なくならない脱毛施術による危害(発表情報)_国民生活センター
国民生活センターから脱毛施術による危害に関する報告書が発表された。
脱毛施術を行う施設として、エステと医療機関が挙げられており、どちらでも危害が発生していることが示されている。
エステは法律上は特に規定はなく、エステティシャンというのは法的根拠は何もない一般人である。
またエステの施術所自体、なんら公的な衛生検査・審査を受けているわけではない。
病院や診療所であれば保健所の検査をうけ、医療法など、法的根拠に基づいた監督指導権限もある。
医行為と紛らわしい施術を行っている点では医業類似行為と言えるかもしれないが、医業類似行為の定義としては「疾病の治療又は保健の目的」と判例では示されており、美容を目的とするエステを医業類似行為とする公的な見解はない。*1
(2019/02/03追記)
タトゥー無罪判決では美容目的の行為も医療関連性を持つと判示された。
(追記終わり)
しかし最高裁において、鍼灸マッサージや柔道整復は医業類事行為の例示となる、と判示しており、*2
治療や保健を目的としない美容鍼灸などもある現代では美容目的のエステも医業類似行為と言って差し支えないと思う。*3
エステが医業類似行為であろうとなかろうと、法的には素人であるエステティシャンに「医師が行うのでなければ保健衛生上害を及ぼすおそれのある行為」は認められないわけである。
ちなみにこの「医師」とは医師の指示を受けた看護師なども含む。*4
では訓練を受けた素人はどうか?
医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為などというものは世の中に存在せず、ある行為から右危害を生ずるか否かはその行為に関する技能に習熟しているかどうかによって決まるのであって医師資格の有無に関係しない
と主張した被告人に対し、裁判所は
医行為とは、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と理解するのが正当というべきであって、これと異なる見解に立つ所論は、独自の主張であって、採用の限りでない。
と判示しており、素人が技能を習得しても医師法違反は免責されないことがわかります。
つまり素人が行っても良い施術は「誰が行っても保健衛生上害を及ぼすおそれのない行為」に限定されるわけです。
「誰」をあえて限定するなら義務教育を修了した者、といったところでしょうか。
で、国民生活センターのページには
エステにおける脱毛の問題点
(略)
施術前のリスクの説明が不十分と思われるケースがあります。
行政への要望
エステの脱毛施術により危害が発生したという相談が寄せられています。消費者が施術内容やリスク等を認識し、安全に施術を受けられるよう、消費者への周知、啓発等適切な対応を要望します。
エステの脱毛施術による危害が発生したという相談が寄せられています。エステ事業者等に対し、施術内容やリスク等について事前説明を十分行った上で安全な施術を心掛けるよう、関係業界団体への周知を要望します。
と書いてあるわけですが、そもそも健康上のリスクがある施術は素人であるエステティシャンには行えないわけで、健康上のリスクに関する事前説明を求めること自体、違法行為(医師法第17条違反)を容認することにはならないか?
医師法を遵守しているエステ、つまり誰(施術者)が誰(消費者)に対して行っても保健衛生上害を及ぼすおそれのない行為のみを行っている施術所であればリスク説明自体、不要のはずである。
報告書8ページ目にも
(1)エステの広告、ホームページ
2)危害もなく、安全な施術であるとイメージさせる表現がみられ、消費者に誤認を与えるおそれがありました
「痛みゼロ」、「痛みもリスクもありません」等、危害もなく、安全な施術であるとイメージさせる表現がみられ、消費者に誤認を与えるおそれがあると考えられました。
と書いてあるんですが、リスクを書いたら自ら医師法違反であると自白するようなものです。
まあ、消費者への注意喚起としてはいいのかもしれませんが、エステ店の問題点として報告書10頁、
2)施術前のリスクの説明が不十分と思われるケースがあります
PIO-NETに寄せられた危害事例の中には、施術により痛みや腫れなどのトラブルが起こるリスクについて事前に説明がなかったという相談がみられました。
また、アンケートの結果では、エステで脱毛を受けてやけど等の症状が生じた経験がある人のうち、トラブルや副作用に関する説明を施術前に受けたと回答した人は35人(エステで受けた脱毛で症状が生じた人の31.3%)でした。
本来、エステの施術は人体に危害を及ぼさない範囲で行われるべきものであると思われますが、場合によっては肌トラブル等が発生するおそれがあることについて、事前に十分な説明を行う必要があると考えられます。
と書かれており、エステ店の違法行為を容認しかねない記述である。
*1:「医業類似行為とは『疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であって他の法令において認められた資格を有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの、』換言すれば『疾病の治療又は保健の目的でする行為であつて医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの』」とされている。(仙台高裁 昭和 29 年 6 月 29 日判決 昭 28(う)第 275 号)
*2:
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57011
*3:医行為は危険性のみで目的では判断していないが、あはき法第12条の本来の姿、すなわち業として行っただけで禁止処罰する場合には目的を特定する必要がある。薬機法で医薬品や医療機器の定義に書かれている「疾病の診断、治療若しくは予防又は身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすこと」を目的にした施術とすればいいと思うが。
*4:保健師助産師看護師法第37条前段 保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。
*5:東京高裁
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=20209、最高裁で被告人による上告棄却