続きで、「第3 当裁判所の判断」の1、「前提事実に加え,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。」です。
- (1)あはき師法附則19条1項の制定に至る経緯等
- (2) あはき師法附則19条1項制定後の状況等
- (3)昭和57年の視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師養成施設の定員増加の経緯
- (4)無免許のあん摩師業等の取締りの状況
- (5)障害者福祉等に関する法令の整備状況
(1)あはき師法附則19条1項の制定に至る経緯等
ア あん摩業における視覚障害者優先措置の沿革(乙26)
あん摩業は,古くから視覚障害者にとって最も適当な職業であるといわれてきたが,視覚障害者以外のあん摩師の増加,無資格者の横行,交通量の増大に伴う出張施術の困難さなどから,昭和30年頃には,視覚障害者であるあん摩師が視覚障害者以外のあん摩師にその職域を圧迫されているといわれるようになった。
視覚障害者に対しては,身体障害者福祉法等の各種の法律,行政措置等による援護対策が行われ,特に自営業のあん摩師については,業務上の障害を少なくするため,昭和33年から電話,輸送車等を備えたホームが全国各地に設置され,勤務者であるあん摩師についても,昭和35年に制定された身体障害者雇用促進法において,あん摩師が重度障害者の能力にも適合すると認められる特定職種に指定され,雇用の促進が図られた。
また,厚生省は,学識経験者及び関係団体の代表により構成され,あん摩師の養成学校等の認定に関する重要事項を調査審議する権限を有するあん摩,はり,きゆう,柔道整復中央審議会(以下中央審議会という。)から,昭和34年2月20日付けで,あん摩師等の養成施設等の新設の傾向が顕著であり,このまま推移すれば多くの地域において養成施設等の濫立となり,ひいては教育内容の低下や施術者間の過当競争による生活問題を惹起するに至ることが明らかであるので,これら養成施設等の新設は,当分の間,これを認めないことを強く要望する旨の文書が厚生大臣に提出されたこと(乙21)を受けて,同年以来,行政措置として視覚障害者以外のあん摩師の養成施設等の新設及び生徒の定員増加を極力抑制するとともに,無免許あん摩師の取締りを行った。
その後,昭和36年の第39回国会において,後記の医業類似行為に関するあはき師法の改正の際に行われた,視覚障害者であるあん摩師の職域優先確保の措置及び無免許あん摩師の取締りの強化についての附帯決議を受けて,上記の抑制措置は引き続き実施され,あん摩師の養成施設等の生徒の1学年の定員(全国合計)は,視覚障害者が昭和33年度の2340人から昭和39年度には2515人に増加したのに対し,視覚障害者以外の者は昭和33年度の1665人から昭和39年度の1465人に減少した。また,無免許あん摩師の取締りにより,昭和36年度に118件117名,昭和37年度に125件123名が警察で検挙された。
イ 医業類似行為に関する法制の変遷(乙26)
従来から,あん摩,はり,きゅう又は柔道整復以外の医業類似行為又は療術行為といわれる一群の行為(電気,光線,刺激,温熱,手技等によるもの)があり,昭和22年に制定されたあはき師法12条は,これらの医業類似行為を原則として禁止することとし,医業類似行為についての全国一律の取締り方針が確立された。
もっとも,同法施行前から都道府県令に基づく届出,認可,許可等により業務を行ってきた医業類似行為業者に対し,直ちに全面的に業務を禁止することは,その生活権を奪う結果となることから,暫定的な特例措置として,同法公布(昭和22年12月20日)の際に引き続き3か月以上医業類似行為を業としていた者で,同法施行の日(昭和23年1月1日)から3か月以内に都道府県知事に届け出た者は,なお昭和30年12月31日までは,その業務を行うことができることとなった(旧附則19条1項)。
上記猶予期間は,あはき師法の昭和30年の改正において,その期限を3年間延長して昭和33年12月31日までとし,この間に届出業者の転廃業を促進することを目的として,あん摩師試験の受験資格を認め,特例試験によりあん摩師となる道を開くこととされ(附則19条の2の新設),昭和33年には,議員提出法案により,届出業者の業務を行うことができる期間及びあん摩師特例試験を受けることができる期間が,昭和36年12月31日まで延長された。
