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ニセ医学批判が名誉毀損にならないために理解しておくべき判例

五本木クリニックの桑満先生による、妊娠菌、妊娠米に関する記事

 

www.gohongi-beauty.jp

 

注意:文書中で「詐欺」という法律用語を使用しています。今回のメルカリの件は詐欺に当たらないと法律の専門家はおっしゃるかもしれません。しかし、一般人はこのような件を詐欺と解釈します。 

私は法律は素人ですが、名誉毀損の観点から。 

実名を挙げてこんな記事を書くぐらいですから名誉毀損については勉強しているわけです。

binbocchama.hatenablog.com

 

 

表示された効能が結果的に無い商品を売りつける行為を一般的な感覚で「詐欺」というのは理解できる*1のですが、このような表現は名誉毀損が成立しかねない、という話です。

 

ある行為が違法か合法かの指摘は一般的には意見・評論とされ、前提とする事実が真実である限りは名誉毀損は成立しません。*2

 

ゴーマニズム宣言事件

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52385

 

名誉毀損の成否が問題となっている法的な見解の表明は,判決等により裁判所が判断を示すことができる事項に係るものであっても,事実を摘示するものとはいえず,意見ないし論評の表明に当たる。

 

ただし、「窃盗」と表現した事に関し、名誉毀損が成り立つとした判例もあります。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=82144

 

被上告人(被告)であるフリージャーナリストが

X1(筆者注:上告人、新聞発行会社)は1日,福岡県久留米市にあるA販売店のB所長に対して,明日2日から新聞の商取引を中止すると通告した。現地の関係者からの情報によると,1日の午後4時ごろ,X1のX2法務室長,X3担当,X4担当の3名が事前の連絡なしに同店を訪問し,B所長に取引の中止を伝えたという。

との記載に続き、

その上で明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。これは窃盗に該当し,刑事告訴の対象になる。 

と書いた行為が名誉毀損になるかどうか、という事件です。

 

で、原審(控訴審)では名誉毀損は成立しない、としていたのですが、最高裁では

本件記載部分は,第1文と第2文があいまって,上告人会社の業務の一環として本件販売店を訪問したX2らが,本件販売店の所長が所持していた折込チラシを同人の了解なくして持ち去った旨の事実を摘示するものと理解されるのが通常であるから,本件記事は,上告人らの社会的評価を低下させることが明らかである。


(2) そして,前記事実関係によれば,本件販売店の所長が所持していた折込チラシは,訴外会社の従業員が本件販売店の所長の了解を得た上で持ち帰ったというのであるから,本件記載部分において摘示された事実は真実ではないことが明らかであり,また,被上告人は,上告人会社と訴訟で争うなど対立関係にあったという第三者からの情報を信用して本件サイトに本件記事を掲載したと主張するのみで,
本件記載部分において摘示した事実が真実であると信ずるにつき相当の理由があったというに足りる事実を主張していない。


(3) そうすると,被上告人が本件サイトに本件記事を掲載したことは,上告人らの名誉を毀損するものとして不法行為を構成するというべきである。

 

というわけで名誉毀損の成立を認め、損害額を審理し直すように差し戻しを決めたわけです。

 

所有者の了解を得て持っていくのと、窃盗では違うわけでして。

 

「詐欺」は騙す意図が必要なわけでして、無知ゆえに結果的に騙すことになったのを「詐欺」「詐欺師」と表現して大丈夫か?とは思うわけです。

 

これが医師や理系の博士号を持つ者ならその知識から効果が無いことを了承しているだろう、という推定もできるのですが、学歴や資格が不明な一般人にそのような推定はできないかと思われます。

 

無資格診断に関して詐欺の成立を認めた判例もありますが*3、この場合は診断と処方が矛盾しているケースも有り、「虹彩は内臓病変で変化しない」という眼科医の証言、そしてそれだけ虹彩を見ているなら内臓病変から虹彩が変化しないのを認識していただろう、ということで詐欺罪が成立したわけです。

 

送りっぱなしの妊娠米では妊娠の有無の観測をしていたとは推認できない。

素性がわからない以上、そのような観測の必要性を認識していたとも言えないわけで。*4

 

そんなわけで具体的な個人名を挙げたり、推定できるような記事では「無知」とか、効果がない、と表現するに留めたほうが無難かと思います。

 

ちなみに医師の治療法を「いんちき」とか「まやかし療法」と表現した記事について、名誉毀損不法行為の成立を否定した判決はあります。

 

色盲治療方法名誉毀損事件控訴審判決

東京高裁平成2年9月27日判決 昭和61年(ネ)913号

* 判例時報1359号38頁
* 判例タイムズ744号125頁

 右検討の対象となる本件記事は、医学上不治とされてきた色覚異常の治療方法に関するものである。

科学の進歩に伴い、従来不治とされてきた疾患について新たな治療法が発見、開発され、あるいはそれまで異端視されてきた治療法の有効性が承認されるに至ることがありうること、更には、世上いまだ学問的に解明されない治療法が有効として行われている例も見られることは、否定しがたい事実である。

しかし、本件訴訟は、もとより、右のような事実があることを前提にして被控訴人(筆者注:まやかし療法を行った医師)の色覚異常に対する治療方法の有効性について科学的判定を下すことを目的とするものではない。

本件当時一般に承認されていた医学水準に基づき、被控訴人の治療方法を根拠のないものとして指摘、批判することがどこまで真実として是認されるかを判断するものである。

したがって、被控訴人の治療方法が科学的に全く成り立つ余地のないことまでを論証することが、真実性の証明として必要とされるわけではない。

 

具体的な事実認定は長くなるので大学や図書館の判例データベースでお読みください。

でも一部だけ。

(2)  被控訴人の治療は自覚的検査方法しかない色覚検査法の欠点を巧みに利用したものであるとの点及び被控訴人の検査はまやかし的なことをしているとの点について

 

 前記の認定によれば、自覚的検査方法である色盲表による色覚異常の検査には、照明、時間、距離などに一定の条件が定められているにもかかわらず、Mクリニック(筆者注:被控訴人のクリニック)では、初診の際の検査室と治療後の検査室が異なっており、治療後の検査室の方が読み取りやすい照明になっていたことは真実であると認められるし、時間や距離に関する条件も守られず、訓練の効果により検査成績が向上するような検査をしていたと認められるから、被控訴人の検査は、自覚的検査方法しかない色覚検査法の欠点を巧みに利用したものであるといえる。

 

 そして、右の検査を前提にして、被控訴人の治療の効果が顕著にあがったことを強調しているとすれば、被控訴人の治療もまた右色覚検査法の欠点を巧みに利用したものといわざるを得ないし、被控訴人の検査はまやかし的なことをしていると評することも事実に基づくものであり、許されるといわなければならない。

これぐらいの証拠をつかめれば「詐欺」と言っても構わないのでしょう。

 

もっとも詐欺と言われたニセ医学業者が名誉毀損で訴える可能性を考えると杞憂なんでしょうけど。

 

というか、まやかし療法の判決を読んで、思う存分やってください。

*1:法的には優良誤認表示とか、不実告知と言った方が正確でしょう。

*2:ただし、不正競争防止法の虚偽事実告知は新ゴーマニズム宣言事件の射程ではない模様。

*3:

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=8591

*4:効果をうたった物である以上、医薬品に該当し、業として販売していたのであれば医薬品販売業者と同様の注意義務がある、という理屈もありかもしれない?