最近、月曜日のたわわの新聞広告に関し、企業の表現の自由が話題になっているようである。
そして営利広告に関する大法廷判決は、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき法)第7条の広告規制に関するものだけであろう。
論旨は、本件広告はきゆうの適応症を一般に知らしめようとしたものに過ぎない
のであつて、何ら公共の福祉に反するところはないから、同条がこのような広告ま
でも禁止する趣旨であるとすれば、同条は憲法一一条ないし一三条、一九条、二一
条に違反し無効であると主張する。しかし本法があん摩、はり、きゆう等の業務又は施術所に関し前記のような制限を設け、いわゆる適応症の広告をも許さないゆえんのものは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。
されば同条は憲法二一条に違反せず、同条違反の論旨は理由がない。
適切な医療受診機会を逸失するのを未然に防止することが公共の福祉にかなう、としている。
さて、昭和35年判決を見てみよう。
憲法二二条は、何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有するこ
とを保障している。されば、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法一二条
が何人も同法一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならないと規
定し、同条に違反した者を同一四条が処罰するのは、これらの医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するものと認めたが故にほかならない。ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虞があるからである。
それ故前記法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないのであつて、このような禁止処罰は公共の福祉上必要であるから前記法律一二条、一四条は憲法二二条に反するものではない。
あはき法で業として医業類似行為を行うのを禁止しているのは、公共の福祉に反するからである。
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公共の福祉に反する理由として人の健康に害を及ぼすおそれがあることを説明。
である。
あはき法制定時、医業類似行為を禁止するのは適切な治療機会の逸失という消極的な弊害を防ぐ旨、政府は回答している。
そして広告判決では適切な医療受診機会を逸失するのを未然に防止することが公共の福祉にかなう、としているわけである。
昭和35年判決の、「これらの医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するものと認めたが故にほかならない。」を肯定したとしても、維持すべき公共の福祉として、消極的弊害の防止を無視することは広告判決と矛盾するわけである。
なお、広告判決では憲法21条(表現の自由)、昭和35年判決では憲法22条(職業選択の自由)が問題にされたわけだが、
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。 第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。② 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
と、表現の自由に関しては条文上、公共の福祉による制限はない。
一方、職業選択の自由に関しては条文にも明確に公共の福祉による制約がある。
表現の自由に対する制約理由としての公共の福祉として、消極的弊害の防止が認められているのに、職業選択の自由を制限する公共の福祉として、消極的弊害の防止が認められないことがあろうかや。