厚生省は,昭和36年に更に上記期限を3年間延長する法案を提出し,この間に医業類似行為について必要な検討を加え,3年経過後において再び期限を延長する必要がなくなるよう適切な方策を見出すこととした。また,この法案が審議された第39回国会においては,改正法案が可決された際,衆参両院の社会労働委員会において,医業類似行為業者の処遇に関する基本方針を確立すべき旨が附帯決議された。
ウ 昭和39年改正前における国会での議論等
(ア) 昭和27年12月22日,あはき師法の一部改正案の審議の過程で開催された第15回国会衆議院厚生委員会において,委員が,視覚障害者が漸次視覚障害者以外の者に職を奪われていく情勢が展開されつつある中で,経済的に事情の悪い視覚障害者を将来どのように救済していけばよいのかとの質問をしたのに対し,政府委員が,視覚障害者は社会福祉の見地から重要な対象であることから,その福祉に沿うような行政を進めていかなければならない旨を答弁した。
また,同委員会において,別の委員は,あん摩師等においては,視覚障害者が一番多く,しかも一番適切な仕事として,ほそぼそと生計を立てていることから,税金の面や,視覚障害者以外の者が職域を侵すことによって生活を脅かされる立場をいかに守っていくかという点について,厚生省が身体障害者保護の観点から真剣に取り組むことを要求した。(乙18)
(イ) 昭和30年7月27日,あはき師法の一部改正案の審議がされた第22回国会参議院社会労働委員会において,同改正案の決議に併せて,あん摩師等のうち身体障害者については同法運営に関し特別な考慮を払うこと等を内容とする附帯決議がされた。
同附帯決議案を提出した委員は,その趣旨について,あん摩師等の就業者の60%以上が身体不自由者であることから,同法の運営によってその業態が侵されるなどの不安が起るようでは目的を達成できないので,特に運営上考慮を払うべきである旨を説明した。(乙19)
また,同月30日,同国会衆議院社会労働委員会において,委員が,視覚障害者以外のあん摩師が多くなり,視覚障害者の職業を非常に圧迫しつつあることは,何としても黙認できないことである旨を指摘した。
そして,同委員会においても,あはき師法改正案の決議に併せて,あん摩師等のうち身体障害者については同法運営上その業態に支障のないよう万全の措置を講ずること等を内容とする附帯決議がされた。(乙20)
(ウ) 昭和36年10月17日,第39回国会参議院社会労働委員会において,あはき師法の一部改正案の審議がされ,同改正案の決議に併せて,身体障害者であるあん摩師の職域優先確保の特別措置を速やかにすること等を内容とする附帯決議がされた。
同委員会においては,委員が,「今日の現実の世の中では,あん摩のみがわれわれの生きていく唯一のかてである。したがって,このかての,生きていく道を守ってくれなければ,われわれは死ぬのみだ。」という口述人の発言内容を紹介した上で,視覚障害者であるあん摩師の問題は,身体障害者の生活を守る上で,非常に重要な問題であるなどと指摘し,また,別の委員が,視覚障害者以外の者の学校は一旦免許を取得すれば既得権があること,学校の定員数においては視覚障害者以外の者が多く,このような学校の現状を維持していたら,いつまでも視覚障害者の福祉を守ることはできないと思われること,需要と供給に限界があることから,視覚障害者を優先して養成する機関を増やして視覚障害者以外の者の学校は縮小していくという基本的な態度が出てこなければ,この問題は解決しないと思われること,視覚障害者以外のあん摩師が毎年たくさん出てくれば視覚障害者の職場が圧迫されることは当然であることなどを指摘した。(乙24)
また,同月24日,同国会衆議院社会労働委員会においても,あはき師法改正案の決議に併せて,視力障害者であるあん摩師の職業優先確保のため速やかに法的措置の検討をすること等を内容とする附帯決議がされた。
同委員会においては,委員が,視覚障害者であるあん摩師の職域がなかなか確立できないという点,身体障害者の雇用促進という見地からも労働省等で何か実行しようとしてもうまくいかない点,この身体障害者の問題は,十分その職域と賃金の体系を確立する努力を速やかに実らせる必要があると思われる点などを指摘したことに対し,厚生大臣が,文部省とも連携を一層よくして,全てを総合して視覚障害者の福祉の増進に役立つように極力努力したい旨を答弁した。(乙25)
エ 中央審議会における検討及び意見書(乙26)
中央審議会は,昭和36年の第39回国会における附帯決議を踏まえ,視覚障害者であるあん摩師の職域を優先するための措置等について,昭和37年3月から昭和38年12月までの間,21回にわたり審議を重ねた(乙46~66)。
