俳優の新井浩文容疑者が強制性交罪の容疑で逮捕されたそうである。
- 被害者の所属する店に関する「派遣マッサージ店」と「派遣エステ店」という報道
- 疲労回復などのマッサージを業とするにはあん摩マッサージ指圧師の免許が必要である。
- NHKが「エステ店」と報道
- 「本番行為禁止」のマッサージ店?
- 被害者を派遣した店は無免許マッサージなり、風営法違反で処罰されるべき
被害者の所属する店に関する「派遣マッサージ店」と「派遣エステ店」という報道
例えば読売新聞の報道
新井容疑者「やっていないこともある」一部否認 : 国内 : 読売新聞オンライン
マッサージ店の女性従業員に乱暴したとして、警視庁は1日、俳優・新井浩文(本名・朴慶培パクキョンベ、韓国籍)容疑者(40)(東京都世田谷区太子堂)を強制性交容疑で逮捕した。調べに対し、事実関係を大筋で認めているが、「押さえつけてはいない」などと一部否認しているという。
発表によると、新井容疑者は昨年7月1日未明、自宅マンションで、出張マッサージ店から派遣された30歳代の女性従業員の頭を押さえつけるなどした上で性的暴行を加えた疑い。
同店は「セラピスト」と呼ばれる女性従業員がマッサージをし、客に性的サービスがないことへの同意書の署名を求めている。新井容疑者も、昨年3月に初めて利用した際に署名していた。事件当日は4回目の利用で、この女性従業員を指名したのは初めてだったという。
(強調は筆者による。以下同様。)
というわけで出張マッサージに来た女性従業員を強姦した容疑である。
で、NHKの報道。
新井浩文容疑者 禁止事項の書類にサイン 違法性を認識か | NHKニュース
東京 世田谷区の俳優、新井浩文容疑者(40)は去年7月、東京・世田谷区の自宅で、派遣型エステ店で働く30代の女性セラピストに性的な暴行をしたとして、1日、警視庁に逮捕されました。
と「エステ店」と報道している。
この違いは何か。
疲労回復などのマッサージを業とするにはあん摩マッサージ指圧師の免許が必要である。
この「出張マッサージ」、性的なサービスではなく、健全なマッサージである、という報道もある。
被害女性は俳優と分からず 熟練セラピストでショックで店辞める― スポニチ Sponichi Annex 芸能
出張マッサージ店は風俗店ではなく、性的なサービスはなかった。新井容疑者も昨年3月の初回利用時に「本番行為禁止」とした旨の念書に署名押印している。捜査関係者は「女性は抵抗したが、どうしようもなかったようだ」と話した。被害女性はマッサージのレッスンを受けた熟練のセラピストで、事件のショックにより同店を辞めている。
さて、業としてマッサージを行う場合、医師免許か、あん摩マッサージ指圧師免許が必要である。
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下「あはき法」)
第一条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。
私的にレッスンを受けていたとしてもそれは無免許マッサージの罪の免責理由にはならない。
で、そのマッサージ(あん摩、指圧)の定義であるが厚生省の通知では
法第一条に規定するあん摩とは、人体についての病的状態の除去又は疲労の回復という生理的効果の実現を目的として行なわれ、かつ、その効果を生ずることが可能な、もむ、おす、たたく、摩擦するなどの行為の総称である。*1
とされている。
なので性的な目的でマッサージを行うのであればマッサージ師免許は不要であるし、疲労回復などの健全な目的でマッサージを行うのであればマッサージ師免許が必要である。
しかし疲労回復などのマッサージであっても、無免許で営業しているのが多数である。
彼らの言い分は「マッサージとは違う手技である。」とし、リラクゼーションとかボディケアとかと称している。
そしてそれらの施術者は「セラピスト」と名乗ることが多い。
「マッサージ師」ではなく、「セラピスト」と名乗っている時点で無免許業者とほぼ判断できる。
しかし名称を変更していようとも、実態が疲労回復などを目的としたマッサージである場合、無免許で業として行えば犯罪である。
NHKが「エステ店」と報道
記事冒頭にも引用したように、ほとんどの報道機関は被害者を「出張マッサージ店のセラピスト」と表現していたが、NHKでは「派遣エステ店」と表現している。
これはマッサージ師の業界団体とNHKの間でドキュメント72時間の放送内容に関し、一悶着があったため、NHKは無免許マッサージの問題を認識しているためである。
平成29年度第7回あはき等法推進協議会開催 | 社会福祉法人 日本盲人会連合
協議会終了後、昨年11月24日に放送(12月2日再放送)されたNHKドキュメント72時間「“コリ”にまつわるエトセトラ」が無免許者を助長するような内容だったことについて番組担当者との話し合いを行いました。NHKは放映の訂正等は行わないが今後はデーターベース化して局内で情報を共有するとの回答でした。
「本番行為禁止」のマッサージ店?
