あはき法19条裁判の違憲の主張について、気になったところがあったのでメモとして残す。
違憲判断の手法
裁判所は19条が違憲と判断するための基準として
あはき師法附則19条1項による,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等を設置しようとする者及びあん摩マッサージ指圧師の資格を取得しようとする視覚障害者以外の者の職業選択の自由に対する規制については,それが重要な公益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が,その政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理である場合に限り,憲法22条1項に違反するものと解するのが相当である。
としている。
原告は
あはき師法附則19条1項は,当人の努力等により克服ができない客観的な許可条件による事前規制であり,重要な権利である職業選択の自由に対する最も強い規制に当たる。
しかも,同項の文言は,最高裁の薬事法判決や小売市場判決で問題となった規制とは異なり,具体的にどのような条件を満たせば事業を行うことができるかの基準自体が不明確であるから,より厳密に目的と手段の関連性が審査されるべきである。
として、
①目的に正当性があること,
②手段が目的を達成するために必要であること,
③手段に目的達成のための合理性があること
が満たされなければ,違憲と判断されるべきである。
と主張している。
職業選択・活動に対する規制に関する段階理論
「客観的な許可条件」というのは学説では良く見られる表現である。
職業選択の自由に対する規制としては
- 職業活動(職業開始の後)に対する規制(守秘義務や広告規制など)
- 職業開始自体に対する規制
に分けられ、後者の内容はさらに
- 主観的条件:資格制度など、本人の才能と努力で克服できるもの
- 客観的条件:本人が変えられない条件。既存の同業者の位置や家柄など。
に分けられる。職業に対する規制の違憲審査は緩い順に
- 職業活動に対する規制(事後規制)
- 主観的条件
- 客観的条件
となる。
段階理論とも呼ばれる。
視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の経済状況は、申請者ではどうこうできる条件ではないのでまさに客観的条件と言える。
ただ、裁判所の判断では「客観的な許可条件」というのには触れていない。
この説はもっぱら職業を自由にした場合の弊害を防ぐ、警察目的での規制に適用されるようであり、今回のような、社会的な目的を持った規制では判断基準として用いられていないようである。
薬事法違憲判決は、距離制限があくまでも不良医薬品の流通を防ぐという警察目的で作られた条項であるため、違憲審査基準が厳しくなったと言える。
晴眼者のあん摩マッサージ指圧師の営業権を犠牲にする違憲主張
さて、原告の平成医療学園は、19条が違憲である、という理由の一つとして、下記のように養成校の新設規制以外に他に妥当な手段がある旨、主張している。
(エ)目的達成のために他の妥当な手段があること
視覚障害者にとって重要なのは,視覚障害者が職業的に自立することや,資質向上が果たされるような環境が整えられることにあり,台湾では,違憲判決を契機として,視覚障害者以外の者の参入を制限するのではなく,視覚障害者があん摩師やその他の職業として働く場を確保する政策に転換し成功している。このように,あはき師法附則19条1項を維持するのではなく,障害者が職業的に自立するような政策・立法を行うことにより,目的をより達成することが可能であり,同項は手段として合理性がない。
また,昭和39年改正当時の中央審議会において検討されていたように,慰安,疲労回復等を目的とする施術を行う保健あん摩師と医師の指示の下に疾病の治療を目的として施術を行う医療マッサージ師とに分離し,一定の地域ごとに,保健あん摩師総数における視覚障害者以外の者の比率を定め,その比率を上回るときは,視覚障害者以外の者の就業する保険あん摩師施術所の新規開設を許可しないことによって,視覚障害者の職域の保護の目的は達成できるから,全国一律に制限する必要はない。
保健あん摩師と医療マッサージ師の分離までは今回の裁判では考えられていないと思う。
この、晴眼者の施術所開設の規制案は昭和39年当時の議論である。
その後、昭和50年に薬局の距離制限を違憲とした最高裁判決が下されるのである。
この施術所開設規制は薬事法違憲判決と同様に、客観的条件による規制である。
原告は客観的条件による規制は違憲審査を厳しくあるべき、と主張しながら、晴眼者のあん摩マッサージ指圧師に対する、客観的条件による規制を主張しているのである。
この主張通りの規制が実施された場合、晴眼者による新規の施術所開設が地域によってはできなくなる。
原告が申請した養成校が作られたとしても、そこに入学し、あん摩マッサージ指圧師となった者は希望する地域で開業できなくなる可能性も出てくるのである。
3年以上の月日を費やしたにも関わらず、地元などの希望地域で開業できない状況を作ってでも養成校の新設を認めるべきであろうか?
資金力もある学校法人と、一個人であれば後者の職業選択の自由を重視すべきではないか?
しかしながら,原告の主張するような各種手段が,あはき師法附則19条1項による規制よりも明らかに合理性の点で優れており,その反面として同項による規制の合理性に疑いがもたれるというまでの事情は認められず,これらの手段の中からどれを選択するかは,正に立法府の政策的・技術的な判断によるものというべきであるから,原告の主張を採用することはできない。
というものである。