中央審議会は,上記審議を経て,昭和38年12月16日,厚生大臣に対し,あん摩業務における視覚障害者の職域優先を図る措置等に関し,意見書を提出した。
同意見書は,あん摩師を,慰安,疲労回復等を目的とする施術を行う保健あん摩師と医師の指示の下に疾病の治療を目的として施術を行う医療マッサージ師とに分離し,視覚障害者の優先措置は,特に保健あん摩師について行うことにより所期の目的を達することができるとして,一定地域ごとに,就業保健あん摩師総数に対する視覚障害者以外の者の比率を定め,その比率を上回るときは,その地域における視覚障害者以外の者の就業する保健あん摩施術所の新規開設を許可しないこととすべきであり,既設の施術所についても,新たに視覚障害者以外の者を就業させようとするときは,承認を得なければならないとすることが必要であるなどとした。
オ 関係団体打合会による調整(乙26)
中央審議会の意見書を受理した厚生省は,各都道府県及び関係団体に対し,同意見書に対する意見を求めた。
この結果,関係団体の意見の中に相反する強い主張がみられたことから,全国的規模をもって現に活動している実体のある関係団体の代表者を招集して,昭和39年2月24日,関係団体打合会を開催した。
この打合会では,あん摩業における視覚障害者優先措置に関し,あん摩師を保健あん摩師と医療マッサージ師とに分離する中央審議会の意見書の考え方を支持する多数の団体と,これに対し原則としてこの分離に反対し,もし分離する場合においても保健あん摩師は視覚障害者の専業にすべきであるという一部の団体とが激しく意見を対立させ,調整がつかなかった。
カ 改正法案の決定(乙26)
上記のような経緯を経た結果,あはき師法の改正案は,これまでの議論の過程を考慮し,事態をできるだけ円滑に収拾するという形で,最終的には議員提出法案として国会に提出された。
この議員提出法案には,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域優先について,あん摩師を保健あん摩師と医療マッサージ師とに分離することとする案をめぐって,上記のとおり,意見の対立があったことから,これに代わる視覚障害者の職域優先措置として,視覚障害者以外のあん摩師の養成施設等を抑制すること(現行の附則19条1項)等が加えられた。
なお,前記イのとおり,届出医業類似行為業者の業務活動は,従来,昭和39年12月31日限りで禁止されることになっていたが,昭和40年1月1日以後もこれを引き続き行うことができるようにする規定が改正案に盛り込まれた(12条の2の新設)。
キ 国会における審議(乙26)
上記あはき師法の改正案は,昭和39年6月10日,第46回国会衆議院社会労働委員会において,同委員会提出の法律案と決定された。同委員会において,委員から,その改正趣旨について,あんま業は,視覚障害者にとって古来最も適当な職業とされてきたところ,近時交通難等により,視覚障害者以外の者のため,その職域を圧迫される傾向が著しい状況にあることから,あんま業における視覚障害者優先の措置を講ずるために,当分の間,文部大臣又は厚生大臣は,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難を来さないよう,あるいは視覚障害者の優先という観点から,視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の学校又は養成施設の設置の認定又は生徒の定員の増加の承認について,これをしないことができるという規定を新たに入れた旨の説明があった。(乙28)
同国会参議院社会労働委員会においても,同月16日,あはき師法の改正案について,上記と同趣旨の説明がされ,同月23日には,同改正案が可決されるとともに,視覚障害者の職域優先確保については,施術所の規制等今後も一層その具体化に努力するとともに,養成所の奨学制度の拡充,生業に対する長期低利融資等視覚障害者の福祉の向上についても更に格段に努力をすること,無免許者の取締りは一層厳にすること等を内容とする附帯決議がされた(乙27,29)。
ク 改正法の解説(乙26)
