整体と春日野部屋の暴行事件

※2018/01/30追記

下記記事によると

  • 国技館の診療所に書いてもらった紹介状を兄弟子が取り上げていた。
  • 国技館の診療所には首から上を撮影できるレントゲン撮影装置がなかった。

ということらしい。

www.zakzak.co.jp

追記終わり。

 

春日野部屋の元力士が兄弟子から暴行を受け、整体施術によりさらに悪化し、後遺症が残った事件です。

 

日本相撲協会の隠蔽体質や暴行に関しては各種報道や他の方の記事を読んでいただきたい。

 

整体施術に関しては医師によるブログ記事(下記リンク)も書かれているが、より近い立場(鍼灸マッサージ師)から解説していこうと思う。

 

結論を先に書けば、整体などの無免許業者を他人に紹介すると訴訟に巻き込まれるリスクがあるので、国家資格を確認してから紹介したほうが良いよ、ということです。

 

blogos.com

 

www.gohongi-beauty.jp

 

前提知識

まず、私の記事が初めての方に前提の知識を説明する。

 すでに知識がある方は「今回の事件」から読んで下さい。

法律(整体師は本来、違法な職業である)

独立判断で治療行為をできるのは医師、歯科医師、はり師、きゅう師(はり師、きゅう師をあわせて鍼灸師と俗称される。同一人物が両方の免許を持っていることがほとんど。)、あん摩マツサージ指圧師柔道整復師のみであり、妊産婦に対しては助産師も行える。

 

これらの者以外による独立判断での治療行為は医師法第17条およびあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下、あはき法)第12条により禁止されている。

医師法第17条(無免許医業の禁止)

医師でなければ、医業をなしてはならない。

あはき法第12条(医業類似行為の禁止)

何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。

この医業類似行為というのは

疾病の治療又は保健の目的でする行為であって医師・歯科医師・あんま師(※筆者注:現在のあん摩マツサージ指圧師)・はり師・きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者がその業務としてする行為でないもの 

 と判例で示されており、簡単に言えば法律で定められた免許の範囲外で行う治療や保健目的の施術行為(無免許施術)である。

つまり法的な免許制度のない整体やカイロプラクティックなどがあはき法第12条で禁止されている医業類似行為である。

最高裁判例

さて、あはき法第12条で禁止される医業類似行為の例として整体やカイロプラクティックを挙げた。

 

それだと町中にある整体やカイロプラクティックの店は何なのだ?という疑問が出てくるだろう。

これは昭和35年にあはき法第12条違反に関し、最高裁

法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならない

最高裁大法廷 昭和35年1月27日判決 昭和29年(あ)2990号

と判示されたため、医業類似行為の禁止処罰には人の健康に害を及ぼすおそれを立証する必要が出てきたからである。*1

 

なので整体師やカイロプラクターは「人の健康に害を及ぼすおそれが無い」という建前で営業している。

そして整体師やカイロプラクターを名乗るのには何の資格も不要である。だから無免許業者と私は表現している。

あなたが整体師、カイロプラクターと名乗るは自由だし、売上が一定額以内であれば税務署への届出も不要である。

 

無免許施術(医業類似行為)による健康被害

さて、人の健康に害を及ぼすおそれが無い、という建前で営業している整体師などの無免許業者であるが、無免許施術による健康被害国民生活センターによって2012年に明らかにされる。

手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター

そして無免許施術により子供が殺される事件も発生する。*2

www.sankei.com

 

また平成29年5月には消費者庁からも無免許施術による健康被害の報告書が出される。

 

法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に[PDF]

http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/consumer_safety_release_170526_0002.pdf

消費者庁には、「整体」、「カイロプラクティック」、「リラクゼーションマッサージ」などの法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術で発生した事故の情報が、1,483 件寄せられています(平成21年9月1日から平成29年3月末までの登録分)。そのうち、治療期間が1か月以上となる神経・脊髄の損傷等の事故が 240 件と全体の約 16%を占めています。 

今回の事件

事実関係

朝日新聞によると

 訴状によると事件が起きたのは14年9月で、殴打されてあごを骨折するなどし、治療に1年6カ月かかったと主張。さらに「味覚消失」などの後遺症が残ったと訴えている。

 暴行した先輩力士に加え、春日野親方は「(被害者を)病院ではなく整体院に連れて行き、適切な治療を受けさせようとしなかった」として、安全配慮義務に違反したと主張。2人に後遺症による逸失利益と慰謝料などを合わせ、3千万円の損害賠償を求めている。

 これに対し、先輩力士は暴行したことは認めているが、その内容や後遺症の程度について争う姿勢を見せている。春日野親方は事件直後に被害者の父親に謝罪した上、「けがは快方したように見えた。被害者はいつでも自由に通院できるようにしていた」と主張。師匠として事件の発生を予見することはできなかったとして、請求棄却を求めている。

※強調は筆者による。

www.asahi.com

また1月26日放送のミヤネ屋によると被害者側の主張は

まずこちらは矢作さんの主張なんですが、矢作さんの主張によりますと、春日野親方は病院に連れて行かず、相撲診療所に行かせたと。
その相撲診療所であごの骨折の可能性があるというふうに言われたんですが、この相撲診療所にはレントゲン撮影の設備がなかったので、設備のある別の病院を紹介されて、けがを負って春日野親方は、ただ連れて行こうとしなかったということなんですね。
さらに春日野親方は世間への発覚を恐れて、知り合いの整体師を紹介して、そこで無理な施術によって症状がさらに悪化してしまったという、矢作さんの主張です。

