あはき法第19条裁判東京地裁判決:第2の3 争点及び当事者の主張の要旨

あん摩マッサージ指圧師養成施設が認可されなかったことで、平成医療学園が国を訴えた裁判は原告の請求が棄却された。

www.asahi.com

裁判所サイトで判決文が公開されたので転載する。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=89153

その後、論評をしたいと思うが、判決文が長いので大事な部分を転載し、見出しを作る。

まず、判決は「主文」と「事実及び理由」からなる。

主文は

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

と原告の完全敗訴である。

事実及び理由は

  • 第1 請求
  • 第2 事案の概要
  • 第3 当裁判所の判断

となる。

で、第1は原告の請求であり、

 厚生労働大臣平成28年2月5日付けで原告に対してした,原告の横浜医療専門学校に係るあん摩マッサージ指圧師,はり師及びきゅう師の養成施設の認定の申請については,あん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律附則19条1項により認定をしない旨の処分を取り消す。

という判決を原告は求めているのである。

で、「第2 事案の概要」は

  1. あはき師法の定め
  2. 前提事実
  3. 争点及び当事者の主張の要旨

とあり、「第3 当裁判所の判断」は

  1. 証拠及び弁論から認められた事実
  2. 争点1(あはき師法附則19条1項の憲法22条1項適合性)について
  3. 争点2(あはき師法附則19条1項の憲法31条,13条適合性)について
  4. 争点3(あはき師法附則19条1項を本件申請に適用することが憲法22条1項,31条,13条,14条1項に違反するか)について
  5. 結論

となっている。

このうち、第2の3,第3の1,2が長い。

それぞれで記事を作る。

 

第2の3 争点及び当事者の主張の要旨

(1)あはき師法附則19条1項の憲法22条1項適合性(争点1)

(原告の主張)

ア あはき師法附則19条1項の憲法適合性に関する判断の在り方

 視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の新たな設置及び定員の増加を制限するあはき師法附則19条1項は,当該養成施設等を設置しようとする者の職業選択の自由を制限し,また,あん摩マッサージ指圧師の資格を取得しようとする視覚障害者以外の者の職業選択の自由を制限する。
 職業は,人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに,これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し,各人が自己のもつ個性を全うすべき場として,個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものであり,その選択の自由は,重要な権利である。
 あはき師法附則19条1項は,当人の努力等により克服ができない客観的な許可条件による事前規制であり,重要な権利である職業選択の自由に対する最も強い規制に当たる。しかも,同項の文言は,最高裁薬事法判決や小売市場判決で問題となった規制とは異なり,具体的にどのような条件を満たせば事業を行うことができるかの基準自体が不明確であるから,より厳密に目的と手段の関連性が審査されるべきである。
 このような事情に加えて,昭和39年のあはき師法改正による附則19条1項の制定当時,あん摩マッサージ指圧師の養成施設等の設置者が憲法上の権利である職業選択の自由を奪われることについて検討された形跡が見当たらないこと,視覚障害者に対する政策がこの50数年の長い歴史において大きく転換されていることを踏まえれば,同項の違憲審査に当たっては,

①目的に正当性があること,

②手段が目的を達成するために必要であること,

③手段に目的達成のための合理性があること

が満たされなければ,違憲と判断されるべきである。

イ 目的に正当性があるか

(ア)あはき師法附則19条1項の立法事実は既に失われていること

 あはき師法12条は免許を受けていない者による医業類似行為を禁止しているが,昭和22年の同法の公布時において3か月以上営業し,所定の届出をしていた医業類似行為者に限っては,期限を定めて禁止を猶予していた。しかし,昭和39年改正においては,この期限を外し,猶予が事実上一代限り続くこととなったため(12条の2),これに異議を唱えていた視覚障害者に対する融和策として,現行の附則19条が設けられ,当分の間,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の新たな設置が制限された。このような立法事実からすれば,当分の間とは,医業類似行為を猶予されていた者の高齢,死去等により業が行われなくなるまでと解すべきであり,制定から50年が経過しているから,既に同期間が経過していることは明らかである。

