偽装請負が横行するリラクゼーション業界。指示を受けなければいけない、となれば労働者として守られる。
国家資格者である鍼灸マッサージ業界も他業界のことは言えないのだが、リラクゼーションや整体などの業界では会社が施術者(業界では「セラピスト」と呼ぶのが一般的な模様。)を社員、労働者として雇用せず、個人事業主との業務委託契約にしている事が多い。
個人事業主やフリーランスと言うとかっこよく聞こえるかもしれないが、労働者としての保護を受けられないのである。
- 労働者である(雇用関係がある)メリット
- 雇用契約ではなく、業務委託になっている実態。
- リラクゼーション業界における、労働者性を争った裁判例
- 看護師は医師の指示が必要だから業務委託ができない。
- 施術に指示が必要なら雇用契約を結ばなければいけない。そのための立法。
労働者である(雇用関係がある)メリット
雇用関係の有る労働者の場合、私が思いつくだけでも下記のようなメリットがある。
健康保険は個人事業主(自営業)でも国民健康保険(国保)はあるが、全額自分で払わなければいけない。一方、協会けんぽや組合保険など、会社の健康保険であれば保険料の半額は会社持ちである。そして国保には傷病手当金というのが無い。
傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
年金も自営業であれば国民年金である。
現在、国民年金の支給額は満額で月額6万5千円程度である。厚生年金は保険料の支払いによるし、保険料の自己負担は半分である。
また労災であるが、通勤中や業務上の怪我の治療費や休業補償が得られる。
事業者(法人、個人問わず)が人を雇う場合には必ず加入しなければならない。そして保険料は事業主が全額負担である。
建設業だと一人親方用の労災が有るらしいが、通常の業種では無い。
労災保険とは? 基礎知識や仕組み、特徴を解説 - SmartHR Mag.
で、雇用保険であるが、失業した時に失業給付が受けられる。
また新型コロナウィルスで話題に上る、雇用調整助成金というのもある。
この助成金は直接労働者に支給されるわけではないが、給料の一部を国が事業主に助成してくれる。
私も労働関係はそんなに詳しくないので詳しくはググってほしい。
雇用契約ではなく、業務委託になっている実態。
いくつか例を見てみよう。
全国に600店舗以上を展開するリラクゼーションスペースの「りらくる」で働くセラピストは全国に12,000人以上居ます。その全てが業務委託契約であり、本来自由に働く事ができる個人事業主であります。しかし、現実は自由と程遠く、1ヶ月分のシフトを組まされ出退勤も管理されております。深夜2時半まで営業しており、深夜の時間帯を希望して働くセラピストは少なく、一旦深夜のシフトを組んでしまえば中々そこから抜ける許可も下りず、強制的に拘束されてしまう現状がございます。
キャンペーン · (株)りらく: リラクゼーション業界にはびこる偽装請負からセラピストを救いたい · Change.org
全部休業になったら1万人以上の人が、1ヶ月無給ですよー泣
— megane (@megane881216) 2020年4月8日
りらくるからの給付金も無いですしね
大手リラクゼーションで働いてるけど、3密だから不安しかない。マスク支給しないのに田舎だから休業もしない。売上も激減してるのに…。
— Neo (@Neo28093605) 2020年4月8日
そもそも個人事業主だから保証も一切なくて、お客様が来ないと収入ゼロ。だからコロナの不安と生活費の不安と、いつも悩みながら働いています。#スッキリコロナ
リラクゼーションサロン勤務ですけど、そりゃあお客様は激減してます。だけど本社からの休業許可が下りないため毎日出勤せざるを得ない。社員ではなく出来高制なので、感染リスクの高い電車通勤してるのに収入ゼロの日もある。国から休業命令が出るのを毎日待っています。。#緊急事態宣言を出して
— やきそば (@yakiso_bba) 2020年4月6日
個人事業主に対する業務委託であれば自分が休みたい時に休めば良いのである。
なのに「本社から休業許可」が必要、というのであれば偽装請負と言わざるを得まい。
整体店で店長してます。隣町で感染者が出ました。これ以上に増やさないように休業したいけど、うちの店は一人一人が個人事業主なので、稼がないと収入がない。お客さんも減ってる。補償が出るかわからんから、休業できない。他国は出てんのに日本はマスクのみ。コロナもっと多く出たら補償出るんかな。
— kattelin☆ (@BeautifulvoiceI) 2020年4月9日
このアカウントの店長は雇われ店長だそうだ。
経営者は、平時は施術者の雇用に伴う社会保険の負担を免れているわけである。
雇用していれば雇用調整助成金などを受けられることは上記の通り。
施術者の自由度(時間拘束や最低出勤日数の義務が無いなど。)によっては業務委託契約でも構わないが、そこまで自由なら雇われ店長が心配することでもない。
幸い、個人事業主にも、新型コロナウィルスによる減収に対する給付金は支払われるが、事務作業は自分でやるか、専門職に頼まねばならぬ。
個人事業主というのは、そのような社会制度に関するリテラシーを持った者でなければなるべきじゃない。施術の腕や、接客が良ければ良い、というわけではない。
リラクゼーション業界における、労働者性を争った裁判例
リラクゼーションや整体などの業界に入ることを考えている人や新人の場合、一国一城の主になることを夢見たり、手取りが多いことにメリットを感じ、雇用されることを重視しないかもしれない。
だが、今回のような有事で補償がなくて困っているセラピストがいるのは上掲のとおり。
雇用関係の確認を求めて裁判を起こしてたりもする。
温浴施設でマッサージ等を行うセラピストが、業務委託契約の解除は解雇に当たり無効として提訴。東京地裁は、指名以外の施術は行わない等要望すれば担当を拒否できること、完全出来高で労務対償性はないことなどから使用従属性はなく労働者性を否定した。契約書になかった受付業務に従事させたことについて、施術に付随する業務として未払報酬の請求も棄却した。
リバース東京事件(東京地判平27・1・16) 温浴設備のセラピスト、委託解除され解雇と訴える 使用従属性がなく請求棄却│労働判例|労働新聞社
2.イヤシス事件
本件で被告とされたのは、リラクゼーションサロンの経営等を目的とする有限会社です。
原告らになったのは、被告の運営する店舗施術等を担当した方です。自分達は労働者であるとして、未払い割増賃金等の支払いを求める訴えを起こしました。
これに対し、被告は、原告らと締結した契約は労働契約ではなく、業務委託契約であると主張し、原告の請求の棄却を求めました。
裁判所は、次のとおり述べて、原告らの労働者性を肯定しました。
現実は厳しいのであり、本当のフリーランス、個人事業主としてやっていけるのは一握りの人たちである。
看護師は医師の指示が必要だから業務委託ができない。
リラクゼーションや整体の業界に偽装請負が横行するのは、現行法及び判例下では誰の指示を受けなくても施術できるからである。施術を個人の裁量で行っている、と言えるから業務委託契約が成立するのである。
その点、看護師は診療の補助を行うのに、医師の指示が必要である。
そのため、雇用関係が必要となる。指示に従う必要がある以上、業務委託はできない。
施術に指示が必要なら雇用契約を結ばなければいけない。そのための立法。
もし、国家資格を持たない者による施術には医師やあん摩マッサージ指圧師による指示が必要という法律ができたとしよう。
業務に誰かの指示が必要であれば雇用関係が必要となる。
だからリラクゼーションセラピストなどは労働者として保護されることになる。
法律で認めれば、国家資格者から無法者呼ばわりも受けずに済むのである。
リラクゼーション業の労働組合も作られたようなので、新型コロナウィルスで補償を受けにくいことに不安を覚えた方々は組合に参加して、立法を求めても良いと思う。
あん摩マッサージ指圧師の指示を受ける立場になることを嫌なセラピストもいるかもしれないが、リラクゼーション業界の親玉もあん摩マッサージ指圧師だったりする。
清水 秀文(しみず ひでふみ)さん
株式会社ボディワーク 代表取締役
日本リラクゼーション業協会 理事長東京都出身。大学を卒業して1年間、サラリーマンとして働いた後に、東京鍼灸マッサージ専門学校と東京柔道整復専門学校へ。エステサロンと接骨院の開業・経営、温浴施設の業務請負などを精力的に行う。