一方、春日野親方の主張は

一方、春日野親方は、レントゲン撮影も可能だったはずだが、撮影はせず、気になるようならと大きな病院の紹介状をもらったんだと。
知り合いの整体師による施術は世間への発覚を恐れてということではないという主張です。

 

被害者には相撲診療所で受診してもらったのち、兄弟子に付き添わせ、整体師の施術を受けさせた。
快方に向かったと思われたが、その後、入院をしたということだと。

ということです。

文字起こしは下記リンク。

ミヤネ屋【春日野部屋傷害事件…理事選への影響は?▽ビットコインとは?ほか】[字] 2018.01.26 – Mediacrit

 

双方の主張から確実に言えることは

  • 兄弟子による暴行があった。
  • 日本相撲協会の診療所で受診した。
  • 診療所に首から上を撮影できる装置が無かったのでレントゲン撮影は行われなかった。(2018/01/30編集)
  • 診療所の医師は別の病院を紹介(提示)したか、紹介状を書いた。
  • 兄弟子がその紹介状を取り上げた(2018/01/30編集)
  • 親方の紹介した整体院で施術を受けた。
なぜレントゲン撮影をしなかったか

日本相撲協会の診療所のスタッフ数は下記のリンクに書かれている。

medley.life

 

整形外科の専門医が常勤でいる模様である。

また診療放射線技師が一人いる。*3

 

放射線を扱う機器が無いところで放射線技師を雇用するメリットは無いと思われるのでレントゲン撮影装置はあると思われる。

ではなぜ撮影しなかったかと言えば受診時に放射線技師が不在だった可能性がある。

 

 

ただし、医師がレントゲン撮影の必要性を認めなかった可能性も否定できず、その場合には整体施術が決定的なダメージとなるだろう。

 

また放射線技師の不在が理由なら後日の受診を促すことも可能なわけです。

被害者の主張を信じるなら、診療所では手に負えない骨折なので病院に行ってちょうだい。撮影もそっちでしてもらったほうが良いでしょ。という感じか。

 

どちらにせよ、診療所の医師が整体あるいは接骨院による施術に関し、指示や同意をしたとは言えないようである。 

骨折部位に対する施術と接骨院

あん摩マツサージ指圧師柔道整復師は法律により、骨折部位に対する施術は医師の同意を得なければならない。

あはき法第5条

あん摩マツサージ指圧師は、医師の同意を得た場合の外、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。

 

柔道整復師法第17条

柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。

 

柔道整復師法では応急手当の免責が書いてある。 

本来、柔道整復師は捻挫・打撲・脱臼・骨折に対する施術を行う免許であるため、医師への受診・搬送まで放置できない場合に応急手当を行うことには合理性がある。

binbocchama.hatenablog.com

 

実は今回の施術を行った整体院が接骨院整骨院柔道整復師の施術所)か否か、確たる証拠がない。

 

柔道整復師がその免許で認められているのは捻挫・打撲などの急性外傷に対する施術であり、疲労回復や慢性疾患に対する手技療法などは認められていない。

そして、健康保険の審査が厳しくなり、生き残りを図るために「整体師」として営業している柔道整復師も多い(「自費施術」と称している場合も多い)。

 

もっとも柔道整復師はその教育課程で柔道整復師法について習っており、医師が施術に同意しておらず、数日経過した骨折部位に応急手当をするとは考えにくい。あん摩マツサージ指圧師も同様である。

 

またマスコミも訴状を読んで「整体院」と表現していることから接骨院ではないと判断する。

 

整体院を紹介した春日野親方の責任

今回の裁判では暴行した兄弟子に対する春日野親方監督責任も問題なのだろうが、そこは専門外なので私は言及しない。

 

私が注目しているのは被害者に整体院を紹介した責任である。

 

まず接骨院鍼灸マッサージ師の施術所に紹介して、施術によって症状が悪化した場合を考えてみよう。

 

これらの国家資格者が一定の知識・技能が国家により確認されている者だから施術による健康被害に関しては施術者の責任である。

仮に間違った判断で国家資格者の施術を受けるように指示した場合でも、国家資格者が施術の可否や病院への受診を薦めるか、判断する責任がある。

よって、紹介した者は施術による健康被害に関し、なんら責任を負わない。

 

これが整体師などの無免許業者だとどうなるか。

整体師は法律上、素人であるから施術の可否や病院受診を薦めるなどの判断を期待する方が間違いである。

もっとも素人である整体師がそのような判断が必要な施術を行うこと自体、違法行為であるが。*4

 

ただし、おおっぴらに営業して、あたかも身体の専門家のように装っている整体師などを素人と判断するのは一般の人には難しいところである。

なので

 

  • 紹介者が免許制度を知っているか、知っていて然るべき立場であること。
  • 紹介した整体師が無免許であることを知っていること。

 

この2点を証明しないと整体師を紹介した者の責任を問うことは難しい。

 

私は以前、病院側で医療訴訟を手がける弁護士に対し、ケアマネが整体師(無免許)を利用者に紹介し、その施術で健康被害が発生した場合、ケアマネは賠償責任を負うか?と聞いたことがある。

その可能性は否定できないとの回答であった。

 

なお、ケアマネの基礎資格としてあん摩マツサージ指圧師柔道整復師がある。

なのでケアマネが免許制度について実際に知っていようがいまいが、免許制度について知っているべき立場とみなされよう。

 