(イ)視覚障害者をめぐる福祉・補償の法制度の変革

 昭和39年改正以降,障害者全体を対象とする障害者基本法障害者の雇用の促進等に関する法律等の,障害者の福祉等に関する法令が整備されてきた。また,国民年金法,厚生年金保険法等の改革により,障害者に対する年金制度も拡充されており,重度障害者の割合が6割を占める視覚障害者の生計維持に対する強力な支援となっている。また,国や地方公共団体から,特別障害者手当や福祉手当が支給され,税金面の優遇措置もある。

(ウ)視覚障害者をめぐる社会事情及び障害者像の変化

 あはき師法附則19条1項のように,特定の職業について優先権を付与し,障害者を保護する施策は,一方では,障害者の職種を事実上制限し,その社会進出や社会的地位の向上を阻むおそれがあるものである。近年では障害者像も変化しており,障害者に対する法律・政策において,障害者を専ら保護の対象としてみるのではなく,合理的配慮義務等により,非障害者と障害者とがあらゆる場面で同等の条件で競争することができるようにすることが求められているものであり,社会のバリアフリー化が進み,視覚障害者の就く職業も広がって,視覚障害者とそれ以外の者との対等な条件での競争も不可能とはいえない状況にある。あん摩マッサージ指圧師という職業を視覚障害者に独占させるのではなく,視覚障害者が可能な限り職業に従事することが可能となるように社会自体が条件等を整えることが求められるようになっており,このような中で,あはき師法附則19条1項を維持することは,視覚障害者が特定の職業に就くことで保護すべき弱者であるという考えを押し付けるものである。

(エ)あん摩マッサージ指圧師の業務に対する依存度の変化

 昭和39年改正以降,眼科治療は著しく進化し,就学期の視覚障害者は減少し,統合教育の実現や点字図書の充実等の教育環境の改善により,視覚特別支援学校の生徒も,昭和54年の8330人から平成18年には3688人と半減し,視覚特別支援学校においてあん摩マッサージ指圧,はり,きゅう等を履修する生徒も激減している。
 一方,視覚障害者を含めた障害者の雇用環境も,50年前と比較すると,障害者の雇用の促進等に関する法律等の障害者の雇用に関係する法律が制定されるなど,かなりの改善が見られ,視覚障害者の雇用環境は制度として大きく変わり,職業選択の道も大きく広がりつつあり,運搬・清掃業,事務的職業,サービス職などの他の就職先は確実に増えてきている。このように,視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の業務に対する依存度は年々減少しており,現在では,あん摩マッサージ指圧師という仕事に依存しなければ生活していけないという唯一の職業ではなくなっている。

(オ)視覚障害者の生計が昭和39年当時より改善されていること

 あはき師法附則19条1項の要件とされている生計については,あん摩マッサージ指圧師としての就業収入だけではなく,年金等を含む全ての収入を勘案すべきところ,現在,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師は,昭和39年当時とは異なり,その職業収入に加え,各人の障害等級に応じて障害年金制度から相当額の収入を得ており,無拠出者であってもその障害の等級及び所得額に応じて拠出者と同様の障害基礎年金を受給できるようになっている。また,年金以外にも,国,地方公共団体からの特別障害者手当,福祉手当等の給付があり,身体障害者手帳の提示による公共料金の減免や割引などのサービスが広がり,障害者の経済的負担が軽減されている。
 さらに,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の施術料収入の低迷には,業務に対する意識が影響していると考えられ,その背景には,あはき師法附則19条1項の存在が助長している面もあると考えられる。
 このように,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするというあはき師法附則19条1項の目的は,公的年金制度の改善等により,その正当性を失っている。

ウ 手段が目的を達成するために必要であるか

(ア) 視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の増加率と視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持との間に関連性はないこと