現在、全国に「ラフィネ」ブランド500店舗を持つボディワークの代表取締役であり、グループ会社のボディワークホールディングス代表取締役も務める。2008年に日本リラクゼーション業協会の理事長に就任。
ラフィネを運営する株式会社ボディワークの社長さんでもあるが、ラフィネでは下記の通り、業務委託契約が原則である。
契約形態
業務委託契約
お客様にサービスを提供した分、努力した分がそのまま評価や収入につながる『完全出来高制』で、分単位の報酬をお支払いします。※正社員登用制度あり
セラピストの、労働者としての権利を考えているのは私と清水氏、どちらなのかを考えていただければと思う。
緊急事態宣言とあはき及び無免許施術所の扱い
新型コロナウィルスに関し、緊急事態宣言がされる見通しであり、経済活動への影響が見込まれる。
さて、この緊急事態宣言は新型インフルエンザ特別措置法に基づくものである。
で、知事は45条に基づき、協力を要請する。
(感染を防止するための協力要請等)
第四十五条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。
第2項の政令であるが、新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令では
(使用の制限等の要請の対象となる施設)
第十一条 法第四十五条第二項の政令で定める多数の者が利用する施設は、次のとおりとする。ただし、第三号から第十三号までに掲げる施設にあっては、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えるものに限る。
一 学校(第三号に掲げるものを除く。)
二 保育所、介護老人保健施設その他これらに類する通所又は短期間の入所により利用される福祉サービス又は保健医療サービスを提供する施設(通所又は短期間の入所の用に供する部分に限る。)
三 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する大学、同法第百二十四条に規定する専修学校(同法第百二十五条第一項に規定する高等課程を除く。)、同法第百三十四条第一項に規定する各種学校その他これらに類する教育施設
四 劇場、観覧場、映画館又は演芸場
五 集会場又は公会堂
六 展示場
七 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗(食品、医薬品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売場を除く。)
八 ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)
九 体育館、水泳場、ボーリング場その他これらに類する運動施設又は遊技場
十 博物館、美術館又は図書館
十一 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設
十二 理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗
十三 自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設十四 第三号から前号までに掲げる施設であって、その建築物の床面積の合計が千平方メートルを超えないもののうち、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等の発生の状況、動向若しくは原因又は社会状況を踏まえ、新型インフルエンザ等のまん延を防止するため法第四十五条第二項の規定による要請を行うことが特に必要なものとして厚生労働大臣が定めて公示するもの
2 厚生労働大臣は、前項第十四号に掲げる施設を定めようとするときは、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。
とある。3〜13号は床面積が1000平方メートル以上の施設が対象である。
さて、国家資格者の施術所であれば2に含まれると考えられる。
「通所により利用される保健医療サービスを提供する施設」と言えるだろう。
広さは関係無いわけである。
またスポーツジムなどは9号、風営法の対象となると11号であろう。
標準産業分類でリラクゼーション業は「中分類78 洗濯・理容・美容・浴場業」の「789 その他の洗濯・理容・美容・浴場業」に含まれるので12号に該当すると思われる。
ただ1000平方メートル以上の広さが有るリラクゼーション店もあまり無い気がする。
さて、治療を目的にする整体やカイロプラクティックなどの無免許施術所はどういう扱いになるのか?
実際、整体師が感染させている以上、営業を中止させるべきだろう。
しかし保健医療サービスで無ければ1000平方メートルの壁がある。
保健医療サービスとして規制してしまうと、彼らは自分たちが保健医療サービスと認められた、と開き直れるだろう。
厚生労働大臣の公示で、12号の規制対象にしてほしいものである。
(2020/04/06追記)
緊急事態宣言へ都対応案 パチンコ・理髪店にも休業要請(朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース
東京都は
【基本的に休止を要請する施設】
大学や専修学校など教育施設、自動車教習所、学習塾、体育館、水泳場、ボウリング場、ゴルフ練習場、バッティング練習場、スポーツクラブ、劇場、映画館、ライブハウス、集会場、展示場、博物館、美術館、図書館、百貨店、マーケット、ショッピングモール、ホームセンター、理髪店、質屋、キャバレー、ナイトクラブ、バー、個室ビデオ店、ネットカフェ、漫画喫茶、カラオケボックス、パチンコ店、場外車券売り場、ゲームセンター
【施設の種別によっては休業を要請する施設】
【社会生活を維持する上で必要な施設(生活インフラ)】
病院、診療所、薬局、卸売市場、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホテル、バス、タクシー、レンタカー、電車、物流サービス、工場、公衆浴場、飲食店(夜間・休日など営業時間の短縮、居酒屋は休業の要請)、金融機関や官公署(いずれもテレワークの一層の推進を要請)
と検討しているそうだ。あはき及び無免許施術所はどこにも分類されていない。
(追記終わり)
マッサージ師に対する風評被害。新コロナウィルスを感染させたのは整体師である。コロナばらまき男の親も整体師だ。
(2020/03/09追記あり)
新型コロナウィルスに関して、あん摩マッサージ指圧師(マッサージ師)を震撼させるニュースがあった。
愛知県在住の50代の男性と60代の女性が新型コロナウイルスに感染していたことがわかりました。男性は感染者との接触が今のところ確認されず、感染経路が不明です。愛知県内の感染者数はこれで69人になりました。
感染が確認されたのは尾張地方に住む50代の男性と蒲郡市に住む60代の女性です。50代男性は容体は安定していますが、これまでのところ感染者との接触が確認されず、感染ルートが分かっていません。
また、蒲郡市に住む60代の女性は、3月3日に陽性判定された80代の男性から感染したとみられています。
男性はマッサージ師でこの女性は2月24日に施術を受けていました。
愛知県は、2月17日から27日の間に蒲郡市周辺で出張マッサージを受け、心配がある人は豊川保健所に相談するよう呼び掛けています。
愛知県内の感染者はこれで69人となりました。
マッサージ師が施術対象者を感染させた、となると我々、マッサージ師にとっては一大事である。
この感染に関する愛知県の発表である。
愛知県は当初(今でもだが)
※2月24日(月曜日)に、3月3日本県発表の新型コロナウイルス陽性患者(県内34例目(80歳代男性、マッサージ(整体)師))(注1)による施術を受けています。
(略)
2月17日(月曜日)~2月27日(木曜日)の間に、出張マッサージ(整体)(個人形態)を受けた方は愛知県豊川保健所(帰国者・接触者相談センター 電話:0533-86-3177)に相談してください。
と書いていた。整体師なのか、マッサージ師なのか、わからない書き方である。
そしてあん摩マッサージ指圧師の問い合わせや抗議があったのか、発表の翌日(3月8日)に
※調査の結果、本人はあん摩マッサージ指圧師の資格を持っておらず、整体を行う者であることが確認されました。(3月8日追記)
と追記された。
(2020/03/09追記)
