範囲は医師の指示下や診療所等内に限定される。
(定義)
第二条 この法律で「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マツサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
2 この法律で「作業療法」とは、身体又は精神に障害のある者に対し、主としてその応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るため、手芸、工作その他の作業を行なわせることをいう。
3 この法律で「理学療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者をいう。
4 この法律で「作業療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、作業療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、作業療法を行なうことを業とする者をいう。
と定義され、
(業務)
第十五条 理学療法士又は作業療法士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定*1にかかわらず、診療の補助として理学療法又は作業療法を行なうことを業とすることができる。
2 理学療法士が、病院若しくは診療所において、又は医師の具体的な指示を受けて、理学療法として行なうマツサージについては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第一条の規定は、適用しない。
と、診療の補助、つまり医師の指示を受けての行為としてのみ、理学療法又は作業療法を業として行えることが規定されている。
つまり医師の指示を受けなければ相対的医行為(看護師等が医師の指示を受けた上で行える行為)に該当する行為であっても業として行えない。
日本理学療法士協会も以下の通知を出している。
保険適用外の理学療法士活動に関する本会の見解
最近、理学療法士が施術所、患者宅等において脳卒中後遺症患者、腰痛・頸肩腕障害患者等に対し、医療保険、介護保険を利用せず、理学療法を実施する行為を宣伝したホームページが見受けられます。また、各地から理学療法士による違反行為としての指摘を受けております。身分法上は、「理学療法士とは、厚労大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下、理学療法を行うことを業とする者をいう。」となっています。したがって、理学療法士が医師の指示を得ずに障害のある者に対し、理学療法を提供し、業とすることは違反行為となります。
本会としましては、理学療法士の「開業権」及び「開業」については、現行
法上、全く認められるものではないとの見解に立っています。
ただし、身体に障害のない方々への、予防目的の運動指導は医師法、理学療
法士及び作業療法士法等に抵触しませんが、事故あるときには、他の法的責任
が免除されることはありません。医師とのしっかりとした連携の上で、より安
全で効果的な運動指導を行うことが求められます。https://www.japanpt.or.jp/upload/japanpt/obj/files/members/kyuukoku20150130.pdf
自費リハビリと自称リハ
最近は「自費リハビリ(自費リハ)」として開業・施術しているPT,OTが増えている。
日本医師会総合政策研究機構が経済産業省の事業として作成した令和元年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(公的保険外・医療周辺サービス実態調査)調査報告書では
医療機関が実施するリハビリテーションには、公的保険によるものと公的保険外によるものがある。また、医療機関以外の民間事業者が医療行為ではないサービスを「自費リハビリ」と称して提供している。本稿ではこれらの「自費リハビリ」を「自称リハ」と呼ぶ。
と記述し、以下のように図示している。
公的保険外で、医師の指示のもとに行われるリハビリであれば「自費リハビリ」で良いと思うが、医師の指示無しでのリハビリ・治療行為は前述のとおり、業として行える法的根拠も無く、「自称リハ」という名称は妥当だと思われる。
また埼玉県は本件発表で、LAPREを「整体院等を経営する事業者」としていること、免責事項のページで
当院の施術は医療行為ではありません。自身の自己回復力・維持力を高める為に筋骨格系に重点をおく代替療法です。施術効果が最大限上がるように様々な手技や体操指導等行いますがいわゆる確実な治療効果や治癒を保証するものではございません。
と医療行為であることを否定していることから、医師の指示を受けてはいないと考えられる。「リハビリの流れ」にも、医師を関与させるような記述は見受けられない。
無免許医業(医師法違反)について
