有名なYouTuber、HIKAKIN氏がエセ医学を紹介しているというツイートがTLに流れてくる。
ヒカキンさんの動画でエセ医学が紹介。
— やさひふ|皮膚科専門医|医学博士|Lumedia編集長 (@S96405539) 2022年11月21日
・首をボキボキする整体
⇒厚労省が「中止する必要あり」と通告済。米国心臓協会らも「脳卒中リスクあり」と警告
・吸い玉
⇒適切な科学的根拠なし。副作用は怪我、感染症、肌の変色、貧血など多数
健康情報は「有名人もやっているから」と真似してはダメ! pic.twitter.com/DFVF0zJIJi
ヒカキンさんが紹介した「首ポキポキ」では、すでに死亡例も報告されています。
— やさひふ|皮膚科専門医|医学博士|Lumedia編集長 (@S96405539) 2022年11月21日
アメリカの有名女性モデル(34歳)が施術を受けた後に急死。検死の結果、「施術で首の血管が切れたことによる脳卒中の事故死」と断定されました。
ヒカキンさんの動画を見て真似するお子さんが出ないと良いのですが… https://t.co/fvJPrplex8
HIKAKIN氏がボキボキ整体を紹介しているのは以下の動画である。
本件動画では6つの施術所(店)を紹介しているが、本記事では最初のボキボキ整体こと、COCOLO Ginza(施術者 萩原 正規)の施術の違法性(医師法違反など)について検証する。
本文中、断りのないスクリーンショットは本件動画のものである。
整体などの法規制
私のブログを初めて見る方のため、整体やマッサージについての法制度を説明する。
医師以外に独立判断で症状等の治療や身体の矯正を行える国家資格は歯科医師(歯科・口腔疾患)、助産師(妊産婦、新生児)、柔道整復師(急性外傷)、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師のみである。
はり師、きゅう師をあわせて鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の免許も持つ鍼灸師又は3つの免許を合わせて鍼灸マッサージ師と呼んだりする。
鍼灸マッサージ師は施術対象者や対象疾患を限定されていない点で、医師以外の他の独立判断施術が可能な国家資格とは異なる。
このブログの作成者は鍼灸マッサージ師である。
看護師等は医師の指示の下で医行為を業として行える。
理学療法士などは看護師の業務の一部を行えるというのが法律の規定である。*1
医業類似行為(無免許治療業務)の禁止
そして、医療国家資格を持たない者による治療業務(医業類似行為)は本来、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき法)第12条で禁止されている。
第十二条 何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。ただし、柔道整復を業とする場合については、柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)の定めるところによる。
第一条 医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。
そして第12条で業として行うことを禁止されている医業類似行為ですが裁判例では
医業類似行為とは
『疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であって他の法令において認められた資格を有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの、』
換言すれば
『疾病の治療又は保健の目的でする行為であつて医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの』
(仙台高裁 昭和 29 年 6 月 29 日判決 昭 28(う)第 275 号)
とされています。
つまりなんの法的な医療免許を持たずに、業として疾病の治療又は保健の目的でする行為をしてはならない、ということです。
医業類似行為の定義を「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限定した最高裁判決
しかし最高裁は昭和35年、医業類似行為の定義を「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限定する判決を出します。業界ではこの判決を昭和35年判決などと呼んでいます。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51354
これまで無免許治療を業として行っただけで処罰可能だったのが、人の健康に害を及ぼすおそれの証明が必要となりました。
整体師やカイロプラクターとして営業するのになんの免許も必要ない。
そんなわけで、人の健康に害を及ぼすおそれが無い、という建前のもと、無免許治療は放任されることになります。
