機能回復や向上を目的としない身体改造は医行為なのか?

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 愛知県警中署は31日、刈谷市半城土町、彫師木村智昭容疑者(40)を医師法違反の疑いで再逮捕し、発表した。容疑を認めているという。

 署によると、木村容疑者は医師でないのに、2018年6月~今年1月までの間、安城市の店舗内などで20代女性3人や男性に対して、麻酔薬を注射した上で、舌先を切って二つに割るなどして、「スプリットタン」にする医療行為をした疑いがある。

 木村容疑者は名古屋市内の歯科医院で麻酔薬を盗んだとして窃盗罪などで起訴されていた。「人体改造」などの言葉でSNSに投稿して客を募っており、数万円の報酬を受け取ることもあったという。

逮捕されたのは彫師であり、麻酔薬を盗んだ容疑で逮捕されていた。

そして今回の容疑はスプリットタン施術である。

 

タトゥー施術が医行為に該当せず、医行為は医療関連性の有る行為に限定されると最高裁が判示したのはすでに書いたとおり。

 

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タトゥー施術の際、麻酔をすることが医行為であるかどうかの結論は明確でないが、痛みを除く目的で行っているなら医療関連性が有ると言えるだろう。 

スプリットタン施術は改善、矯正を目的にしているとは言い難い。

さて、最高裁決定では美容整形に関しては言及していない。

しかし控訴審*1では

 ところで,医療とは,現在の病気の治療と将来の病気の予防を基本的な目的とするものではあるが,健康的ないし身体的な美しさに憧れ,美しくありたいという願いとか醜さに対する憂いといった,人々の情緒的な劣等感や不満を解消することも消極的な医療の目的として認められるものというべきである。

美容整形外科手術等により,個人的,主観的な悩みを解消し,心身共に健康で快適な社会生活を送りたいとの願望に医療が応えていくことは社会的に有用であると考えられ,美容整形外科手術等も,このように消極的な意義において,患者の身体上の改善,矯正を目的とし,医師が患者に対して医学的な専門的知識に基づいて判断を下し,技術を施すものである。

 

 以上からすると,美容整形外科手術等は,従来の学説がいう広義の医行為,すなわち,「医療目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められるもの」に含まれ,その上で,美容整形外科手術等に伴う保健衛生上の危険性の程度からすれば,狭義の医行為にも該当するというべきである。したがって,医業の内容である医行為について医療関連性の要件が必要であるとの解釈をとっても,美容整形外科手術等は,医行為に該当するということができる。

と判示している。

さて、スプリットタン施術は「患者の身体上の改善、矯正を目的」としているのだろうか?

通常の美容整形は人の有るべき姿から逸脱はしていない。

しかし、スプリットタン施術は人の有るべき姿から逸脱しているのである。

これが何らかの機能の回復、向上を目的としているなら「改善」とも言えようが、下記のページを見る限り、そのような「改善」を目的にしているとは思えない。

スプリットタンとは?蛇にピアスで話題に!やり方・戻し方は?|エントピ[Entertainment Topics]

となると麻酔をしたことはともかく、スプリットタン施術自体は医師法違反に問えないのでは?と思ったりもする。

医師等の知識・技能・教育で役務の目的を果たせるから医行為?

なお、スプリットタン施術を行うクリニックも有るようである。

「スプリットタン クリニック」で検索すれば出てくる。

タトゥー最高裁決定では

また,タトゥー施術行為は,医学とは異質の美術等に関する知識及び技能を要する行為であって,医師免許取得過程等でこれらの知識及び技能を習得することは予定されておらず,歴史的にも,長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があり,医師が独占して行う事態は想定し難い。

と判示されている。

スプリットタン自体はタトゥーのような、医療知識・技能以外の特別な技能を必要とするわけでは無いだろう。

しかしこのような解釈をすると医行為の定義が、「保健衛生上の危険性のある行為のうち、行為の目的達成のために、医師等の医療職が身につけることが期待されてない技能が必要な行為」となって、医行為の範囲が広がりそうである。

 

できれば正式裁判で、何らかの判示をして欲しいところである。

実際、麻酔だけが医師法違反に問われるのと、スプリットタン施術も医師法違反に問われるのでは量刑も異なるだろう。

麻酔を伴うアートメイク医師法違反に問われた事件では懲役1年の実刑判決*2だから略式命令とはいくまい。