相撲部屋の親方にその知識があること又は知識があるべき立場を求めるのは難しいとも思える。

ただし、スポーツに関わる鍼灸マッサージ師や柔道整復師も多い。

なので全く無知である、とも言い難い。

 

もっとも今回は骨折が疑われる状況で、病院・診療所以外(免許の有無に関わらず)を紹介した事自体が過失である、という判断がされてもおかしくはない。

 

紹介された施術所が国家資格者のところであれば前述のように、国家資格者の責任を述べて、請求の棄却を求めれば良い。

 

無免許施術と賠償責任保険

今回の訴訟、整体院が被告になっているのか否か、あるいは整体院との間で示談がされているのかどうか不明である。

 

 ただし、無免許施術(整体)による健康被害に対し、賠償責任保険は支払われない。

そのような名目で売られている賠償責任保険もあるが、違法行為を助長する保険商品の販売は保険業法で禁止されている。

判例で禁止処罰対象にしない無免許施術は「人の健康に害を及ぼすおそれの無い行為」であり、そのような行為では健康被害は発生しないだろう。

健康被害が発生する行為というのはまさに「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」であり、違法施術である。

実際、消費者庁事故情報データバンクには

事故情報詳細(リラクゼーションマッサージ, マッサージ… 事故情報ID:0000269049)_事故情報データバンクシステム

マッサージ店で施術を受け首の頸椎を痛めた。損害保険会社が調査した結果、保険対象外だったが、店が理由を教えてくれない。

事故情報詳細(カイロプラクティック 事故情報ID:0000241980)_事故情報データバンクシステム

テレビ宣伝のカイロプラクティックに肩こりでかかったら直後から肩から右腕に痛み。保険請求書記載の誤りを訂正してほしい。

というように、保険対象外、または保険請求に虚偽の内容が見受けられる。

 

そして無免許業者に財産が無い場合、仮に損害賠償を求める裁判で勝っても判決文は紙切れ同然である。

 

なので財産がある関係者を訴えなければ意味がない。

ホテルのテナントの無免許マッサージ業者により、四肢麻痺になった被害者が、ホテルも訴えたのはその典型だろう。

 

togetter.com

 

国家資格者の場合、仮に施術での健康被害が生じても、賠償責任保険で対応できる。

また施術の可否などの判断が国家資格者の責任であることは前述のとおりである。

 

紹介者が裁判に巻き込まれるリスクは、国家資格者と無免許業者ではこのような違いがある。

 

 

*1:なお、医師法第17条違反に関してはすでに「医師が行うのでなければ保健衛生上害を及ぼすおそれのある行為」が医行為の定義であり、この最高裁判決の前は危険性が立証されれば医師法第17条違反、危険性を立証せず、無免許での治療行為等を行ったことのみを立証した場合にはあはき法第12条違反で罪を決めれば良かった。

この判決で医師法第17条違反とあはき法第12条違反の立証に関しては差が無くなってしまい、危険性を立証できる場合のみに起訴できるので医師法第17条違反のみ問われ、あはき法第12条違反で立件されることは無くなった。

*2:業務上過失致死傷罪と殺人罪の違いぐらいは理解してます

*3:数え方から常勤と思われる。

*4:富士見産婦人科病院事件の保助看法違反事件では、医師が無資格者に行わせることができる行為は、「患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべき」とされている。東京高裁昭和63(う)746

日本の(誰でも名乗れる)カイロプラクターは海外の文献を効果の根拠とすることはできない。

あけましておめでとうございます。

新年の抱負として資格所得を目指す人も多いかと思いますが、整体師、カイロプラクター、リラクゼーションといった脱法業務の資格商法にだまされないように気をつけてください。

 

医師、歯科医師以外に合法的に独立判断で施術できる資格はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師のみです。

togetter.com

 

さて、資格商法業者による広告の報告がありました。

 

海外でカイロプラクティックが医療と同等とみなされているかはともかく、国家資格としている国もあります。

ただ鍼灸と違い、WHOが適応症を認定している、ということはないようです。

禁忌症に関してはWHOガイドラインに記載しているようですが。

http://www.jac-chiro.org/pdf/guidelines/chirosafety.pdf

の8,9頁目あたり。

 

さて、カイロプラクターなどの無免許業者は医療法・あはき法による広告制限は受けませんが、景品表示法などの消費者保護の規制は受けます。

過去には小顔矯正の広告をしていた整体師などが景品表示法による処分を受けています。

www.nikkei.com

 

日本の(誰でも名乗れる)カイロプラクターが広告している適応症に根拠は有るのでしょうか?