医師法17条で無免許医業は禁止されている。医業は医行為を業として行うことであり、
医行為とは,医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解するのが相当である。
本件役務の医療関連性
本件役務に関しては、「認知症の改善」改め「認知症状の好転」を目的・効果として表示しているが、これが「医療及び保健指導に属する行為(医療関連性のある行為)」であることに異議がある方はおられないと思う。
診察行為と適切な治療機会を逸失するおそれ
問診や超音波検査などの診察行為はそれ自体では身体を傷つけるなど、積極的な健康被害を招くものではない。しかし診察結果を誤った場合、適切な治療機会を逸失するおそれ(消極的弊害)があり、保健衛生上の危険性が有る行為とされる。
問診に関しては最高裁決定(判例)*2があり、超音波検査も裁判例がある。*3
医師が無資格者に行わせることができる行為の基準としては「患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度」ということが判示されている。
また民間療法の治療家側が通常の医療を否定し、その結果、患者が死亡した事例もある。
本件役務における診察行為や身体状況の判断
「リハビリの流れ」では認知症状の本当の原因を突き止め、「今の脳の状態」について説明するそうだ。
これはまさに診察・診断というわけで、PTやOTが医師の指示なしに業として行える行為ではない。医師法17条に違反する。
消極的弊害の可能性
LAPREのウェブサイトを「薬」でページ内検索をするとわかるが、薬に対する悪印象を植え付けている。例えば「認知症を改善させるときに、とりあえず脳トレや薬を飲むことは間違っています!!」などと書いている。
埼玉県が指摘したように、体験談が載せてある患者顧客には薬を服用しており、施術のみの効果とは認められない、と判断されている人が2名いる。
(1.)体験談が掲載された12名の顧客うち、6名は医療機関に通院しており、そのうちの2名は薬を服用していたが、本件役務の効果によってのみ認知症が改善されたと判断できる医師の施術記録等はなかった。
施術で認知症状が改善したと思い込んだ顧客が、勝手に薬の服用を止め、症状を進行させる可能性が否定できない。
症状の改善の結果、薬の服用を止めれるようになることは喜ばしいが、何も薬に悪印象を与える広告をしなくても良いと思うが。
このような広告をしている業者が、症状が自覚上改善し、薬をやめたいと言った顧客に対し、まず主治医に相談するように助言できるのか。
施術料金の返還を求めるには
LAPREの施術料金は半年、24回で約30万円らしい。
あの!半年30万を月々8,000円で通えるあのLAPREさんが!まさか https://t.co/Es2fGPTQrQ pic.twitter.com/HmxFbXVARi
— 地方の理学療法士🚀 (@ChihoPT) 2022年2月19日
消費者契約法による施術契約の取り消し
消費者契約法では役務の勧誘の際、重要な事実について、事実とは異なることを告げた場合(不実告知)、契約を取り消せることになっている。
公序良俗違反による契約無効
LAPREの業務が医師法違反の業務であることは既述のとおり。
なので違法業務の契約だから公序良俗に反して無効(民法90条)。
だから施術料金を返還しろ、と請求できる。
特定適格消費者団体による訴訟
今回の埼玉県の認定をそのまま使えるかはわからないし、30万円程度なら弁護士費用で消えてしまいそうである。
なので一度、特定適格消費者団体にご相談を薦める。
特定適格消費者団体は集団消費者被害の回復訴訟を行える。
具体例としては医大入試の女子差別に関する訴訟である。
訴訟は多数の被害者の一括救済を図る消費者裁判手続き特例法に基づき、機構が受験生に代わって起こした。訴訟手続きは2段階で、大学の返還義務を認めた判決が確定すれば、次は個別の支払額を決める。機構は1人当たり約4万~6万円が返還され、対象者は約3000人に上るとみている。
埼玉県にはこの裁判を起こせる特定適格消費者団体である埼玉消費者被害をなくす会がある。
適格消費者団体 特定適格消費者団体 特定非営利活動法人 埼玉消費者被害をなくす会
被害者の方は相談してみてはどうだろうか。
*1:第三十一条 看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。
2 保健師及び助産師は、前項の規定にかかわらず、第五条に規定する業を行うことができる。
第三十二条 准看護師でない者は、第六条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。
*2:
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51069
*3:東京高裁平成元年2月23日判決 昭和63(う)746 判例タイムズno.691 1989.5.15 p152 東京高裁(刑事)判決時報40巻1〜4号9頁