 あん摩マッサージ指圧師の需要は一定ではなく,その需要が増加すれば,仮に視覚障害者以外の者の割合が増加したとしても,割合の増加した視覚障害者以外の者の職域は需要の増加分に吸収され,必ず視覚障害者の生計の維持が困難となるものではなく,逆に,需要が減少すれば,視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の増減に関わらず,視覚障害者の生計の維持は困難となる。また,障害者の他の職域の増加や,あん摩マッサージ指圧師という職業の魅力の低下,高齢,死亡及び視覚障害者自らの判断による廃業,無資格のあん摩師の急増等によっても,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の数及び割合は減少するのであって,視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の増加と視覚障害者の生計の維持との間には関連性がない。柔道整復師養成施設の指定をしない処分を違法として取り消した平成10年の福岡地裁の判決によって,柔道整復師並びにはり師及びきゅう師の資格者の数も増加したものの,それは一時的な現象であり,その増加は現在では収まっており,また,視覚障害者以外の者の増加によって,視覚障害者の収入に影響が出た旨の情報もないことからすれば,あはき師法附則19条1項を撤廃することにより,あん摩マッサージ指圧師の数が増えるとしても一時的なものにとどまるものである。

(イ)無資格者の急増

 近年,マッサージに対する需要が増加しており,それにもかかわらず,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が困難であるとすれば,その原因は無資格のあん摩師の急増・跋扈にあり,視覚障害者の生計の維持のために必要なことは,有資格者数の数を制限することではなく,無資格者を根絶することである。
 そして,このような無資格者の急増は,あん摩マッサージ指圧師の養成施設等の新設又は定員の増加を制限するあはき師法附則19条1項の存在により,上記需要に対応できるだけの有資格者が養成できていないことに原因があり,同項は,視覚障害者の生計の維持に対し実効性がないばかりか,有害である。

エ 手段に目的達成のための合理性があるか


(ア)目的と手段との間に関連性が認められる立法事実がないこと

 上記ウのとおり,あはき師法附則19条1項の視覚障害者の生計の維持という目的と,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の認定をしないという手段との間に,合理的な関連性が認められるような立法事実は存在しない。
 また,視覚障害者の不十分な障害年金等を補うために視覚障害者以外の者に対し参入規制が行われるとするならば,それは緊急避難的な一時的措置でなければならず,あはき師法附則19条1項も当分の間と時限的なものを示しているのであって,本来社会保障の充実化によって対処すべき問題に対し,他者の経済的自由を制限することによって代替することは,もはや合理的であるとはいえない。

(イ)あはき師法附則19条1項による不利益が大きいこと

 あはき師法附則19条1項による視覚障害者以外の者に対する特定の職業への参入規制が必要かつ合理的であったならば,この半世紀以上にわたる保護により視覚障害者の生計が改善していなければならない。被告が主張するように,現在でも視覚障害者の生計が楽になっていないのであれば,その事実は,同項の必要性を示すものではなく,むしろ合理的でなかったことを示すものである。
 一方,あはき師法附則19条1項により,本来自由であるはずの養成施設等を設置することができないという不利益は大きい。また,全国の限られた場所にしか視覚障害者以外の者が入学可能な養成施設等がないことから,視覚障害者以外の者があん摩マッサージ指圧師になろうとすれば,遠方の養成施設等に入らざるを得ず,その不利益も大きいといえる。このような状況では,あん摩マッサージ指圧師の減少を招き,職としての魅力が損なわれ,業界自体の衰退により,技術水準の維持も困難となるおそれがある。
 このように,あはき師法附則19条1項による不利益は大きく,一方で利益が乏しいことからすると,目的と手段との間に合理性はない。

(ウ)障害者間,養成施設等設置者間での差別となっていること

 あはき師法附則19条1項は,障害者の中でも視覚障害者だけを優遇する内容となっており,他の障害を有する者との間で差別が生じ,また,既に養成施設等を設置していた者とこれから設置しようとする者との間にも大きな差別が生じているものであり,この観点からも手段として合理性がない。