 

鍼灸と同様に、カイロも海外の論文・文献も有るわけですが、日本の(誰でも名乗れる)カイロプラクターはこれらを効果の根拠とすることはできません。

 

なぜなら海外のカイロプラクティックの文献は国家資格制度のある国で、ちゃんと国家資格を取ったカイロプラクターによる施術だからです。

 

WHOの基準では正規のカイロプラクターは4年以上の教育を必要とします。

それと一日から数週間程度の講習を受けた(誰でも名乗れる)カイロプラクターが同一の質である訳が無いのです。

 

なので日本の(誰でも名乗れる)カイロプラクターが、WHOにカイロプラクティックが認められている事自体を表示すること自体、優良誤認表示と言わざるをえないわけです。

 

なので海外のカイロプラクターの文献を根拠にはできず、自らで根拠を積み重ねていく必要があります。

整体も含め、無免許施術は定義が定まっておらず、他の人達はその施術の効果を検証してはくれませんから。

 

その点、国家資格になっている施術の場合、免許を持った人達が行った施術に関する文献を根拠にできるわけです。

一定レベルの知識と技術が国家によって確認された者同士ですから。

それは海外の正規の鍼灸師が行った施術に関する文献も同様です。

 

消費者の権利を保護する時代の流れで、根拠のない効果の広告に対し、行政は厳しく対応すると思われます。

 

今までは国家資格者に対し、厳しい広告制限があり、一方で無免許業者の広告は野放しでした。

このことはすでに行政によっても問題視されており、国家資格者の広告規制の緩和が検討されております。

 

というわけで今後、整体師やカイロプラクターなどの無免許業者による適応症の広告は厳しくなることが予想されます。

 

カイロでちゃんと適応症を広告したかったら(医師法やあはき法に違反するかどうかはともかく)国家資格制度のある国で、ちゃんと国家資格を取ってこないと優良誤認や誇大広告になる可能性が有るわけです。

 

一企業の都合のみを配慮するNHKに公共放送としての正当性や存在意義はあるのか?

明日(2017年12月6日)、NHKとの受信契約を強制する放送法第64条の憲法判断が最高裁大法廷で下される。

 

www.nikkei.com

25日の弁論でNHK側は、受信料制度の必要性を強調した。ドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」を例に挙げ、「不偏不党を貫き、視聴率にとらわれない豊かで良い番組を放送するためには、安定財源を確保する手段としての受信料制度が不可欠」と述べた。 

 私自身は一人暮らしのときもNHKの受信料を払っていた。それが法的には当たり前なのだが、わざわざ払っていたのはなぜか。

http://www.geocities.co.jp/MotorCity/9257/100_topic3.html

7代目カローラが開発中のころ、NHKスペシャルという番組で国産車の国内仕様と輸出仕様の安全性の格差を 告発する衝撃的な番組が放送された。番組ではアメリカ仕様と日本仕様の5代目カローラが一台ずつ用意された。 その二台を比較すると輸出仕様の方が何故か重いのである。 両者のドアを電動グラインダーで切断して内部を開き観察すると、 輸出仕様車には側面衝突に対して効果を発揮するサイドインパクトバーがついているのである。 トヨタに限らず、国産車メーカーでは安全装備を取り付け可能なように設計しているのにも関わらず、 国内向けにはそれを取り付けないという行為が行われていたのだ。 この番組が放送されるやいなや、国産自動車メーカーはバッシングを受けることとなった。 

 この番組は昭和62年か63年かだったと思う。

私が中学生の頃だ。

母曰く、「民放でこんな放送はできない」

スポンサー様である自動車メーカーに不都合なことを放送できまい。

 

そんなわけで政治的なことややらせ問題はともかく、経済的な事柄に関しては企業よりも国民・消費者を優先してくれるだろう、という幻想を抱くことになった。

 

で、その幻想をぶち壊されたのがこの間のドキュメント72時間である。

binbocchama.hatenablog.com

初めてこの記事を読まれる方はリンクした記事も読んでいただければと思いますが、無免許マッサージ業者(少なくとも利用者はマッサージと認識している)を真っ当な業務のように放送するなと。

 

で、この放送内容を国家資格であるあん摩マッサージ指圧師の免許を持った方々は問題視し、NHKに抗議などがされ、NHKはテロップをだすことにしたのですが、こんな感じ。

 

f:id:binbocchama:20171205181852j:plain

再放送時のテロップ

※この施設のサービスは

 国家資格を持つあん摩マッサージ指圧師による

 治療行為ではありません

どうもNHKは免許の必要なマッサージが治療行為には限られない、ということを理解できなかった模様である。

免許の必要なマッサージが治療行為に限定されるものではない、というのは前掲の記事に書いたとおり、厚生省の通知や裁判例で示されている。

まだ利用者が「マッサージ」と述べているのをカットし、「マッサージ」ではない手技という体裁を取っているのであればマシだったのだが。 

 

ドキュメント72時間のサイトにはなんら釈明もなし。

ドキュメント72時間 - NHK

 

まあ、国家資格者の意見だけではバランスを欠く、というのを否定はしないが、それならちゃんと両論併記すべきであろう。

一企業の都合の良い放送をするなら強制的に受信料を取り立てる大義名分など無いではないか。

まだスポンサーの存在がわかる民放なり、偏向前提の赤旗新聞のほうがマシである。

NHK、ドキュメント72時間「“コリ”にまつわるエトセトラ」の何が問題なのか?