厚生省の立法担当者は,昭和39年12月発行の解説書において,あはき師法附則19条1項について,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域優先を図るため,視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師に係る学校・養成施設の新設又は生徒の定員の増加を抑制することを目的とし,この抑制措置が行われる当分の間とは,視覚障害者に関し,あん摩マッサージ指圧師以外の適職が見出されるか,又は視覚障害者に対する所得保障等の福祉対策が十分に行われるか,いずれにしても視覚障害者がその生計の維持をあん摩関係業務に依存する必要がなくなるまでの間ということであり,この措置が当分の間とされたのは,学校・養成施設の設置者の職業選択の自由を制限するものであるからであり,そのため国会においても養成所の奨学制度の拡充,生業に対する長期低利融資等視覚障害者の福祉の向上についても更に格段の努力をすることという附帯決議がつけられている旨説明している。
また,同立法担当者は,同解説書において,文部大臣又は厚生大臣が勘案すべき事項として,あん摩マッサージ指圧師又は生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合のほかにその他の事情があるが,これには,例えばあん摩マッサージ指圧師の需要と供給の状況等が考えられる旨,視覚障害者以外の者に係る学校又は養成施設の認定又は承認をしない処分をしようとするときは,あらかじめ中央審議会の意見を聴かなければならないこととされたのは,あん摩師に係る学校又は養成施設の認定に関する重要事項を調査審議する権限を有していた中央審議会の意見を聴くことにより処分の慎重を期しようとする趣旨である旨も説明している。
(2) あはき師法附則19条1項制定後の状況等
ア 視覚障害者数,視覚障害者の就労状況等
(ア)視覚障害者数の状況
a 昭和30年から平成18年までの視覚障害者の総数(18歳以上の推計値)は,別紙1視覚障害者の総数欄記載のとおりであり,昭和35年が20万2000人,昭和40年が23万4000人,昭和62年が30万7000人,平成18年が31万人である(乙31)。
b 昭和34年から平成26年までの身体障害者手帳交付台帳登載数における視覚障害の登載数(18歳未満を含む。)は,別紙1(参考)身体障害者手帳交付台帳登載数(視覚障害)欄記載のとおりであり,昭和35年が18万3530人,昭和39年が24万0820人,平成18年が38万9603人,平成26年が34万9328人である。平成27年の同登載者数は,18歳以上が33万8994人,18歳未満が5044人である。(乙32,78)
(イ)視覚障害者の就労状況の推移
a 昭和30年から平成18年までの視覚障害者の有職者数及び就業率は,別紙1視覚障害者の内有職者欄記載のとおりであり,昭和35年が7万2114人(35.7%),昭和40年が7万5000人(32.0%),昭和62年が6万8154人(22.2%),平成18年が6万6340人(21.4%)である(乙31,33~37)。
b 昭和40年から平成18年までの視覚障害者の不就業者数及び不就業率は,別紙1不就業者の数欄記載のとおりであり,昭和40年が15万9000人(68.0%),昭和62年が23万7925人(77.5%),平成18年が22万7540人(73.4%)である(乙31,33~37)。
(ウ)あん摩・マッサージ・はり・きゅう関係の業務の割合
a 昭和30年から平成18年までのあん摩・マッサージ・はり・きゅう関係業務に就いている視覚障害者の数及び有職者に占める割合は,別紙1有職者の内のあはき師欄のとおりであり,昭和35年が2万7548人(38.2%),昭和40年が1万8825人(25.1%),昭和62年が2万6989人(39.6%),平成18年が1万9637人(29.6%)である(乙6,31,33~37)。
b 平成18年度から平成26年度までのハローワークにおける重度の視覚障害者に対する職業紹介の全体件数の中であん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の免許を基礎とした職業が占める割合は,70.8%から75.0%の間で推移している(乙16)。
c 平成15年の実態調査によると,視覚障害により身体障害者手帳の交付を受けているあん摩マッサージ・はり・きゅう業者の83.8%が,障害等級1級と2級を合わせた重度の視覚障害者である(甲2,乙39)。
(エ) あん摩・マッサージ・はり・きゅう以外の就業状況
