ずんずん運動の民事裁判から見える、遺族の思い

ずんずん運動の大阪事件の被害者遺族が、NPO法人(解散済み)の理事長と副理事長に対し、5200万円の損害賠償を請求した裁判の判決がありました。

 

www.kobe-np.co.jp

事件が起きたのが大阪なので刑事裁判は大阪地裁で、遺族は神戸在住なので民事裁判は神戸地裁なわけです。

 訴訟では元理事長が責任を認める一方、施術担当でない元副理事長は「危険性を認識できなかった」と主張。山口裁判長は判決で、13年2月にも元理事長による同様の死亡事故があったことなどから、危険性を予見できたと認定した。

これだけだとわかりにくいので時事通信の記事から引用しましょう。

www.jiji.com

 元副理事長も13年の同様の死亡事故後、危険性を確認しないまま施術をブログで広報するなど、ほう助した責任があると判断した。 

 ブログによる広報で、幇助の責任を問われたわけですね。

この副理事長、刑事では書類送検はされていますが、不起訴処分となっております。

 

(2017/05/10追記)

この民事訴訟の判決が裁判所サイトに掲載されております。

神戸地裁平成27(ワ)1816

 

また,平成17年9月27日に新潟市f区内の家屋に開設したサロン(以下「新潟サロン」という。)において,身体機能回復指導を施術していたところ,施術を受けていた男児が,一時的に窒息状態となり救急搬送される事件(以下「新潟第1事件」という。)及び平成25年2月17日に同サロンにおいて身体機能回復指導を受けていた児童(当時1歳10月)が死亡する事件(以下「新潟第2事件」という。)が発生し,被告D(筆者注:理事長、施術者)は,被疑者として取調べを受け,その際,身体機能回復指導については,医師等の専門家にお墨付きを得るようにとその安全性を確認するよう促され,その危険性を指摘されていたのである。

 

また,被告E(筆者注:副理事長)は,本件事故が起こるまで,身体機能回復指導が乳児の発達に有用であることが広く乳児の保護者に認識され,被告Dは,延べ数千回もの施術を行ってきたこと,新潟第2事件は死因が明らかではないとして被告Dの刑事責任は問われていないことを理由に,被告らにおいて,身体機能回復指導の危険性を予見することはできなかったと主張する。

しかしながら,上記説示したとおり本件施術を含むうつ伏せにさせた状態で頸部をもんで刺激を与えるといった身体機能回復指導自体が有する乳児の窒息の危険性に鑑みれば,身体機能回復指導が本件事故までに数千回行われている実績があるとしても,その危険が現実化しなかったに過ぎず,数千回に及んで身体機能回復指導が行われたことをもって,被告らにおいて同施術の危険性の予見ができなかったとはいえない。

また,新潟第2事件後については,捜査の結果,G(筆者注:新潟の被害乳児)の死亡の原因が身体機能回復指導以外にあるものと判断されたわけではないのであるから,被告らにおいて,身体機能回復指導の施術に危険がないか点検・確認する機会があったというべきであり,むしろ,そうするよう検察官等から指導を受けていたにもかかわらず,何ら具体的な措置を講じなかったというのであり,Gの死因が明らかとならなかったことが,身体機能回復指導の危険性の予見可能性を否定する事情になるものではないし,証拠(甲30)によれば,被告Eは,新潟第2事件後,被告Dに対し,心臓マッサージや人工呼吸などの救急救命措置のやり方を学ぶよう示唆していたのであり,遅くとも,その頃までには,身体機能回復指導が乳児を心停止に至らせる危険性を有するものであることを認識し得たものと認められる。

(2017/05/10追記終わり)

ここで時系列を。

下記のブログ記事は報道時に書いてある記事へのリンクとなっており、時系列の把握に有用かと思います。

blogs.yahoo.co.jp


2013年2月17日 新潟で死亡事故
同年11月 新潟県警新潟地検書類送検。嫌疑不十分で不起訴処分

 

