(2020/01/17追記)
不正競争防止法改正により、該当号数が変わったため訂正
(追記終わり)
本日、新聞に入っていた整体院のチラシ。整体師(有国家資格)とある。整体師には国家資格は無い。事実誤認を与える経歴だ。国家資格があるなら「経歴、症状名、施術費用など」は広告出来ない。整体師と名乗れば「違法行為」にならないのか?法律を逸脱する行為を放置しないで欲しい。 pic.twitter.com/5sluv93tnw
— マッサージ鍼灸免許施術所-奈良県橿原市中曽司町 手技療院 おおたに (@syugi_otani) 2018年3月15日
整体院のチラシだが、「整体師(有国家資格)」と書いてある。
記述内容から判断すると理学療法士(PT)か作業療法士(OT)かと思われる(おそらくPT)。看護師の可能性も否定出来ないけど。
理学療法士及び作業療法士法
第十五条 理学療法士又は作業療法士は、保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として理学療法又は作業療法を行なうことを業とすることができる。
2 理学療法士が、病院若しくは診療所において、又は医師の具体的な指示を受けて、理学療法として行なうマツサージについては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第一条の規定は、適用しない。
3 前二項の規定は、第七条第一項の規定により理学療法士又は作業療法士の名称の使用の停止を命ぜられている者については、適用しない。
とあり、あくまでも「診療の補助」、「病院、診療所において」、「医師の具体的な指示」などといった条件があり、独立判断での施術行為は認められていない。
なので医師やあん摩マッサージ指圧師など、独立判断施術を行える免許を保有していないPTなどが、独立判断の施術を行う整体院などの広告で、国家資格を保有することを表示することは不正競争防止法の品質誤認惹起表示に該当する。
品質誤認惹起表示
品質誤認惹起表示というのは不正競争防止法第2条第1項第20号に定義されている。
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
(略)
二十 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
(省略)
長いので当業界や整体、リラクゼーション業(役務)に限定して書き直すと
役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をして役務を提供する行為
という感じである。
不正競争防止法は「事業者間の公正な競争」を確保し、「国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」*1
よって、不正競争を行った事業者に対し、他の競合事業者は不正競争行為の差止を求めたり、それによって生じた損害の賠償を請求できる。
他の目的で得られた認証を別の目的の製品の説明表示に用いたことが品質誤認惹起表示とされた裁判例
大阪地裁平成7年2月28日判決 平成3(ワ)3669号
出典 判例時報1530号96頁
不燃材料の認定は主たる用途を定めてなされるものであり、被告表示一〈1〉〈2〉〈5〉の不燃認定番号も、前示のとおりいずれも主たる用途を「建築物の屋根・壁・天井」として建設大臣の認定を受けた認定番号であり、主たる用途を「フランジガスケット材」として認定を受けたものではないから、「建築物の屋根・壁・天井」とは全く用途の異なるフランジガスケット材について使用する右各表示は、誤認惹起表示に当たるといわざるを得ない。
この裁判例では認定を受けた物、誤認惹起表示と認定された物、どちらも不燃材料である。しかし両製品の目的は違う。
これを今回の広告に置き換えれば、PTの免許は医師の指示に基づいて施術を行える免許である。
それに対し、あん摩マッサージ指圧師は独立判断での施術を認められている。
医学的知識や施術能力は共通していると言えるが、前述の業務の違いにより求められる診察能力も異なる。
これと同様のことは鍼灸マッサージ師と柔道整復師の間にも言える。
捻挫や打撲などの急性外傷に対する施術を目的とした柔道整復師の免許のみを持つ者が、慢性疾患や疲労回復目的のための施術を広告する際、国家資格を有することを表示することは同様に品質誤認惹起表示に該当すると考えられる。
また加入している協同組合が厚生労働大臣認定であることを示すのも、役務の質について誤認を与えるのであれば品質誤認惹起表示となる。
協同組合の認定で必要なのは財政的基盤や横領などを防ぐ人的な要件であり、施術の安全や効果に関してはなんら厚労省は判断していないのだ。
清酒特級に劣らない優良な酒であっても、審査を受けずに「特級」を表示するのは品質誤認惹起表示である。
級別の審査・認定を受けなかつたため酒税法上清酒二級とされた商品であるびん詰の清酒に清酒特級の表示証を貼付する行為は、たとえその清酒の品質が実質的に清酒特級に劣らない優良のものであつても、不正競争防止法五条一号違反の罪を構成する。
5条1号とありますが、不正競争防止法は平成5年に全部改正が行われており、 現在の不正競争防止法と条数などが一致しません。
昔は日本酒に級制度があり、その級に応じて酒税率が変わっていたのです。
で、国の審査を受けずに「特級」と表示したのが品質誤認惹起表示に問われ、実際に特級相当の品質であっても審査を受けずに表示するのは品質誤認惹起表示に該当する、と最高裁で判示されたわけです。
では、免許を持ってないと行えない行為(要免許行為)を、無免許であるにも関わらず、広告などで表示する行為は品質誤認惹起表示か?