(エ)目的達成のために他の妥当な手段があること

 視覚障害者にとって重要なのは,視覚障害者が職業的に自立することや,資質向上が果たされるような環境が整えられることにあり,台湾では,違憲判決を契機として,視覚障害者以外の者の参入を制限するのではなく,視覚障害者があん摩師やその他の職業として働く場を確保する政策に転換し成功している。このように,あはき師法附則19条1項を維持するのではなく,障害者が職業的に自立するような政策・立法を行うことにより,目的をより達成することが可能であり,同項は手段として合理性がない。
 また,昭和39年改正当時の中央審議会において検討されていたように,慰安,疲労回復等を目的とする施術を行う保健あん摩師と医師の指示の下に疾病の治療を目的として施術を行う医療マッサージ師とに分離し,一定の地域ごとに,保健あん摩師総数における視覚障害者以外の者の比率を定め,その比率を上回るときは,視覚障害者以外の者の就業する保険あん摩師施術所の新規開設を許可しないことによって,視覚障害者の職域の保護の目的は達成できるから,全国一律に制限する必要はない。

(オ)医道審議会について

 医道審分科会は,初めから視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師やその養成施設等の増加を望んでいないことが明らかな団体の委員が多くを占めており,その審議において配布される資料も,視覚障害者の収入の少なさ,視覚障害者以外の資格者の増加を示すもののみが提出され,それも極めて古い資料や信憑性が疑わしい資料が含まれているなど,あはき師法附則19条1項による処分の手続的な担保にはなり得ない。

オ まとめ

 以上のとおり,あはき師法附則19条1項は,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等を設置しようとする者及びあん摩マッサージ指圧師の資格を取得しようとする視覚障害者以外の者の職業選択の自由を制限するものとして,憲法22条1項に違反する。

 

(被告の主張)


ア あはき師法附則19条1項の憲法適合性の判断枠組み

 職業に対する規制の合憲性は,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定すべきである。
 あはき師法附則19条1項は,視覚障害者は,その障害のため,事実上及び法律上,従事できる職種が限られ,転業することも容易でないことから,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し,その生計の維持が著しく困難とならないようにするため,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の新設又は生徒の定員の増加の抑制について定めた規定であり,その趣旨は,社会的にも経済的にも弱い立場にある視覚障害者を保護することにある。

 このような積極的な社会経済政策の目的を達成するため,どのような法的規制措置を講ずることが必要かつ合理的であるかについては,視覚障害者の人数及び雇用環境,あん摩マッサージ指圧師の人数及び就業状況並びに視覚障害に対する医療の状況等,多方面にわたる事項に関して,将来予測を踏まえた高度な専門的・技術的な考察とそれに基づく政策的判断を必要とするものであり,憲法適合性については,立法府の裁量的判断を尊重することを前提として,立法府がその裁量の範囲を逸脱し,当該法的規制措置が著しく不合理であることが明白であると認められるか否かという基準(明白性の基準)によって判断されるべきである。

イ 立法目的が正当であること

 あはき師法附則19条1項は,上記アのとおり,積極的な社会経済政策の観点から,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の新設又は生徒の定員の増加の抑制について定めた規定であり,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し,その生計の維持が著しく困難とならないようにすることで,社会的にも経済的にも弱い立場にある視覚障害者を保護しようとする点に目的がある。
 同項の当分の間とは,視覚障害者に対し,あん摩マッサージ指圧師以外の適職が見出されるか,又は視覚障害者に対する所得保障等の福祉対策が十分に行われることにより,視覚障害者がその生計の維持をあん摩関係業務に依存する必要がなくなるまでの間をいい,上記のような目的は現在においても正当である。