愛知県の発表(同URL)から3月8日の訂正が削除され
※2月24日(月曜日)に、3月3日本県発表の新型コロナウイルス陽性患者(県内34例目(80歳代男性、整体を営む者))(注1)による施術を受けています。 (3月9日訂正)
2月17日(月曜日)~2月27日(木曜日)の間に、出張整体(個人形態)を受けた方は愛知県豊川保健所(帰国者・接触者相談センター 電話:0533-86-3177)に相談してください。 (3月9日訂正)
と訂正された。
(2020/03/09追記、一旦終わり)
(2020/03/10追記)
愛知県は別のプレスリリースで、経緯は残している模様。
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/325054.pdf
「マッサージ師」と標記しておりましたが、3月8日(日)に改めて確認した結果、あん摩マッサージ指圧師の資格を持っておらず、整体を行う者であることが確認されましたので、訂正します。
(追記終わり)
私のブログを初めて読む方に説明する。
業としてマッサージを行うには、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき法)第1条により、あん摩マッサージ指圧師という国家資格(免許)が必要である。
整体師と名乗るには何の免許や資格も不要である。あなたが整体師と名乗ればそれでOKである。
本来、整体は医業類似行為として、あはき法第12条で禁止されている。
しかし昭和35年に最高裁が、禁止処罰の対象を「人の健康に害を及ぼすおそれのある行為」に限定した判決を出した(業界では「昭和35年判決」と呼んでいる。)ため、人の健康に害を及ぼすおそれがない、という建前で営業できているのである。
しかし、実際には健康被害が発生しており、国民生活センターや消費者庁が被害に関する報告書を出しているのである。
手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター
[PDF]消費者庁:法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に
あん摩マッサージ指圧師は国家試験の受験の前に3年以上の専門教育を受ける必要がある。その教育の内容には業務上の感染症予防・防護も含まれる。
一方、整体師は誰でも名乗れるから感染症の教育を受けているとは限らない。
そのため予防措置を取らずに感染させることは十分に想定できることである。
そのように、医学知識が不十分な整体師による感染を、マッサージ師が起こしたように報道されたのでは風評被害も甚だしいわけである。
ただ、この件は感染だけの問題ではない。
この整体師の息子は新コロナの検査で陽性であることを告知されてから、飲食店などに行き、自ら陽性であることを知らせてパニックに陥らせたのである。
自宅待機を要請されたのに…「陽性」判明の男性、飲食店へ外出 : 国内 : ニュース : 読売新聞オンライン
愛知県蒲郡市は5日、県が4日に新型コロナウイルス感染を発表した三河地方の50歳代男性が市内在住で、検査の結果、陽性と判明し、自宅待機を要請されたにもかかわらず、飲食店に出かけていたと明らかにした。
発表によると県が3~4日に三河地方の男女として発表した4人の感染者は市内在住の同居の家族で、50歳代男性と、その両親の80歳代男性と70歳代女性、息子の30歳代男性。80歳代男性に呼吸困難の症状があるが、他の3人は軽症。
この80代男性が、この記事で取り上げた整体師である。
飲食店を訪ねていた50代男性は整体師の息子である。
経営者は「言葉にできないような怒り」 コロナ陽性男性が“自宅待機”無視し飲食店へ 愛知・蒲郡市 : 中京テレビNEWS
「コロナウイルスをうつしてやる――」
“新型コロナウイルス陽性”そう告げられた男性が向かった先は、飲食店でした。
愛知県蒲郡(がまごおり)市で、新型コロナウイルスへの感染が確認された50代の男性。
警察への取材で、男性が家族に対し「コロナウイルスをうつしてやる」と言い、外出していたことがわかりました。その後男性は、蒲郡市内にある2つの飲食店を訪れていたのです。
男性が立ち寄った飲食店の経営者が中京テレビの取材に語ったのは、“怒り”でした。
「警察にもすぐ電話して今、何もできないような状態。頭の中は整理がつかない。言葉では表現できないが怒りしかない」(飲食店経営者)
コロナ感染者「自分は陽性」、飲食店で吹聴か TBS NEWS
新型コロナウイルスの感染が確認された愛知県蒲郡市の男性が市内の複数の飲食店を訪れ、自分が陽性だと話していたことがわかりました。
蒲郡市に住む50代の男性は、4日、陽性と判定されたあと、愛知県から自宅待機を要請されたにもかかわらず、市内の飲食店を訪れていました。
もはやバイオテロと言ってよいだろう。
訪ねた飲食店は普通の飲食店ではなく、フィリピンパブなどだそうだ。
通常の飲食店であれば食事のために仕方ない、と弁護する余地もあるが、自ら陽性であることを吹聴しているのだから、反社会的行為と言える。
私は常々、整体師やカイロプラクターなどを犯罪業務として非難しているし、名指しで犯罪業務と指摘する記事も書いている。
違法施術所紹介シリーズ カテゴリーの記事一覧 - びんぼっちゃまのブログ
このように、反社会的な職業に従事する者に育てられた子供が、反社会的行為をするようになっても何ら不思議はない。
バイオテロリストが、法律を守っているマッサージ師の子供と勘違いされたのでは甚だ迷惑である。
(2020/03/09追記)
愛知県の発表が再び訂正された。
中日新聞では愛知県が訂正した旨、紙面でも報じたようである。
蒲郡の感染者情報訂正 愛知県:社会:中日新聞(CHUNICHI Web)
愛知県は8日、新型コロナウイルスの感染を確認した同県蒲郡市の80代男性について、マッサージ師と7日に発表していたが「調査の結果、あん摩マッサージ指圧師の資格を持っておらず、整体を行う者であることが確認された」と発表内容を訂正した。県によると、店舗を持たず、出張して整体の施術をしていた。
免許制度の存在を知られると困る整体師達が、この記事で愛知県の発表を知り、県などに圧力をかけたのであろうか?
カイロプラクターの業界は遠山清彦財務副大臣を使って、彼らを表す言葉を、自分たちに都合の良いようにするよう厚生労働省に圧力をかけた。
もっとも、今回の県の発表は感染経路を明らかにし、濃厚接触者に連絡を求めることを目的にしたものである。
無資格者であることまで発表する必要はない、と県は考えたのかもしれない。
マッサージ師の信用回復のためにはマッサージ師と発表したことが誤りだったことを残しておくべきだと思うのだが。
消費者契約法に基づき、カイロプラクティック施術の施術料の返金を求めた訴訟
[PDF]消費者契約法に関連する消費生活相談の概要と主な裁判例
その中にカイロプラクティックの施術料の返金を求め、棄却された裁判例が掲載されている。
22
東京地裁平成25年3月26日判決
原告の主張
消費者である原告は、肩こりや頭痛などの症状についてインターネットで通院先を探し、被告らとの間でカイロプラクティックの施術契約を締結し、施術を受けた。
原告は、被告らが、原告の猫背、頭痛、肩こりはカイロプラクティックによる施術によって治るとは限らないにもかかわらず、それを故意に告げず、かえって、原告らの症状が治ると将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供したため、原告は、本件各施術によって症状が治るのが確実であると誤認したと主張し、法(筆者注:消費者契約法)4条2項により本件各施術契約を取消す旨の意思表示をし、不当利得の返還請求をした。
判決の内容
カイロプラクティックの施術における「猫背、頭痛、肩こりの症状を改善させる効果の有無」については、消費者契約の目的となる役務についての「質」に該当すると認められる。
被告らが、本件各施術によって猫背、頭痛、肩こりの症状が改善していく旨の説明をしたことは認められるが、施術によって症状が改善しないと認めることはできないから、被告らが本件各施術によって症状が改善しないにもかかわらず改善する場合があると告げたと認めることはできない。
また、被告らが、原告に対し症状が軽減、消失しないことを告知しなかったことが法4条2項に反するとはいえない。
そして、被告らが「猫背、頭痛、肩こりが治る」などという断定的明言をした事実を認めることはできず、原告において、猫背、頭痛、肩こりが確実に治ると誤信したと認めることは困難である。