a 視覚障害者の有職者の就いている職種のうち,農業・林業・漁業の割合は,昭和40年が36.5%,平成18年が8.6%,あん摩・マッサージ・はり・きゅうを除く専門的技術的職業の割合は,昭和40年が2.6%,平成18年が11.1%,事務の割合は,昭和40年が1.7%,平成18年が7.4%である(乙16,33)。
b 平成27年度のハローワークにおける視覚障害者の就職内訳は,運搬・清掃等の職業が16.5%,事務的職業が13.4%,サービスの職業が8.3%である(甲70)。
(オ)あん摩マッサージ指圧師の収入状況
a 平成25年のあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の年間収入(税込ベース)の平均値は,全体が571万2000円,視覚障害者以外の者が636万2000円,視覚障害者が290万円である。このうち,視覚障害者の年間収入の最大値は1000万円,中央値は180万円,最頻値は200万円であり,年間収入300万円以下の割合は76.3%である。(甲11,乙16)
b 平成14年分のあん摩マッサージ・はり・きゅう業者の施術料収入(税込ベース)においては,年間施術料収入300万円未満の業者の割合は,全体で46.7%,視覚障害者で58.0%である。同じ年に,視覚障害者であるあん摩マッサージ・はり・きゅう業者の63.4%が施術料以外の収入を得ており,そのうち84.5%が公的年金による収入である。(甲2,乙39)
(カ)視覚特別支援学校の生徒数及び卒業者の就職状況等
a 昭和38年から平成29年までの視覚特別支援学校の在籍生徒数,学校数,高等部学科別生徒数,高等部本科卒業者の進路・就職先等は,別紙2記載のとおりであり,高等部本科の保健理療科並びに高等部専攻科の理療科,保健理療科及び理学療法科の生徒数の割合が減少している(甲18~36)。
b 視覚障害のある新卒者のあん摩マッサージ指圧師国家試験の受験状況は,平成18年が受験者数615名,合格者数521名(合格率84.7%),平成28年が受験者数355名,合格者数288名(同81.1%)である。同じ年の視覚障害者以外の新卒者の合格率は,平成18年が98.6%,平成28年が97.0%である。(乙42)
イ あん摩マッサージ指圧師の総数及び視覚障害者以外の者が占める割合
昭和37年におけるあん摩師の総数は5万1477人であり,このうち視覚障害者以外の者が占める割合は40.1%(2万0619人)である。
これに対し,平成26年におけるあん摩マッサージ指圧師の総数は11万3215人であり,このうち視覚障害者以外の者が占める割合は77.0%(8万7216人)である。(乙16,乙26)
ウ あん摩マッサージ指圧師の養成施設等の定員及び視覚障害者以外の者が占める割合
平成9年度から平成27年度までのあんまマッサージ指圧師の養成施設等の数及び定員の推移は,別紙3記載のとおりであり,平成10年度が1学年の定員3003人,平成27年度が1学年の定員2706人である。
このうち視覚障害者以外の者の定員が占める割合は,平成10年度が40.3%,平成27年度が45.8%である。昭和39年度のあん摩師の養成施設等の定員における同割合は,36.8%である。(乙16,乙26)
エ 視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の設置状況
平成27年度において,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等は,10都府県(宮城県,埼玉県,東京都,神奈川県,静岡県,愛知県,京都府,大阪府,香川県,鹿児島県)に合計21施設あり,その1学年の定員は合計1239人である(乙67)。
オ あん摩マッサージ指圧師の養成施設等の視覚障害者以外の者の受験者数
平成27年度の厚生労働省所管の視覚障害者以外の者を対象とする養成施設の定員数に対する受験者数の割合は,あん摩師の昼間養成施設が149.2%,同夜間養成施設が118.6%,あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の昼間養成施設が202.3%,同夜間養成施設が296.6%である(乙16)。
カ 隣接業種(はり師,きゅう師及び柔道整復師)の養成施設等の数及び定員の状況
はり師及びきゅう師の養成施設等は,平成10年度が施設数14校,1学年の定員875人,平成27年度が施設数93校,1学年の定員5665人である(乙40)。
柔道整復師の養成施設等は,平成10年度が施設数14校,1学年の定員1050人,平成27年度が施設数109校,1学年の定員8797人である(乙40)。