この業界以外に、無免許業者が堂々と営業している業界なんて無いものですから、無免許業者が要免許行為を表示した裁判例は、私が知る限りはありません。
しかし不正競争防止法の目的は不正競争の防止などの措置を講じ、「国民経済の健全な発展に寄与すること」を目的としており、無免許行為を宣伝することを放置すること「健全な発展」を阻害こそすれ、寄与することは無いでしょう。
前掲の判例が、実際に特級品質に相当していたとしても品質誤認惹起表示の罪が成立する、としているのですから、無免許施術者の診察能力の有無に関わらず、診察行為を行う旨、表示していれば品質誤認惹起表示に該当すると思われます。
--2018/03/19追記---
ネットの誹謗中傷対策業者に対し、弁護士が品質誤認惹起表示で訴えた事案では、原告が、被告の行為が違法業務(非弁行為、弁護士法第72条違反)と主張。
知財高裁は被告の表示行為が非弁行為に該当するか否かを検証し、非弁行為に該当せず、として品質誤認惹起表示に該当せず、と判断している。
---追記終わり---
無免許医業の罪は行為者の能力には関係無い旨の裁判例もあります。
不利益事実の不告知
また無免許業者が
- 手技療法にはあん摩マッサージ指圧師の国家資格があること、手技療法に限定しなければはり師、きゅう師といった国家資格があること。
- 自らが無免許であること
ことを消費者に伝えていない場合、消費者契約法上における不利益事実の不告知として施術契約は取り消し可能と思われます。
では不利益事実を表示しないことは不正競争防止法の品質誤認惹起表示か?
これまた私は裁判例を知らないのです。
国会議事録
衆議院会議録情報 第196回国会 予算委員会第七分科会 第1号
より抜粋。装飾は筆者による。
○伊佐分科員
リラクゼーションと呼ばれるところ、いろいろな会社の例えば広告を見ると、問診しますよとか体の状況について検査しますよ、アドバイスしますよと書いているものもあるんです。これは、免許がなければ、本来、法的には行っちゃいけないことなんです。
あるいは、ある業者のホームページには、当社では、全てのセラピストが、厚生労働大臣認可組合の公認セラピストとして認定を受けております、こういう広告があります。これは、厚生労働大臣認可、当然あはきとか柔整以外の施術に対して厚労大臣が認可することはありません。ないんですが、ここで言っていることは、厚労大臣が認可する協同組合、この組合が認定するセラピストなんですよということを言っているんですが、これだけぱっと見ると、本来、だから安全性とか有効性とは全く無関係、サービスの質とは無関係なんですが、何かこれが厚生労働大臣認可をもらっているような誤認を与えるんじゃないかと思っております。
こうした例というのは、不競法、不正競争防止法上ひっかかるんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。
○木村政府参考人
お答え申し上げます。
不正競争防止法では、商品やサービスに関し、その品質や内容などについて誤認させるような表示を行う行為を不正競争行為と位置づけまして、民事上の措置及び刑事上の措置を規定しているところでございます。御指摘のような事案は、実際にはケース・バイ・ケースでございまして、個別の事案が不正競争行為に該当するかどうかの判断は司法当局においてなされるものでございますけれども、御指摘のあったような表示をすることが実際に役務の質や内容を誤認させるようなものである場合には、不正競争行為に当たり得るものと考えてございます。
○伊佐分科員
今、当たり得るという答弁をいただきました。
これは、不競法というのは対ビジネス、ビジネス間の公正な競争というのを担保するということですが、対消費者という観点でいきますと、消費者庁の景表法、景品表示法になると思います。不競法上についてもそういうあり得るということですので、恐らく景表法上、きょう消費者庁は呼んでいませんが、これも違法に問われる可能性があり得るんだというふうに私は認識をしております。
(省略)
そういう意味でも、このリラクゼーション業というものでは、一部不適切な表示をしているような事業者もいると聞いています。こういうことを政府が後押ししているんじゃないかという厳しい声が私のところに届いていますので、ぜひ、そういう誤解を与えることのないように、経産省でも施策の展開をしていただきたい。
むしろ、この有識者の、鍼灸マッサージ師の方々をヘルスケア戦略に積極的に組み込んでいく、こういうような取組をしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○藤木政府参考人
経産省として、リラクゼーション業を含むサービス業を振興するという役割を担っているわけでございますが、これらの業を行う方々が先ほどありました不正競争防止法を始め関連法令を遵守しなければならないということは、当然の前提であるというふうに思っております。
健全な業界の発展に当たっては、適切にサービスが提供される必要があるというふうに考えておりまして、例えば、一般社団法人日本リラクゼーション業協会というところでも、自主基準というのをつくられまして、その中で例えば広告のあり方、あるいは行う手技のあり方ということについて一定の基準を設けて、その周知を図られているというふうに聞いているところでございます。まさに、その業が適正に行われるということが大前提であるということを申し上げたいと思います。
さらに、あんまマッサージ指圧師等の医療をやられている方々、この方々とも連携、これによってヘルスケア産業全体を盛り上げていくという視点は、非常に大切な視点であるというふうに思っております。
今後とも、こういった関連の事業者の皆様方と連携しながら、ヘルスケアサービスの一層の振興ということに取り組んでまいりたいというふうに思っております。
○伊佐分科員
しっかり指導していただきたいと思います。
このあはきの世界というのは、御案内のとおり視覚障害者の方もたくさんいらっしゃって、生計にとって本当に大事な部分を占めておりますので、ぜひ、守るべきものはしっかり守らせるという指導をよろしくお願いしたいと思います。
藤木政府参考人の答弁の中にあった、一般社団法人 日本リラクゼーション業協会に加入している、ある業者のホームページのスクリーンショット(加工済み)
2018/03/19現在でも訂正されていない模様。
2018/04/16 表現の削除を確認。但し、役務の質について誤認を招く表示を行った旨はお知らせのページでは告知していない。
2018/11/03
http://www.bodywork.co.jp/news
を2018年3月分まで確認しても優良誤認表示を行った旨の表示は見当たらず。「不正競争 or 優良誤認表示 site:bodywork.co.jp」でも検索されず。