被告らが、症状が改善しない場合があることを故意に告げなかったとも認められない。
以上により、原告の本件各施術契約の申込みの意思表示につき、法4条2項に基づいて取消すことはできないとして、原告の請求を棄却した。
消費者契約法第4条第2項
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
いわゆる「不利益事実の不告知」というものである。
国民生活センターの文献の記載から、無免許施術の違法性や、国家資格を有しないことが不利益事実である旨の主張をしていなかったとは思われるが、これまでは判例データベースに判決文が存在しないため、検証ができなかった。
D1-Law.comに判決文が収録されていたのでこの判決について検証する。
事件番号等
東京地方裁判所 平成25年3月26日判決
平成23(ワ)40456
事件名:不当利得返還請求事件
出典:D1-Law.com判例体系 29027488
当事者と請求内容など
原告、被告双方に代理人(弁護士)はついてる。
原告
- 原告X1:昭和20年代生まれで、原告X2の母
- 原告X2:平成生まれの女性
被告など
- 被告Y1:国内の診療エックス線技師学校を卒業後、米国のB大学でドクターオブカイロプラクティック(DC)およびレントゲン分析の学位を取得。東京都内でY1治療室(施術所)を開業。日本国内の診療放射線技師免許を持っているかどうかは不明。被告Y2と訴外Cの父親。
- 被告Y2:米国の高校を卒業後、B大学を卒業し、DC取得。Y2オフィス(施術所)を開業。
- 訴外C:米国の高校を卒業後、B大学を卒業し、DC取得。Y1治療室の従業員として施術。
請求内容
合計で、被告らは原告らに対し、合計64万2,500円と金利を支払え。
である。
原告らは最初、Y2オフィスで施術を受けていたが、Y1治療室で働いている訴外Cの施術料が安いということで、Y1治療室に転院している。
原告代理人は消費者問題や霊感商法に取り組んでいる弁護士である。
正直、この請求金額では弁護士の儲けは殆ど無いだろう。
判決は平成25年(2013年)3月で、国民生活センターから整体やカイロプラクティックの健康被害の報告書が出されたのは2012年8月である。
手技による医業類似行為の危害−整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も−(発表情報)_国民生活センター
ここで控訴し、主張を治療効果の有無ではなく、無免許施術であることを説明しなかったこと、医業類似行為で違法な施術であり、公序良俗に反する旨を主張してくれればよかったのだが、この訴額で控訴は割に合わないだろう。
また裁判官がヒントを与えるような判示をしてくれれば良かったのだが、そういう様子も判決文には無い。
裁判官がヒントをくれた裁判例。
通院状況など
原告X2の通院状況
X2は平成19年11月にY2オフィスに通い始め、同年12月下旬までの間、10回の施術を受けた。平成20年1月にY1治療室に転院し、平成21年9月までに86回、Y1治療室でCの施術を受けた。
Y2,Y1の通しでは平成19年11月から平成21年9月までの1年10ヶ月の通院である。
原告X1の通院状況
X1は平成19年12月にY2オフィスで3回施術を受けた。平成20年1月から平成21年3月まで27回、Y1治療室でCの施術を受けた。通算で1年4ヶ月の通院である。
争点と主張
争点
本件の争点は、本件各施術契約が消費者契約法4条2項によって有効に取り消されたかである。
原告の主張
( 1 ) 原告らは、被告Y2及びC(以下「被告Y2ら」という。)との間で、本件各施術契約を締結したものであるが、被告Y2らは、原告X2の頭痛、肩こり、猫背及び原告X1の猫背が、カイロプラクティックによる施術によって治るとは限らないにもかかわらず、それを故意に告げず、かえって、原告らの上記症状が治ると将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供したため、原告らは、本件各施術で上記症状が治るのが確実であると誤認し、それによって、本件各施術契約締結の意思表示をしたものである。
また、少なくとも、被告Y2らは、原告らに対し、本件各施術が原告らの上記症状の改善に効果があるし、効果があった多くの実例があると説明したことから、原告らは、上記被告Y2らの説明が真実であると信じたため、本件各施術を受けることとした。
しかも、Cは、自らのカイロプラクティックの施術が「長期間あるいは頻回のカイロプラクティック療法による施術によっても症状が軽減、消失しない場合には、施術を中止して速やかに医療機関において精査を受ける」べきであるのに(甲6)、かかる重要な不利益事実を告知せず、長期間・多数回にわたって通院させ、高額の施術料を支払わせたものである。
( 2 ) 以上によれば、原告らは、消費者契約法4条2項に基づき本件各施術契約を取り消すことができる。
甲6号証というのは他の部分も読むと、下記通知と思われる。
(3) 適切な医療受療の遅延防止
長期間あるいは頻回のカイロプラクティック療法による施術によっても症状が増悪する場合はもとより、腰痛等の症状が軽減、消失しない場合には、滞在的に器質的疾患を有している可能性があるので、施術を中止して速やかに医療機関において精査を受けること。
というわけで、原告は
- カイロプラクティックの施術契約が違法契約であり、公序良俗に反し無効であること
- 国家資格制度の存在と、自身らが無免許であることを告知していないことが「不利益事実の不告知」であること
を主張しているわけではない。
原告の主張は
- 被告Y2らは、原告X2の頭痛、肩こり、猫背及び原告X1の猫背が、カイロプラクティックによる施術によって治るとは限らないにもかかわらず、それを故意に告げなかった。
- 上記症状が治ると断定的判断を提供した。
ことが「不利益事実の不告知」である、ということだ。
被告の主張
( 1 ) 被告Y2らが原告らに対し、カイロプラクティックの施術により「猫背、頭痛、肩こりが治る」などという断定的明言をした事実はなく、原告らが、猫背などが確実に治ると信じて本件各施術を受けた事実もない。
被告Y2らは、原告らに対し、「頸椎や脊椎のアジャストメントをすることにより、自然治癒力を高め、これを最大限発揮させるようにし、その結果として症状の改善を目指したい」旨を提案し、原告らは、被告Y2らの施術を受けることを希望し、本件各施術契約を締結した。上記説明、提案の過程及び本件各施術期間中においても、被告Y2らが、原告らに対し、「カイロプラクティックによって猫背、頭痛、肩こりが治る」などという断定的明言をした事実はない。
( 2 ) 以上によれば、原告らの消費者契約法4条2項に基づく本件各施術契約の取消しは認められない。
裁判所の判断
効果の有無について
- 本件各施術契約において、将来における変動が不確実な原告らの猫背、頭痛、肩こりの改善の程度については「重要事項」に当たらないと解するのが相当である。
- カイロプラクティックの施術における「猫背、頭痛、肩こりの症状を改善させる効果の有無」については、消費者契約の目的となる役務についての「質」に該当すると認めるのが相当である。
- 本件全証拠によっても、カイロプラクティック療法による施術によって猫背、頭痛、肩こりの症状が改善しないと認めることはできないから、被告Y2らが、本件各施術によって猫背、頭痛、肩こりの症状が改善しないにもかかわらず、改善する場合がある旨告げたと認めることはできない。
- 原告らの症状が全く改善されていなかったと認めるに足りる証拠はなく、…原告X2は、原告X1が本件Y1治療室に通院することを中止した後も、半年近くの間通院を継続していることからすれば、原告らの症状が全く改善していなかったと認めることは困難であり、原告らが長期間通院していた間に、原告らの症状が改善しないものと確定したと認めることはできない
断定的判断について
- 被告Y2らの尋問の結果によれば、上記のとおり、被告Y2らが、本件各施術によって、猫背、頭痛、肩こりが改善される旨の説明をしたことは認められるが、「猫背、頭痛、肩こりが確実に治る」との断定的明言をした事実までは認められず
- また、原告らが本件各施術を受けるに当たって確認したとする被告らに関するホームージ等(甲1、19、20、枝番含む)によっても、「猫背、頭痛、肩こりが確実に治る」といった断定的明言をした記載は一切認められない。
どう主張すればよかったのか?