(3)昭和57年の視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師養成施設の定員増加の経緯
ア 中和理療学校(名古屋市)から入学定員の増加に係る承認の申請があり,昭和48年12月17日,中央審議会において,その可否について審議されたが,同学校については,現状においても入学定員の超過が甚だしく,適正な運営が行われていないことから,この点をまず改めるべきとされ,承認を可とする意見には至らなかった(乙73)。
その後,中和鍼灸専門学校に名称を変更した同学校から,あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の高卒3年課程・昼間部の1学年定員20人を30人とする10人の入学定員の増加に係る承認の申請があり,昭和52年12月19日,中央審議会において,その可否について審議されたが,当時も定員超過があったことから,事務局において当該養成施設の実地調査を行い,定員超過,教室等の教育施設設備整備状況及び授業の実態等を把握するとともに,設置者が定員オーバーについての改善計画を示すことが必要であるとされ,保留の取扱いとする旨の意見となった(乙74)。
その後,学校法人の認可を受けた同学校から,再度,上記と同旨の入学定員の増加に係る承認の申請があり,昭和56年9月29日,中央審議会において,その可否について審議され,認めて差し支えないとの意見に至り,昭和57年3月30日付けで,厚生大臣により,定員の増加の承認がされた(乙72,75,76)。
イ 中和鍼灸専門学校(学校法人葛谷学園)作成に係る昭和55年7月17日付け養成施設定員変更計画書には,毎年業者からの要望の多い医療専門課程あん摩・はり・きゅう科の最低限度の増員を認めていただき度く申請したとの記載があるほか,同学校医療専門課程あん摩・はり・きゅう科の1学年定員20名に対し,志望者数が昭和53年度129名,昭和54年度152名,昭和55年度134名(定員の6.5倍から7.6倍)である旨の記載がある(乙76)。
(4)無免許のあん摩師業等の取締りの状況
ア 厚生省では,無免許あん摩師の取り締り等について(昭和32年11月20日発医第166号都道府県宛て医務局長通知。乙22),無免許あん摩の取締等について(昭和37年12月27日医事発第242号都道府県宛て医務局医事課長通知。乙23),免許を受けないであん摩,マッサージ又は指圧を業とする者の取締りについて(昭和39年11月18日医発第1379号都道府県宛て医務局長通知。乙30の1)等の通知を発し,警察当局と連携して,無免許のあん摩師等に対する指導の強化及び取締りを行った。
イ 厚生省では,医業類似行為に対する取扱いについて(平成3年6月28日医事第58号都道府県宛て健康政策局医事課長通知。乙30の2)を発し,あん摩マッサージ指圧,はり,きゅう及び柔道整復については,無免許で業としてこれらを行えば処罰の対象となる旨,これら以外の医業類似行為についても,当該施術が医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれがあれば禁止処置の対象となる旨のほか,カイロプラクティック療法の禁忌対象疾患等を周知した。
ウ その後も,厚生労働省では,医業類似行為業に関する指導について(平成26年2月7日医政医発0207第1号都道府県等宛て医政局医事課長通知),医業類似行為業に関する指導について(同日医政医発0207第2号消費者庁宛て医政局医事課長依頼),あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師に係る(仮称)携帯用本人確認証の発行について(同年4月7日医政医発0407第1号公益財団法人東洋療法研修試験財団宛て医政局医事課長依頼),医業類似行為業に関する指導について(平成28年2月9日医政医発0209第1号消費者庁宛て医政局医事課長依頼),医業類似行為業に関する指導について(同日医政医発0209第2号都道府県等宛て医政局医事課長通知),あん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律第七条第一項第五号の規定に基づくあん摩業等又はこれらの施術所に関して広告し得る事項の一部を改正する件について(同年6月29日医政発0629第2号都道府県宛て医政局長通知)等を発し,無免許であん摩マッサージ指圧師等の業務を行う者の取締りを行った(乙16,30の2~8)。