そのため、整体師やカイロプラクターと名乗って営業するのに、なんの免許も必要ありません。
ただし、整体やカイロプラクティックによる健康被害が国民生活センターや消費者庁によりまとめて報告されています。
手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター
消費者庁:法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に[PDF]
無免許治療で子供が犠牲になる事件も発生しております。
頚椎スラスト(首ボキボキ)の禁止
やさひふ先生が言及しているように、首ボキボキ(頚椎スラスト)に関し、旧厚生省は禁止する通知を出している。
2 いわゆるカイロプラクティック療法に対する取扱いについて
近時、カイロプラクティックと称して多様な療法を行う者が増加してきているが、カイロプラクティック療法については、従来よりその有効性や危険性が明らかでなかったため、当省に「脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究」のための研究会を設けて検討を行ってきたところである。今般、同研究会より別添のとおり報告書がとりまとめられたが、同報告においては、カイロプラクティック療法の医学的効果についての科学的評価は未だ定まっておらず、今後とも検討が必要であるとの認識を示す一方で、同療法による事故を未然に防止するために必要な事項を指摘している。
こうした報告内容を踏まえ、今後のカイロプラクティック療法に対する取扱いについては、以下のとおりとする。
(1) 禁忌対象疾患の認識
カイロプラクティック療法の対象とすることが適当でない疾患としては、一般には腫瘍性、出血性、感染性疾患、リュウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等とされているが、このほか徒手調整の手技によって症状を悪化しうる頻度の高い疾患、例えば、椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、環軸椎亜脱臼、不安定脊椎、側彎症、二分脊椎症、脊椎すべり症などと明確な診断がなされているものについては、カイロプラクティック療法の対象とすることは適当ではないこと。
(2) 一部の危険な手技の禁止
カイロプラクティック療法の手技には様々なものがあり、中には危険な手技が含まれているが、とりわけ頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する必要があること。
(3) 適切な医療受療の遅延防止
長期間あるいは頻回のカイロプラクティック療法による施術によっても症状が増悪する場合はもとより、腰痛等の症状が軽減、消失しない場合には、滞在的に器質的疾患を有している可能性があるので、施術を中止して速やかに医療機関において精査を受けること。
(4) 誇大広告の規制
カイロプラクティック療法に関して行われている誇大広告、とりわけがんの治癒等医学的有効性をうたった広告については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第十二条の二第二項において準用する第七条第一項又は医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第六十九条第一項に基づく規制の対象となるものであること。
人の健康に害を及ぼすおそれの基準
人の健康に害を及ぼすおそれの基準であるが、無資格者に診療補助行為をさせたとして、保健師助産師看護師法違反に問われた事件では
医師が無資格者を助手として使える診療の範囲は、おのずから狭く限定されざるをえず、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。
東京高裁平成元年2月23日判決 昭63(う)746
と判示されている。
医師の指示のもとでも行えない行為を、無資格者が独立して行える理由はない。
そんなわけで、整体師やカイロプラクターは身体状況の判断(診察、診断)を伴う治療行為はできない。問診も不可能である。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51069
医行為の定義と保健衛生上の危険性の分類
身体の矯正は医療の目的とされる
無免許医業は医師法第17条で禁止されています。
第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
医業とは医行為を業として行うことです。
そして医行為ですが最高裁決定では
医行為とは,医療及び保健指導に属する行為のうち,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいうと解するのが相当である。
とされます。
美容なども医療及び保健指導に属する(医療関連性が有る)とされます。