- 国家資格制度が存在することと、自身らが無免許であることを告知しなかったことが不利益事実の不告知である。
- 被告らの施術行為は医師法第17条に違反する違法施術であり、施術契約は公序良俗に反して無効である(民法90条)。
- 被告らの施術行為はあはき法第12条に違反する違法施術であり、施術契約は公序良俗に反して無効である。昭和35年判決は現在維持するのに相当ではない(要判例変更)。
およそ、このような主張が考えられる。
最初のY2オフィスの通院状況に関しては
イ 原告X2の通院状況
原告X2は、同月19日から同年12月26日までの間、10回にわたり、本件Y2施術2を受けた(前記前提事実( 6 )、甲2、乙5の1 )
原告X2は、平成19年11月19日、治療を開始するに当たって本件Y2オフィスの問診票に、その症状として「全身だるい、猫背、頭痛(緊張性頭痛)、起きている間はずっと出ている、モヤモヤ、頭がスローなかんじ、たまに手足のしびれ、肩こりもひどい」と記載し、また、カイロプラクティックの受療経験は「あり」と記載した。(乙5の1、弁論の全趣旨)
原告X2は、平成19年11月27日、本件Y2オフィスを併設しているDクリニックにおいてX線撮影を行い、被告Y2から、X線撮影結果に基づき、頸椎、胸椎、腸骨、仙骨の各変位、腰椎の回旋、腰の傾き等を指摘された。(乙5、16、枝番含む)
ウ 原告X1の通院状況
原告X1は、同年12月5日から同月26日までの間、3回にわたり、本件Y2施術1を受けた。 (前記前提事実( 5 )、乙8の1 )
原告X1は、平成19年11月27日、DクリニックにおいてX線撮影を行い、被告Y2から、X線撮影結果に基づき、胸椎、仙骨、腸骨の各変位の回旋、腰の傾き等を指摘された。(乙8、乙9、枝番含む)
原告X1は、治療を開始するに当たって本件Y2オフィスにおいて問診票を記載したが、問診票に、症状を記載しなかった。(乙8の1)
と判示されている。
問診が医行為であることは最高裁の判決が有るし、レントゲン写真の読影も医行為である旨の判決が有る。
被告人が断食道場の入寮者に対し、いわゆる断食療法を施行するため入寮の目的、入寮当時の症状、病歴等を尋ねた行為は、それらの者の疾病の治療、予防を目的としてした診察方法の一種である問診にあたる。
柔道整復師が放射線を人体に照射することを業とした場合には、技師法二四条一項に違反し、同条三項の罪が成立するにとどまり、医師法一七条に違反した者を処罰する同法三一条一項一号の罪は成立しないものというべきである。*1
そうすると、原判決及びその支持する第一審判決は、被告人が放射線を人体に照射することを業とした行為に対し、技師法二四条一項、三項のほか、医師法一七条、三一条一項一号を適用した点において、法令の解釈適用を誤っているが、被告人は、エックス線写真の読影により骨折の有無等疾患の状態を診断することをも業としたものであって、この行為については同法三一条一項一号の罪が成立するのであるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するということはできない。
よって、2の主張が可能だったと思われる。
原告代理人はあまり医師法違反の判例に詳しくなかったように思える。
また国民生活センターの報告書により、カイロプラクティックは人の健康に害を及ぼすおそれが有る蓋然性が出てきた。
なので、おそれが無いことの立証責任を被告に負わせることも可能だったかと思われる。
無免許施術が合法と言えるためには安全性の証明は必要だろう。
また現在では消費者庁からも無免許施術の健康被害の報告書が出されている。
[PDF]法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に
これらの立法事実や薬事法の大法廷判決などを引用すれば昭和35年判決の判例変更は可能だと思われる。
なお、このような主張をして施術料金の返金を求めた裁判例を私は知らない。
実際、このような形での訴訟が行われていないのか、それとも和解で終わっているのか。
和解で終わっていれば当然判例データベースに掲載はされない。
無免許業者からすれば、被害者に金を積んで黙らせる(口外不可条項)のが賢明な判断である。
平成医療学園は晴眼者のあん摩マッサージ指圧師(及びなろうとする者)の営業権を考えているのか?
あはき法19条裁判の違憲の主張について、気になったところがあったのでメモとして残す。
違憲判断の手法
裁判所は19条が違憲と判断するための基準として
あはき師法附則19条1項による,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等を設置しようとする者及びあん摩マッサージ指圧師の資格を取得しようとする視覚障害者以外の者の職業選択の自由に対する規制については,それが重要な公益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が,その政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理である場合に限り,憲法22条1項に違反するものと解するのが相当である。
としている。
原告は
あはき師法附則19条1項は,当人の努力等により克服ができない客観的な許可条件による事前規制であり,重要な権利である職業選択の自由に対する最も強い規制に当たる。
しかも,同項の文言は,最高裁の薬事法判決や小売市場判決で問題となった規制とは異なり,具体的にどのような条件を満たせば事業を行うことができるかの基準自体が不明確であるから,より厳密に目的と手段の関連性が審査されるべきである。
として、
①目的に正当性があること,
②手段が目的を達成するために必要であること,
③手段に目的達成のための合理性があること
が満たされなければ,違憲と判断されるべきである。
と主張している。
職業選択・活動に対する規制に関する段階理論
「客観的な許可条件」というのは学説では良く見られる表現である。
職業選択の自由に対する規制としては
- 職業活動(職業開始の後)に対する規制(守秘義務や広告規制など)
- 職業開始自体に対する規制
に分けられ、後者の内容はさらに
- 主観的条件:資格制度など、本人の才能と努力で克服できるもの
- 客観的条件:本人が変えられない条件。既存の同業者の位置や家柄など。
に分けられる。職業に対する規制の違憲審査は緩い順に
- 職業活動に対する規制(事後規制)
- 主観的条件
- 客観的条件
となる。
段階理論とも呼ばれる。
視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の経済状況は、申請者ではどうこうできる条件ではないのでまさに客観的条件と言える。
ただ、裁判所の判断では「客観的な許可条件」というのには触れていない。
この説はもっぱら職業を自由にした場合の弊害を防ぐ、警察目的での規制に適用されるようであり、今回のような、社会的な目的を持った規制では判断基準として用いられていないようである。
薬事法違憲判決は、距離制限があくまでも不良医薬品の流通を防ぐという警察目的で作られた条項であるため、違憲審査基準が厳しくなったと言える。
晴眼者のあん摩マッサージ指圧師の営業権を犠牲にする違憲主張
さて、原告の平成医療学園は、19条が違憲である、という理由の一つとして、下記のように養成校の新設規制以外に他に妥当な手段がある旨、主張している。
(エ)目的達成のために他の妥当な手段があること
視覚障害者にとって重要なのは,視覚障害者が職業的に自立することや,資質向上が果たされるような環境が整えられることにあり,台湾では,違憲判決を契機として,視覚障害者以外の者の参入を制限するのではなく,視覚障害者があん摩師やその他の職業として働く場を確保する政策に転換し成功している。このように,あはき師法附則19条1項を維持するのではなく,障害者が職業的に自立するような政策・立法を行うことにより,目的をより達成することが可能であり,同項は手段として合理性がない。
また,昭和39年改正当時の中央審議会において検討されていたように,慰安,疲労回復等を目的とする施術を行う保健あん摩師と医師の指示の下に疾病の治療を目的として施術を行う医療マッサージ師とに分離し,一定の地域ごとに,保健あん摩師総数における視覚障害者以外の者の比率を定め,その比率を上回るときは,視覚障害者以外の者の就業する保険あん摩師施術所の新規開設を許可しないことによって,視覚障害者の職域の保護の目的は達成できるから,全国一律に制限する必要はない。
保健あん摩師と医療マッサージ師の分離までは今回の裁判では考えられていないと思う。
この、晴眼者の施術所開設の規制案は昭和39年当時の議論である。
その後、昭和50年に薬局の距離制限を違憲とした最高裁判決が下されるのである。
この施術所開設規制は薬事法違憲判決と同様に、客観的条件による規制である。
原告は客観的条件による規制は違憲審査を厳しくあるべき、と主張しながら、晴眼者のあん摩マッサージ指圧師に対する、客観的条件による規制を主張しているのである。
この主張通りの規制が実施された場合、晴眼者による新規の施術所開設が地域によってはできなくなる。
原告が申請した養成校が作られたとしても、そこに入学し、あん摩マッサージ指圧師となった者は希望する地域で開業できなくなる可能性も出てくるのである。
3年以上の月日を費やしたにも関わらず、地元などの希望地域で開業できない状況を作ってでも養成校の新設を認めるべきであろうか?