(5)障害者福祉等に関する法令の整備状況
ア 障害者福祉に関する法律
昭和24年,最初の障害者福祉の法律として,身体障害者福祉法(昭和24年法律第283号)が成立した。同法の目的は,障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)と相まって,身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため,身体障害者を援助し,及び必要に応じて保護し,もって身体障害者の福祉の増進を図ること(1条)とされている。
イ 障害者雇用に関する法律
昭和35年,障害者雇用対策について,身体障害者雇用促進法(昭和35年法律第123号)が成立し(昭和62年に障害者の雇用の促進等に関する法律に改名),昭和51年には,民間企業の努力義務であった法定雇用率制度を義務化するとともに,法定雇用率を満たしていない事業主から納付金を徴収し,障害者を多く雇用している事業主に対して調整金等を支給する制度が導入された。同法48条1項及び政令の規定により,あん摩マッサージ指圧師は,労働能力はあるが,障害の程度が重いため通常の職業に就くことが特に困難である身体障害者の能力にも適合すると認められる職種である特定職種に,特定身体障害者の範囲を視覚障害者として唯一指定され,国及び地方公共団体は,一定の視覚障害のあるあん摩マッサージ指圧師の職員の採用に関する計画を作成することを義務付けられている。
ウ 障害者施策に関する基本的な法律
昭和45年,各省庁が所管する障害者関連の個別法律を指導する障害者施策に関する基本的な法律として,心身障害者対策基本法(昭和45年法律第84号)が成立し(平成5年に障害者基本法に改名),政府は,障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため,障害者基本計画を策定しなければならないとされている。
エ 障害福祉計画に関する基本指針
平成17年,障害者自立支援法(平成17年法律第123号)が成立し(平成24年に障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に改名),他の障害者及び障害児の福祉に関する法律と相まって,障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう,必要な障害福祉サービスに係る給付,地域生活支援事業その他の支援を総合的に行い,もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに,障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とし,自立訓練(リハビリ等),就労移行支援等に関する訓練等給付費の給付や市町村又は都道府県が行う障害者等の地域生活支援事業に関することのほか,国が障害福祉計画に関する基本指針を定めることなどが定められている。
オ 障害者差別の解消に関する法律
平成25年,障害を理由とする差別の解消を推進し,全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく共生する社会の実現に資することを目的として,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)が成立した。同法では,国及び地方公共団体は,障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し,及びこれを実施しなければならないとされ,国民においても,障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならないとされている。
カ 障害年金制度
国民年金法は,障害等級を障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とし,その状態のある者に障害基礎年金を支給する旨を定め,その年金額は,2級が年額78万0900円に改定率を乗じて得た額,1級がその100分の125に相当する額とされている(同法33条)。
また,昭和61年度以前は,20歳未満の時に初診日がある傷病による障害者には障害福祉年金が支給されていたが,同年度以後は,障害基礎年金に裁定替えされ,このような無拠出型の基礎年金についても,拠出型の基礎年金とほぼ同様の取扱いとなった。