11月24日(金曜日)にNHKドキュメント72時間で「もみほぐし屋」が取り上げられている。

www4.nhk.or.jp

この番組に関し、あん摩マッサージ指圧師達が異議を述べているが、なぜ異議を述べているのか、書いていこうと思う。

なお、この記事の写真は録画したものをテレビで映したものをスマホで撮って編集したものである。

(2018/03/15 家電watchのツイートを追加)

 

 

前提知識

まず、私の記事が初めての方に前提の知識を説明する。

 すでに知識がある方は「番組の何が問題か?」から読んでいただいたほうが早いと思う。

法律

本来、業としてマッサージ(あん摩、指圧を含む)を行えるのは医師とあん摩マッサージ指圧師のみである。

これはあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下、あはき法)の第1条で定義される。

第一条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。

で、他に第12条で医業類似行為というのが禁止されている。

第十二条 何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。

この医業類似行為、というのは何かといえば

疾病の治療又は保健の目的でする行為であって医師・歯科医師・あんま師・はり師・きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者がその業務としてする行為でないもの 

 と判例で示されており、簡単に言えば法律で定められた免許の範囲外で行う治療や保健目的の施術行為(無免許施術)である。

つまり法的な免許制度のない整体やカイロプラクティックなどがあはき法第12条で禁止されている医業類似行為である。

最高裁判例

さて、あはき法第12条で医業類似行為が禁止され、医業類似行為の例として整体やカイロプラクティックを挙げた。

 

それだと町中にある整体やカイロプラクティックの店は何なのだ?という疑問が出てくるだろう。

これは昭和35年にあはき法第12条違反に関し、最高裁

法律が医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならない

最高裁大法廷 昭和35年1月27日判決 昭和29年(あ)2990号

と判示されたため、医業類似行為の禁止処罰には人の健康に害を及ぼすおそれを立証する必要が出てきたからである。

なので整体師やカイロプラクターは「人の健康に害を及ぼすおそれが無い」という建前で営業している。

そして整体師やカイロプラクターを名乗るのには何の資格も不要である。だから無免許業者と私は表現している。

あなたが整体師、カイロプラクターと名乗るは自由だし、売上が一定額以内であれば税務署への届出も不要である。

 

無免許施術(医業類似行為)による健康被害

さて、人の健康に害を及ぼすおそれが無い、という建前で営業している整体師などの無免許業者であるが、無免許施術による健康被害国民生活センターによって2012年に明らかにされる。

手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター

そして無免許施術により子供が殺される事件も発生する。*1

www.sankei.com

 

また平成29年5月には消費者庁からも無免許施術による健康被害の報告書が出される。

 

法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に[PDF]

http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/release/pdf/consumer_safety_release_170526_0002.pdf

消費者庁には、「整体」、「カイロプラクティック」、「リラクゼーションマッサージ」などの法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術で発生した事故の情報が、1,483 件寄せられています(平成21年9月1日から平成29年3月末までの登録分)。そのうち、治療期間が1か月以上となる神経・脊髄の損傷等の事故が 240 件と全体の約 16%を占めています。 

 国家資格の有無をわかりやすく表示する必要性

国民生活センターは問題点として

消費者が施術所や施術者を選ぶ際に、施術所に国家資格であるあん摩マッサージ指圧師柔道整復師などの有資格者がいるかどうかを見分けることは困難である。

と書き、行政への要望として

消費者が、法的資格制度のあるあん摩マッサージ指圧若しくは柔道整復を行う施術所と法的資格制度のない施術を行う施術所を容易に見分けることができるよう、関係機関に注意喚起を行う等の対策を講じるとともに消費者に対する周知・啓発を行うよう要望する。

としている。

 

それに応じて厚生労働省は免許保有者証を作成し、国家資格の有無を見分ける方法を記したリーフレットを作成した。

www.mhlw.go.jp

 

また前掲の消費者庁の報告書においても

2) 情報を見極めて施術や施術者を慎重に選びましょう。
・ 施術には有資格のあん摩マッサージ指圧及び柔道整復もあり、あん摩マッサージ指圧の国家資格を持っている人は、資格証などで確認できます 。 

と国家資格の見分け方を書いている。

 

なお、無免許業者のこの点に関する実態であるが、

「医療行為(治療行為)ではありません」

とだけ書くことが多い。

これでは病院・診療所以外の手技療法に関して免許制度があることがわからず、自分たちが「無免許」ということもわざわざ書かずに済む、というわけである。

本来であれば

  • 手技療法にはあん摩マッサージ指圧師など、法律に基づいた国家資格があること。
  • 自分たちはそのような法定の免許を持っていないこと

の2点を表示するのが消費者に対しての誠実さであろう。

 

番組の何が問題か?

免許の必要なマッサージが治療行為のみであると誤解させる

民放などでは整体師などが取り上げられることもあり、今回の件で騒いでるのはNHKだから?という疑問もあるだろう。

それは否定しないが、今回の放送は免許制度に対する誤解を招きかねず、ひいては国民の健康を脅かし、犯罪者を生み出す手助けとなる内容であるために放置できないのである。

 

業務の紹介で、

コリをほぐすのはセラピストという人。

マッサージの国家資格は無いけれど、お店でレッスンを受け、お客さんを迎え入れる。

というナレーションとともに

f:id:binbocchama:20171128173045j:plain

※もみほぐしはリラクゼーションであり治療行為ではありません

 「もみほぐしはリラクゼーションであり治療行為ではありません」とテロップで表示される。

 

マッサージの国家資格に言及しながら「治療行為ではありません」とテロップを出したら治療行為ではないマッサージには免許が不要だと解釈するのが普通ではないだろうか?