資金力もある学校法人と、一個人であれば後者の職業選択の自由を重視すべきではないか?
しかしながら,原告の主張するような各種手段が,あはき師法附則19条1項による規制よりも明らかに合理性の点で優れており,その反面として同項による規制の合理性に疑いがもたれるというまでの事情は認められず,これらの手段の中からどれを選択するかは,正に立法府の政策的・技術的な判断によるものというべきであるから,原告の主張を採用することはできない。
というものである。
整体やカイロプラクティックなどの無免許業務の顧問弁護士は懲戒請求可能ではないか?違法行為を止めるよう助言しなかったのは弁護士の品位を失う非行にあたる。
2020/12/28追記
本記事を含む、当ブログ記事に関してJACから発信者情報開示請求がはてな社に対して行われたが、非開示の決定がされた。
公明党の遠山清彦衆議院議員が財務副大臣在任時に便宜を図った、日本カイロプラクターズ協会によるSLAPP(言論弾圧)を退けました。 - びんぼっちゃまのブログ
追記終わり
引用中の強調などは筆者による。
女子高生らにアダルトビデオ(AV)への出演を強要したなどとして有罪判決を受けた元DVD販売サイト運営者の男に対し、違法行為を止めるよう助言しなかったのは弁護士の品位を失う非行にあたるとして、第二東京弁護士会が、男の顧問弁護士だった菅谷幸彦弁護士(55)を戒告の懲戒処分にしたことが26日、分かった。処分は20日付。
同弁護士会の懲戒委員会や綱紀委員会の議決によると、元サイト運営者の男は平成26~28年、インターネット上でコスプレモデルの募集を装って少女らを集め、東京や大阪のスタジオでAV出演に勧誘。当時18歳だった女子高生の少女を脅し、承諾書に「わいせつ行為は私の意思です」と書かせたなどとして強要や職業安定法違反などの罪に問われ、30年3月に大阪高裁で懲役2年6月、罰金30万円の実刑判決を受けた。
男は23年、女子中学生の上半身裸の写真を撮ったとして、児童買春・ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)容疑で警視庁に逮捕され、24年3月に懲役3年、執行猶予5年の有罪判決を受けた。この事件で男の私選弁護人だった菅谷弁護士は同月、月3万円で男と顧問契約を締結した。
男はAV出演に難色を示す少女らに対し、「こっちには弁護士がいるので断ったら大変なことになる。(撮影前にかかった)美容院代を返せ」などと迫っていたことが大阪府警の捜査で判明。府警は関係先から19都府県の女性200人以上の出演契約書を押収した。懲戒委は男の顧問弁護士を務めていた菅谷弁護士について、「漫然とそのような事業主の顧問弁護士となったことが根本的な問題だ」と指摘した。
菅谷弁護士は「(男の行為が)職業安定法上の有害業務に該当するかどうか思いを致すことが現実的に困難だった」と弁明したが、懲戒委は「(同法の)有害業務の概念について知らなかったことは弁解の余地がない」と断じた。一方で「法的知見を提供し、違法行為を助長した証拠はない」として、戒告とした。
菅谷弁護士は産経新聞の取材に対し「法令を知らなかったことはミス。男の顧問に就いたのは結果としては適切ではなかったと言わざるを得ない」とした。
懲戒処分は重い順に(1)除名(2)退会命令(3)業務停止(4)戒告-がある。各弁護士会の決定に不服がある場合は、日本弁護士連合会(日弁連)に申し立てることができる。
ポイントとして
- 違法行為を止めるよう助言しなかったのは弁護士の品位を失う非行にあたる
- 弁護士会の懲戒委員会は「漫然とそのような事業主の顧問弁護士となったことが根本的な問題だ」と指摘。
- 法律を知らなかったことは弁解の余地がない。
といったところです。
(2020/12/04追記)
上掲の処分は軽い、ということで日弁連が業務停止にしたそうです。
(追記終わり)
さて、当業界に当てはめますと、整体やカイロプラクティックなどの無免許業者があはき法や医師法違反をしているかどうかが問題となります。
そういう事業者の顧問弁護士の責任はどうなるか?
例えば日本カイロプラクターズ協会(JAC)はその出している文書などから、会員が医師法違反の業務をしていると言えるわけです。
で、日本カイロプラクターズ協会には顧問弁護士もいる。
顧問弁護士 西村 好順
日弁連サイトで検索すると
登録番号 32450
氏名かな にしむら よしのり
氏名 西村 好順
事務所名 西村好順法律事務所
郵便番号 〒 1070062
事務所住所 東京都 港区南青山4-16-3 南青山オークビルB1階
とあるわけです。
顧問弁護士だからといって、顧問先が出す文書全てをチェックしているわけではないので、現段階で「違法行為を止めるよう助言しなかった」とは言い難い。
しかしJACの出した、安全性ガイドラインの内容を把握して、書かれているような行為は医師法違反に該当するので止めるように助言しなければ「弁護士の品位を失う非行」にあたる、と言えよう。
医師法やあはき法について知らなかった、という弁解は通らない。
弁護士法にも
(弁護士の職責の根本基準)
第二条 弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない。
とあるわけで。
まずはこの顧問弁護士に、JACの安全性ガイドラインの内容を把握しているかどうかを尋ねないと品位を失う非行に該当するかどうか、判断できない。
しかし匿名を維持したい私としては直接聞くわけにもいかないのである。
懲戒請求も実名を明かす必要があるため難しい。
さて、どうしようか。
あはき法第19条裁判東京地裁判決第3の2:憲法22条1項適合性とその他
2 争点1(あはき師法附則19条1項の憲法22条1項適合性)について
判決文に見出しが無いのもあるので、その場合は適当な見出しをカッコ付きでつける。
- (1)(憲法22条適合の一般的な判断)
- (2)立法の目的
- (3)規制の必要性及び合理性
- (4)(19条は憲法22条に違反しない)
- 3 争点2(あはき師法附則19条1項の憲法31条,13条適合性)について
- 4 争点3(あはき師法附則19条1項を本件申請に適用することが憲法22条1項,31条,13条,14条1項に違反するか)について
- 5 結論
(1)(憲法22条適合の一般的な判断)
ア (薬局距離制限違憲事件の引用)
憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきであるが,職業は,本質的に社会的でかつ主として経済的な活動であって,その性質上,社会的相互関連性が大きいものであるから,職業の自由は,それ以外の憲法の保障する自由,殊にいわゆる精神的自由に比較して,公権力による規制の要請が強く,同項の規定においても特に公共の福祉に反しない限りという留保が明記されている。
しかし,職業は,その種類,性質,内容,社会的意義及び影響が極めて多種多様であるため,その規制を要求する社会的理由ないし目的も千差万別で,その重要性も区々にわたるのであり,これに対応して,現実に職業の自由に対して加えられる制限もそれぞれの事情に応じて各種各様の形をとることとなる。
そのため,当該規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは,これを一律に論ずることができず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。
そして,一般に許可制は,単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので,職業の自由に対する強力な制限であるから,その合憲性を肯定し得るためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。
イ (小売市場事件の引用)
他方で,憲法は,全体として,福祉国家的理想の下に,社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図しており,その見地から,全ての国民にいわゆる生存権を保障する等,経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請し,国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができ,職業の自由を含む個人の経済活動の自由に関する限り,社会経済政策の実施の一手段として,これに一定の合理的規制措置を講ずることは,もともと,憲法が予定し,かつ,許容するところと解するのが相当である。
そして,社会経済の分野において,法的規制措置の必要の有無や法的規制措置の対象・手段・態様などを判断するに当たっては,その対象となる社会経済の実態についての正確な基礎資料に基づき,具体的な法的規制措置が現実の社会経済にどのような影響を及ぼすか,その利害得失を洞察するとともに,広く社会経済政策全体との調和を考慮する等,相互に関連する諸条件についての適正な評価と判断を必要とするものである。
したがって,上記のような社会経済政策上の積極的な目的のためにする個人の経済活動に対する法的規制措置については,このような評価と判断の機能を備えた立法府の政策的・技術的な判断に委ねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである(最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁参照)。
