医業類似行為に関する昭和35年判決は
原審弁護人の本件HS式無熱高周波療法はいささかも人体に危害を与えず、また保健衛生上なんら悪影響がないのであるから、これが施行を業とするのは少しも公共の福祉に反せず従つて憲法二二条によつて保障された職業選択の自由に属するとの控訴趣意に対し、原判決は被告人の業とした本件HS式無熱高周波療法が人の健康に害を及ぼす虞があるか否かの点についてはなんら判示するところがなく、ただ被告人が本件HS式無熱高周波療法を業として行つた事実だけで前記法律一二条に違反したものと即断したことは、右法律の解釈を誤つた違法があるか理由不備の違法があり、右の違法は判決に影響を及ぼすものと認められるので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものというべきである。
と、原審(仙台高裁判決)が、人の健康に害を及ぼすおそれの有無について判示していない、として 破棄差戻しをしたものである。
「医業類似行為を業とすることを禁止処罰するのも人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならない」とも判示されているため、おそれを立証しなければならない、と考える人が多いが、その点に関する疑問は下記記事に書いた。
要約すれば、業として行われた無免許施術に関し、人の健康に害を及ぼすおそれが無いことの立証をしていない、できてないことを判示すれば良く、 検察官はおそれを立証する必要はない、という考えである。
その考えを補強するため、爆発物取締罰則についても記事を書いた。
もう一つ、私の考えを補強するため、食品衛生法における、食品添加物の規制と裁判例を紹介する。
食品衛生法第12条 食品添加物の販売等の禁止
第十二条 人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては、添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であつて添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は、これを販売し、又は販売の用に供するために、製造し、輸入し、加工し、使用し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
長いので端折った書き方をすると
人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が定める場合を除いては、添加物等は、これを販売等してはならない。
となる。
厚生労働大臣が「人の健康を損なうおそれのない場合」と定めた場合のみ、添加物は販売などができるわけである。
チクロに関する裁判例
食品添加物として許可、禁止された経緯は以下の通り。
チクロは、砂糖の40倍の甘味があるとされる人工甘味料で、日本では昭和31年に食品添加物に指定された。
(略)
しかし米国で1968年、発がん性の疑いが指摘され、日本でも大騒ぎになった。昭和44年、米国で使用が禁止されたのに続き、日本でも添加物の指定が取り消され、使用禁止になった。
チクロの販売を禁止されたことにより、損害を受けた、として事業者が国を訴えた裁判がある。
一審*1
で請求は棄却され、
控訴審判決では
食品衛生法六条(筆者注:現在は12条)の趣旨によれば、化学的合成品たる食品添加物の指定の取消に当つては、当該食品添加物が人の健康を害する虞れのないことについて積極的な確認が得られないというだけの理由で十分であつて、それが人の健康を害する虞れがあることの証明を要するものではないと解される。
と、判示されている。
よって、昭和35年判決の解釈も、人の健康に害を及ぼすおそれが無いと証明された行為のみを禁止処罰の対象外にしたのであって、禁止処罰の際に、おそれがあることを証明する必要はないと考えるべきである。
もし、おそれの立証をする必要が有るとするなら、無免許施術による健康被害が多数報告されている現代において、昭和35年判決を維持するのは相当ではない。
なお、無免許業者の失業などがあるから判例変更はできない、という意見もあるがチクロ事件控訴審では
なにびとも人の健康を害する虞れがないとは認められない食品添加物を使用した食品を販売する権利、自由を有するものではない
と判示され、原審においても
本件措置の方法の違法をいう原告の主張は、帰するところ国民一般の享有すべき保健衛生上の安全を犠牲にして業者の経済的利益を保護すべきであるというに等しく支持することができない。
と判示されている。
法律の知識がない人であっても
国民一般の保健衛生上の安全>>業者の経済的利益
であることは理解できるだろう。
無免許業者の営業権や財産権が、国民の安全より優先することはない。
整体師などの無免許業者が営業を継続したいなら、まずは自分の施術が安全であることを第三者によって証明してもらうべきだろう。