 

番組後半でも週末のマッサージを楽しみにしている、というお客さんの紹介に「もみほぐしは治療行為ではありません」というテロップがある。

f:id:binbocchama:20171128173239j:plain

週末のマッサージが楽しみだそうです。

画面左上の拡大

f:id:binbocchama:20171128173229j:plain

もみほぐしは治療行為ではありません

 

これでNHKはマッサージの国家資格に配慮したらしい。

 

しかしそれなら

「もみほぐしは国家資格が必要なマッサージとは異なる手技です」

と表示すべきである。

 

免許が必要なマッサージは治療行為に限定されない。

無免許業者の間には

「免許の必要なマッサージは治療行為のみに限られる」

という風説がまかり通っており、そのように教える資格商法業者や会社もあるようだ。

それを真に受けて、お客さんから免許制度に関して聞かれたときにはそのように答える無免許業者もいる。

しかしこれは嘘である。

旧厚生省が通達で免許が必要なあん摩*2の定義を示している。

 

・あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師の学校又は養成所等に在学している者の実習等の取り扱いについて(◆昭和38年01月09日医発第8-2号)

厚労省の通知リンクは中身が変わるので注意)

法第一条に規定するあん摩とは、人体についての病的状態の除去又は疲労の回復という生理的効果の実現を目的として行なわれ、かつ、その効果を生ずることが可能な、もむ、おす、たたく、摩擦するなどの行為の総称である。*3

 また裁判例においては

あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法一条にいう「あん摩」とは、慰安または医療補助の目的をもって、身体を摩さつし、押し、もみ、またはたたく等の行為を言う。*4

 というのがある。

「病的状態の除去」や「医療補助」というのが治療や症状の緩和であることは異論がないと思われる。

そして厚生省通知では「疲労の回復」、裁判例では「慰安」も目的に含まれるとしている。

 

これでも免許の必要なマッサージは医療や治療目的に限定される、という反論があるのであれば信頼に足るソースをご提示願いたい。

「治療行為ではありません」と表示しながら治療行為をしている

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腰がペキン

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首の痛み

このような主訴に対応するのは治療行為だと思うのは私だけでしょうか?

無免許業者によるこのような実態があるため、私はタトゥー裁判における被告人弁護団の「医行為は治療を目的にした行為に限定される」という主張は認めることができないし、実際大阪地裁では有罪判決が出ている(現在控訴中)。

binbocchama.hatenablog.com

お客さんがマッサージと認識している

この店でやっている行為が免許の必要なマッサージではなく、違う手技であり、その手技は人の健康に害を及ぼすおそれが無い、という建前であれば現行法、やむを得ない。

せめて手技療法に国家資格があり、見分け方をちゃんと説明するように求めるか、無免許業者の業務を取り上げないように求めるしか無い。

 

しかしマッサージであれば無免許で行っただけで禁止処罰の対象である。

判断としては下図のようなチャートである。

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手技療法の違法性判断チャート

無免許マッサージの禁止処罰には人の健康に害を及ぼすおそれの判断は不要である。

・いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について(◆昭和35年03月30日医発第247-1号)

通知が追加されますとリンク内容が変わります。

この判決(筆者注:前掲の最高裁判決)は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為業について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復の業に関しては判断していないものであるから、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復を無免許で業として行なえば、その事実をもってあん摩師等法第一条及び第十四条第一号の規定により処罰の対象となるものであると解されること。
従って、無免許あん摩師等の取締りの方針は、従来どおりであること。((○いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について
(昭和三五年三月三〇日)
(医発第二四七号の一各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)))

各手技もあん摩マッサージ指圧師の養成校で教えられる手技そのものである。動画が必要になるので解説は省略するが、押す、揉む、さする、叩く、といった行為があったのは番組を見てた方であれば同意していただけると思う。

 

ただ前掲のように週末のマッサージを楽しみにしていると言ってたお客さんの他にもマッサージと認識しているお客さんを放送している。

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持たれる方法の一つがマッサージ

 

このように一般の方の認識でも「マッサージ」である。

もはや無免許マッサージと断定せざるを得ない。

(2018/03/15追記)

(追記終わり)

 

番組の問題点

  1. 免許の必要なマッサージを治療目的のみと誤解させること。
  2. 違法行為である無免許マッサージ業務を真っ当な業務のごとく放送し、視聴者に違法業務を合法な業務のように誤解させかねない内容であること。
  3. 1、2に伴い、消費者が適切な手技療法等を選ぶのを妨げ、健康被害を招くおそれがあること。
  4. 1、2に伴い、違法な無免許マッサージに従事する人を増やすおそれがあること。

取り上げられたお店のツイートなど

この番組で取り上げられたのはりらくる東浦和店だそうだ。

りらくる自身のサイトで書いてある。

りらくる東浦和店でNHK総合テレビのTV番組「ドキュメント72時間」の取材をしていただきました! | りらくる

 お客さんが「マッサージ」と書いているのに訂正しない

 作成されたまとめには「マッサージ店」と書かれている。

togetter.com

 

 

 

 

 

 自分で「マッサージ」と書いているりらくる従業員

 

りらくる 武蔵新城店 | りらくる

 

 

りらくる 代々木駅前店 | りらくる

 

 

りらくる 長居店 | りらくる

 

これでもりらくるは無免許マッサージではない、と主張されるのでしょうか?