ウ 養成施設等の新設又は定員を抑制する規定を設けることの必要性

(ア)視覚障害者が現在もあん摩マッサージ指圧師の業務に依存していること

 視覚障害者数は,別紙1のとおり,あはき師法の昭和39年改正当時を上回る水準にあり,その就業率は,昭和35年には35.7%であったが,平成18年には21.4%となるなど低水準である。また,視覚障害者の職種の割合も,あん摩マッサージ指圧師関係が昭和40年には25.1%,平成13年には33.3%,平成18年には29.6%となるなど高い水準にあり,特に就業が困難であると考えられる重度障害者(障害等級1,2級の身体障害者手帳所持者)である有職者が7割を超える高い割合であん摩マッサージ指圧師関係の職種に就いているなど,視覚障害者の多くが,あん摩マッサージ指圧師の業務に依存している。また,視覚障害者においては,その障害のため,あん摩マッサージ指圧師の業務から他の業務に転業して生計の維持を図ることも容易ではない。
 昭和39年のあはき師法附則19条1項制定時に比べ視覚障害者の職域が拡大したとしても,今なおあん摩マッサージ指圧師が重要な就業先の一つであることに変わりはない。

(イ)視覚障害者以外の者の増加率と視覚障害者の減少率との関連性

 あん摩マッサージ指圧師総数及び視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師実数並びに視覚障害者以外の者のあん摩マッサージ指圧師総数に占める割合は,おおむね増加傾向にある。仮に,あはき師法附則19条1項による規制を設けない場合,あん摩マッサージ指圧師の総数が著しく増大し,かつ,同総数に占める視覚障害者以外の者の割合が著しく増大する結果,過当競争による顧客の減少や施術単価の減少等を招き,視覚障害者の生計維持が困難になるおそれがある。

このことは,現在において,

視覚障害者以外の者を対象とする養成施設等の受験者数が定員を大幅に上回っているなど,視覚障害者以外の者の入学希望者が相当数存在していること,

②あはき師法附則19条1項のような規制のないはり師,きゅう師及び柔道整復師養成施設等の定員は大幅に増大傾向にあること,

③国家試験において,視覚障害者の合格率は視覚障害者以外の者よりも相当程度下回っていること,

④平成25年の調査の結果によれば,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の年間平均収入が290万円と,視覚障害者以外の者の5割以下にとどまり,年間収入が200万円以下の者が約6割であったこと,

他の国家資格においても,資格者数の増加に伴い,当該資格者間の競争が激化し,収入が低下していること,

⑥関係団体等から寄せられてきた意見の内容等に照らして明らかである。

 

(ウ) そうすると,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し,その生計の維持が著しく困難とならないようにするためには,現在においても,あん摩マッサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合,あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等の生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して,必要があるときは,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の新設又は定員の増加を抑制することを可能とする法的措置を設ける必要がある。

エ 制限の程度

(ア) あはき師法附則19条1項は,学校法人等が視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の新設及び定員の増加をしようとすることを全面的に禁止するものではなく,その制約場面は,視覚障害者の限られた職域の中でも特に重要なあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し,過当競争によりその生計の維持が著しく困難とならないようにするために必要な範囲に限定されている。

また,同項所定の要件を充足した場合であっても,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の新設又は定員の増加を一律に認定又は承認しないこととするものではなく,厚生労働大臣等の裁量により,これらを認定又は承認することも予定しており,現に,昭和57年には,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師養成施設の定員の増加の承認がされている。
 このように,あはき師法附則19条1項による制約場面は限定されているのであって,職業選択の自由に対する制限の程度として大きいものではない。

 

(イ) また,平成27年度時点における視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等は,全国の主要な地域である10都府県に合計21施設あり,その定員も1239人と相当数に及んでいることからすれば,あはき師法附則19条1項の規定により,視覚障害者以外の者にとってのあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の選択肢に影響を与え得るとしても,その職業選択の自由それ自体に対する法律上の制限ではなく,事実上の制限にとどまるものであるから,視覚障害者以外の者のあん摩マッサージ指圧師の養成施設等への入学及び通学に重大な支障を生じさせる状況にはない。

 このように,あはき師法附則19条1項は,視覚障害者以外の者があん摩マッサージ指圧師の職業を選択することを直接制限する規定ではなく,間接的なものであり,その制限の程度も強度のものとはいえない。