2014年6月2日 大阪で死亡事故

NPO法人の理事の男性は取材に対し、昨年も代表の施術を受けた幼児が死亡したことを明らかにしたうえで、「亡くなったのは不幸なことだが、2件とも施術と死亡との因果関係はないと考えている。警察の捜査に協力したい」と話した。

http://www.asahi.com/articles/ASG9631WYG96PTIL003.html?iref=comtop_6_02

(強調筆者)

 

2015年3月4日 理事長逮捕
理事長、副理事長書類送検

同年3月25日 大阪で理事長を起訴(業務上過失致死傷罪)
同年6月9日 初公判。理事長が施術と死亡の因果関係を認める。
同時期、新潟検察審査会は起訴相当と議決

同年7月14日 論告求刑公判

「おわびと償いの人生歩みたい」…乳児施術死、禁錮1年を求刑 「ズンズン運動」元理事長に - 産経WEST

 

弁護士は賠償を理由に執行猶予を求めている。*1

同年8月4日 大阪判決 禁錮1年執行猶予3年の有罪判決

www.sankei.com

男児の父親(46)は判決後、「軽すぎる判決で納得できない。息子に申し訳ない。今後、乳児向け施術行為に対する規制強化を国に求めたい」と話した。

 

同日 新潟地検が理事長を逮捕。

同年9月 大阪事件の遺族が神戸地裁に損害賠償請求の提訴

同年10月26日 新潟初公判
11月19日 新潟判決

www.sankei.com

執行猶予を付けた理由として「自ら罪を認め、弁済もしている」ことを挙げた。

そして、今回の民事訴訟の判決になるわけです。

民事訴訟の裁判期間は1年3ヶ月です。

神戸のご遺族は自責の念が強かったようです。

blogs.yahoo.co.jp

孫引用で。

一昨年の2月にも姫川容疑者の施術で赤ちゃんが亡くなったそうです。そのことを公表してくれていれば、息子をサロンに連れていくことは絶対にありませんでした。子どもの身体に危険が及ぶ行為をする姫川容疑者やサロンを信用してしまった自分達を責めない日はありません。

(略)

子育てサロン、ベビーサロンは赤ちゃんと親達が安心して過ごせる場所であり、安全なことのみが行われるものだと思っていました。ベビーマッサージ等の行為は無資格で広く行われていますが、私たち幼い子を持つ親にはそれが安全なものかどうかの判断がつきません。息子や私たちの苦しみを他のお子さんやご家族に味わわせたくありません。そのためには、姫川容疑者には真実を話してもらいたいと思います。また、ベビーサロンのような場所で同じことが二度と起きないよう、行政にも何らかの対応を検討していただきたいと思っております。

(下線部筆者)

 

この施術を受けさせるきっかけは副理事長が書いたブログ記事だったのでしょう。そこには死亡事故を起こしたことは書いて無く、信用してしまったわけです。

 

この自分たちにとって不都合な情報を隠蔽した広報活動への憤りなのでしょう。

 

この民事訴訟では神戸新聞の記事にある通り、元理事長は賠償責任を認めており、理事長だけを訴えれば短期に判決を得ることも可能である。

副理事長は刑事裁判にはかけられておらず(不起訴処分)、理事長だけを相手にするよりは訴訟戦術上、手間がかかることは予見できたはずである。

 

それでも敢えて副理事長も訴えた点に、ご遺族の思いを感じるのである。

 

WELQ問題でも誤った医療情報の危険性は指摘されたところであるが、このように素人を騙し、危険にさらす連中を放置してはならない。

 

整体師やカイロプラクター、リラグゼーションといった無免許業者さんや擁護される皆さん、この遺族の思いをどう考えますか?

 

(2019/12/13)

このように、被害者遺族は安全性の有無が判別できるように行政に要望している。

そして国民生活センターも、一般消費者が、施術者の国家資格の有無がわかるようにするよう求めている。

しかし、無資格業者は自分たちが不利にならないよう、国家資格制度の存在がわかる「国家資格外行為」という表記をさせないため、政治家を使って厚生労働省に圧力をかけた。

 

binbocchama.hatenablog.com

 (追記終わり)

*1:ここはよくわからない。差額を求めて民事訴訟を起こされたのか?