 

あとNHKの健康に関する誤った報道と言えばこんなのがあります。

 

togetter.com

http://www9.nhk.or.jp/gatten/articles/20170222/index.html

*1:業務上過失致死傷罪と殺人罪の違いぐらいは理解してます

*2:昔はあん摩のみで、その後マッサージと指圧が追加された。

*3:○あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師の学校又は養成所等に在学している者の実習等の取り扱いについて
(昭和三八年一月九日)
(医発第八号の二各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)

*4:清水簡易裁判所昭和34年10月7日判決 昭和34年(ろ)50号
下級裁判所刑事裁判例集1巻10号2144頁 

MVNO(格安SIM)の通話の問題。

イオンモバイルに変更してから20日ほど経った。

 

業務で通話も必要なため、MVNOは躊躇していたのだがプレフィックスで10分間までなら追加料金無しで通話できるオプションが出てきたのでMVNOに変更した次第である。

 

データ通信に関しては特に不満はないのだが通話に関しては問題がある。

それはプレフィックスの交換機のキャパシティが足りないのか、話し中が多いのである。深夜に妻に電話して、繋がらなかったのでそんな時間まで電話してるんですか?と小言を言って否定されて初めて気づいた。

 

iモードが普及する前に携帯を使っていた人なら週末の繁華街で携帯が繋がらない、というのを経験していると思うが、そんな感じである。

 

ここらへんのデメリットに関して記述しているサイトもあまり見かけないので記録しておく。

 

ま、すぐにリダイアルすれば良い、と言われればそれまでなんですが。

一般人による医行為の理解

2021/03/09追記

控訴審最高裁で無罪となっております。

 

binbocchama.hatenablog.com

 追記終わり

 

タトゥーの彫師が医師法違反に問われた裁判で、有罪の一審判決が出た。

www.huffingtonpost.jp

 

弁護団は医行為性については

弁護側はタトゥーを彫る行為は病気の治療や予防が目的の医療行為にはあたらず、医師法の「医業」ではないと訴えていた。

医行為の内容が不明確なことについては

タトゥーを彫ることが医療行為として明確に定められていないのに罰せられれば、罪となる行為や罰則の内容があらかじめ法律で決められていなければならない「罪刑法定主義」に反するとしていた。 

 と主張していた(上記記事から引用)。

 

で、裁判所は罪刑法定主義に関しては

長瀬裁判長はまた、医師法が定める医療行為にどのようなものが含まれるかについては、「通常の判断能力を有する一般人にとっても判断可能」なため、医師免許がないのにタトゥーを施した人を処罰することは法律上、矛盾しないとした。

 

医行為について、一般人は判断可能、という前提である。

 

この判決のニュースに言及したツイートでは医療行為なら医療行為の結果である入れ墨を入れた者を排除するのは差別ではないか、といった意見や、それなら健康保険を適用して、という意見も見かけた。なかなか一般人が判断可能か、というのは難しいかもしれない。

 

さて、過去の裁判例では

一 控訴趣意中、歯科医師法(以下単に「法」という。)一七条が実体刑罰法規として犯罪構成要件が不明確で罪刑法定主義を規定した憲法三一条に違反する無効の規定であるのに法一七条を適用して被告人に有罪判決を宣告した原判決には法令の解釈・適用を誤つた違法があるとの主張について

 所論は、要するに、法一七条にいう「歯科医業」の意義が明確ではなく、通常の判断能力を有する一般人の理解において、歯科医業行為が具体的にいかなるものを指すのかの判断を可能ならしめる基準が右法条からは全く読みとれないから、右法条は憲法三一条に違反し、無効である、というのである。

 

 そこで、検討するに、法一七条所定の「歯科医業」なる文言は、原判決が(弁護人の主張に対する判断)の項一において判示しているとおり、そこに合理的解釈を施すことによつて容易にその内容を明確にすることができるものであり、かつ、所論のいう一般人においても右法条の文言に即して理解するならば、具体的な場合に特定の行為が右法条の規定内容に触れるか否かの基準を読み取ることが可能であるといわなければならない。すなわち、「歯科医業」とは、反覆継続の意思をもつて行う歯科医行為にほかならないが、かかる歯科医行為とは、歯科医療に関する一定範囲の行為であつて、我が国において国民一般に受け入れられ、確立している「医」ひいては「歯科医」の観念によれば、結局、「歯科医師が行うのでなければ国民の保健衛生上危害を生ずるおそれがある行為」を指すものであることが明らかであり、以上によれば、「歯科医業」の文言の中に、一般人が右の歯科医行為の内容を感知し得る基準が含まれていることになるからである。従つて、法一七条(及び二九条一項一号)は、実体刑罰法規として犯罪構成要件が不明確であるとはいえないから、所論はその前提を欠き、失当といわなければならない。論旨は理由がない。

 

歯科医師法違反事件 札幌高裁昭和55(う)195

刑事裁判月報13巻1・2巻63頁 

富士見産婦人科病院事件の医師法違反の裁判では

次に所論(二)についてみると、起訴状記載の公訴事実及び検察官の釈明によれば、本件公訴事実の内容をなす医行為は、ME検査結果から、患者に特定の疾病があり、入院、手術を要する旨判定・診断し、これを患者に告知したというものであり、右判定、診断、告知は一体として医行為を構成するものとして起訴されたことが明らかである。

また、判定、診断、告知はそれ自体抽象的な概念であるといっても、通常の判断力を有する一般人がその意味内容を確定するのにそれほど困難を感ずることがないのみならず、本件においては、検察官の釈明により、判定はME検査の結果ブラウン管に投影された断層映像に対する解読、判断であって、医学的評価の前提としての客観的状況についての認識、判断であり、また診断は右認識判断に対する医学的評価であり、告知についても公訴事実別表記載の各患者に対する告知内容によりそれぞれ具体的に明らかにされているものであって、本件医行為の訴因の記載として特定性に欠けるところはないということができる。所論はとうてい採用できない。
 

浦和地裁川越支部昭和63年 1月28日判決判時 1282号7頁
東京高等裁判所刑事判決時報40巻1〜4号9頁

富士見産婦人科病院事件 - Wikipedia

 