(ウ)職業選択の自由が制限される期間が,立法目的達成に必要な期間に限定されること

 あはき師法附則19条1項には,当分の間という時間的制限が規定され,同項による職業選択の自由に対する制限は,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先する必要がなくなるまでの期間に限定されている。
 また,あはき師法附則19条1項の制定に当たっては,視覚障害者の職域優先確保について,養成所の奨学制度の拡充,生業に対する長期低利融資等,視覚障害者の福祉の向上についても更に格段の努力をすること等を内容とする附帯決議がされるなど,同項による職業選択の自由に対する制限は,その制限を解消するための配慮もされており,現に,障害者福祉等に関する法令の整備等,種々の手段が講じられている。

(エ)手続的な担保が設けられていること

 あはき師法附則19条2項により,厚生労働大臣等が同条1項により認定等をしない処分をしようとするときには,あらかじめ医学に関する有識者などで構成される医道審議会の意見を聴かなければならないとされ,また,厚生労働大臣等が,実際に認定等をするか否かを決するに当たっては,都道府県知事に対し,当該都道府県知事の意見,認定等の可否を決定するに当たって参考となる資料及び関係団体等の意見書の提出を求めているほか,行政手続法10条に基づき,視覚障害者に係る関係団体等に対し,意見書の提出を求めるなどして,さらに処分の慎重を期している。

(オ)小括

 以上のとおり,あはき師法附則19条1項による職業選択の自由に対する制限は,現在においても,その立法目的を達成するために必要かつ合理的な範囲にとどまっている。

オ まとめ

 このように,あはき師法附則19条1項による職業選択の自由に対する制限は,立法府がその裁量の範囲を逸脱し,著しく不合理であることが明白であるとは認められないから,同項は,憲法22条1項に違反するものではない。

(2)あはき師法附則19条1項の憲法31条,13条適合性(争点2)

(原告の主張)

 職業選択の自由は,個人の人格的価値とも不可分の関係を有する重要な人権であり,その制限に係る基準は明確でなければならないが,あはき師法附則19条1項の規定のみでは,申請をする者にとって,どのような場合に申請が認められるのか予測可能であるとはいえず,その要件が極めて曖昧で,基準が不明瞭であり,その判断を厚生労働大臣等の裁量に委ねているものであり,憲法31条,13条に違反する。

 

(被告の主張)

 いわゆる明確性の理論は,精神的自由を規制する立法が明確でなければならないとする理論であって,職業選択の自由を規制する法律には適用されない。
 なお,生計の維持に必要となる収入は,家族構成,健康状態,年齢,生活地域の物価等,多数の不確定要素を総合考慮した上で初めて決定し得るものであるから,原告が主張するような画一的な基準を定めることは,立法技術上,およそ不可能である。
 よって,あはき師法附則19条1項は,憲法31条,13条に違反しない。

(3)あはき師法附則19条1項を本件申請に適用することが憲法22条1項,31条,13条,14条1項に違反するか(争点3)

(原告の主張)
 あはき師法附則19条1項は,申請が認められる基準が不明確であり,原告にとってどのような場合に申請が認められるか予測不可能であったから,同項を本件申請に適用することは,憲法22条1項,31条,13条に違反する。
 また,昭和57年に,視覚障害者以外の者を対象とする養成施設の定員の増加が承認されている例があるところ,これと本件申請との間にどのような差異があったのか全く明らかではなく,このような不明確な基準の下,申請が認められた者がいる一方で,本件申請が不認定とされたことは,憲法22条1項,14条1項に違反する。

 

(被告の主張)
 原告の憲法22条1項,31条,13条に関する適用違憲主張の実質は,法令違憲の主張にほかならないから,前記及び(被告の主張)のとおり,原告の主張には理由がない。

また,憲法14条1項は合理的に区別する取扱いは許容しているところ,あはき師法附則19条1項は,厚生労働大臣等に裁量を与えて,個別事案ごとに取扱いを相違させることがあることを予定しているものである。そして,本件処分がされた平成28年と昭和57年とでは,社会・経済情勢が異なり,昭和57年の承認の際には,中央審議会においても承認して差し支えない旨の答申がされているから,本件処分との差異は合理的な区別であり,憲法14条1項に違反するものではない。