昭和46年6月17日の判決である。
所論は、宅地建物取引業法二四条二号、一二条一項は、取引の公正を害する不正
行為を伴なう取引もしくは公正を害する危険性のある取引および宅地等の利用を阻
害する取引に限つて処罰の対象としているものと解さなければ、憲法二二条に違反
するという。
しかし、職業選択の自由、営業の自由も全く無制限なものではなく、合理的な理由があれば公共の福祉のためその具体的弊害発生の有無を問わず一般的に制限することが許されるものであることは、当裁判所昭和二六年(あ)第四六二九号同二八年三月一八日(刑集七巻三号五七七頁)、同三一年(あ)第九一四号同三六年一二月二〇日(刑集一五巻一一号一八六四頁)、同三五年(あ)第二八五四号同三八年一二月四日(刑集一七巻一二号二四三四頁)各大法廷判決の趣旨により明らかであるから、所論は理由がない。
いわゆる小売市場事件判決は昭和47年11月22日なので、この判決の時点では無い。
なので「合理的な理由があれば公共の福祉のためその具体的弊害発生の有無を問わず一般的に制限することが許されるものである」と過去の大法廷判決を引用して判決している。
引用されている大法廷判決はそれぞれ、「窃盗、古物営業法違反」、「貸金業等の取締に関する法律違反、弁護士法違反」、「道路運送法違反」である。
貸金業法等違反の判決では
右法律が、同法律にいう貸金業を行おうとする者に対し大蔵大臣に所定の届出書を提出しなければならないことを命じ、該届出受理書の交付を受けた者でなければ、右貸金業を行うことを禁止した所以は、
この貸金業を自由に放任するときは悪質暴利等の不正な金融をなす者が続出し、その一般大衆に及ぼす弊害の極めて大きいことに鑑み、右届出をさせることによつて、その者の所在及び業務の実態を明確に把握し、かつ、その業務に対し同法律所定の監督権を行使し、よつてその業務の公正な運営を期すると共に、他面、金利等の不当に高率不正のものに対しては、これが届出受理書の交付を拒否し、もつてかかる不正の金融から一般大衆を守りその福祉を保護しようとするためであるから、いやしくも業として同法律二条所定の行為を行おうとする以上、その行為を行うについて、前記のような規制をしても公共の福祉を維持するため必要であり、かつ、合理性のある措置として是認されなければならないからである。
と判示して合憲判断をしている。
この理屈は昭和40年の医薬品販売業登録制の合憲判断でも用いられている感じだが、明確な引用はされていない。
そして、同法がかような登録制度をとつているのは、販売される医薬品そのものがたとえ普通には人の健康に有益無害なものであるとしても、もしその販売業を自由に放任するならば、これにより、時として、それが非衛生的条件の下で保管されて変質変敗をきたすことなきを保しがたく、またその用法等の指導につき必要な知識経験を欠く者により販売されこれがため一般需要者をしてその使用を誤らせるなど、公衆に対する保健衛生上有害な結果を招来するおそれがあるからである。
このゆえに、同法は医薬品の製造業についてばかりでなく、その販売業についても画一的に登録制を設け、同法二条四項にいわゆる医薬品に該当する限りその販売について、一定の基準に相当する知識経験を有し、衛生的な設備と施設をそなえている者だけに登録を受けさせる建前をとり、もつて一般公衆に対する保健衛生上有害な結果の発生を未然に防止しようと配慮しているのであつて、右登録制は、ひつきよう公共の福祉を確保するための制度にほかならない。されば、旧薬事法二九条一項は、憲法二二条一項に違反するものではなく、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、論旨は理由がない。
この薬事法判決は薬局距離制限違憲事件でも引用され、肯定されている。
そして、前掲の貸金業法等違反判決と、医薬品販売業登録判決、そして小売市場事件を引用した上で合憲判決をだしているのが旅行業法違反事件である。
しかし,旅行業法の上記各規定は,旅行業務に関する取引の公正の維持,旅行の安全の確保及び旅行者の利便の増進を図ることを目的として,旅行業を営む者について登録制度を採用し,無登録の者が旅行業を営むことを禁止し,これに違反した者を処罰することにしたものである。
上記各規定が,憲法22条1項に違反するものでないことは,当裁判所の判例(最高裁昭和31年(あ)第914号同36年12月20日大法廷判決・刑集15巻11号1864頁,最高裁昭和38年(あ)第3179号同40年7月14日大法廷判決・刑集19巻5号554頁,最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁)の趣旨に徴して明らかである。所論は理由がない。
「旅行業務に関する取引の公正の維持」,「旅行の安全の確保」は消極目的規制のように思えるが、「旅行者の利便の増進を図ること」は社会政策上の目的を推進する積極目的規制と言えるだろう。なので小売市場判決を引用していると考えられる。
最高裁は憲法22条適合の判断をする上で、目的二分論は採用していないと考えられる。
実務に出てから憲法の学習が止まっている実務家のリアルすぎる供述ですね笑。
— 弁護士社長 伊藤たける|憲法マニア|法律事務所Z@富山 (@itotakeru) 2023年3月5日
・表現の自由の事案類型
・目的二分論
・財産権
・請求権
・違憲審査の手法(特に文面審査)
あたりは、もはや使えないレベルではないかと。。。
平成4年刊行から、少し手直ししただけの30年前の本です。 https://t.co/9qwcEf38JB
あはき法12条はもともと、適切な医療受診機会の逸失を防ぐ目的があった。
なので、旅行業法判決と同様に、貸金業法等違反事件、医薬品販売業登録制判決、小売市場判決を引用すれば本来のあはき法12条が憲法22条に違反しないことは明らかである。
そして昭和35年判決の結果、健康被害が発生し、医療ネグレクトによる死亡事件も起きている以上、あはき法12条は法の目的を実現するために不合理な規制とは言えない。
また法の目的に反する結果を招いているのだから、その判断を維持することは公衆衛生の維持向上を定めた憲法25条や、国会が唯一の立法機関であることを規定する憲法41条に違反するものである。
すっかり、宅建業法違反事件で引用されている道路運送法違反事件に言及するのを忘れていた。
しかし、憲法二二条一項にいわゆる職業選択の自由は無制限に認められるものではなく、公共の福祉の要請がある限りその自由の制限されることは、同条項の明示するところである。
道路運送法は道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立することにより道路運送の総合的な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とするものである。
そして同法が自動車運送事業の経営を各人の自由になしうるところとしないで免許制をとり、一定の免許基準の下にこれを免許することにしているのは、わが国の交通及び道路運送の実情に照らしてみて、同法の目的とするところに副うものと認められる。
ところで、自家用自動車の有償運送行為は無免許営業に発展する危険性の多いものて
あるから、これを放任するときは無免許営業に対する取締の実効を期し難く、免許制度は崩れ去るおそれがある。それ故に同法一〇一条一項が自家用自動車を有償運送の用に供することを禁止しているのもまた公共の福祉の確保のために必要な制限と解される。
されば同条項は憲法二二条一項に違反するものでなく、これを合憲と解した原判決は相当であつて、論旨は理由がない。
免許制度は道路運送法の目的に沿う。なので無免許営業の取り締まりの実効性を崩壊しかねない、自家用自動車による有償運送行為を規制するのは合憲、というわけである。