ウ (あはき法19条について)
あはき師法附則19条1項は,当分の間,厚生労働大臣等は,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の認定又は定員増加の承認の申請に対し,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときは,その認定又は承認をしないことができると定めている。
これは,視覚障害者は,その障害のため,事実上及び法律上,従事できる職種が限られ,転業することも容易ではないところ,視覚障害者については,従来からその多くがあん摩マッサージ指圧師の業務に従事してきたことから,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し,その生計の維持が著しく困難とならないようにすることで,視覚障害者を社会政策上保護することを目的とするものであり,そのための手段として,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の設置及び定員の増加について一種の許可制を採用するものである。
エ (違憲はどんな場合か。)
したがって,あはき師法附則19条1項による,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等を設置しようとする者及びあん摩マッサージ指圧師の資格を取得しようとする視覚障害者以外の者の職業選択の自由に対する規制については,それが重要な公益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が,その政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理である場合に限り,憲法22条1項に違反するものと解するのが相当である。
(2)立法の目的
原告は,あはき師法附則19条1項の制定から50年が経過し,その立法の目的は,正当性を失っている旨主張するので,以下,検討する。
ア (「当分の間」について)
原告は,あはき師法附則19条1項は,昭和22年の同法制定の際に所定の届出をした医業類似行為業者に限っては,期限を定めて医業類似行為の禁止が猶予されていたものが,昭和39年改正において,この期限が外され,猶予が事実上一代限り継続することになったため,これに異議を唱えていた視覚障害者に対する融和策として設けられた規定であり,同項にいう当分の間とは,上記の届出医業類似行為業者の高齢,死去等により業が行われなくなるまでと解すべきであるから,同項の制定から50年を経過した以上,既に同期間は経過している旨主張する。
しかしながら,前記1⑴のあはき師法附則19条1項の制定経緯をみると,従前より,国会等において視覚障害者であるあん摩師等の職域の保護を求める意見がみられ,昭和34年頃には,中央審議会の要望を受けて,視覚障害者以外のあん摩師の養成学校等の新設及び生徒の定員増加を抑制する行政措置がとられ,昭和36年のあはき師法改正時において,視覚障害者であるあん摩師の職域優先確保のための法的措置を速やかに検討・実施することが附帯決議されていたこと,その後,中央審議会において,あん摩師を保健あん摩師と医療マッサージ師とに分けた上,保健あん摩師について視覚障害者の職域を優先的に確保するという意見が採択されたが,この意見については一部の関係団体から強い反対があったことから法案提出には至らず,議員提出法案の形で,上記意見に代わる視覚障害者の職域優先措置として,あはき師法附則19条1項が制定されたことが認められる。
これらの制定経緯からすれば,同項は,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先することを専らの目的として制定されたものというべきであり,同項にいう当分の間も,視覚障害者に関し,あん摩マッサージ指圧師以外の適職が見出されるか,又は視覚障害者に対する所得保障等の福祉対策が十分に行われることにより,視覚障害者がその生計の維持をあん摩関係業務に依存する必要がなくなるまでの間を意味するものと解するのが相当である。
上記制定経緯をみても,同項の規定に当分の間との文言を挿入することが,届出医業類似行為業者に係る禁止猶予期限を撤廃することと関連づけて議論されていた形跡はうかがわれず,原告の主張は採用できない。
イ (視覚障害者の状況について)
原告は,視覚障害者をめぐる福祉・補償の法制度が整備され,社会のバリアフリー化により職業の選択の幅も広がり,視覚特別支援学校においても生徒数が減少し,あん摩マッサージ指圧を履修する生徒も激減するなど,視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師業への依存度は減ってきており,障害年金制度の拡充等により視覚障害者の生計が改善し,国の法律や政策における障害者像も変化した現在では,あはき師法附則19条1項の目的は正当性を失っている旨主張する。
確かに,あはき師法附則19条1項が制定された昭和39年当時と現在とを比較すると,障害者に対する年金制度(障害年金)が拡充されるなど障害者の福祉等に関する法制度が更に整備され,パソコン等のICT技術の普及により,視覚障害者には,事務的職業等の職業選択の道が開かれるようになる(甲2,70)など,視覚障害者をめぐる社会事情は変化してきていることが認められる。
しかしながら,一方で,前記認定のとおり,視覚障害者の総数は減少しておらず,視覚障害者の就業率は現在も低水準となっており(平成18年で21.4%),就業者の中ではあん摩・マッサージ・はり・きゅう関係業務に就いている者の割合がなお高い状況にあり(平成18年で29.6%),重度の視覚障害のある有職者に至っては,7割を超える者があん摩・マッサージ・はり・きゅう関係業務に就いていることが認められる。
また,視覚特別支援学校における生徒数やあん摩マッサージ指圧関係の科目を履修する生徒が減少しているとしても,平成28年において,視覚障害のある新卒者のうちの相当数(355名)があん摩マッサージ指圧師国家試験の受験をしていることが認められる。
そうすると,視覚障害者におけるあん摩マッサージ指圧師業の重要度が特別な保護を必要としない程度にまで低下したとみることは相当ではない。
さらに,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の収入をみても,平成25年時点で年収300万円以下の者が約76%を占めており,また,障害年金は必ずしも視覚障害者全員が受給できるものではなく,実際,平成14年時点では視覚障害者であるあん摩マッサージ・はり・きゅう業者のうち約半数が公的年金を受給していなかったことからすれば,障害年金制度の拡充等によっても,視覚障害者の生計が更に特別な保護を必要としない程度にまで改善されたとみることは相当ではない。
これらのことからすれば,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し,その生計の維持が著しく困難とならないようにするというあはき師法附則19条1項の目的の正当性が,現在において失われたと認めることはできない。
(3)規制の必要性及び合理性
ア 規制の内容及び規制の程度
あはき師法附則19条1項は,前記のとおり,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の設置等について一種の許可制を採用するものであり,当該養成施設等を設置しようとする者の職業選択の自由を制約する程度の強いものである。
一方,同項は,当該養成施設等の設置等を全面的に規制しているわけではなく,諸般の事情を勘案して,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認められる場面に限っての規制であるから,規制の必要性に係る厚生労働大臣等の判断が適正に行われている限り,その制限は限定的であるといえる。
また,あはき師法附則19条1項は,上記の養成施設等の設置等がされないことにより,当該養成施設等においてあん摩マッサージ指圧師の資格を取得するために必要な知識及び技能を修得する機会が制限されるという意味において,その資格を取得しようとする視覚障害者以外の者の職業選択の自由を制約しているものである。
もっとも,あん摩マッサージ指圧師の資格を取得しようとする視覚障害者以外の者は,現に設置されている養成施設等に通うことによりその取得が可能となることからすれば,その職業選択の自由に対する制約は限定的である。
イ 規制の必要性
(ア) (晴眼者向けの養成校抑制の必要性)
視覚障害者は,その障害のため,事実上及び法律上,従事できる職種が限られ,転業することも容易ではないところ,前記のとおり,その就業率は現在も低水準となっており,重度の視覚障害のある有職者のうち7割を超える者があん摩・マッサージ・はり・きゅう関係業務に就いており,現在においても,あん摩マッサージ指圧師業に依存している状況にある。
他方で,前記認定のとおり,視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師は,昭和39年頃より増加し,その収入も,平成25年時点であん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の年間収入が平均636万2000円と,視覚障害者の290万円を大幅に上回っており,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設の受験者数も,平成27年度において定員を大幅に上回っている状況にある。
