弁護士法人で社員に対するマッサージ等の施術を依頼するならちゃんと国家資格である鍼灸マッサージ師に頼もう。整体やリラクゼーションなどの無免許業者と契約したら懲戒請求を受けるかも。
本記事は施術業界・医療業界や一般の方よりも弁護士法人関係者に読んでもらうことを優先しております。
弁護士法人が整体やリラクゼーションなどの無免許施術事業者と、社員に対する施術を契約した場合、懲戒請求を受けるおそれがある。なので法的リスク管理の面でも、ちゃんと国家資格を持ったあん摩マッサージ指圧師(を派遣してくれる会社)に依頼しましょう、という話です。
- ベリーベスト法律事務所におけるマッサージ師(国家資格者)常駐
- マッサージ関係業界の法的状況
- 整体師をSNSで紹介した弁護士に対する懲戒請求
- コンプライアンスに厳しい上場企業は国家資格者の派遣を求めるらしい。
ベリーベスト法律事務所におけるマッサージ師(国家資格者)常駐
ベリーベスト法律事務所では「マッサージ師」が常駐し、スタッフのマッサージを行っているそうである。
はい、マッサージ師が常駐してます。すごい人気で予約で一杯になります。 https://t.co/8Cy25laXJV
— 酒井将 (@sakaisusumu_vb) 2022年4月30日
酒井将氏はベリーベスト法律事務所の代表弁護士である。
なのでその「マッサージ師」が国家資格であるあん摩マッサージ指圧師であるかどうかを尋ねたところ、
ちゃんとあん摩マッサージ指圧師が常駐しているのだろうか?
— びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 (@binbo_cb1300st) 2022年5月25日
無免許マッサージで無ければよいが。 https://t.co/9qk8ew6qKD
もちろん資格者ですよ。
— 酒井将 (@sakaisusumu_vb) 2022年5月25日
とのこと。
企業内に常駐し、社員等にマッサージ等を行う施術者がいる。
そしてその施術者を派遣することを事業として提供する会社も存在する。
なので会社で直接、施術者を雇用したり、契約する場合もあれば、提供事業者と契約し、施術者を派遣してもらうケースもある。
ベリーベストの求人サイトにはあん摩マッサージ指圧師の求人が見当たらないので提供事業者と契約しているものと思われる。
マッサージ関係業界の法的状況
初めてこのブログを読まれる法曹関係者の方に説明すると、業としてマッサージを行うにはあん摩マッサージ指圧師という免許が必要である。
あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき法)
第一条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。
しかし、マッサージと思える施術を行っている者全てがあん摩マッサージ指圧師の免許を持っているかというと、そうでもない。
あん摩マッサージ指圧師で無い者は、自身が行っている施術がマッサージではない、と主張するのである。
そして法定の医療免許を持たない者による、治療及び保健目的の施術は医業類似行為として、あはき法12条で禁止されている。
第十二条 何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。
ところが最高裁は医業類似行為の禁止処罰に関し、「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限定する判決を出す。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51354
そのため、無免許施術は人の健康に害を及ぼすおそれが無いという建前の下、放任されることになる。
そして整体やリラクゼーションと称した無免許マッサージ業者も堂々と営業するようになっている。
ベリーベストのサイトにおけるマッサージや整体の記述
なお、「接骨院」や「鍼灸院」というのは、医師ではないものの、国家資格を有する者によって運営されており、それぞれの業務に関する法律(柔道整復師法・あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律)が存在します。適用される場面は限定的であるものの、健康保険や労災保険等の適用を受けることもできます。そのため、上記のように「相当性・必要性」が立証できれば、加害者側に費用の負担を求めることもできます。
しかし、整体院や温泉治療、カイロプラクティック、リラクセーションマッサージなどの法律に基づかない医療類似行為については、その「相当性・必要性」が認められることはほとんどない、すなわち、これらの関して要した費用が相手方保険会社から支払われることはまずないと考えてよいでしょう。
なお、無資格者が行うような簡易な整体マッサージやクイックマッサージは利用すべきではありません。
過度な施術で余計に症状を悪化させる恐れもあり、保険会社が治療費を負担しない可能性も高いからです。
このように、区別して記述してくれるのはありがたい。
