2021/03/09追記
追記終わり
タトゥーの彫師が医師法違反に問われた裁判で、有罪の一審判決が出た。
弁護団は医行為性については
弁護側はタトゥーを彫る行為は病気の治療や予防が目的の医療行為にはあたらず、医師法の「医業」ではないと訴えていた。
医行為の内容が不明確なことについては
タトゥーを彫ることが医療行為として明確に定められていないのに罰せられれば、罪となる行為や罰則の内容があらかじめ法律で決められていなければならない「罪刑法定主義」に反するとしていた。
と主張していた(上記記事から引用)。
で、裁判所は罪刑法定主義に関しては
長瀬裁判長はまた、医師法が定める医療行為にどのようなものが含まれるかについては、「通常の判断能力を有する一般人にとっても判断可能」なため、医師免許がないのにタトゥーを施した人を処罰することは法律上、矛盾しないとした。
医行為について、一般人は判断可能、という前提である。
この判決のニュースに言及したツイートでは医療行為なら医療行為の結果である入れ墨を入れた者を排除するのは差別ではないか、といった意見や、それなら健康保険を適用して、という意見も見かけた。なかなか一般人が判断可能か、というのは難しいかもしれない。
さて、過去の裁判例では
一 控訴趣意中、歯科医師法(以下単に「法」という。)一七条が実体刑罰法規として犯罪構成要件が不明確で罪刑法定主義を規定した憲法三一条に違反する無効の規定であるのに法一七条を適用して被告人に有罪判決を宣告した原判決には法令の解釈・適用を誤つた違法があるとの主張について
所論は、要するに、法一七条にいう「歯科医業」の意義が明確ではなく、通常の判断能力を有する一般人の理解において、歯科医業行為が具体的にいかなるものを指すのかの判断を可能ならしめる基準が右法条からは全く読みとれないから、右法条は憲法三一条に違反し、無効である、というのである。
そこで、検討するに、法一七条所定の「歯科医業」なる文言は、原判決が(弁護人の主張に対する判断)の項一において判示しているとおり、そこに合理的解釈を施すことによつて容易にその内容を明確にすることができるものであり、かつ、所論のいう一般人においても右法条の文言に即して理解するならば、具体的な場合に特定の行為が右法条の規定内容に触れるか否かの基準を読み取ることが可能であるといわなければならない。すなわち、「歯科医業」とは、反覆継続の意思をもつて行う歯科医行為にほかならないが、かかる歯科医行為とは、歯科医療に関する一定範囲の行為であつて、我が国において国民一般に受け入れられ、確立している「医」ひいては「歯科医」の観念によれば、結局、「歯科医師が行うのでなければ国民の保健衛生上危害を生ずるおそれがある行為」を指すものであることが明らかであり、以上によれば、「歯科医業」の文言の中に、一般人が右の歯科医行為の内容を感知し得る基準が含まれていることになるからである。従つて、法一七条(及び二九条一項一号)は、実体刑罰法規として犯罪構成要件が不明確であるとはいえないから、所論はその前提を欠き、失当といわなければならない。論旨は理由がない。
歯科医師法違反事件 札幌高裁昭和55(う)195
刑事裁判月報13巻1・2巻63頁
次に所論(二)についてみると、起訴状記載の公訴事実及び検察官の釈明によれば、本件公訴事実の内容をなす医行為は、ME検査結果から、患者に特定の疾病があり、入院、手術を要する旨判定・診断し、これを患者に告知したというものであり、右判定、診断、告知は一体として医行為を構成するものとして起訴されたことが明らかである。
また、判定、診断、告知はそれ自体抽象的な概念であるといっても、通常の判断力を有する一般人がその意味内容を確定するのにそれほど困難を感ずることがないのみならず、本件においては、検察官の釈明により、判定はME検査の結果ブラウン管に投影された断層映像に対する解読、判断であって、医学的評価の前提としての客観的状況についての認識、判断であり、また診断は右認識判断に対する医学的評価であり、告知についても公訴事実別表記載の各患者に対する告知内容によりそれぞれ具体的に明らかにされているものであって、本件医行為の訴因の記載として特定性に欠けるところはないということができる。所論はとうてい採用できない。
と一般人の理解や判断で特定できる、とされていますね。
そう考えるとタトゥー施術を医師法違反とするのは罪刑法定主義の観点からどうよ?って疑問も浮かんだりする。
もっとも一般人の判断は期待も含まれている気もする。
美容整形は長い間、医学界では医療とはみなされていなかったようだが、医師免許などを持たないから美容整形手術を受けたいと思う人もおるまい。
その点が問題になったのがアートメイクだろう。
先行したのは所謂アートメイクのトラブル。原因を推測すると、受ける側の覚悟の差と、施術する側の技術の圧倒的な差かと。プロの彫師は自分の大腿や左腕を埋め尽くすぐらい練習してからでないと、客に彫るのは許されないと聞きます。
— ジェダイ評議員Go Nakagawa Okumura 公爵 (@Go_Go_Go_Go_Go) 2017年9月29日
アートメイクは適切な知識・資格が施術者にあることを前提に利用者は施術を受けていたと思う。
そう考えるとアートメイクは一般人の理解においても医行為と言わざるをえないだろう。
で、入れ墨に関しては上述のような疑問を述べる人がそこそこいるのである。
そのような発言をする人達に、医行為が「保健衛生上害を及ぼすおそれのある行為」という知識が無いから、といったらそれまでなのだろうが。
入れ墨がアウトローだけのものであれば社会的にはどうでも良かっただろうし、入れ墨を入れる際の後遺症などに泣き言を言うヤクザもおるまい。
しかしアウトローのイメージを払拭し、一般人への施術も謳うようになってるのであれば流石に放置もできまい。
一般人ならなるべく後遺症などが無い施術を希望するのは当然だし、タトゥー業界も衛生管理を謳っている。
そうなると最小限の身体的リスクで済むように衛生知識や環境を求めるのは当然となり、やはり一般人の理解においても医行為のように思える。
弁護団はSMクラブは医行為じゃないのか?と言ってたようだが、SMクラブは痛めつけられること自体が目的だし、そこに衛生的な配慮は求めておるまい。
一般人の理解できる内容で良いなら無免許マッサージの取り締まりもぜひ、そのレベルでお願いしたいものである(結局これが言いたかった)。
マッサージも受ける側が健康被害を受容していないから国民生活センターの報告書で挙げられているような、健康被害にあってから無免許に気づいた、というケースが出てくるわけで。