と一般人の理解や判断で特定できる、とされていますね。

 

そう考えるとタトゥー施術を医師法違反とするのは罪刑法定主義の観点からどうよ?って疑問も浮かんだりする。

 

もっとも一般人の判断は期待も含まれている気もする。

 

美容整形は長い間、医学界では医療とはみなされていなかったようだが、医師免許などを持たないから美容整形手術を受けたいと思う人もおるまい。

togetter.com

 

その点が問題になったのがアートメイクだろう。

 

アートメイクは適切な知識・資格が施術者にあることを前提に利用者は施術を受けていたと思う。

そう考えるとアートメイクは一般人の理解においても医行為と言わざるをえないだろう。

 

で、入れ墨に関しては上述のような疑問を述べる人がそこそこいるのである。

そのような発言をする人達に、医行為が「保健衛生上害を及ぼすおそれのある行為」という知識が無いから、といったらそれまでなのだろうが。

 

入れ墨がアウトローだけのものであれば社会的にはどうでも良かっただろうし、入れ墨を入れる際の後遺症などに泣き言を言うヤクザもおるまい。

 

しかしアウトローのイメージを払拭し、一般人への施術も謳うようになってるのであれば流石に放置もできまい。

 

一般人ならなるべく後遺症などが無い施術を希望するのは当然だし、タトゥー業界も衛生管理を謳っている。

 

そうなると最小限の身体的リスクで済むように衛生知識や環境を求めるのは当然となり、やはり一般人の理解においても医行為のように思える。

 

弁護団SMクラブは医行為じゃないのか?と言ってたようだが、SMクラブは痛めつけられること自体が目的だし、そこに衛生的な配慮は求めておるまい。

 

一般人の理解できる内容で良いなら無免許マッサージの取り締まりもぜひ、そのレベルでお願いしたいものである(結局これが言いたかった)。

 

マッサージも受ける側が健康被害を受容していないから国民生活センターの報告書で挙げられているような、健康被害にあってから無免許に気づいた、というケースが出てくるわけで。

ヘルスケア大学で原発性アルドステロン症を検索したら高血圧対策の健康食品の広告が出る。

私、高血圧です。

胸部絞扼感で救急車呼んで、総合病院はあまり好きでないのにそこの循環器科に通院するはめになっております。

 

で、原発性アルドステロン症の疑いがあるから今度CT撮ろうか、と言われる。

ググってみて、いろんな病院のサイト(ここ、大事)を読んでみる。

とりあえず理解して、ヘルスケア大学ではどんな記事が出てくるのだろうか、検索してみたら健康食品の広告リンクが出てくるのであった。

本家のGoogleやYahooでは広告は出ないのに。

 

www.taisho-direct.jp

cp.eisai.jp

www.lionshop.jp

 

最初に踏んだのは大正製薬ので、新聞広告も出されている。

で、よく読んでみると収縮期血圧が130〜139mmHg、拡張期血圧が85〜89mmHgの方が対象だそうで。

この打ち消し表示、見逃しやすい。130という数字は強調しているが。

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打ち消し表示に関しては消費者庁が報告書をこの間、出していましたが。

景品表示法|消費者庁

 

で、エーザイやライオンのはそのような打ち消し表示すら無い模様。

 

これが「高血圧」とか「本態性高血圧」で検索して出てくるならまだわかるんですよ。

なぜ具体的な病名を検索したときに医薬品ではない健康食品を広告に出しますかね?

広告主である大正製薬などがキーワード設定をしているのか、GoogleAdwordsなどの外部サービスに任せているのか、ヘルスケア大学がキーワードと広告の関連付けを行っているのかはわかりませんが。

 

ヘルスケア大学で、医療や健康に関係無いキーワードで検索しても広告が出てくるのでGoogleAdwordsかもしれません。

 

市販薬や健康食品に関しては、誤った宣伝により適切な治療の機会を失いかねない、という批判もあります。

www.gohongi-beauty.jp

 

ここであはき法の広告規制に関する最高裁判決より。

裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面

論旨は、本件広告はきゆうの適応症を一般に知らしめようとしたものに過ぎないのであつて、何ら公共の福祉に反するところはないから、同条がこのような広告までも禁止する趣旨であるとすれば、同条は憲法一一条ないし一三条、一九条、二一条に違反し無効であると主張する。

 

しかし本法があん摩、はり、きゆう等の業務又は施術所に関し前記のような制限を設け、いわゆる適応症の広告をも許さないゆえんのものは、もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。

されば同条は憲法二一条に違反せず、同条違反の論旨は理由がない。 

 で、補足意見より

また、本法七条が適応症の広告を禁止した法意は、きゆう師等が(善意でも)適応症の範囲を無暗に拡大して広告し、広告多ければ患者多く集まるという、不公正な方法で同業者または医師と競争し、また、重態の患者に厳密な医学的診断も経ないで無効もしくは危険な治療方法を施すようなことを防止し、医師による早期診断早期治療を促進し
ようとするにあるようにも思える。 

 とあるわけですよ。

 

検索キーワードは適応症じゃないかもしれませんが、手術が必要かもしれない病気の可能性を告げられて検索して、高血圧に効くと広告している製品があったら普通の人は試してみたくなるかと。

ましてや聞いたことのある会社の製品では。

 

手術を経験したことがないので、尿道カテーテルの抜去時の痛みが今から怖いです。