前掲のスポニチの記事を再び引用する。
被害女性は俳優と分からず 熟練セラピストでショックで店辞める― スポニチ Sponichi Annex 芸能
出張マッサージ店は風俗店ではなく、性的なサービスはなかった。新井容疑者も昨年3月の初回利用時に「本番行為禁止」とした旨の念書に署名押印している。
免許を持ったマッサージ店でも性的サービスではないことを注意している店舗・施術所はある。
実際、そういうトラブルを経験している鍼灸マッサージ師もいる。
女性の鍼灸マッサージ師(国家資格者のみ)への質問です。
— びんぼっちゃま (@binbo_cb1300st) June 26, 2018
性風俗店と勘違いされた利用者に来院・依頼されたり、性的サービスを求められたことはありますか?https://t.co/ft3kdEakwR
しかしそういう合法なマッサージ店で「本番行為禁止」の念書を取るのは聞いたことがない。
NHKでは
その後の調べで、新井容疑者はエステ店が用意した、女性の体に触れるなどの禁止事項を記した書類にサインしていたことが、捜査関係者への取材でわかりました。さらに女性は、禁止事項を読み上げて伝えていたということです。
新井浩文容疑者 禁止事項の書類にサイン 違法性を認識か | NHKニュース
と報道している。「女性の体に触れるなどの禁止事項」が合法なマッサージ店でも注意されることがあるのは前述のとおり。
しかしNHKのテレビやラジオで「本番行為禁止」なんて放送するわけにもいかないでしょう。
「本番行為禁止」の念書を取るなんて明らかに性風俗店ではないか。
それなら無免許で「マッサージ」をしていてもあはき法上は問題ない。
風営法上はともかくとして。
被害者を派遣した店は無免許マッサージなり、風営法違反で処罰されるべき
というわけで、健全なマッサージ店だったら無免許マッサージだし、性的なサービスを行い、公安委員会に届け出をしてなかったら風営法違反だ。
そして派遣した店は性的サービスでは無い、としている以上、公安委員会には届け出をしていまい。
どちらにせよ派遣した店舗は処罰されるべきである。
今回の事件では「マッサージ」の状況も検証されるだろうから、立証が面倒だから無免許マッサージや風営法違反の立件をしない、という言い訳はできないはずである。
なお、無届け出の性風俗店営業の場合、従業員は処罰対象にはならなかったように思うが、風営法には詳しくない。
これが無免許マッサージの場合はマッサージをした従業員も処罰対象である。
(2019/02/20追記)
過去には無免許での派遣マッサージ店があはき法違反で摘発されている。
無資格のマッサージ師を全国の健康ランドやホテルに派遣していたなどとして、神奈川県警生活経済課と厚木署は、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師等に関する法律違反の疑いで、東京都新宿区のマッサージ師派遣会社「エーワン」の会長と社長(会長の実弟)の両容疑者を逮捕しました。
同課の調べでは、両容疑者は、横浜市瀬谷区の健康センター内に、県知事に無届けでマッサージ施術所を開設し、6月15日~7月26日の間、無資格のマッサージ師4人を使い13回にわたり、同区内の美容師女性ら9人にマッサージを行わせたということです。
4人のうち中国人男女2人がすでに逮捕されていました。
当時同社所属のマッサージ師は700人いましたが、そのうち522人は無資格だったとも伝えられています。
(2019/02/20追記終わり)
(追記)
無免許マッサージの危険性を軽く見られる方もおられるようである。
そうですね。違法であったなら処罰されるでしょう。しかしそれは逮捕されるような罰ではありません。
— LuLu❀ (@ena1107) 2019年2月2日
新井浩文さんの場合は刑事罰ですが。比べるものでもありませんね。
しかし、無免許マッサージで健康被害は発生しており、子供も殺されているのである。
(追記2)
こんな具合に表向きは(無免許)マッサージ店として営業し、性風俗営業をしているケースもあります。
(追記3)
もし、健全なマッサージ業務(無免許マッサージ、違法行為)という前提で新井容疑者を強姦罪に問う場合、被害者も無免許マッサージで処罰されなければいけないのは本文で述べたとおり。
もし、無免許マッサージを処分しない場合、被害者の業務に関する証言は不起訴処分を前提にした可能性が否定できなくなる。
そういう不起訴処分を約束されての証言は証拠能力を持たない。
ロッキード事件で問題になり、証拠不採用となった。
アメリカ合衆国在住の重要証人が、自己負罪拒否特権を理由に、日本での証言を拒否したのに対し、日本の検事総長(事件当時は布施健)が、刑事訴訟法第248条に規定された起訴便宜主義に基づき、起訴をしないことを約束し事実上の免責を与えて、アメリカ合衆国の裁判官に証人尋問を嘱託して作成した「嘱託証人尋問調書の証拠能力」が争われた。下級裁判所では、日本の法秩序の基本的理念や手続構造に反する重大な不許容事由を有するものでないとして、嘱託証人尋問調書の証拠能力を認めたが、最高裁判所は刑事免責に関する立法の欠如を理由に、嘱託証人尋問調書の証拠能力を否定した。
現在は司法取引制度が導入されているものの、それは企業犯罪、組織犯罪などが対象であり、性犯罪、業法違反などは対象外であるようだ。
日本版司法取引制度とは|2018年6月施行の背景と運用リスク|刑事事件弁護士ナビ
裁判においても『被疑者が、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠くものと解するのが相当である』という解釈が定着しています。