ところで,医療とは,現在の病気の治療と将来の病気の予防を基本的な目
的とするものではあるが,健康的ないし身体的な美しさに憧れ,美しくあり
たいという願いとか醜さに対する憂いといった,人々の情緒的な劣等感や不
満を解消することも消極的な医療の目的として認められるものというべきで
ある。美容整形外科手術等により,個人的,主観的な悩みを解消し,心身共
に健康で快適な社会生活を送りたいとの願望に医療が応えていくことは社会
的に有用であると考えられ,美容整形外科手術等も,このように消極的な意
義において,患者の身体上の改善,矯正を目的とし,医師が患者に対して医
学的な専門的知識に基づいて判断を下し,技術を施すものである。
以上からすると,美容整形外科手術等は,従来の学説がいう広義の医行為,
すなわち,「医療目的の下に行われる行為で,その目的に副うと認められる
もの」に含まれ,その上で,美容整形外科手術等に伴う保健衛生上の危険性
の程度からすれば,狭義の医行為にも該当するというべきである。したがっ
て,医業の内容である医行為について医療関連性の要件が必要であるとの解
釈をとっても,美容整形外科手術等は,医行為に該当するということができる。
保健衛生上の危険性の分類
保健衛生上の危険性は3つに分けられる。*2
- 外科手術のように、その行為自体が直接に人体に危険を及ぼす行為(直接的危険)
- 診察など、その行為が前提となって、次の人体に通常直接的に危険な行為をもたらす行為(間接的危険)
- 診察・診断など、その行為によって適切な治療を受ける機会が奪われる行為(消極的危険)
前掲の「医行為と医事法」に論文を掲載された、小谷昌子神奈川大学准教授の投稿。
うーん、タトゥー事件のときに文献を網羅的に読みましたが、把握している限りで(よほど変わった単独説を見落としている可能性はありますが)たぶん消極的危害を無視していいとする学説はないと思います。
— kotanimasako (@ktnmk) 2022年8月26日
前掲の最高裁決定の以下の部分を持って、消極的危険の肯定とされる。*3
ある行為が医行為に当たるか否かを判断する際には,当該行為の方法や作用を検討する必要があるが,方法や作用が同じ行為でも,その目的,行為者と相手方との関係,当該行為が行われる際の具体的な状況等によって,医療及び保健指導に属する行為か否かや,保健衛生上危害を生ずるおそれがあるか否かが異なり得る。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/717/089717_hanrei.pdf
消極的危険を肯定した裁判例としてはホメオパシー療法の前提としての診察・診断を医行為と認めた判決が有る。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=8591
「マッサージ」には免許が必要であり、区別ができないリラクゼーション業は日本で株式上場は不可能である。
前述のとおり、業としてマッサージを行うにはあん摩マッサージ指圧師の免許が必要である。しかし「マッサージ」ではないとしてリラクゼーションなどと称して施術している業者もいる。
リラクゼーション業者の大手、メディロムは東証上場を目指したが、違法性を払拭できないとして上場が認められず、米国で上場することとなった。
紹介されたボキボキ整体、COCOLO Ginza
店長、施術者の萩原 正規氏の経歴・所持免許
店長、施術者の萩原 正規氏の経歴・所持免許であるが、ホットペーパーには「美容整体師」という肩書が書かれ、鍼灸専門学校に通学中であることが書いてある。
はぎわら まさき|ココロギンザ(COCOLO Ginza)|ホットペッパービューティー
鍼灸専門学校に通っている、ということはまだ鍼灸師の免許は持っていない、ということである。
医療免許を有しているのか、ツイッターで聞いてみたが、このブログを投稿した時点で回答はない。
突然失礼いたします。
— びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 (@binbo_cb1300st) 2022年11月21日
ホットペーパービューティには「美容整体師」という肩書を記述されておられてますが、はぎわら様はあん摩マッサージ指圧師や柔道整復師などの法的な医療免許はお持ちでしょうか?
他のサイトでも萩原氏の事が書かれているが、法的な医療免許を所持しているとは書かれていない。
そんなわけで、萩原氏は現時点では法的な医療免許を受けていないと判断する。
2022/11/23追記
萩原氏から医療免許の有無についての回答はなく、ツイッターをブロックされました。
#HIKAKIN 氏が紹介したボキボキ整体のCOCOLO Ginzaの萩原正規氏に、医療免許の有無を尋ねたらブロックされました。https://t.co/ubLyjLtgMv#はぎわら先生 #銀座 #COCOLO #ボキおん #美容整体 #整体 #ボキボキ #ヒカキン https://t.co/keRmODfkXd pic.twitter.com/voNmtb5FCH
— びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 (@binbo_cb1300st) 2022年11月23日
萩原氏の施術方法など
ウェブサイトは2箇所確認できる。
もっぱらSNSへのリンクという感じである。
施術の流れとか、萩原氏の経歴がわからない。
もう一つは以下のサイトである。
メニューには
- 小顔矯正
- フェイスデザイン矯正
- はぎわら式 全身骨格矯正
- 産後骨盤矯正
といったものがある。
美容目的の矯正であっても医療関連性が有る(医療及び保健指導に属する)ことは前述のとおり。
また全身骨格矯正の説明では
顔以外の関節の矯正メインで行います。
ボキボキ音がする施術になります。
カイロプラクティックをメインの施術としております。
肩こり、腰痛、頭痛、痩せにくい体質、むくむ、倦怠感、歪みなどをお持ちで、
毎週のようにマッサージに行かれている方は、一度お越しくださいませ。
と、肩こり、腰痛、頭痛などの患者に施術を受けるように誘引しているわけで、医療関連性は否定できまい。
またその施術内容は「カイロプラクティックをメイン」としているわけである。
そして、萩原氏が自分のYoutubeチャンネルに上げている動画を見ると、脊椎(頚椎、胸椎、腰椎)矯正(マニピュレーション)が多い。
脊椎矯正の危険性・違法性(積極的危険)
脊椎マニピュレーションに危険性が有ることは、国民生活センターからも要望先として挙げられる、一般社団法人 日本カイロプラクターズ協会(JAC)も認めているところである。
医師であっても、カイロプラクティックの教育をちゃんと受けなければ安全性が担保されない、と書いている。この記述を根拠に、私は無免許での脊椎マニピュレーション(カイロプラクティック)を違法と指摘したら、JACから発信者情報開示請求を受けた。そして退けた。
このとき、JACから出された発信者情報開示請求書は、自らカイロプラクティック療法の危険性を認めるものであった。
無断で転載・公開すると、このブログ全体の非公開処置を受けかねないので開示請求書を公開できないが、似たようなことはカイロプラクターらしき者がWikipediaに書いている。
自らの施術方法が危険だと自白
以下は萩原氏のチャンネルにある動画である。
下記画像はこの動画のスクショである。
自ら真似禁止、と言ってるのである。
ズンズン運動の損害賠償の裁判でも、犯人(被告)がスタッフに禁止していたから危険性を認識できた、と認定されている。
被告Dは,身体機能回復指導について,本件法人のスタッフや乳児の母親等に対し,
身体機能回復指導の施術は,被告Dにしか行えないものであると吹聴し,現に,被
告Dのみが身体機能回復指導を行い,身体機能回復指導を行うスタッフの養成も行
っていなかったこと等からすれば,被告D自身,本件施術当時,単に危険性を認識
し得たというにとどまらず,身体機能回復指導が乳児に危険をもたらすものである
ことを認識していたものと認められる。
身体の状況や原因の判断(診察・診断 消極的危険)
前掲のホットペーパービューティのページより切り取りスクショ
「体の不調原因」を伝えるということである。
実際、ヒカキン氏の動画では肩こりの原因を股関節の歪みだと萩原氏は指摘している。
「肩こりとります!」と10分19秒頃には説明している。
一度、動画を戻るが、肩こりの原因を右の股関節の影響であると萩原氏は述べている。
施術後には股関節が外に曲がっていた、と説明している。
もっとも動画の最初の方(4:13から)で、「歪み」をチェックして、右の股関節が外にズレている、という説明はしている。それで「循環器系と呼吸器系がちょっと弱いのかな?」と聞いている(4:46)。
後半を先に取り上げたのは、前半の方は施術目的が不明確で、医療関連性を有するか、わかりにくいからである。
症状(肩こり)の原因や身体の状況を判断、説明していることがわかるだろう。
厚生労働省のオンライン診療ガイドラインでは診断を以下のように定義づけている。
診断
一般的に、「診察、検査等により得られた患者の様々な情報を、確立された医学的法則に当てはめ、患者の病状などについて判断する行為」であり、疾患の名称、原因、 現在の病状、今後の病状の予測、治療方針等について、主体的に判断を行い、これを伝達する行為は診断とされ、医行為となる。
こういう診察、診断を誤った場合、適切な治療を受ける機会を逸失するため、前述の消極的危険がある。
結論:ボキボキ整体は違法である。
- 萩原氏は法的な医療免許を有していない。
- 萩原氏の施術は医療関連性が有る(腰痛や肩こりなどの解消、美容目的の矯正)
- 萩原氏の施術は積極的危険性が有る(頚椎スラスト、脊椎マニピュレーション、カイロプラクティック)
- 萩原氏は症状・不調の原因を判断し、利用者に告知している(診察・診断)ので、消極的危険がある。
以上より、萩原正規氏は業として医行為を行っており、医師法17条に違反する。
同様にあはき法12条にも違反する。