また,あはき師法附則19条1項に相当する規定のない隣接業種(はり師,きゅう師及び柔道整復師)においては,柔道整復師養成施設の指定をしない処分を違法として取り消す旨の判決(福岡地裁平成10年8月27日判決。甲53)があった平成10年度以降,大幅に養成施設等の施設数及び定員が増加している状況が認められる。
これらのことからすれば,あはき師法附則19条1項による制限がなくなれば,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の数及び定員が急激に増加し,視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の数も急激に増加することが想定されるのであって,このような急激な増加は,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の業務を圧迫することになる。
以上によれば,現在においても,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し,その生計の維持が著しく困難とならないようにするという目的を達成するため,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の設置及び定員の増加を抑制する必要性の存在を認めることができる。
(イ) (無資格者の増加との関連)
これに対し,原告は,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が困難であるとすれば,その原因は,あはき師法附則19条1項の存在により,需要に対応できるだけの有資格者が養成できないことによる無資格のあん摩師の急増・跋扈にあるから,必要なことは,有資格者の数を抑制することではなく,無資格者を根絶することにある旨主張する。
しかしながら,あはき師法附則19条1項の存在と無資格者の増加との関連性の有無及び程度が実証されているわけではなく,また,視覚障害者が置かれている上記の医業類似行為業者を含む無資格者の取締りが従前より継続的に行われている中での状況であるから,これらの無資格者の取締りと併せて,あはき師法附則19条1項のような養成施設等の規制を行うことが,今なお必要であると認められる。
したがって,原告の主張は採用できない。
ウ 規制手段の合理性
(ア)(大臣の裁量と合理性)
上記のとおりの目的を達成するために必要な上記規制の手段として,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認められる場合に限り,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の設置の認定及び定員増加の承認をしないことができるという手段を採用することは,それ自体合理的なものということができる。
そして,上記イで説示したところによれば,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため規制が必要か否かの判断において勘案すべき事情として,あん摩マッサージ指圧師の総数及びあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合を挙げることには合理的な関連性が認められるし,その判断は,その時々における上記割合のほか,視覚障害者の総数,雇用状況及び医療の状況,社会におけるあん摩マッサージ指圧師に対する需要等の様々な事情に左右されるものであり,その要件や勘案すべき事情を立法者においてあらかじめ詳細に規定することが困難な性質のものであるから,その判断を上記割合のほか諸般の事情に基づく厚生労働大臣等の専門的・技術的な裁量に委ねることとすることも不合理とはいえない。
さらに,あはき師法附則19条2項は,厚生労働大臣等は,同条1項の規定により認定又は承認をしない処分をしようとするときは,あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならないとしている。
これは,学識経験等を有する委員により構成される医道審議会の意見を処分に反映させることを意図したものと解され,その委員の構成や議事の運営が適正なものである限り,処分の適正さを担保するための方策として合理的であるといえる。
以上によれば,あはき師法附則19条1項による規制には,手段としての合理性が認められる。
(イ) (より緩やかな手法について)
これに対し,原告は,上記のような目的を達成するためには,他の妥当な手段として,台湾での成功事例のように障害者が職業的に自立するような政策・立法を行うことや,昭和39年改正当時の中央審議会において検討されていたように一定の地域ごとに施術所の開設を規制することなども考えられるから,あはき師法附則19条1項による規制は不合理である旨主張する。
しかしながら,原告の主張するような各種手段が,あはき師法附則19条1項による規制よりも明らかに合理性の点で優れており,その反面として同項による規制の合理性に疑いがもたれるというまでの事情は認められず,これらの手段の中からどれを選択するかは,正に立法府の政策的・技術的な判断によるものというべきであるから,原告の主張を採用することはできない。
(ウ) (障害者間及び既存設置者との差別について)
また,原告は,あはき師法附則19条1項は,
①視覚障害者と他の障害者との間,
②既に養成施設等を設置していた者とこれから設置しようとする者との間
に差別を生じさせるものであるから,手段として合理性がない旨主張する。
しかしながら,①の点は,視覚障害者の生計維持の困難性に着目してその保護を図ること自体がいかなる意味において他の障害者を差別することになるというのか明らかではなく,②の点は,特定の分野への新規参入を規制する立法が一般にもたらす結果であり,当該規制自体に合理性が認められる限り,そのような結果が不合理な差別に当たるということはできないから,原告の主張を採用することはできない。
(4)(19条は憲法22条に違反しない)
以上を総合的に考慮すると,視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し,その生計の維持が著しく困難とならないようにすることを重要な公益と認め,その目的のために必要かつ合理的な措置としてあはき師法附則19条1項を定め,これを今なお維持している立法府の判断が,その政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であるとはいえない。
したがって,あはき師法附則19条1項は,視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等を設置しようとする者及びあん摩マッサージ指圧師の資格を取得しようとする視覚障害者以外の者の職業選択の自由を制約するものとして憲法22条1項に違反するということはできない。
3 争点2(あはき師法附則19条1項の憲法31条,13条適合性)について
原告は,あはき師法附則19条1項の規定は,認定等をしない処分の要件・基準が曖昧不明確であるため,憲法31条,13条に違反する旨主張する。
しかしながら,あはき師法附則19条1項については,前したとおり,処分の要件や勘案すべき事情をあらかじめ詳細に規定することができない立法技術上の制約があり,そのような制約がある中でも,あん摩マッサージ指圧師の総数及びあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合というような重要な勘案事情を例示するなどして,厚生労働大臣等の裁量判断が恣意に流れないようにする配慮がされていることからすれば,同項の規定が,処分要件等の曖昧不明確さゆえに憲法31条,13条に違反するということはできない。
4 争点3(あはき師法附則19条1項を本件申請に適用することが憲法22条1項,31条,13条,14条1項に違反するか)について
原告は,憲法22条1項,31条,13条に関して適用違憲を主張するが,同主張は,その実質において争点1及び2の法令違憲の主張と同じである。
あはき師法附則19条1項が,憲法22条1項,31条,13条に違反しないことは前記2及び3のとおりであるから,原告の主張を採用することはできない。
また,憲法14条1項違反の主張に関して原告が指摘する昭和57年の定員増加の承認については,本件申請(30名)より少ない10名の定員の増加であったこと,申請に係る専門学校のあん摩・はり・きゅう科の定員20名に対し,その6.5倍から7.6倍もの志願者が過去3年間で毎年存在したこと,当時の中央審議会においても定員増加を認めて差し支えないとの意見であったことなどの当該事案に固有の事情に基づいて承認がされたものと認められるから,これと事情の異なる本件申請に対し,厚生労働大臣が本件処分をしたことが,上記の事案との関係において,憲法14条1項に違反する不合理な差別に当たるということはできない。
5 結論
以上のとおり,憲法違反をいう原告の主張はいずれも採用することができず,あはき師法附則19条1項を適用した本件処分が違法であるということはできない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。