リラクゼーション業者は日本では株式上場を認められない。
リラクゼーション業界はこのようにグレーな感じなので、リラクゼーション業大手の会社、メディロムが株式を上場しようとしても、東京証券取引所が法令遵守の観点から許さず、海外で上場してたりする。
リラクゼーション業で国内上場はできない――。
これは、2000年の創業以来、14年間に渡り上場を目指し続けていたリラクゼーションスタジオRe.Ra.Ku を経営する株式会社メディロム江口康二社長が突きつけられた現実でした。
また「人の健康に害を及ぼすおそれが無い」建前であるが、実際には健康被害が生じている。
手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター
[PDF]消費者庁:法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に
このような違法性が高いリラクゼーション業者と社内施術の契約をした場合、違法行為の利用や助長として、懲戒請求を受ける可能性は高い。
証拠を確保できる場合、私なら懲戒請求する。
整体師をSNSで紹介した弁護士に対する懲戒請求
実際、私はSNSで整体師(無免許)を紹介していた弁護士に対して懲戒請求を行っており、綱紀委員会の議決待ちの状況である。懲戒請求をしてからもうじき1年になる。
以下の画像は綱紀委員会から送られてきた質問書である。
「上記整骨院」は「上記整体院」の間違いである。
カッコ内は対象弁護士の弁明書から転載したと思われ、公開していない著作物の転載と捉えられる可能性があるのでマスキングする。
質問書に記載された弁明の趣旨は、整体施術の違法性を認識することは不可能であり、弁護士本人に過失が無いというものであり、整体師の施術が違法では無いと主張する旨の記述は無かった。
具体的な質問内容は
と故意(認識)の証明を求めるものであった。
過失(容易に認識しえた)でも駄目なんじゃね?と思うのだが。本人が過失が無い(認識は不可能)旨、主張しているんだし。
そんなわけで、本事件の争点は対象弁護士の過失の有無である。
よって、仮に綱紀委員会が懲戒しない旨を議決した場合、それは私が対象弁護士の過失の立証に失敗しただけであり、整体業務が合法であることを意味しない、と予防線を張っておく。
もっとも本事件の整体業務が違法でないことが明らかであれば、こんな質問を送ってくる必要も無く、懲戒しない旨をさっさと議決すれば良い話である。
違法業務を行っている会社の顧問弁護士であったのみならず、違法性を認識し、あるいは法令等の調査や事実関係の調査をすれば容易に認識しえたにもかかわらずこれを認識してない場合でないと、違法行為の助長として懲戒処分を行うことができないようである。
以下は懲戒請求を棄却した、東京弁護士会綱紀委員会の議決書からの引用である(太字は筆者による)。
東京地裁判決及び金融庁回答等によれば、給与ファクタリングによる取引における債権譲渡代金の交付は貸金業や出資法にいう「貸付け」に該当し、当該取引を行う業者は貸金業法にいう貸金業を営む者にあたるから、申立外5社 は貸金業法第3条第1項(登録)に違反し、申立外5社が徴収していた手数料を年利に換算した利率によっては、利息制限法に違反し、貸金業法第42条第1項(高金利を定めた金銭消費貸借契約の無効)及び出資法第5条第3項(高金利の処置)に該当する可能性がある。
しかし、被調査入ら申立外5社の顧問弁護士に就任したことのみをもって 直ちに、必要な法令及び事実関係の調査の懈怠、違法行為の助長、品位を損なう事業への参加、弁護士としての品位を失うべき非行にあたるとは認められず、 給与ファクタリングの実態が貸付けであると認識しながら、あるいは、法令等の調査や事実関係の調査をすれば容易に認識しえたにもかかわらずこれを認識せず、貸金業としての登録や利息制限法の遵守、あるいは業務停止といった 適正な助言や指導をせず放置したと認められる場合に上記非行にあたる可能性があるといえる。
『棄却された懲戒の議決書』給与ファクタリング会社の顧問弁護士に懲戒申立8件目の棄却、被調査人提出書面なしでも棄却 東弁第4部会 – 弁護士自治を考える会
医師法やあはき法を知らない弁護士が無免許業者を宣伝する投稿をしていた場合、違法性を認識してないので、それだけでは懲戒処分にはならない。違法性を指摘して投稿の削除と、違法な業者を宣伝したこと、および施術料金の返金を受ける権利があることを告知するように求めるべきだろう。
削除等に応じてもらえなければ、その不作為と宣伝投稿のセットで違法行為の助長とし、懲戒請求をすればよい。
コンプライアンスに厳しい上場企業は国家資格者の派遣を求めるらしい。
会社にあん摩マッサージ指圧師を派遣している法人の経営者から、上場企業はコンプライアンスに厳しいので、料金が高くてもちゃんと国家資格者を持つ者の派遣を求めてくる、と聞いている。
そのようにコンプライアンスに厳しい企業の担当者が、顧問契約を結ぼうとする弁護士法人を見てみたとき、無免許の施術者の派遣を受け入れているのを見たらどう思うか。