偽装請負が横行するリラクゼーション業界。指示を受けなければいけない、となれば労働者として守られる。

 国家資格者である鍼灸マッサージ業界も他業界のことは言えないのだが、リラクゼーションや整体などの業界では会社が施術者(業界では「セラピスト」と呼ぶのが一般的な模様。)を社員、労働者として雇用せず、個人事業主との業務委託契約にしている事が多い。

 

個人事業主フリーランスと言うとかっこよく聞こえるかもしれないが、労働者としての保護を受けられないのである。

 

労働者である(雇用関係がある)メリット

雇用関係の有る労働者の場合、私が思いつくだけでも下記のようなメリットがある。

健康保険は個人事業主(自営業)でも国民健康保険国保)はあるが、全額自分で払わなければいけない。一方、協会けんぽや組合保険など、会社の健康保険であれば保険料の半額は会社持ちである。そして国保には傷病手当金というのが無い。

傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/

年金も自営業であれば国民年金である。

現在、国民年金の支給額は満額で月額6万5千円程度である。厚生年金は保険料の支払いによるし、保険料の自己負担は半分である。

 

また労災であるが、通勤中や業務上の怪我の治療費や休業補償が得られる。

事業者(法人、個人問わず)が人を雇う場合には必ず加入しなければならない。そして保険料は事業主が全額負担である。

建設業だと一人親方用の労災が有るらしいが、通常の業種では無い。

労災保険とは? 基礎知識や仕組み、特徴を解説 - SmartHR Mag.

 

で、雇用保険であるが、失業した時に失業給付が受けられる。

また新型コロナウィルスで話題に上る、雇用調整助成金というのもある。

この助成金は直接労働者に支給されるわけではないが、給料の一部を国が事業主に助成してくれる。

私も労働関係はそんなに詳しくないので詳しくはググってほしい。

 雇用契約ではなく、業務委託になっている実態。

いくつか例を見てみよう。

全国に600店舗以上を展開するリラクゼーションスペースの「りらくる」で働くセラピストは全国に12,000人以上居ます。その全てが業務委託契約であり、本来自由に働く事ができる個人事業主であります。しかし、現実は自由と程遠く、1ヶ月分のシフトを組まされ出退勤も管理されております。深夜2時半まで営業しており、深夜の時間帯を希望して働くセラピストは少なく、一旦深夜のシフトを組んでしまえば中々そこから抜ける許可も下りず、強制的に拘束されてしまう現状がございます。

キャンペーン · (株)りらく: リラクゼーション業界にはびこる偽装請負からセラピストを救いたい · Change.org

 

 

個人事業主に対する業務委託であれば自分が休みたい時に休めば良いのである。

なのに「本社から休業許可」が必要、というのであれば偽装請負と言わざるを得まい。

 

 このアカウントの店長は雇われ店長だそうだ。

 

経営者は、平時は施術者の雇用に伴う社会保険の負担を免れているわけである。

雇用していれば雇用調整助成金などを受けられることは上記の通り。

施術者の自由度(時間拘束や最低出勤日数の義務が無いなど。)によっては業務委託契約でも構わないが、そこまで自由なら雇われ店長が心配することでもない。

 

幸い、個人事業主にも、新型コロナウィルスによる減収に対する給付金は支払われるが、事務作業は自分でやるか、専門職に頼まねばならぬ。

個人事業主というのは、そのような社会制度に関するリテラシーを持った者でなければなるべきじゃない。施術の腕や、接客が良ければ良い、というわけではない。

ラクゼーション業界における、労働者性を争った裁判例

ラクゼーションや整体などの業界に入ることを考えている人や新人の場合、一国一城の主になることを夢見たり、手取りが多いことにメリットを感じ、雇用されることを重視しないかもしれない。

だが、今回のような有事で補償がなくて困っているセラピストがいるのは上掲のとおり。

雇用関係の確認を求めて裁判を起こしてたりもする。

 温浴施設でマッサージ等を行うセラピストが、業務委託契約の解除は解雇に当たり無効として提訴。東京地裁は、指名以外の施術は行わない等要望すれば担当を拒否できること、完全出来高労務対償性はないことなどから使用従属性はなく労働者性を否定した。契約書になかった受付業務に従事させたことについて、施術に付随する業務として未払報酬の請求も棄却した。 

リバース東京事件(東京地判平27・1・16) 温浴設備のセラピスト、委託解除され解雇と訴える 使用従属性がなく請求棄却│労働判例|労働新聞社

 

 2.イヤシス事件

 本件で被告とされたのは、リラクゼーションサロンの経営等を目的とする有限会社です。

 原告らになったのは、被告の運営する店舗施術等を担当した方です。自分達は労働者であるとして、未払い割増賃金等の支払いを求める訴えを起こしました。

 これに対し、被告は、原告らと締結した契約は労働契約ではなく、業務委託契約であると主張し、原告の請求の棄却を求めました。

 裁判所は、次のとおり述べて、原告らの労働者性を肯定しました。

フリーランスの中には労働者性の認められる方が混ざっている - 弁護士 師子角允彬のブログ

 現実は厳しいのであり、本当のフリーランス個人事業主としてやっていけるのは一握りの人たちである。

看護師は医師の指示が必要だから業務委託ができない。

ラクゼーションや整体の業界に偽装請負が横行するのは、現行法及び判例下では誰の指示を受けなくても施術できるからである。施術を個人の裁量で行っている、と言えるから業務委託契約が成立するのである。

 

その点、看護師は診療の補助を行うのに、医師の指示が必要である。

そのため、雇用関係が必要となる。指示に従う必要がある以上、業務委託はできない。

施術に指示が必要なら雇用契約を結ばなければいけない。そのための立法。

もし、国家資格を持たない者による施術には医師やあん摩マッサージ指圧師による指示が必要という法律ができたとしよう。

業務に誰かの指示が必要であれば雇用関係が必要となる。

だからリラクゼーションセラピストなどは労働者として保護されることになる。

 

法律で認めれば、国家資格者から無法者呼ばわりも受けずに済むのである。 

ラクゼーション業の労働組合も作られたようなので、新型コロナウィルスで補償を受けにくいことに不安を覚えた方々は組合に参加して、立法を求めても良いと思う。

リラクゼーション労働組合 はじめに

twitter.com

 

あん摩マッサージ指圧師の指示を受ける立場になることを嫌なセラピストもいるかもしれないが、リラクゼーション業界の親玉もあん摩マッサージ指圧師だったりする。

 

 清水 秀文(しみず ひでふみ)さん
株式会社ボディワーク 代表取締役
日本リラクゼーション業協会 理事長

東京都出身。大学を卒業して1年間、サラリーマンとして働いた後に、東京鍼灸マッサージ専門学校と東京柔道整復専門学校へ。エステサロンと接骨院の開業・経営、温浴施設の業務請負などを精力的に行う。

現在、全国に「ラフィネ」ブランド500店舗を持つボディワークの代表取締役であり、グループ会社のボディワークホールディングス代表取締役も務める。2008年に日本リラクゼーション業協会の理事長に就任。

https://relax-job.com/more/873

ラフィネを運営する株式会社ボディワークの社長さんでもあるが、ラフィネでは下記の通り、業務委託契約が原則である。

契約形態
業務委託契約
お客様にサービスを提供した分、努力した分がそのまま評価や収入につながる『完全出来高制』で、分単位の報酬をお支払いします。

※正社員登用制度あり

https://www.bodywork.co.jp/recruit/require/

セラピストの、労働者としての権利を考えているのは私と清水氏、どちらなのかを考えていただければと思う。